貞操観念逆転世界の空戦騎士 作:らいらいてー
「ルミ、すまないな、お前のランスを貸して貰って」
「どうせ、わたくしでは上手く扱えませんから」
先程、空戦騎士を撃墜するのに投射されることになったランス。それを補充するように、ルミのランスを借りる。これで武器の補充は完了だ。
当初の作戦通り、味方艦隊は敵の戦列へと飛び込むことに成功して、戦列を突破しつつある。だが、数の差はいかんともしがたいな。
敵の予備戦力の投入を確認。……黒いドラゴンに跨ってる空戦騎士もいる。黒の4。
『こちらユニコ! 敵も必死だな! こちらの防空網を食い破って艦隊への攻撃を仕掛けようとしてる! 全方位から向かってくるぞ!』
『ここを凌いで敵の西部方面艦隊の旗艦を拿捕できれば、敵も撤退を開始する、と思うよ』
『憶測なんですね、カミラ隊長』
『でも実際、艦隊旗艦がやられたらこの大軍だよ。統制も取れなくなる。逃げないなら統制が取れてない敵艦隊を各個撃破すればいいだけでしょー?』
軽口を叩き合いながら、真っすぐに急降下して味方艦へと飛び込もうとしていた敵騎に狙いを定める。樽爆弾を装備していたのが運の尽きだ。重い荷物を背負った敵騎の頭へと狙いを定める。手綱から手を放し、ホルスターから短銃を引き抜いて引き金を引く。小気味いい音が響いて相手の頭を貫いた。騎手が鞍から滑り落ち、海へと堕ちて大きな水柱を一つ作った。
『これで撃墜数は……幾つでしたっけ?』
『17騎目だな』
『数えてくれてありがとう、ユニコ』
ひとまずは艦に迫っていた脅威を排除。次の標的へと狙いを定める。黒の4。空戦騎士隊の隊長でもあるらしく、鞍上から指揮を執っているのを確認。彼を討ち取れれば、現場の士気も下がり、指揮統制も困難になるだろう。……味方の被害が減る、ならばやるしかないか。
ジュベックの馬首を因縁のある敵へと向けて向かおうとした所で、俺の前に立ちふさがるかのように急降下してきた敵騎を確認。ワイバーンに跨った空戦騎士。生えてる尻尾から察するに、魔族の血を引いている。
『お前が血濡れのアネモネか?』
『そう呼ばれることもあるな』
『そうか。父上は貴様を買ってるようだが……その実力が本物かどうか、この黄色の14が確かめてやろう』
敵空戦騎士が正面から迫る。ヘッドオン。動きが早い! 正面から突入するのは危険。そう囁いた空戦騎士としての直観に従い、斜め上45度方向に急旋回。その直観は当たっていた。先ほどまで俺が居た位置に水属性で作られた矢の雨が通り抜けていく。正しく弾幕。あの中に飛び込んでいたら即死していただろう。
『ちっ、初手で殺す気だったが!』
急旋回、そして急上昇した俺へと敵騎が追いすがる。小回りがあまり効かないワイバーンで天馬の空戦機動についてくるか。相手の確かな力量を感じさせるな。だが、俺とジュベック、そしてルミを倒すのにはまだまだ足りないな!
『ルミ!』
『ええ、分かってますわっ!』
敵の第2射。透き通るような青空には似合わないような、水で作られた巨大な手が生み出される。キラキラと太陽の光を反射して俺とルミを包み込むようにその手は向かってくる、が……。
『エンジェル・フレア! 今日はいつもより多く展開してますわよっ!』
フレアが展開される。人々を守る優しい天使の翼が水で作られた文字通りの魔手から俺達を守るための盾となる。その盾へと手が叩きつけられるが、パキィン! と小気味いい音が響き、その魔の手は空中で打ち消されることになった。
そのまま急上昇し、スピリットSの要領で横転。馬首を下方向に向けながら急旋回。こちらへと追いすがろうとしていた敵騎の後方へと回り込む。俺とジュベックならば造作もない事!
