貞操観念逆転世界の空戦騎士 作:らいらいてー
「すまないな、フェロン。こんな雑用をさせてしまって」
フェロン、と名付けられた黒竜はぐるる、と唸り声をあげて首筋をミレーは撫でた。しかしながらも、その唸り声には怒りの感情は含まれていない。気にするな、と言いたげであった。土を包んだ頑丈な布地が鎖によって吊るされている。
雨はいつの間にか小雨になり、彼とフェロンを濡らす。
村で略奪を行っていた軍から出た略奪者たちは指揮官を除いてミレーによって始末されることになったが、遅れてしまう事になった事に彼は引け目を感じた。その結果として、埋葬を手伝っているのだった。
指揮官の方は、今も逃走中。だが、1騎でやれることは限られている。逃げ出した彼女の手配書は既に各部隊に手配されてるだろう。近いうちに彼女の命運は絶たれることになる。
「ふっ、君も空を飛ぶのが好きなんだな。相変わらず。こうやって雑用をしてると昔を思い出すな」
フェロンの首筋をもう一度撫で、村から少し離れた場所にある谷間へと降下し、土をその谷間へと落として布地だけは回収する。
そして村へと戻るために空へと上がろうとしたら、ワイバーンを引き連れた空戦騎士と目が合った。幸いな事に、略奪者の仲間と言う訳ではないらしい。
「ん? そのワイバーンは?」
「あ、どうもミレー百騎長。名高い黒の4と出会えるとは幸運です」
「世辞はいい。しがない空戦騎士だ」
「謙遜が過ぎれば傲慢と見られますよ。ああ、こちらのワイバーンですか。もう老いたせいで空戦には適してませんからね、潰して肉にするんですよ。我々の部隊は今日はご馳走です。ミレー百騎長も用事が終わったらいかがですか?」
「……そうだな、ご相伴にあずかろうか」
やった、と小さくガッツポーズしたゴブリン族の空戦騎士を見つめる。まだ若い。そして、彼女が連れているワイバーン達へと視線を向けた。年老い、空は飛ぶことはできても以前のように戦う事は難しいだろう。
北端では空を飛び続けることが難しくなったワイバーンは食肉にされる。食えもしない家畜を養う余裕は北端には無いのだ。そして、これは彼らなりの戦友への弔いである。肉を食すことで騎獣を自らの血に取り込むのだ。
だが、ミレーはこの風習はあまり好きでは無かった。そもそも彼は中央大陸出身だったのだから。
ワイバーンを連れて去る空戦騎士を見送り、フェロンへとゆっくりと彼は口を開いた。
「懐かしいな。ワイバーンの肉料理。と言っても君と私が食したのは料理と呼べるほど、上等なものではなかったが」
目を瞑ると脳裏にこびり付いた記憶が蘇る。重なり合い血を流す両親たちの姿。船に乗せられて他の戦争捕虜と共に運ばれた時の記憶。そして、自分を買い取った部族長の下衆な笑み。
その後は、将来は種馬として働くことを期待されての家畜としての生活だ。
魔力を持つ男性という事で高値で取引されたのは確かだろう。部族が持つステータスシンボルとしても扱われた。
落雷で死んだのだろう黒竜の死体とその横に寄り添う小竜だった彼女――フェロンと出会ったのは、そんな折だった。
部族には内緒で彼女を育てて、野良ワイバーンも彼女と討伐して共に肉を食した。料理と言えるようなものではなく、そのまま焼いて食べただけだが。血抜きもロクにできてなかったせいで妙に生臭かったのは覚えている。
「君が心を開いてくれてよかったよ、そのお陰で空を飛んでの雑用を任される事も多くなった」
フェロンも心を開き、共に空を飛ぶことも多くなった。ミレーを飼育していた部族にもそれは知られることになり、閉じ込められるのではなく竜を操っての雑用も任されるようになる。忙しくなったが、空を飛ぶ時間は増えた。
任される雑用の中には、周辺部族との抗争も入っていた。そこから頭角を現し、最初に自分を買った部族からまた別の部族に、そしてその部族が没落するとまた別の部族へと移っていって、今の魔王に仕えるようになった。
