貞操観念逆転世界の空戦騎士   作:らいらいてー

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クダンスク島沖海戦

 西部方面艦隊旗艦【ブリヤート】の見張り台で望遠鏡を眺める見張り員は、既にこの戦いに勝利したつもりだった。

 複縦陣で敵はこちらに迫ってきている。単縦陣で陣形を整えたこちらを中央突破するつもりらしい。だが、彼女達自身が包囲網の中に存在してるに等しい。

 

 単縦陣で戦列を敷いているのは4個艦隊。戦列艦16隻に重フリゲート艦4隻。突破を図ろうとしている敵艦隊は戦列艦12隻に重フリゲート艦が何隻か。

 そんな彼女達の両側面。右翼側、左翼側には十字砲火を浴びせるように艦隊が展開している。右翼側、左翼側に1個艦隊ずつだ。

 

 敵はこちらが作り出したキルゾーンに突っ込んできている。ヴィスワ王国の最期に死に花を咲かせたいなら、咲かせてやろう。

 

『敵艦隊、複縦陣において減速することなく突っ込んできています!』

 

『……報告感謝する。自殺志願者か? ……だが油断はできないな、前衛の空戦騎士隊は爆撃を開始、揺さぶりをかけろ』

 

 各艦隊に分散して配置された空戦騎士隊が空中にて攻撃隊列を整える。槍の矛先のような隊列。数は合計68騎。

 見張り員が立つ見張り台を掠めるように飛んでいった彼女達に目いっぱい帽子を振り、華やかに出撃した彼女達を見送った。

 

 ヴィスワ王国軍は現在所有してる空戦騎士達の殆どを艦隊の上空に集結させているように見える。数は150騎は下らないだろう。草原の民である見張り員の彼女から見ても、それなりの陣容なように見えた。

 

 だが、中央に戦力を集結させるのは包囲してすり潰せと言ってるようなものだ。

 

 雑多な騎獣によって構成されたヴィスワ王国軍、中央からの傭兵団、更にはダンツィヒ都市連合の空戦騎士隊の連合部隊と魔王領軍の空戦騎士隊が激突する。

 ある者はランスによって貫かれて息絶えながらも乗騎と共に敵に体当たりして道連れにして、またある者は魔法によって四肢をもがれながらも艦隊旗艦に爆撃を行おうとしていた空戦騎士を風魔法で撃ち落とす。

 またある者は味方からの誤射によって訳が分からないまま海面へと突っ込み、またある者は艦隊の防空網へと爆撃部隊を誘導して一網打尽にした。

 

 敵味方が入り混じる魔王領・ヴィスワ王国戦争最大規模の空戦。しかしながらも、今回は魔王領側の攻撃は阻止されることになった。ヴィスワ王国艦隊に脱落艦は無し。

 

 だが、爆撃部隊の役割は十分に果たしたと言える。注意が空爆部隊に向いたことによって、両翼に展開した艦隊が挟み込むかのように砲撃が放たれる。

 

 ――筈だった。右翼側の第8艦隊からの砲撃が無し。

 

 疑問に思い、望遠鏡を覗き込む。そこには信じられない光景が存在した。

 第8艦隊の上空を守る空戦騎士隊、およそ50騎が正面から突撃してきたヴィスワ王国軍空戦騎士8騎に押されているのだ。

 片方の1部隊は黒塗りの懲罰部隊。もう片方は、各騎の馬具に花の紋章が刻まれた空戦騎士隊。

 

 ――件の【血塗られたアネモネ】が属する部隊!

 

 第6空戦騎士団第6分隊フラワーブーケ(6th Aerial Knights Order, 6th Knight Squad Flower Bouquet)

 

 第44空戦騎士団第4分隊『ヘル・マタドール』(44th Air Combat Knight Order, 4th Squad Hell's Matador)

 

 【血濡れのアネモネ】を包囲するように魔王領軍の空戦騎士隊が襲い掛かる。だが、突如巻き起こった嵐のような暴風によってまとめて吹き飛ばされることになった。――風属性魔法の【テンペスト】が哀れな空戦騎士隊の真ん中で炸裂したと察したのは、海面へと幾つも力なく堕ちる空戦騎士達の姿を望遠鏡越しに見てからだった。迎撃の為に甲板から魔法が放たれるが、その魔法も彼の背中にぴったりとついている空戦騎士によって迎撃されるのが確認できた。