背面へと回り込まれて、焦るかのように高度という優位を捨てて海面めがけて急降下し始めた相手へと今度は俺が追いすがる。
『ウィンドカッター!』
【触媒】に魔力を流し込む。つむじ風が舞う、かまいたちのイメージ。空中に風の刃を生み出す、数は合計18本。投射。放たれた風の刃も、ある程度は射手が誘導することができる。――あえて、彼女が避けやすいコースで風の刃を投射。
『そんな見え見えの攻撃で――』
『見せ札だよ』
加速した勢いそのままに、樽の輪郭を描くかのようなバレルロールを繰り返して風の刃を回避する敵の頭上へと回り込む。狙いを定める。狙いは敵の触媒。ランスに風を纏わせる。ルミのランスだが、申し訳ない事をする。
思いっきり投射。投げつける。
風を切る音を唸らせ投げつけられた槍は、敵騎に搭載された【触媒】を打ち砕いた。貫いた勢いそのままに、海面へと槍は向かって、ぼちゃんっ! と音を響かせてそのまま沈んでいく。
敵騎も触媒が破壊されたことによって交戦は困難と考えたらしく、撤退し始める。思わぬ妨害があったが、これで黒の4と交戦を――。
……待てよ? 黒の4はどこに行った? 先程まで、味方に指示を出していたのは確認できたが、何時の間にかその姿が見えなくなっている。
『ユニコ、黒の4の位置は?』
『むぅ……これだけ敵味方が入り乱れての乱戦だと、位置の把握も難しいな。……見つけられた、場所は――』
ユニコから送られてきた位置情報を頼りに、視線を向ける。その場所は……ユニコの真上!?
『まずい! 逃げろユニコ!?』
敵騎が急降下。漆黒のドラゴンに跨った黒の4が獲物へと襲い掛かる。咄嗟にユニコの護衛を行っていたカミラ隊長が迎撃を行おうとするが、間に合わない。黒の4が装備した長大なランスが、ユニコの天馬に搭載された【触媒】を打ち砕き、天馬の尻肉を切り裂いた。
ユニコの高度が一気に落ちていく。飛行できなくなったらしく、そのままふらふらと白兵戦中の味方甲板へと降下していくのが確認できた。
『クソっ!? ユニコがやられた!?』
咄嗟に、黒の4と相対することになった黒の4へと向かおうとする。だが、俺の目の前に名を挙げようとしてるのか、敵の空戦騎士隊が立ちふさがった。ちっ、乱戦だとこいつら本当に邪魔だな……!
『お困りのようですね! 助けに来ましたよ!』
『――ポーン、それに囚人部隊の連中か! 右翼艦隊の抑えは任せていたがもういいのか!?』
『大分ヤバいです。数に押されそうだったので退避してきました。ですけど、仕事はしますよ。敵の雑魚はこちらで押さえますので、アークさんは黒の4をお願いします』
『すまない、恩に着る!』
新しい天馬に跨り、俺へと向かおうとしていた空戦騎士の前へと立ちふさがった変態の姿が妙に頼もしく見えた。その横を通り、黒の4へと馬首を向ける。
『ああ、そうだ。これは貸し一つですよ? ――貴方の持ってる下着全部貰いますから』
『俺が生き残る前提なんだな』
『勝利を確信してますよ、ふふ』
『お前も生き残れよ、じゃないと下着も受け取れないだろ』
カミラ隊長の方へと翼を目いっぱい広げ、ジュベックの横腹を拍車で叩きながら加速する。黒の4の猛攻撃にカミラ隊長は押される一方だ。だが、それでも何とか飛び続けているのは彼女の戦闘センスの高さを物語っている。
だが――。
回避に専念し、急旋回を繰り返して何とか黒の4を振り切ろうとしていたカミラ隊長の腕と足を黒の4から放たれた魔法が貫いた。――光属性魔法! しかもそれを攻撃に転用したものか!
急旋回し、スプリットSの姿勢で背面飛行の途中だったカミラ隊長がそのまま鞍上から滑り落ちる。海へと堕ちていって、水柱が生み出された。
『2騎目』
『――黒の4!』
黒の4が出てきたら逃げて味方艦の支援を頼りにするというものだった。だが、味方艦もそれどころではない。かと言って黒の4を放置すれば瞬く間に味方の空戦騎士は落とされ、彼の武勇伝の一ページが彼女達の血によって描かれることになる。
不利なのは承知。だが……やるしかない!