口さがない者は彼を梟雄と呼ぶ。買われた恩も忘れて、主を次々と変えて男性の身で英雄になり上がった者であると。
「君と、空を飛べればそれで良かったのさ。争いごとは嫌いだが、空を思いっきり飛ぶのは好きだ。そして私と君の場合は空を思いっきり飛んで、自分の力量を試せる場が空戦だっただけの話だな」
ふふ、と微笑み、フェロンの首筋にキスをする。まさか、軍紀を乱した者達の粛清にやってきたら、造船所への攻撃任務で顔を合わせることになった彼と出会う事になるとは。運命的なものを感じざるを得なかった。
だが、今の彼の目には闘志の炎が宿っていない。戦士の目では無かった。心が折れる何かがあったのだろう。そう、ミレーは自分を納得させた。
「さて、彼は立ち直るかな? こんな所で腐られると、私もようやく自らの前に立ちふさがりそうな同性の好敵手を失う事になるが」
そのミレーの言葉に、グルル、と黒竜は獰猛な唸り声を漏らすのだった。そんな唸り声を聞いて満足そうに頷き、村へともう一度土を運搬するために戻る。下の方向を見る。空戦騎士として名を馳せた『レッドアネモネ』が、村人たちと手分けして亡くなった人達のご遺体を埋葬してるのが見えた。
◇◆◇
「すいません。お二人とも、村人の埋葬を手伝っていただいて」
村長の家。俺は椅子に座りながら差し出された茶を頂いていた。美味い。干し果物を砕いて茶の中に入れてるらしく、茶葉の豊潤な香りとフルーティーな風味の両方を楽しむことができる。
実家で飲む茶に使われる茶葉とは比べるまでもなく質は劣るが、俺はこちらの方が好きだった。
「いえ。……私が遅れてしまったばかりに、この村の人々が犠牲になってしまった。私の責任です」
「そんな事はありません。ミレー百騎長。貴方が来てくださらなかったら、我々はどうなっていた事やら……ありがとうございます」
「当然の事をしたまでです」
「それと……アークさんでしたかな? 埋葬を手伝っていただいてありがとうございます。しかも、無関係な部外者であるはずの貴方が銃を持って立ち向かおうとしてる姿を見た者も多い。ありがとうございます、我々を助けようとしていただいて」
「……いえ、俺は何もできませんでしたから」
懐の中にある、あの女医が遺した眼鏡を撫でる。名前さえもまだ聞けてない相手。彼女は今、他の犠牲者たちと同じように墓の中で永遠の眠りについている。
「村の者達の内、半数は死傷しました。ですが、亡くなった者達も皆さんのお陰で、その心は救われたでしょう」
「失礼。村長、緊急でお聞きしたい事が。魔王領軍の補給担当の方々がやってきて、軍票を使っての現地調達がしたいとの事です」
「……こんな時にか。私が対応しよう、すいません。客人を待たせることになりますが、少しお待ちを」
去っていく村長の背中を見送る。俺と黒の4――ミレーだけが村長の家の居間に残されることになった。一瞬、気まずい沈黙。俺の正体は明らかに知っているだろう。だというのに、なぜ逮捕して軍に俺の事を突き出さない?
「君。アークと言ったかな? 北方の遊牧民の風習は知っているかい?」
「ええ、まぁ……ある程度は?」
「客人として招かれた場では我々は絶対に争いは起こさない。争いを起こした場合は双方のメンツを潰してしまうことになるからだ」
……北方の民の風習にどうやら俺は命を救われたらしい。
「そしてこれは私の、個人的な我儘だが。……君と決着を付けたいと思っている。同性の好敵手となり得る相手なんだ、空で全力を尽くして戦ってみたいだろう?」
「……俺の正体、知ってたんですね。でも、空で戦う事はもうできませんよ。ジュベック……天馬も居ませんし、仲間も居ません、【触媒】もないから魔法を使う事もできませんし」
「……君にとっての空とはなんだ?」
「……自由だったはず、です」
くすくす、と面白そうに彼は笑みを浮かべた。何が面白いのだろう?
