「腕の良い狩人がいると聞いてな。
もし良かったら家族と一緒にタリスに来ないか?」
妙な方だった。
けれど老いた母や妹や弟達にも気を遣ってくれるこの方。
ゲレタ様は私にとって騎士そのものに見えた。
終生この方をお守りし、お支えする。
それは私が決めた道なのだから。
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「息子が大層お世話になって。」
「カシムは良くやってくれております。
私としても彼の存在は得難いものですからね。」
ゲレタ様は私の母の食事にも気をかけて下さる。
そこまで敬愛する主君にさせるわけにはいかないのだが
「俺を守ってくれるのだろう?
ならカシムの家族も叶う限り俺が守るのも問題ないと思うが。」
喉にあまり食事の通らなかった母であったが、ゲレタ様の用意する食事により目に見えて回復していった。
「回復の杖ってのもあるが、あれは最低限身体を鍛えてないと使えないからな。
医食同源。食事を改めれば健康にもなるってものよ。
子供の為にも長生きして欲しいのです。」
親が子に教える最後の役割。
それは死であると父は言った。
子は親に
そして親は子に
何かを教え、伝えながら歴史は脈々と受け継がれる。
最大の親不孝は親より子が先立つ事と言う。
それはこんな世情においても変わる事はないだろう。
だが、避けえぬ未来であろうとも
力なくとも
強さなかろうとも
戦わねばならぬ事もある。
そう、生きる事もまた戦いなのだ。
ゲレタはそう信じる。
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カシムはタリスに移住し、ゲレタの側仕えとなる事を希望した。
アリティア王女の伴侶としてのゲレタではなく
1人のゲレタという人物に忠を尽くす。
幸いにもカシムの家族達は住む場所と作物を育てる場所を与えられ、周囲の者達に支えられながら生きていく目処が立っている。
妹達はタリスの民として生き、自分はゲレタの側に仕える。
それが恩の返し方であるとカシムは信じているのだから。
ある日の事だ
ガルダの海賊がタリスを襲い、討ち漏らした者が数名王国領内に逃げ込む事態が起きる。
「⋯くそっ、どうなってやがる。」
少し前にタリスを襲った時とはまるで違う反撃に男達は動揺。
海賊達の乗る小船の多くは波間に没し、一部の者は危険を感じアジトへ逃げ帰った。
この男は命からがらタリス王国内に逃げ込む事に成功した者。
「どうしたの?」
そんな男に少年が声をかける。
男は内心小躍りしながらそれを必死に隠し
「ボウズ、この近くの子供か?」
そう問い掛けた。
勿論、子供を人質として略奪を目論んでいる。
だが、子供とて愚かではない。
数秒後、男の絶叫が辺りに響き渡る事となった。
子供はカシムの弟の一人であり、ゲレタから『護身術』の手ほどきを受けた者でもあった。
ゲレタはカシムの弟達や妹に殊更熱心に護身術を教え込み、万一の事が無いよう努めていた。
少年は兄の慕うゲレタの教え通りに『全力で急所を蹴り上げた』
無警戒の中での無慈悲とも言える金的。
元々疲弊していた海賊にそれは耐えられる筈もなく、失神。
海賊は駆けつけた住民達により、めでたく魚の餌となる事となった。
そしてこれをきっかけとして、ゲレタの提唱する護身術は大陸式安全靴の普及と共に『ゲレタ式護身術』或いは『ゲレタ式』としてタリスに長い間定着する事となる。
タリスの民の足には気をつけろ。
などという言葉が後年生まれる事となるが、それはまた別の話。
弟が恩人たるゲレタの教えにより助かった事でカシムのゲレタに対する忠誠はマルスやエリスに対するアリティア騎士のそれと比べても遜色ないものとなり、ゲレタは内心ため息をつくこととなる。