 

 旗艦の防空を担当する空戦騎士隊の戦列が突破したその隙を突き、地獄の闘牛士たちが飛び込む。前髪によって目の周りが隠された黒衣の空戦騎士から炎の槍が数えきれないほど放たれ、第8艦隊旗艦【マルヘーエフ】に積載された火薬に被弾。盛大に燃え広がり始める。

 

 爆沈は避けられたようで、甲板から次々と可燃物が海へと投げ捨てられる、速度を落としていくが、艦隊旗艦の脱落によって第8艦隊の動きに乱れが生じる。有効に砲撃を行う事はできず、キルゾーンに突っ込んだ王国艦隊に有効打を与えることはできない。

 左翼側は十分に機能し、敵艦隊に打撃を与えるが動きは止まらない。

 砲撃によって44門級重フリゲート艦【エジョフ】が火薬庫に榴弾が直撃して引火したらしく、巨大な火球となるが、彼女達は足を止めなかった。むしろ更に加速してるようにさえ見える。

 

『クソっ! 中央の大軍は見せ札で本命は少数精鋭の部隊でこちらの包囲網を瓦解させる事だ! だが、正面戦力でもこちらが圧倒してる! 全艦! 砲撃用意!』

 

 複縦陣でこちらへと真っすぐ突っ込もうとしてくる敵艦隊。先頭に立つヴィスワ王国海軍艦隊旗艦【シコルスキ】に中央艦隊の全火力が指向される。

 戦列艦【ブリヤート】の片舷50門以上の三段に及ぶ砲列から砲撃が放たれ、敵艦隊へと襲い掛かる。しかしながらも、提督の号令の下に行われた砲撃は一斉射撃ではなく【ブリヤート】の砲撃に続く形での散発的な砲撃となった。

 

 速成の大艦隊であるせいで連携訓練が十分に行えてない。それが目に見えることによって、見張り員は内心冷や汗を流すのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ふぅー、賭けの内、2つは既に成功しましたね」

 

 敵旗艦から放たれた砲撃がメインマストを掠め、船体にも直撃弾が出たことを示すように旗艦【シコルスキ】が大きく揺れるが、女王とその近衛。そして陸戦騎士隊に動揺した様子はない。この程度の修羅場、大陸からの脱出の際にいくつも潜り抜けてきたからだ。

 

「1つ目の賭けは、敵艦隊が大戦力を活かしてこちらの艦隊を撃滅しようとしてくること。逃さないようにするために艦隊を幾つかに分けて包囲するであろうという事は予想していました」

 

 ――まぁ、かなり綱渡りな作戦でしたがね。と、女王は小さく呟いた。

 敵に艦隊決戦と言う選択肢を強いることができたのは、小さな綱渡りの連続だった。以前から行っていたレジスタンス達による補給網への打撃。空中艦隊への攻撃。その他様々な通商破壊作戦。

 敵の補給網をじわじわと締め上げ、相手に短期決戦と言う選択肢を選ばせるためには何でもした。アーク・クノールという英雄を作り出したのは、こちらの意図を察させないための隠れ蓑でもある。

 

 相手はエースという虚像に踊らされて、ヴィスワ王国の空戦騎士隊の増強に危機感を覚えていただろう。実際の所、王国軍の空戦騎士隊の主力はまだ傭兵である。だが、アークの活躍によって敵は王国軍が本格的に空戦騎士隊を養成してると思ったはずだ。勿論本気で育成はしてるが、戦線に投入するためには時間がかかる以上、本戦争に間に合うかは怪しい。

 

 そして、1つ目の賭けに勝った。敵は補給網が締め上げられたことによって集結した全艦隊による艦隊決戦を挑んできた。もし、敵が艦隊決戦を避けて通商破壊を行ってクダンスク島が干上がるのを待ち始めていたら恐らくは勝ち目は無かっただろう。

 

「アークには後で褒美をあげないといけませんね。ふふふ、彼を王配にするべきでしょうか」

 

 リネから睨まれるがそう呟く。艦隊決戦に持ち込み、相手は大戦力を活かしての包囲戦術を取ってくるという読みは当たり、その賭けにも勝った。

 

 だが、そもそもの話、包囲された上で火力に大幅に劣るヴィスワ王国軍が勝利するための方法とは何か? マグダレーナの命によって、増援としてやってきた傭兵や都市連合の艦隊との連携訓練は行ってきた。それは複縦陣による中央突破である。

