貞操観念逆転世界の空戦騎士 作:らいらいてー
空中空母『ストーム』
先の戦いで撃墜された闇属性を使える空戦騎士の穴を、魔王領軍は塞げてないらしい。哨戒網の穴を突き艦が進む。今のところ見張り員からの接敵報告は無し。敵の支配領域内の空路を進む。下に広がるのは占領された故国の大地。
空中空母『ストーム』作戦室。そこに集められた俺達は、作戦司令官からの作戦を聞いていた。
「今回の作戦が成功すれば、魔王領軍の作戦を大きく遅滞させることができるだろう。敵の空中輸送艦隊への襲撃である」
広大な戦線を抱えている魔王領軍の兵站は現地調達も行われているが、それ以上に空中輸送艦隊による補給が重要視されている。
海に浮かべる軍艦と比べると積載量は半分以下であるが、それでもその積載能力は十分に大きい。
物資集積所に集結させられた物資は、空中輸送艦を使って前線へと届けられる。積載能力は前世で何度も見たことがある輸送機よりも高い上に、滑走路ほどの場所を取る必要はない。
前世の軍事関係者が見れば泡を吹いて仰天することになる。何故ならば大量運用できれば、という前置きが付くが兵站の悩みの大半は消えるのだ。
だが、同時に魔王領軍にとっては空中輸送艦隊に依存してる兵站は弱点である。航空優勢が取れてない場合、空戦騎士と比べれば鈍足な空中輸送艦は脆い。火砲なども当然輸送艦には搭載されているが、積載量の関係で最低限のものしか搭載されてないことがほとんどだ。
空中艦を輸送艦ではなく戦闘艦にして護衛に付けたらどうだろうか? と誰しもが考えるだろうがそうもいかない。そもそも高いのだ。魔王領でさえも空中戦艦の数は限られてる。
敵に察知されず、敵の空中輸送艦隊を叩く。それが今回の任務だ。で、その任務の半分は成功してる。
敵の哨戒空戦騎士の偵察網に引っかかることなく、敵の支配領域に潜入することができたんだしな。
特務からの情報によれば、敵の空中輸送艦隊はあと数十分ほどでこの空域内に侵入する。
当然のことながら、護衛の空戦騎士もいるだろう。油断はしないし、何よりできるはずがない。
彼らも自分たちの物資だ、死に物狂いで守るはずだ。
「――作戦の概要は以上だ、質問はあるか?」
「あの……撃墜すべき敵の数は?」
「およそ6隻。このうち3隻を撃沈すれば相手の補給網に打撃を与えられるだろう。クダンスク島防衛の時間を稼げる」
「……また時間稼ぎか」
「ユニコ、そう言わないでよ~、成功したら飴ちゃんあげるからね?」
そう、時間稼ぎ。敵の作戦行動を遅滞するための。でも、積み重ねることによって勝利を得られると信じるしかない。
「アーク君」
「ああ、もし、敵の空戦騎士が出てきたら援護は頼むぞ」
「ええ、お任せを。ふふ、頼りにしてくださいね。……場合によっては、囮も引き受けますので!」
「危険だろうが……」
「……危険なのは百も承知! 守らせてください、貴方の背中を!」
頼もしいウィングマンだ。
◇◆◇
空へと上がる。慣れ親しんだ風が俺と相棒を撫でた。味方の空戦騎士も上がっている。よし。
隊長を先頭にしてのV字型隊列を取る。いつも通りの行軍隊列。
『こちらユニコ。敵の空中輸送艦の反応をこちらでも確認。……だがまずいぞ』
『何がまずいのかな~?』
『敵の護衛の数が思った以上に多い! 護衛騎の数はおよそ12騎! しかも1騎は速いぞ!』
情報がどこかから漏れたか? 空中輸送艦はこちらを誘い出すための見せ札。囮にしてこちらを誘い出して撃滅。空中空母が堕とされたら、今後の作戦遂行が困難になる。してやられたか!?