「いや、失礼。私にとっても、空は自由の象徴なんだ。私は戦争が嫌いだ。だが空で戦う事で好きな物が食べられるようになって、英雄と呼ばれるようになった。空で自由を掴み取ったんだよ」
「……」
「君はどうだ?」
俺にとっても、最初は空は自由の象徴だった。それがいつの間にか、空を飛び続けてるうちに翼が重くなった。俺が活躍しないと、誰かが命を落とすという重責は、俺の心を蝕んでいたんだろう。空で戦えば戦う程、俺は何かに縛られた。
「答えを出すのは、君だ。……ここから北方に歩いていけば開けた場所がある。そこで老いたワイバーンが潰されて肉にされようとしてる。君なら、ワイバーンも乗りこなすことができるだろう?」
「それは……」
空戦において、騎獣と心を通わせることができるかどうかは最も重要と言って良い。もし、心を通わせることが出来なければ空戦もままならない。騎獣が指示に従わないと空戦機動なんてできるはずがないのだ。
即興のコンビ、しかも片方は自信を無くした空戦騎士で、もう片方は年老いたワイバーン。これで、脱出できるか?
「おっと、そろそろ戻らないと上官から怒られるな。私はこれで失礼する」
そう言って、彼はこちらへと振り返る事無く、席から立ちあがってそのまま去っていく。後に残されたのは俺一人。
しばらくした後に、村長が戻ってきた。細かく刻んだドライフルーツが浮かぶティーカップの水面が揺れ動き、映し出された俺のしけた面が歪んだ。
「ミレー百騎長は帰ってしまったようですね。……その、アークさん」
「なんでしょうか?」
「貴方に戻る場所が無いのなら、という前提になります。が、もしよかったら、我々の村に住んでくれないでしょうか?」
「それは……」
「村は知っての通り、ボロボロです。戦争で働き手は連れていかれ、残ったのは幼い少女や私のような老人ばかり。貴重な男性も、先の略奪で命を落とした者もいます」
「……」
村長から目を逸らすように、ティーカップの水面へと視線を向ける。まだ水面は揺れ動いていた。
この村に残れば、貴族としての責務に縛られることは無いだろう。ほどほどに可愛らしい村娘と愛を育み、男性としての役割を全うし子孫を残す。空へと上がることは無いだろうが、貴族ほど男性への束縛も厳しくない。自由はある程度は保証されている。
――俺の決断は。
◇◆◇
「……全く、なんでこんな所にいるのやら……!」
名前も知らない女医の形見となった眼鏡のフレームに指を這わせる。覚悟を決める。
自分の大馬鹿さ加減に呆れる。アーク・クノールは死んだことにして、貴族としてのしがらみから解放されて空に戻る必要も無かったのに、結局こんなところに来てしまった。
ワイバーンを〆て肉にしようとしている空戦騎士の数は1人。鞍も付けられてないワイバーン達が最期の時を待つように並んでいる。数は5頭。
「ステーキ~、串焼き~、ケバブ~」
〆て血抜きが終わった後に同僚達を呼んで肉の加工を手伝わせるつもりなのだろう。敵襲もないだろうと1人で準備をしてる彼女の後ろを通り抜けて、最期の時を待つワイバーンの1匹に近寄るのは造作もない事だった。
鞍もないワイバーンに跨る。名前すらも知らない相手。
「すまないな、もしかしたら俺と、そして君にとってはラストフライトになるかもしれない。飛んでくれるか?」
グルル、と唸り声を一つあげた。どういう意図かは分からないが、振り落とされないあたり飛んでくれるつもりになったらしい。
首筋を叩く、しっかりと背中にしがみ付く。拍車で軽くこの子の横腹を叩いた。助走させる。
翼が目いっぱい広げられ、大地を踏みしめて加速し始める。力が衰えたこのワイバーンは助走をしなければ空へと飛ぶことは難しい。頼む、離陸してくれよ。
「ちょっ! 誰ですか貴方!? 私のお肉ぅー!? 戻ってきてくださぁーいっ」