 

 中央突破を成立させるという作戦の前提は艦が沈められないこと。少なくとも包囲網の一角は崩して投射される火力を少しでも減らす必要がある。

 

 あえてこちらの作戦を悟らせないために空戦騎士戦力の殆どを中央に集結させ、敵の目を欺くことには成功した。その上で、最も艤装が新しく、乗組員たちの練度が足りてないように見えた右翼側の敵艦隊に少数精鋭の空戦騎士達を派遣。もっとも難易度が高く、不確定要素の大きい賭け。

 

 だが、その賭けには勝った。大勝ちだ。

 

 敵の直掩の空戦騎士の内、21騎はアークたちによって討ち取られ、第8艦隊旗艦も炎上し、右翼側の機能は一時停止した。左翼側と中央からの砲撃は受けたが、被害は致命的ではない。

 

 敵の隊列が目視で確認。敵の怯える表情も目を凝らせば見える。彼我の距離500m。

 

「前王の遺産。北方で名を馳せた陸戦騎士達よ。貴女たちを養ってきたのはこの時の決戦の為です。不人気な私はともかく、として。国への忠を尽くしてくれることを期待します」

 

 陸戦騎士達が雄たけびを上げる。重鎧を着こんだ、明らかに海上戦には向いてない騎士達。その姿を見て古参の海兵は表情を青ざめさせ、新参の海兵は海を何も知らないと侮った。

 

 ――なぜ、空から襲い掛かる陸戦騎士達がヴィスワ王国を守り抜いてきたのか? それは彼女達が重装剣兵用の重鎧を着こみながら曲芸ができる程の身体能力を持つ者ばかりだからだ。背中に背負った【触媒】による身体能力強化だけではなく、武技の鍛錬に一生を捧げている。火砲、更には殺傷力の増した魔法が発展した現代においても、彼女達は戦列歩兵たちにとっては恐怖の象徴だ。

 

 3つ目の賭けは一番難易度が低い。接敵し、陸戦騎士隊を乗り込ませて艦を制圧させる。そしてこれは成功を確信していた。

 

 94門級戦列艦【ヴァレリー・サブリン】の甲板長が慌てて指示を出す。総員、白兵戦用意と。単縦陣の横っ腹に食らいつくかのように飛び込もうとしている【シコルスキ】を阻止しようとするように砲撃が行われ、艦首から艦尾までの貫通弾まで出すが、それでも止まることは無い。

 

 まず、最初の哀れな犠牲者となったのは【ヴァレリー・サブリン】だった。砲撃をすり抜けて肉薄した旗艦が草原で信仰される天上神の像が設置された艦首へと葡萄弾が装填されたカノン砲を指向。砲列甲板から突撃前の景気づけと言わんばかりに砲撃が放たれ、船体に大小様々な穴を開ける。

 ロープが戦列艦のマストへと引っかけられ、身体能力が強化された陸戦騎士達が鎧の重力を感じさせないように敵艦へと乗り移る。

 

「吶喊!」

 

 クノール家の紋章が描かれた盾を構えたリネが古参の騎士達と共に甲板へと真っ先に飛び込む。旋回砲が指向されて砲撃が放たれる。

 だが、その砲撃は盾によって弾かれ、甲板へと突き刺さる事になった。砲手の表情が青ざめるどころか真っ白になる。

 

 俊敏性はともかくとして体格で劣り、素の筋力で王国の多数派を占める只人には戦列艦乗組員の大半を占めるゴブリンには勝ち目は無い。

 筋力と言う面で対抗することが可能な北方の人魚たちも軽装であり、重鎧を着こんで甲板の上で暴れまわる騎士達を止めることはできなかった。

 

 旋回砲程度の砲撃は盾で弾かれ、マスケットの銃弾は鎧を貫くことはできず、魔法さえも彼女達の足を止めるには至らない。

 

「決戦戦力をここまで温存しておいてよかった、と言うものですよ」

 

 リネ達古参騎士達が作り出した突破口を更に広げるように、後続の近衛騎士隊が甲板へと乗り込む。マグダレーナも、装飾が施された自らの身長程はありそうな大剣を構える。【触媒】に魔力を流し込み、自らの身体能力を強化する。

