「タリス王には感謝せねばなりませんな、王子。」
「うん。
二年間も匿ってくれただけではなく、オグマ達を出してくれるなんてありがたいよ。」
ガルダに向かう船上でマルスとジェイガンは話をする。
マルス達は二年間タリスの地で傷と心を癒やし
身体と精神を鍛え、今日祖国アリティアを取り戻す為に旅立つ。
本来もう少しタリスで準備を整えるつもりだったが、タリスの友邦オレルアンよりの報が届き急遽出立する事となった。
アカネイア王家の生き残りであるニーナ王女がオレルアンへと逃れてきたと言うのだ。
その報を受けたタリス王やマルスにとっての義兄ゲレタは明らかに表情を険しくしたが、ニーナ王女を助ける事はアリティアの国是『アカネイアの為にあれ』と言うものにも繋がる。
ドルーアやそれに従うマケドニア、グルニアそしてグラは戦わねばならない相手だ。
であるならば、反ドルーアとしてマルス達アリティア勢とオレルアンが共闘しアカネイア再興に動くのも決して無理な話ではない。マルスはそう判断し、ジェイガンやタリス王もその判断を尊重した形となる。
「それにしても、兄上と姉上。
本当に大丈夫ですか?」
「心配してもらうのは嬉しくある。
が、弟と嫁の国を取り戻そうとするのに何もしないのは気が咎めるな。」
「マルス、ありがとう。
でも私とゲレタさんは貴方と共に行くわ。私も回復の杖が使えるもの。
足手まといにはならないと思うわ。」
マルスの言葉にゲレタは苦笑し、エリスは強い瞳でマルスを見返す。
「マルス王子。
少なくとも、ゲレタ殿の実力は私が保証します。そのゲレタ殿が自衛出来ると言うのであればエリス殿も大丈夫かと。」
「マルス様、私がゲレタ様とエリス様をお守りします。
⋯必ず。」
オグマやカシムの言葉を聞き、マルスは息を深く吐き
「では、兄上と姉上。
私に力を貸してください。」
そう口にし、二人は強く頷いた。
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「相手は海賊とグルニア騎士だ。
気を引き締めてかかれ!」
ジェイガンの檄に騎士達は働きで応える。
「グルニア騎士ともあろう者が略奪なんて。」
「まぁ統制が緩んで居るんだろうな。
本来賊と同時に襲いかかってくるなどどうかと思うが。」
ゲレタは冷めきった瞳でグルニア騎士を見つめる。
同情はしよう。
本来ならば、彼等は既に本国へ戻れてもおかしくなかったのだから。
だが、彼等が心酔する者の軽挙が
己の行為がそれを許さなかった。
それだけのこと。
「海賊と共に襲ってくるとか、何を考えている!」
「生活を脅かす者は賊だろうが、騎士だろうが関係ないっての!」
仮にも二年もの間調練に励んだアリティア騎士団。
彼等の成長は目覚ましく、統率の取れていない海賊や士気の低いグルニア遠征軍等敵ではなかった。
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「サムシアンに交渉、ねぇ。」
老人から請われたシスターの救出。
ゲレタとしては余りにも現実の見えない行動であるが、あくまでもこの軍の行動を決めるのはマルスである事を弁えている。
特にサムシアンの脅威を身をもって理解しているゲレタとしては理解し難い。
まぁ利用したのは事実ではあるが。
マルスとしてはシスターの安否は確かに気にならない事はない。
だが、それはあくまでマルス個人の感情に過ぎず多くの人間の命を預かる立場である以上、迂闊な判断は危険であるとも理解していた。
「マルス様。」
自分には守られねばならない人がいて、やらねばならぬ事もある。
請われた以上助けたいと思わなくもないが、それでも優先順位としてはどうしても下がる。
サムシアンが凶悪な山賊集団であるのはマルスも兄や姉から聞いていた。
だからこそ思うのだ。
どうして話を聞いてもらえると思ったのか?