『――構わないよ、このまま出撃! 傭兵の空戦騎士に防空は任せて我々は敵の空中空母を叩く!』
ユニコがいち早く察知してくれたお陰で敵騎の先制攻撃は避けられそうだが、状況は悪いな。傭兵たちが浮足立ってる。捕食する側だと思っていたのに捕食される側に回ったらこうなるのも仕方ないが。
敵ワイバーン騎兵を視認。爆装を確認。浮足立ちながらも傭兵たちが抑えてくれるようだが、急ぐ必要がある。
『ルミ、先行して敵の空中輸送艦を狙う。行くぞ!』
了解、と念話で返答があったのを確認。拍車でジュベックの横腹を叩いて加速。
敵の空中輸送艦との距離はおよそ1000m。前方に直掩の敵空戦騎士4騎。正面からぶつかり合うヘッドオンの状態!
『急旋回! ついてきてくれよっ』
敵騎から魔法が飛ぶ。水の剣、炎の槍、土の弾丸! 斜め横上方向に急旋回。――背中から魔力の気配を感じる、追尾してきてるな!
『いたぞ! 【アネモネ】だ!』
『落とせば勲章ものだ、行くぞ! 空中輸送艦は落とされるなよ!』
『仲間の仇だ!』
急旋回からの急上昇。急降下! 後方に付いてきてくれたルミが光属性魔法を展開してくれたらしい。
魔法を打ち消す盾となる光弾が後方から迫ってきた敵魔法を打ち消し、俺の背中を守ってくれた。感謝してもしきれないな!
敵空中輸送艦と彼我の距離は残り500m。相手の方が下。しっかりと鞍を太ももで挟み、鞍の横に付けられた爆弾を掴む。重い、5キロはありそうだ。
そのまま急降下、狙いを定める。起爆剤となるマナ鉱石に魔力を流し込む。マナ鉱石に急激に熱が溜まる。
彼我の距離は残り300m。空中輸送艦に備え付けられたパックルガンが火を噴く。――生命反応によって炸裂する近接信管! 背面飛行、そのままロール。更に拍車で横腹を叩く。
ジュベックの羽が空気抵抗を避けるために僅かに折り畳まれる。キィィィン! と風を切る音が空に鳴り響く。
彼我の距離残り100m。手が火傷してしまいそうになるぐらいに熱くなった5キロ爆弾を甲板めがけて投下。
投下された爆弾は、敵の甲板を貫く。そして、そのまま内部で炸裂。
空中輸送艦から断末魔のような破砕音! ジュベックの横腹をもう一度拍車で叩き、羽を広げさせる。急上昇!
すぐ横では火災が発生したらしく、爆炎が上がっている空中輸送艦が見えた。
囮だが、輸送任務も一緒に行うつもりだったらしいな。欲張りが命取りだ。軍需物資は、よく燃える。
マナ鉱石にも火が回ったようで、浮力を得られなくなった空中輸送艦はそのまま母なる地面へ不幸な再会をするべく堕ちていった。
撃墜、いや、撃沈1!
『空中輸送艦が堕ちるぞ! 【チャリオット】だ!』
『畜生! 私達の輸送艦を!』
敵騎が後方から迫る。だが――。
『勝てそうな戦いなら我々も参戦するのですよー!』
『こっちは任せて! あたしたちで抑えるから!』
浮足立っていた傭兵たちも優勢と見るや持ち直したらしい。敵騎へと食らいつく。あちらも腕は悪くない、任せて次の標的を狙う。
『ルミ、爆弾をくれ!』
「上手く使ってくださいね、アーク君!」
すぐ近くまで寄って来てくれたルミから5キロ爆弾を受け取る。彼女から念話ではなく口頭で激励を受ける。ああ、上手く使ってやるよ。
彼我の距離500m。こちらが僅かに上。敵空中輸送艦のうち1隻の見張り員は優秀だったらしい。俺に狙われてることを察したらしく、帆を傾けて空中で進路を変更。腹を見せて火力投射能力を最大まで発揮しようとする。だが、高度を取っている俺にどうやって攻撃を当てるつもりだ?
『貨物を偏らせろ! 全砲門てーっ!』
――なるほど、そう来たか!
敵艦が傾く。斜め右45度方向。貨物を限界まで偏らせて船体を傾けることによって射角を確保!
