最強の死神はクズ野郎 作:イモ海さん
視界に映る限りの地面を埋める数多の屍が、此度の戦の激しさを物語っていた。
白を基調とした敵兵の軍服が、まるで華を咲かせるかのように血で染まっていた。
此度、ここで行われたのは後に伝説として書物に残される大きな戦争だった。
滅却師と死神─二つの種の存亡をかけた大戦。
その戦場の一部にそれはあった。
「……退屈だなぁ」
屍の世界に一際大きく積みあがった屍山の頂上に1人の男が座していた。
肩まで伸びた白銀の髪は銀糸のように輝いており、宝石のような赤い瞳は落胆の感情を宿していた。
頬杖をつきながらも、その容姿はこの世のものとは思えないほど美しく整っていた。
「滅却師軍の3分の2を無傷で葬っておいて何を言っておる。中には幹部も十数名いたんじゃぞ」
男の背後から、これまた誰もが目を惹くほどの美しい少女が、男の首に手を回して抱きついた。
明らかに高級そうな着物に身を包むその姿はまるでどこかの貴族かのようだった。
男とは対照的な濡羽色の髪はお尻までまっすぐ伸びており、男と同じ赤い瞳はただ目の前の男のみを写している。
「幹部って言ってもあの~あれ…ユートピアみたいなやつ、えっと~「…ユーハバッハじゃな」あ、そうそう。それよりかは全員弱いんだから、どれだけ
「それも仕方あるまい。お前様にかかれば他の有象無象など等しく弱者なんじゃ。お前様は気付いておらぬかもしれんが、この屍の中にも数名、面白い能力を持つ滅却師はいたぞ。ただ等しく、お前様の膨大すぎる霊圧にねじ伏せられほぼ意味もなかったが」
少女は呆れたように話しながらも、その小さな手で男の頭を愛おしそうに撫で、時折その頬に口づけをして戯れていた。
一方、男は少女の話を聞きながら先の戦闘─というにはあまりにも一方的なもはや虐殺といえる光景を思い出し、何を思い出したのか大きなため息を吐きだした。
「…ここの滅却師の中に美人はおろか女すらいなかったし、まじで俺は何しにここへ来たんだか」
「こんなことなら抜雲斎の提案に賛成しておればよかったのぉ。あの子もこっちに来ておれば、今頃お前様はあの子の膝上で極楽だったろうに」
「…ん~、そうなるとここでの遊び相手が減るからないな。どうせ向こうが終ればあとは帰るだけだし、その時に相手してもらうか。不老不死や八千流もどうせ戦場での興奮をそのままにして来るだろうし」
男はそのまま屍の山の上に寝転がる。下敷きになっている冷えた死体が眠気から上昇した自身の体温を心地よく下げていく。
すると、ふわりと自身の頭が持ち上げられ、その隙間に細くも柔らかい感触が挟み込まれた。
「さすがに妾がいる前で他の女の話をしすぎじゃ。妾にもお前様を極楽へと誘う事は可能だというのに」
お前から話題ださなかったか、という言葉は思っても言わなかった男の目の前には、こちらを覗き込むように見下ろす少女の顔。いわゆる膝枕をされている男はゆっくりと自身の手を少女の頬に添えた。すると少女は気持ち良さそうに自らその手に頬を摺り寄せる。その姿はどこか猫を連想させた。
「出来るのはわかるが場所を考えろよ。ここはきたねえ屍の上、俺の血ならともかくこんな有象無象の血でお前が汚れるのは気持ちのいいもんじゃねえんだよ。だから今だけは
男は膝枕をする少女─ヒメの後頭部へと手を添え、グッと力強く引き寄せた。お互いの鼻が付きそうなほどの距離。お互いの視界がお互いの顔でいっぱいいっぱいになっている状況。その事実にヒメの頬はほんのりと赤く染まり、うっすらと妖艶な笑みを浮かべると、小さく「…ならば」っと言葉を紡ぐや軽く指を一度鳴らした。
瞬間、寝転がる男の腰らへんに突然人ひとり分の重みが感じられた。
布越しに伝わる温度は温かく、それが自身の頭に感じるそれと全く同じものだと瞬時に理解した。
「お前様の上ならば問題なかろう?これならば妾はそこらの汚らわしい血に汚れる事も無く、そのままお前様に極楽を与えられよう」
「長い月日を共にした妾だからこそ、お前様の欲の全てを受け入れ、極上の快楽を与えられるじゃろう」」
「いやまあそうなんだけど、ただ場所を考えろよ。ここは一応戦場な。俺が女好きで女の身体が大好きで身体を重ねるのが超好きなのは認めるが、こんなところでするほど脳猿でもねえし性癖もねえよ。だから腰上でゆさゆさすんな」
頭上の膝枕をするヒメと自身の腰上で官能的な表情と動きをするヒメという男の理性をゴリゴリと削るようなサンドイッチが行われていた。
「だからそういう性癖はねえって……はぁ、とりあえず今はこれで我慢してくれ」
男は腰上にいるヒメの腕を掴むと、そのまま自身の身体の方へ手繰り寄せた。
ポスっと軽い音が鳴る。
ヒメの見た目が少女ということもあり全体的に小さいのに比べ、男の体格は平均的な成人男性よりもいくらか大きく、190を優に超えていた。
そのため、ヒメの身体はすっぽりと男の身体に収まり、まるで抱き枕かのように包まれた。
「重國の霊圧が膨れ上がった、ならもうすぐこの戦も終わる。あとは迎えが来るまでここでのんびりしてればいいだろ」