後方からワイバーンを〆ようとしていた空戦騎士の嘆き声が聞こえる。目の前には森。森までの距離はおよそ150m。このまま飛んでくれないと突っ込むことになりそうだな。
もう一度拍車で、ワイバーンの横腹を叩く。このワイバーンにとっては限界まで加速する。森に突っ込むまで残り50m、30m、10m。
激突する寸前で彼女の翼は風を掴み、そのまま空へと飛びあがった。
「――戻って来ちまったか、空に!」
一時的に相棒となった彼、もしくは彼女の首筋を叩く。そして騎獣の進路を西部に向ける。クダンスク島へと。戻ろう、俺の故郷に。
俺を助けてくれた村を眼下に捉える。村人の1人と目が合う。彼女の手が振られるのに合わせて、こちらもワイバーンの首筋を撫でて、持ってきたロープをワイバーンに咥えさせて手綱代わりとする。拍車で2回横腹を叩いた後に、臨時の手綱を操る。
首を上方向に向けてそのまま宙返り。インメルマンターン。更に高く舞い上がる。
「ははは、今まで天馬しか乗らなかったが、ワイバーンも中々どうして悪くない」
臨時の相棒の首筋を撫でる。鞍さえもなく、乗り心地も最悪に近いが、それでも空を飛ぶのは気持ちがいい。無事に戻れたらこの子も俺の騎獣としようか。ジュベックと仲良くしてくれたらいいが。
海が見えてくる。運がいいのか、ここまで敵の哨戒騎に会わなかった。
――前言撤回、運は悪いな。
目の前に敵騎を確認。俺の事を執拗に追いかけてきた空戦騎士隊の隊長。村への略奪も指揮していた奴だ。逃げおおせて森の中に隠れていたようだな。
正面からランスを構えて突っ込んできた相手の空戦機動を読む。手綱に力を籠め、そのままワイバーンの横腹を拍車で蹴る。急降下。老ワイバーンの翼が悲鳴をあげる。何とか直撃する寸前で回避。
「は、ははは! お前のせいで私は全てを失ったぞ、戦友も、姉妹も! 貴様だけは殺す! その為だけに逃げおおせた後に森の中を彷徨っていたんだからな!」
明らかに正気を失っていた。彼女の目から理性を感じない。念話ではなく、直接俺に声を張り上げて怒鳴りかけてきた。
彼女の【触媒】が唸る。魔法が投射される。急旋回! 半ば騎獣が耐えることを祈りながら急旋回を繰り返し、何とか回避。僅かに頬を魔法が掠め、血がにじむ。
ああ、痛い。でも、空は本当に自由だ。ジュベックと飛ぶ空ではないが、このワイバーンと飛ぶ空も俺にとっては尊いものに感じられた。
「全て! 全て戦争と! 貴様が悪いのだ! お前のせいだ、お前が私の人生を狂わせたのだ!」
狂気に囚われた彼女が再度ランスチャージの構え。彼女の言う事は、ある一面から見れば正しいのだろう。俺の行動によって、彼女の大切な何かを奪ってしまった。俺が背負う事になった業、それは許されないものなのだろう。
ああ、それでも。空を思いっきり飛んで、そして戦うのは楽しい。
いつの間にか雨は止み、青空が広がっていた。
空気の流れから相手の動きを感じ取る。斜め上方向。彼我の距離はおよそ50m。急降下。ランスが突き出される。その攻撃に合わせて、俺は手綱を操ってワイバーンを急上昇させた。だが、避けきれずに俺の背中を槍が掠め、ワイバーンの尻肉を抉る。
相棒となった者の口からは悲鳴が溢れる。すまないな。だが、暫くは耐えてくれ。
相手の攻撃に合わせて不格好ながらも空を舞う。回避機動を取り続ける。反撃する手段はない。そして、相手が乗っているのは現役の騎獣であるのに対して、こちらは退役した老いた騎獣。速度の差は歴然。
完璧に回避できることもあれば、回避しきれずに少しずつ俺も、騎獣も傷を負っていった。
「ちょこまかとぉ! だがこのままなぶり殺しだ! 怯えながら空で死ね!」
空で死ぬ。前世と同じ死に方だ。前世は空中分解、今生では撃墜。どうやら、臨時の相棒となったワイバーンも空で死ぬことにした覚悟を決めたらしい。敵騎の言葉に反応するようにぐるる、と快活な唸り声が溢れる。