『ルミ、俺の背中から絶対に離れるなよ!』
『貴方の背中が安全なんですか!?』
『安全という保障は無いな! だがこれしかない!』
空中輸送艦から一斉砲撃。片舷に合計12門搭載された12ポンド砲が一斉に火を噴く。同時に、こちらの退路を塞ぐかのようにパックルガンが一斉掃射。キルゾーンが形成される。
急降下は間に合わない。ピッタリとルミは付いてきてくれてるな。ならば――。
『ルミ! しっかりその子にしがみついてろよ! ウィンドワルツ!』
俺とルミの頭上につむじ風を発生させる。一気に頭から押し付けられるかのような風が吹く。俺の意図を察した様子で、ルミの方も馬首を下方向に向けたらしい。
打ち上げられるのではなく下に叩きつけられるように急降下! すぐ上を明確な殺意が込められた弾幕の嵐が通り抜けた。
そのままジュベックの羽が軋むような音を立てて一気に急上昇! 憮然とした嘶きが聞こえるが許せ! あのままだったらお前も俺もあの世行きだったんだよ!
『次弾装填急げ!』
悪いが、次は撃たせない。敵艦直上、急降下。
狙いは物資が偏ってる場所の甲板。彼我の距離150m。
こちらを妨害するように相手からも魔法の投射を確認。風の槍が12本!
『エンジェル・フレア! 突っ込んでください! アーク君!』
直撃する寸前で俺の背後にピッタリと付いているルミから相手の魔法を打ち消す光弾が投射。風の槍を打ち消す。前が開かれる。爆弾を投下。
投下された爆弾は相手の甲板をぶち抜き、そこで炸裂。積載されて、射角を取るために偏らされた物資に引火したらしい。凄まじい爆炎を上げる。
爆炎を上げながら堕ちていく敵艦から、こちらへと届かせようとするようにパックルガンが放たれる。だが、それが俺に届くことは無かった。
撃沈2。
『よしよし! 上手くやってくれてるようだね! ……だが、気を付けろ! 敵騎がそちらに急速接近!』
『襲撃を予想できてたのに、こんなにあっさり空中輸送艦が落とされるとはのぅ。設計見直した方がいいのじゃ』
聞き覚えのある声が念話を通じて俺の脳に響く。この声は――。
『敵数は2! うち1騎はドラゴンだ!』
敵騎を視認。片方はドラゴン、そしてもう片方はワイバーン。うち1騎の騎竜には片目が無い。またあいつか!
『姫様。あまり突出しないでくださいね』
『分かっておる! 今回は任務じゃからのう!』
『――ルミ! 散開!』
背中にぴったりとついていたルミが離れる。それを横目に俺も斜め右下方向に飛び込むように急降下。すぐ後ろで爆炎が炸裂し、俺の肌を熱風が撫でた。
【触媒】は先の戦いで破壊したはず――予備のを引っ張り出してきたか!
『今日こそは決着を付けてくれるのじゃ――僚騎も連れてきてるようじゃがのぅ! こっちもメイド長連れてきたのじゃ!』
『はぁ……お嬢様のわがままにはいつも困らされてしまいますね』
相手ドラゴン騎兵の僚騎。――小柄な体躯と緑色の肌から察するにゴブリン。風属性魔法の使い手か! ただでさえ速いレッドドラゴンが更に加速する!
『お主が恋敵か?』
『……』
『わらわの恋路を邪魔するのならば仕留めてやるのじゃ――死ね』
こちらの目論見は半分成功。厄介な相手はルミに向かってくれたが、あのゴブリンできる!
こちらがフォローできないように的確に妨害してくるな、畜生!
ウィンドカッター。合計15枚。彼我の距離は150m、こちらが下! 雑草を刈り取るかのように上方から迫る。馬首を上に向けて翼を目いっぱい広げさせ、羽ばたかせる。ほぼ直角の角度で急上昇。
下に逃げると予想していたらしい敵のウィンドカッターの隙間をかいくぐる!
『ちっ! 邪魔するな!』
『はぁ……お嬢様は何かに夢中になるとそれしか見えなくなるんですから。困ったものですよね?』
俺に結構似てるかもしれねぇ……。
って、そんな事考えてる場合じゃないな!
『テンペスト!』
ルミが追いかけられてる以上、出し惜しみは無用。一気に決着を付ける!
暴風が生み出され、魔法によって世界の理が捻じ曲げられて作られた竜巻が相手を飲み込もうとする、が、腕が立つなこいつも!
『エアシールド』
自らと騎獣を覆い隠すように風によって作られたシールドを展開。ズタズタに切り裂かれるのではなく、風と一体になる事でむしろ竜巻を乗りこなして加速する。――そんな使い方ありか!?
