貞操観念逆転世界の空戦騎士 作:らいらいてー
貞操観念逆転世界。
事故で死んだ俺が転生した世界はそんな場所だった。男女比は脅威の1:20。
戦闘機パイロット、幼少期から憧れていた花形の仕事だったのにあっさり死んだ。
空で死ねたからまだマシな方だろう、死因は
で、そんな世界で俺は
――ここは戦場、湾内が燃えている。
火災によって発生した熱が俺と愛馬の体を撫でる。
『こちら戦列艦「ブガチョフ」艦長! 救援、救援求む! 上に敵騎が――』
『おい! 救援はまだか!』
『囚人部隊の空戦騎士がまた堕とされたぞ!』
念話の混線。混乱状態に陥ってる味方から悲鳴や怒号が聞こえる。
状況は最悪、焦りからか額に冷や汗が浮かぶ。
「これが戦場かぁ……」
心配そうには嘶く愛馬の首筋を撫でる。
天馬のジュベック、ガキの頃から一緒だった俺の愛馬。そんな不安そうに嘶くな、確かに緊張はしてはいるが俺も内心楽しんでるんだぜ?
気持ちを切り替えて戦場を俯瞰。
制空権を完全に奪われた状態での一方的な戦闘。
既に軍港は失陥、湾内から脱出を図ろうとしている第5艦隊の内、何割が撤退先に辿りつけるのだろうか?
このままだと全滅するのは明白である以上、早急に手を打つ必要がある。
『あー、あー……全騎聞こえるかなぁ?』
『念話、聞こえてるぞ、隊長』
『どうやら我々の小隊にも出番が来たらしい、すぐに出てね。ルミはアークのフォロー、ユニコはこのまま闇属性魔法を使って敵の位置の把握、そして念話を使っての位置共有を行ってねぇ』
『了解しました、アーク君の背中はわたくしが守ります』
『アーク、君の役目は敵爆撃騎隊の妨害だ。まぁ、ボクに任せたまえ、敵の位置を事前に知らせる。ヤバくなったら退避するように』
『私はユニコの護衛に向かう、
『そんな事は気にしないでくださいよ、隊長! 一暴れしてきます!』
隊長の指示を聞き、覚悟を決める。
そして、爆撃した直後で身軽になったのを活かして急上昇を開始する敵騎へと視線を向ける。
空戦の基本は変わらない。一番速い奴が勝つ。
『アーク君。背中はわたくしが守りますので、必ず生きて帰ってください……貴方は男性の身、戦場に出る必要はありません』
『何を言ってるんだ? ルミ、俺は
具体的に言えば母さんとか母さんとか、後はメイド長とか。
やれ貴族の息子なんだからお淑やかにしろだとかうるせーっつーの。
だから、結果を残す必要がある。
空で俺が必要であるという分かりやすい結果が、婿入りしなくても済むような大戦果が。
幸いなことに俺は空が大好きで戦う力がある。
これから飛び込むのは戦場、空へと飛び続けるためには絶対に避けては通ることはできない鉄火場。
だというのに、俺は戦場に出るという緊張感よりも空を飛ぶ楽しさに心が躍ってしまっていた。
そうそう、これだよこれ、俺が求めていたのは! 戦場で空を舞う楽しさ!