と
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サムシアンの青年ジュリアンは急ぎ足で山を駆けていた。
近くに小規模ながらに立派な装備をした集団が来ており、今ならば囚われているシスターを助けられると踏んだから。
だが、彼は忘れていた。
それはあくまでも彼の都合であり、巻き込まれる側からすればたまったものではない事に
「結局巻き込まれましたな。」
「正直なところ、助けを求められても困るんだがな。
ま、そこで素直に助けられる善性は誇っても良い気もするが。」
サムシアンとなし崩し的に戦闘になったが、ジェイガンとゲレタは戦場に気を配りながらも会話をする。
そもそも足場の悪い戦場だとしても、マルス達はその経験をそれなりに積んでいる。
木の影や草むらに潜む敵に対する対処法を知って実践できるマルス達にとって、サムシアンとの戦闘はさしたる問題にもならない。
寧ろこれからドルーアやそれに与する国と戦わねばならないのに、賊相手に苦戦する様では困るのだ。
マルスの軍師役であるモロドフは別行動をしており、その代わりにゲレタがいる。
戦場における戦い方や動き方はジェイガンが二年間で教え込んでおり、アリティアの騎士達は各々の判断で
時に連携して戦う事が出来る。
それが今のマルス達の強みであり、努力の結果だ。
「しかし、シーダも無茶をするわ。
傭兵ナバールを説得したと聞いた時は肝を冷やしたが。」
その報告をシーダから受けた時、ゲレタが動く前にエリスが動いた。
「⋯シーダさん。貴女のその優しさは素晴らしい事だと思うわ。
けれど、あまり心配させないで。
私やゲレタさんにとって、貴女は大切な妹なのだから。」
そう静かに諭したのだ。
「優しいのは美徳なんだけど、この世情だとそれを平気で利用しようとする者もいるしなぁ。
嫌な世の中になったものだ。」
人の心を、真意を疑わねばならない。
それは余りにも悲しく、そして虚しい事だろう。
大陸を覆う戦乱は多くのものを奪い去った。
元々余裕のなかった民の生活は危険なレベルまで追い詰められ、長い目で見れば今の枠組みが保たなくなるのはほぼ間違いない。
仮にアカネイアを中心とした体制を維持するとなれば余程の努力をせねばならぬだろうが
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原作において、全ての戦いが終わった後既存の体制を刷新し、マルスが大陸の守り手となった。
それはアカネイアのニーナやマケドニアのミネルバがその責から逃げた事もあるだろうが、それ以上に限界を感じたのだろう。
何せ大陸秩序の要にして、大陸の中心たるアカネイア。
一度滅びながら再興したにも関わらず、アカネイアは変質し大陸に混乱を齎した。
つまり、アカネイアという国家に消し難い泥を塗った訳だ。
当然、大陸の民からすれば勘弁して欲しいと切に願った筈。
たった数年程度で大乱が起きたのであれば、そうであろう。
まだアカネイアが滅ぼされた時には『ドルーアのせい』と言い訳も出来た。
しかし、後に英雄戦争と呼ばれる二度目の戦乱を引き起こしたのはアカネイアの責任。
その様な有り様で民はアカネイアを今まで通り信じられるだろうか?
アカネイアによる圧政に苦しむ旧グルニアは言うまでもなく、他の国や地もアカネイアを盲信出来る筈もないだろう。
故に二度の戦乱を収めたマルスを大陸秩序の要として迎えるのは寧ろ当然の事だろう。
そうしなけれは大陸は安定しないのだから。
それが幸せな事なのかは知らないし、分かりようもないが。
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「デビルアクス、か。」
サムシアンの根城近くの村で貰ったソレ。
呪われた武器を態々渡してきたのだ。
必ずしも自分達に好意的と言えないところがある。
少なくとも、マルスにはそう感じられた。
何せ高い威力の代償に自傷するかも知れない武器など使えるものでは無い。
一振りごとに自傷するかどうかを気にせねばならないなど、お世辞にも戦う為の武器と言えたものか。
マルスとしてはそんな物を仲間に使って欲しい。等という事は当然なく、早々に手放すべきかと考えた。
が、最終的には輸送隊の預かるところとなる。
新たな仲間を加えたマルス達はオレルアンへ辿り着く。
そして世界は予期せぬ方向へと動き出した。