加速した敵騎兵が直上、上方向! その手に握られたランスが俺へと迫る。
『ちっ!』
舌打ち1つ。風を纏わせてランスを投げつける。苦し紛れの策。相手のランスで空中で撃ち落とされる。――かかった!
ランスに込められた風の魔力が衝撃によって炸裂。目つぶしするかのように局所的に暴風が巻き起こる。
『っ』
一時的な目つぶし、それで十分。空いた手でサーベルを引き抜く。
相手空戦騎士の横をすり抜けて、すれ違いざまにサーベルを振り抜く。手ごたえあり!
『今のはっ、効きましたよ!』
腕がざっくりと切り裂かれた事によって、血が飛び散る。動きが鈍る。この隙を突く!
急旋回からの離脱。斜め横方向への急激な旋回によって脳がシェイクされてるかのような錯覚を覚えるが、歯を食いしばって堪える!
ルミを視認。まだ飛んでいる。後方から天使の翼のように見えるフレアを展開して。
『ちぃ、ちょこまかと! じゃが、もう魔法は使えまい!』
『くぅっ!?』
ルミと天馬ごと丸のみにしようとするかのようにレッドドラゴンの口が大きく開かれる。
一刻を争う……! 無茶だが仕方ない!
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
相手の頭上。彼我の距離は5m。鞍の上に立ち、そのまま降下! 走馬灯のようなものが脳裏を過ったが、相手の騎竜にしがみつく。そのままのし上がる。
「なにぃ!? わらわの相棒に乗り移ってきたじゃとぉ!?」
完全に注意がルミから俺に逸れる。こちらの行動は流石に予想外だったらしく、相手の端正な顔が驚愕で歪んだ。敵は口をあんぐりと開け、捕食者を思わせる八重歯をのぞかせた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 食らえぇぇぇぇぇぇ!」
そのままサーベルを投げつける。視線が向く。驚愕によって動きの鈍い相手の首筋を切り裂く! 血が噴き出る!
「ごほぉ!? 何とも情熱的なアプローチじゃなっ!」
相手が短銃を引き抜く。姿勢を低くして一気に突っ込む。こちらの右肩を貫いた。血が噴き出る。
激痛に動きが止まりそうになる。それでもレッドドラゴンの鱗を蹴って飛び掛かる。全体重を込めての体当たり!
鞍から彼女が吹き飛ばされると同時に、俺も反動で吹き飛ばされて宙を舞う事になった。パラシュート無しでの高度1000m自由落下。待ってるのは死だ。
『死ぬつもりですか!!?』
だが、お空を舞う天使さんは俺を見捨ててなかったらしい。空から落ちる俺へと手を伸ばす。その手を掴み取る。引き上げられ、彼女の純白の天馬の背中にしがみつく。
ちらりと下を見てみると、あの竜騎士の僚騎が急降下してるのが見えたが、何をするつもりなのか確認する余裕はない。
下から横へと視線を向けると、こちらを心配そうに見ながら向かってくるジュベックの姿が見えた。心配をかけてしまった、すまない。
天馬の背中へと這い上がるのとほぼ同時に、カミラ隊長が残った敵空中輸送艦に爆撃を成功させた。
積載物に引火した空中輸送艦は、俺達の勝利を祝うかのように巨大な花火となった。
◇◆◇
「良いですか!? 次あんな無茶な事したら本気で殴りますからね!!」
「女神教では暴力はできる限り避けるんだろう?」
ルミから肩の治療を受けたと言えども、まだ痛む。彼女の魔力が尽きかけていた証拠だ。
そんなに叫ばれると傷口が痛む、が! 正直言ってまた同じことやれと言われてもやれる気がしない。
「確かに暴力は避けろとは教えられてきました。ですけど、間違った考えを持つ人に振るう暴力は別の話です!」
「だが、囮になって追い詰められていたルミを助けるにはあの方法しかなかったんだよ」
「だとしても、です! ああ、もう、助けて貰ったのは嬉しいんですけど……!」
そんなに怒ってたら折角の可愛らしい顔が台無しだぞ。と言いかけたが何とか堪える。火に油を注ぐようなものだ。
「……もう貴方の全てを私が管理するしか……」
一瞬、俺を説教しているルミの目からハイライトが消えたような気がした。彼女も疲れてるんだろう、きっとそうだ。そう考えることにした。