だが、怯えながら死ぬつもりは無いぞ。
俺の相棒の首筋を撫でる。
敵を見据える。敵はランスチャージで仕留めるのは諦めたらしく、土で作られた鋭利な剣を空中で何本も生み出した。数は12本。土と言えども侮るなかれ、その切れ味は魔法で作られた事もあって油断がならない。しかも術者がある程度誘導する事も可能だ。
包囲するかのように空中を飛ぶ土剣が俺の周囲に展開される。そして投射される。全方位から迫る剣。
目を瞑る。ワイバーンの首筋を撫でる。ここまでか。
――だが、その直後に砲撃音が響いた。俺を追い詰めている空戦騎士の進行方向上、はるか上を砲弾が通り抜けていく。
「なにっ!? ヴィスワ王国軍の空中艦!?」
突然の横槍に制御が乱れたらしく、包囲に隙が生まれる。その隙を突いて樽の輪郭を描くようにバレルロールをして潜り抜けようとする。全てを回避することはできず、1発はワイバーンの腹部へと深々と突き刺さった。
激痛に悶えながらも、俺を振り落とさなかったのは、この子のワイバーンとしての意地だろうか?
「は、ははは……魔王領軍に戻ることはできず、前方には敵国の艦か。……ならば貴様だけは殺す! 死ねっ!」
空中空母『ストーム』からの再度の砲撃支援を確認。だが、相手は砲撃に怯むことなくランスを構えて突っ込んできた。ワイバーンの方も疲弊しきってるようで、動きが鈍い。回避機動が取れない。
ランスが、ワイバーンの首筋を切り裂く。血が飛び散る、高度が落ち始める。
「今度こそ死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
高度が落ち始めた俺の背中へと槍を突き立てるべく、敵騎兵が突っ込んでくる。だが――。
「私の事、忘れて貰っちゃ困るね~。――私の部下、返して貰うよ」
カミラ隊長の声が聞こえた。後ろを振り返る。後方から迫る敵騎。そして、その後ろにはカミラ隊長。手には短銃。その短銃からマズルフラッシュ。そして放たれた弾丸は、妄執のままに俺の首を狙っていた敵騎の頭をぶち抜いた。
ごほっ、とワイバーンがせき込んで口からは血が溢れる。だが、それでも、臨時の相棒となった俺を助けてくれるかのように、水面スレスレで姿勢を制御して持ち直し、翼を目いっぱい広げて羽ばたく。
「エスコートするよ、アーク。……遺品回収するつもりでここまで飛んできたけど、いやはや、生きてるとはね。凄い悪運だよ」
◇◆◇
ストームの甲板の上に、ここまで連れて来てくれた相棒と共に降り立つ。それと同時に、相棒は崩れ落ちた。
目を見開いたまま、動かなくなる。名前すら知らない相手。でも、間違いなく俺の相棒だった。
目を閉じさせる、首筋を撫でる。労うように、相棒の首筋にキスをした。
「――アーク君!」
そんな俺に、後ろからルミが抱き着いてくる。そして、俺のシャツに熱い何かがしみ込む。
「ごめんなさい……! わたくしのせいでっ! わたくし、あんなに酷い事言ったのにっ……! 理想を押し付けてばかりだったのにっ、わたくしを助けてくれるなんて!」
「……。気にするな。俺も悪かったしな。それに、ルミもずっと心配してくれたんだろう? 遺品捜索の提案をしたのもお前じゃないのか?」
「ええ、ええ……わたくしが提案しました。それと、ジュベックも無事です……! 早く彼にも会ってあげてくださいっ」
泣きじゃくるルミの方を振り返らず、そのまま暫く落ち着くまで立ち尽くす。落ち着き始めたら、振り返る。
「そう言えば、伝えたいことってなんだ?」
「……ずっと、貴方の傍で飛びたいって伝えたかったんです」
「勿論だ。……こんな俺でいいのなら、喜んで」
動かなくなった相棒の首筋を撫でて、一つ頷いた。