「さぁ、行こう!」
愛馬を湾内に向ける。馬体が熱くなる。筋肉が激しく脈打つのが鞍越しに伝わる。羽が風を掴み、風を切る音が耳に響く。
天馬は空を走るとはよく言ったものだ。馬が平原を走り回るように空中を駆けていく。蹄が地面を蹴る音の代わりに羽を羽ばたかせる音を響かせて。
ジュベックの馬体を湾内で燃え盛る炎の光が映し出す。既に太陽が水平線に沈みつつあり、炎の光が栗毛を際立たせた。
同時に鞍の後方に搭載された【触媒】に魔力を充填。
体全てに凄まじい負荷がかかるほどの加速。
一瞬遅れて5型触媒、通称【虎二】から使用者は衝撃に備えてくださいという音声が響く。
一瞬視界が暗く染まりそうになるが、ブラックアウトは歯を食いしばって堪える。模擬戦で必死にミサイルに対しての回避機動を取った時の事を思い出す。くだらない感傷、その感傷を振り切るようにジュベックの横腹を拍車で2回叩く。
こちらの意図を察知したジュベックが羽を折り畳む、結果として加速したまま高度が一気に下がる。
風圧で水しぶきが飛び散る。水面ギリギリまで急降下、その状態で羽を水平に開かせて墜落ギリギリで速度を維持したまま更に加速。
落下エネルギーを加速の力に変えて標的よりも優速を維持する。
彼我の高低差は目測で350m、俺が下だ。
狙いは定める。
再度艦船へと攻撃を行うために急降下姿勢に入った敵ワイバーン騎兵。
自分の身長と同じほどに巨大なランスを構える。
先ほどの加速と急降下によって得た速度エネルギーを上昇に使用。
急降下姿勢に入った敵騎兵の胴体に向ける。
下から上へと突き上げるかのように接敵。
ランスを握る手に汗が滲む。
構うものか、肉薄する。
『なっ!? 血迷ったか! 王国の連中、男の空戦騎士を前線に出したのか!?』
相手の騎手の目が見開かれる。
しかし、相手も歴戦らしくすぐに意識を切り替えた。
流石は草原一の勇敢な種族であると自負するゴブリン族の戦士。
不利な状況察しつつも果敢に向かってくる。
短銃を鞍に付けられたホルスターから引き抜く。
狙いに迷いが無い。
引き金が引かれる。
ジュベックにしがみつくかのような体勢になっていなかったら頭を撃ち抜かれていた。
銃を捨ててサーベルに手を伸ばそうとする。
だがこちらの方が速い。
急降下姿勢となって小回りが利かない相手の胴体へと、優速を維持。
鞍越しに感じるジュベックと俺の鼓動が重なった気がした。
接敵。
『ば、バカな……!?』
念話が混線したのか、相手の最期の声が聞こえる、が、それに構わずにランスを突き出す。
相手の鎧を打ち砕いて胴体をぶち抜く衝撃音。
人の命を奪う感触がランスを持つ手を通じて伝わる。
草原の勇者は空に散ることになった。
正直言って、気持ちのいい感触ではない。
鞍から滑り落ちる彼女と目と目が合う、もしかしたら彼女にも帰りを待つ人がいたのかもしれない。
頭を振ってそんな考えは振り払う、迷いは戦場で命取りになるのだ。
騎手が討ち取られた事によって次の命令が来なくなる。
それによって困惑しているワイバーンは所在無さげに水面すれすれで急上昇を開始。
その横では討ち取られた騎手が海面へと堕ちて沈んでいった。
撃墜1。
『各騎油断するなよ、1人堕とされた! 油断するなよ、第5空戦騎士分隊は迎撃に向かえ』
『あー、あー、こちらユニコ。君の方に4騎迎撃に向かってる。敵の位置情報を念話で送る』
闇属性魔法による探知。感情を察知する探知波を放ち、敵の感情を察知することでの位置情報の把握。
それによって得られた情報が脳内に直接流し込まれる。
戦場を俯瞰してみる図が脳内に送られてきて、その図の上に存在する赤点。それが敵騎だ。
彼我の距離はおよそ1000m。接敵まで残り20秒と言った所だろうか。
『一応聞くが、増援は?』
『すまないね、カミラ隊長に守って貰ってはいるが、こちらも回避行動で手一杯なんだ』
『聞いたな、ルミ。相手の属性魔法が飛んで来たら光魔法を使っての攪乱を頼む』
『……了解です。……人を殺したんですよ? 戦闘が終わったら、わたくしが話に付き合いますので、何でも話してくださいね』
心優しい子だ、俺の2番騎は。
『いたぞ! 敵空戦騎士捕捉!』
『数は2騎か、エルフ、そしてもう片方は……男!?』
『どうやらヴィスワ王国も本格的に人員不足らしいな、男を戦場に投入するとは』
『魔王領にも男のエースがいる。油断せずに確実に仕留めろ』
こちらを視認した敵部隊は4列横隊の進軍隊列を解除。
2機ごとに分かれて左右からこちらを包囲しようとする動きを見せる。
片方のワイバーン分隊は急降下、下方向からこちらを狙うつもりだな。