『ふふ、やはりここに来たらお前と戦えるのか。――心が躍るよ』
『あの時の礼は言おう。ありがとう。そしてその礼を返してやるよ――お前を堕とすことでな!』
俺と空での決着を望んだ彼と正面から向き合う。ヘッドオン。ランスの代わりに、サーベルを引き抜く。
彼我の距離150m。100m。
相手の【触媒】から不気味な唸り声が響く。嫌な予感がして咄嗟にそのまま下方向に急旋回。すぐ上を光線が通り抜けていくが、ルミも俺の空戦機動に付いてきてくれたらしい。毒牙にかかる事はなかった。
そのまま下方向に急旋回からの、アッパーカットを食らわせるかのような急上昇。敵のドラゴンの腹部へと狙いを定める。
『スピアー・オブ・ザ・ウィンド!』
風で作られた槍を投射! 数は合計18本! ウィンドカッターよりも魔力を多く込めるお陰で誘導性能の上がったそれを殺到させる。
が、一筋縄では行かせてくれない。相手はこちらの攻撃を回避するかのように急上昇。それと同時に樽の輪郭を描くようにバレルロール。
そのまま俺も急上昇して追いかける。螺旋状に絡みあうかのように相手の背中を追いかける。ローリング・シザーズ! 急旋回、そしてバレロルールを繰り返して撃墜の機会を伺う。だが、やはり相手は俺よりも早い! 速力の差でそのまま一気に距離を離された。
急上昇からの急旋回。竜のこちらへと向けてくる。嫌な予感がして、冷や汗がたらりと垂れた。
『ルミ、お前は俺から見て右に! 俺は左に避ける!』
咄嗟に散開の指示を出し、そのまま左右にばらけるように飛ぶ。その直後、ドラゴンの口から漆黒のブレスが放たれた。瘴気のブレス! まともに食らえば天馬ごと溶かされてしまうであろうそのブレスを何とか寸前で回避する。
そのまま突き上げるようにサーベルを構えて相手に接敵。以前のように相手のドラゴンへと乗り移っての白兵戦に賭けようとする、だが……!
『大人しく白兵戦に付き合うと思うか?』
こちらの狙いを読んでいたかのように、そのまま急降下。急降下されると相手に追いつくことは困難だ。だが、それでも無理矢理食らいつく!
『ウィンドワルツ』
俺の単語に反応するように、ジュベックの翼が閉じられた。そのまま空気抵抗が少なくなった彼と俺ごと、背後に生み出されたつむじ風によって射出される。一気に加速し、それと同時に翼を広げることによって無理矢理相手へと追いすがる。
『追いかけてくるか、やるな!』
そのまま追いすがる俺を振り切れない事を察した黒の4はバレルロール。無音詠唱で奇襲するつもりで放った風の刃は彼を捉えるには至らない。ちぃっ! 速い上に判断力も優れてるとか本当に強いなこいつは!
海面すれすれまで相手が降下。と同時にそのまま水面スレスレを高速で飛ぶことによって海に裂け目を作る。マニューバキル狙いだったのかもしれないが、甘い。そのまま俺も海面に叩きつけられる寸前で馬首を相手に向けて、海面を衝撃によって波打たせながら相手になおも追いすがる。
『追いついてくる、ふふ。そうだ、それでこそだ。面白い! 空戦と言うのは楽しいものだな』
『……それについては、同意だ!』
戦争は、色々な人の命を奪い、ありとあらゆるものを傷つける。だが、それでも、俺はこの空に魅せられてしまった。好敵手と死力を尽くして戦うというのは、こうまで楽しいとは! 心が躍る!
相手が急上昇。彼の黒竜の輪郭が、太陽の光に照らされてより際立たされたように見える。追いすがる。追いついてみせる。堕としてみせる。
『だが――ここまでだ』
急上昇しして太陽を背にすることになった彼の姿を直視することになる。太陽の光が、俺の網膜を麻痺させた。――逆光戦術!?
咄嗟に目を塞ごうとするが、それでも間に合わない。太陽の光に重ねるように、眩い何かが瞬いた。閃光弾!?
太陽の光と魔法で作られた閃光弾をギリギリ直視を避けられたものの、一瞬見てしまったようだ。視力は完全に死んでないと信じたいが、視界が塞がれる。――空戦騎士として最も重要な目視ができない!
『良い、ワルツだったぞ。だが、ここまでだ。君との戦いは忘れない』
魔力反応。下方向から響いてくる戦闘音に紛れて、頭上にいる相手の【触媒】が不気味な唸り声を響かせる。これは――避けることができない!?
『――アーク君!?』
俺へと念話を通して聞こえてきたルミの声を聞き取る事ができて、その直後に衝撃が走った。