「妾の膝上で妾を抱きしめるか。…仕方ないのう、此度は一先ずこれで妾のこの高ぶる感情を抑えようぞ。だが、ここから帰った暁には、しっかりと妾の相手をしてもらうぞ?」
「ハイハイ。お前の機嫌を取る為ならいくらでも相手になるよ。なんせお前は俺の
「酷いのうお前様、そんなそこらの有象無象と同じように言うとは…。妾とお前様はただの斬魄刀とその持ち主ではあるまい。妾は他のどの斬魄刀よりも強く美しく高貴であり、全ての理は妾の下僕。そしてお前様はそんな妾の主であり、この世で最も強く美しくそして強欲な死神。他のモノとは根本から違うのじゃ。だからあまり妾のことをそんな他人行儀に呼んでくれるなよ?そもそも妾は斬魄刀であって斬魄刀ではない。あのふざけた坊主が作ったものと同列に扱ってほしくないんじゃがな」
「わかったわかった。俺が悪かったからそう霊圧を荒げるな。んで俺の胸に齧りつくな。とりあえず帰ったらちゃんとお前の望むままにするから、いまはこれで許せよ」
「……はぁ、これが惚れた者の弱さじゃな。ならもうこれ以上なにも言うまい。しかと妾の膝上を堪能しながら、お前様が抱く妾を満足させよ」
満足気に笑みを浮かべながらその小さな手で男の死覇装をぎゅっと握るヒメ。
そんな彼女の頭を慣れた手つきで優しく撫でる男の名は───。
出自不明のただの女好きのクソ野郎である。
あたり一面を屍が埋め尽くす死の世界。そんな地獄と間違えてしまいそうな世界の中で一際大きく築かれた屍の山の頂上に、3人の人影が現れてはある人物たちを見下ろしていた。
「ったく。いつまでたってもこっちに来ねえからどうしちまったのかと思ったら…」
若干呆れたような声音を放つ、紫色の髪を二つに束ね左目を眼帯で覆った人物。
名を齋藤不老不死。鞘に入っているとはいえ、自身の斬魄刀を肩に担ぐ男勝りな態度と言葉とは裏腹に小柄な体格に誰もが認めるほどの可愛らしい容姿をしている歴とした女性である。
そんな彼女の羽織には漢数字の【六】の字が刻まれていた。
それは死神の中でも選ばれた者しか背負う事を許されていない十三名の隊長の証。
不老不死は鞘先で男の頬をドスドスとやや強めに突いた。
「…寝てますね。やっぱり私もここに来ればよかった」
悪い笑みを浮かべながら頬を突く不老不死とは対照的に、落ち着いた雰囲気と声音のする彼女は鹿取抜雲斎。
穏やかで可愛らしい小さな顔には丸眼鏡がかけられ、黒髪おさげが特徴的なこれまた美女である。
そんな彼女の背にも不老不死と同じく隊長の証である漢数字が刻まれており、その数は【八】。
抜雲斎は膝に手をかけ前のめりになり男の顔を覗くように見下ろす。
その際に、顔の大人しそうな雰囲気と細い身体から想像もできないはち切れそうなほどの大きな胸が強調された。
「この数を相手に彼女を解放せず一切の傷もなく斬り伏せるとは…。やはりあなたは面白い人ですね」
他二人とは違い、周囲の死体を観察しながら最後に男へ不敵な笑みを浮かべるのは、背に【十一】を刻む女性─卯ノ花八千流。
長い黒髪を垂れ流し、その大きく鋭い瞳はまるで獲物を狩る獣の様であり、二人に負けず劣らず美しい容姿をしているのだが、漂う雰囲気の影響かどこか恐ろしさを感じさせている。
もともとは死神たちの住まう世界─尸魂界において空前絶後の大悪人であったが、彼女らのトップである【一】の字を背負う山本重國に力を買われて現在の地位に至る。
彼女の【八千流】という名前は、あらゆる流派・あらゆる刃の流れは我が手にありと、彼女自ら名付けたものであり、本名は【烈】である。
ちなみに目の前でだらしなく眠る男が前に本名で彼女を呼んだ際、いきなり斬りかかり、彼の胸を大きく斬り裂いている。
それでもしつこく本名で呼ばれ続けた結果、この男にだけその名を呼ぶ事を許している。
「とりあえずこいつ蹴り飛ばして起こすか?それとも手足縛って刀に吊るして運ぶか?」
「起こした方が早そうですけど、こんなに気持ち良さそうな顔してたら迷いますね」
「……仕方ありませんね、私の斬魄刀で運びましょうか」
卯ノ花は諦めた様に呟くや自身の斬魄刀の力を解放した。
すると彼女の背後にまるでエイのような巨大な生物が空中をゆったりと泳いでいた。
どこか愛嬌を感じるエイのような生物は自身の大きな口を開けるやそのまま男たちを飲み込んだ。
卯ノ花はそのままエイの背中に飛び乗る。
「さあ、お二人もどうぞ。どうせ帰る先は皆同じなのですから」
とても丁寧な言葉を言っているとは思えないほど冷めた瞳を二人に向ける卯ノ花。
だが、もうそんな彼女に慣れてしまったのか、はたまた最初から気にしていないのか、卯ノ花が言葉を言い終えるや無言ですぐに飛び乗る不老不死と抜雲斎。
そしてそんな二人の行動を特に気に留めることもなく、自身の斬魄刀に移動するよう伝える卯ノ花。
こうしてどこか独特な3人はこの後、大戦を終えたばかりだというに、呑気に眠る1人の男をめぐり激しく己が刃を交えるのだった。
時系列は飛び飛びで行いますのでご了承ください。