 残った乗組員たちが戦列を組むのが見える。騎獣用の大型触媒も確認。魔法も弾幕に組み入れてこちらを阻止するつもりらしい。

 

「今まで陸戦騎士隊を温存していたのは、彼女達の出番と言う訳ではなかったのもあります、が。目立たせたくなかったんですよね」

 

 馴染みの近衛騎士達の横顔をちらりと見た後に、強化された身体能力で甲板を踏み込む。鉄靴が頑丈なはずの甲板を凹ませ、加速。

 

 女王が真っ先に飛び込み、それに続くかのように突っ込んだ近衛騎士隊が戦列に大穴を開け、瞬く間に制圧する。暫くの交戦の後、リネからの降伏勧告を戦死した艦長に代わり、副長が受けることになった。

 

「敵艦が降伏したのは何より……ですけど、ここからが本番ですよねぇ」

 

 白く輝く鎧を敵の血と言う塗料で彩ったマグダレーナが空を見上げる。敵の予備隊が投入されたらしく、新手の姿を確認できた。ヴィスワ王国艦隊が敵艦隊への接敵に成功したことによって勢いに乗る事は成功したが、一筋縄では勝たせてくれないらしい。

 

「リネ公爵。この艦の武装解除を陸戦騎士隊の一部を残して行ってください。私は旗艦に戻り、作戦指揮を続行します」

 

「……は、了解です!」

 

 リネの敬礼を横目で見ながら、近衛と共にヴィスワ王国艦隊旗艦【シコルスキ】へと戻る。それと同時に、対空戦闘を提督を通じて乗組員たちに命じた。

 

 既にこちらの作戦は露呈した。敵空戦騎士も全力で中央に突っ込んだ味方艦隊に打撃を与えようとして来るだろう。

 

「空は任せるしかないのが辛い所ですね!」

 

 思わず悪態をついた。敵空戦騎士隊の急降下を確認。数は12騎。

 近衛が背中に背負った【触媒】を通して魔法を放つ。水、土、あるいは火。それぞれの属性で作られた槍、剣、矢が急降下して樽爆弾を落とそうとしている敵機を貫く。

 しかしながらも、劣勢を挽回しようとしている敵騎も怯むことは無い。1騎、また1騎と討ち取られるが、爆撃コースへと入る。

 

 だが、樽爆弾が落とされることは無かった。

 

『――少し、遅い到着ではないですか? アーク・クノール』

 

『すまないな! 敵の空戦騎士隊の妨害が激しかったんだ!』

 

 爆撃コースへと入った空戦騎士隊が、彼女達から見て背面から飛んできた風の槍に貫かれて堕ちていく。4騎いた敵騎のうち、3騎は風の槍に背中を貫かれて血反吐をぶちまけながら崩れ落ち、そのうち1騎は甲板へと叩きつけられてぴくぴくと身体を動かした後に息絶えた。

 残りの1騎はそれでも爆弾を落とそうとしていたが、騎手から投射された風を纏わされたランスが喉を貫き、そのまま海へと堕ちる。

 

 くるり、と続けざまに4騎撃墜した空戦騎士が、旗艦【シコルスキ】の乗組員たちに見せつけるかのように宙返りし、インメルマンターンを行った。その勝利の旋回を見上げることになった乗組員たちから甲板を揺らすかのような盛大な歓声が響く。

 

「――赤いアネモネの加護は我々にある! この戦いは勝てるぞ!」

 

 マグダレーナの糸目が見開かれ、その声が張りあげられる。鬨の声が上げられ、その戦意の高さを物語った。

 

 ――ま、簡単には勝たせてくれないでしょうがね。という彼女の独り言は、護衛の近衛騎士しか聞き取る事は無かった。

 

 中央に飛び込んだヴィスワ王国艦隊の動きは敵艦隊に動揺を与え、アーク達の隊が右翼艦隊の行動を一時的に阻害したが、それも一時的なもの。

 右翼の第8艦隊は回頭を開始。中央に増援として向かおうとしている。左翼艦隊は半包囲するかのような形でこちらへと砲撃を続けながら近づいている。

 

 初戦は上々、だが、味方の空戦騎士隊の被害も大きい。むしろここからが本番だ。戦いはまだ終わってなくて、勝利したとは言い難い。ふぅー、と一つ息を吐きながら、マグダレーナは大剣を肩で担ぎ、次の獲物を見据えるのだった。

 

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