もう片方は上昇、上と下から挟み込むつもりか。
『ルミ、攻撃はしなくていい、しっかり俺についてきてくれ、飛び込むぞ』
『……ええ、了解です』
上か下か、空戦の定石ならば位置エネルギーを活かすことができる下方向にいる目標を攻撃するべき、だが。
あえて上方向。
『ウィンドワルツ』
大気を切り裂くつむじ風のイメージを脳内で固める。
詠唱は条件付けに近い、そのイメージを作りやすくするための特定のワードだ。
俺の固有属性である風属性魔法を【触媒】に魔力を流すことによって発動させる。
本来なら攻撃魔法である猛烈な風がジュベックの足元に生み出される。
ジュベックも意図を察した様子でぶるるっ、と少し呆れが混じってるような感情を匂わせ嘶く。
そして羽が閉じられた。
巨石さえも吹き飛ばすことができる程の乱気流が風を切り裂く音を響かせ生み出される。
羽が閉じられたことによって空気抵抗が少なくなったジュベックごと俺を打ち上げた。
『なっ!? 距離をこんなに早く詰めてきたのか!?』
『散開、散開!』
位置エネルギーを活かしての急降下攻撃を仕掛けようとしていたようだがその目論見は外れたな。
こちらの方が高度が上だ。
彼我の距離は目測で350m、150mほど俺の方が高所を取っている。
180度ロール、背面飛行。
下方向への宙返りで相手とは戦闘機同士の戦いで言う所のヘッドオンの形となる。
『フレイムレーザー!』
敵騎ワイバーンの後方に搭載された【触媒】が魔力が流されることによって怪しい唸り声をあげる。
それと同時に騎手の女ゴブリンの前面に炎の塊が生み出され、その炎の塊は一直線に槍のようにこちらへと向かう。
手綱を操り横回転、そして馬首を上げることによるバレルロールもどき。
先ほどまで俺の頭があった位置をフレイムレーザーが通り抜けた。
『馬鹿野郎! 折角の戦利品を殺す気か!?』
『戦場で出てきたからには殺すしかない! 油断はするなっ』
言い争っているがそんな事には構うことは無い。
そして何よりお前らの戦利品になるつもりは無い。
『ウィンドカッター』
正面の敵に集中しているこちらの側面から敵騎が迫る。
だが動きが単調だ、艦船への攻撃で集中が切れているな?
触媒が雄々しく唸り、風の刃が生み出されて側面から迫る敵ワイバーンの片翼を切り裂く。
片翼が切り裂かれてバランスを崩す。
その後、騎手ごと錐もみ回転。
空気を切り裂く音を響かせ、巨大な水柱を生み出した。
撃墜2。
『クソっ! ソルン!』
『よそ見はダメだな』
撃墜された僚機に視線が向かったその隙を突いて、すれ違いざまに槍を突き出す。
今度は敵ワイバーンの口から脳まで貫いた。
ランスを引き抜き、馬首を空へと向けて離脱。
海に何かが叩きつけられて水しぶきが飛び散る音が響いた。
撃墜3。
『そちらもよそ見はダメですよっ! エンジェル・フレア!』
おっと、何時の間にか低空領域に居た敵騎も上昇し、こちらへと背面から近づいてきていたようだ。
追尾式の水の槍がこちらへと向かっていたが、追いついたルミが後方に向かって光魔法を展開。
天使の羽を思わせる光が空中に生み出される。
攻撃魔法を引き付け、打ち消す盾。
その盾に水の槍が直撃し、衝撃音があたりに響く。
『すまない、助かった、ルミ』
『全くもう……! 無茶ばかりしてっ! 女神教の教義は知っていますよね……!?』
『おっと、すまない、ルミは女神教の神官だったな』
男性を庇護し守る存在であると彼女達の聖典では定義していたな。
『よくも仲間を……! 仇を取らせて貰うぞ!』
『ソルン、レーン、2人の魂が草原に戻らん事を……。……弔い合戦だ』
魔法が効かないと見るや、相手は接近戦に切り替えるつもりらしい。
片方はサーベル、もう片方は所属する部族のシンボルが描かれた旗が付いたランス。
彼女達の部族のシンボルは羊を咥えるワイバーン。
『ルミ、俺の背後についてろよ』
『ええ、存分に貴方の背中は守らせて貰いますよ! 男性は守られるものですからっ』
まだこの教義には慣れないな、と呟く。彼女に聞かれてないと良いが。
彼我との高低差は無し、相手は2騎編隊。先ほどのような不意打ちはできない。
自力が求められるな。
ジュベックを信じて拍車で横腹を1回蹴る。
こちらの意図を察した彼は激しい空戦によって、全身から汗を垂らし、鞍越しにも分かるほどに体温が上がりつつもこちらのオーダーに応える。
指示は単純、最大戦速まで加速。
先ほどと同じようにヘッドオンの構える。まずはランス持ちからやる。
こちらの意図を察した敵ワイバーン騎兵が突撃……の構えを取るが露骨。
誘ってるな。
あえて誘いに乗る、そのまま正面から吶喊。
『勇敢だな! 貴様を破ったら我が部族の種馬として飼育してやろう!』
読み通りというべきか、こちらの槍は寸前で相手ワイバーンが急上昇したことによって躱される。
そしてその先に待っていたのは、属性魔法発射の準備を整えていた敵僚機。
『貰った、ウォーターミサイル!』
最寄りの目標に向かう熱探知式の水属性の槍が敵僚機から放たれた。
羽を限界まで広げさせて、馬首を上方向に向ける、風の抵抗を羽でいっぱいに受けることになり、苦しそうにジュベックが嘶く。
ギリギリで飛んできたこちらへと振り下ろされていた死神の鎌が頭上を通り抜けたが、そのまま進路を変更してこちらに向かう。
だが、危険を冒す、それだけの価値はあった。
上方向への急旋回によって追撃の構えを取っていたランス持ちの敵騎に狙いを定められる。
こちらを捕獲するつもりなのか、ジュベックに向けて槍を向けていた敵騎の胴体にランスを突き立てる。
彼女の血がぶちまけられ、彼女達部族のシンボルなのだろう旗が赤く染まった。
撃墜4。
騎手がずるりと音を立てて鞍から滑り落ちて、海面へと真っ逆さま。
ワイバーンの動きが止まる。
その隙を逃しはしない。
更に羽を羽ばたかせて上昇、こちらを追尾していた熱探知式の槍は動きが止まっていたワイバーンを貫く。
『なっ! 今の空戦機動ありか!? 負荷もとんでもない筈だぞ!』
残念だが、ありだ。
6Gからが本番だって昔に所属していた隊では言われてたぞ。
次の魔法を放とうとしていた敵騎に向かって急降下。
敵騎も高度という優位をかなぐり捨てて水面スレスレまでダイブしようとする。
逃さない、逃げようとした敵を掴み取る。
『ウィンドカッター』
後方に付く、射線上に捉える。
風属性の刃が放たれる。俺の魔力量ならば触媒の性能も相まって2cmの鉄板さえ切り裂く刃。
騎竜をバレルロールの要領で機動。回避される。
翼竜の輪郭を湾内を照らす炎の光が浮かび上がらせた。
だがこれも読み通り。
懐から短銃を引き抜く、狙いは魔法を避けた先。
引き金を引く。乾いた音が響く。
短銃の銃身にはライフリングが刻まれてないが、俺にとっては運がよかったのだろう。
彼女にとっては運が悪く、弾丸が胴体に直撃する。
うっ、と低い呻き声が至近距離まで近づいていた俺には念話越しではなくしっかりと聞こえた。
敵騎手が鞍から滑り落ちて、海へと落ちる。
撃墜5。
『こちらユニコ……派手にやっているね、初陣で5騎も堕とすなんてボクもビックリさ。味方艦隊は大きな損害を出しつつも、脱出に成功』
『残存艦は?』
『旗艦【シコルスキ】以下5隻は損傷を受けつつも湾外に脱出した、それ以外は撃沈だな』
『第5艦隊は瓦解したな』
『あーあー、こちら君達のカミラ隊長だよ。敵騎も引き上げていく、この隙に我々も引き上げるよ』
『あの、海に浮かんでいる人はどうするんですか?』
『……魔王領の連中の慈悲にすがるとしよう、彼らも戦利品が男でなくても溺れている人間には手を差し伸べるだろうと考えようか』
『首都での決戦に敗北し、国土の大半は失陥し、その上なけなしの砲兵隊の脱出を支援していた艦隊も壊滅、おまけになけなしの空戦騎士隊も潰走――』
溜息1つ。今回の戦いはこちらが1騎堕とす間に3騎は落とされるほどの大損害だった。
『しかも空戦騎士が足りないせいで傭兵や囚人、少しでも空を飛べる奴をかき集めている、かあ』
カミラ隊長の嘆き声が聞こえてくる。聞けば聞くほど絶望的な状況だ。
『カミラ隊長は空戦騎士を増やせと訴える立場だったんですよね』
『ああ、開戦には間に合わなかったけどね。……まぁ、今回の戦いで頭の固い保守派の連中も空戦騎士の有用性を認めてくれるといいんだけどねぇ』
と、彼女は言葉を区切って。
『……まさか男性である君がこのような大戦果を残すとはねぇ、少し驚いたよぉ』
『……戦いはここからが本番ですよ。クダンスク島では防衛戦の準備が進んでるんですから』
そうとも、戦いは俺の故郷であり領地であるクダンスク島での戦いになる。
男と言えども休むことはできない戦いになるだろう、むしろそれは俺の望むところではあったが。
死地を脱した艦隊を護衛しつつ、進むと、これからの戦場になるクダンスク島が見えてきた。
月明かりが砂浜沿いに作られた陣地を照らす。
空襲に備えて島の沿岸部に存在する洞窟を土魔法を使える工兵隊が拡張し、掘削することによって作られた簡易陣地。
平和だったこの島に、戦争の足音がもうすぐそこまで近づいていた。