Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
調査
デジタルワールド──その一角に佇む、岩に閉ざされた山岳地帯。
吹きすさぶ強風のなか、断崖の頂付近に二人の人影があった。
「アキヒコ先輩……これが調査対象のゲートですか?」
10代半ばの少年──ショウは、吐く息を白く染めながら隣に立つ青年に声をかけた。
「ああ、間違いない。だが……人間界と繋がる通常のゲートとは、波形がまるで違うな」
青年・アキヒコは深く頷くと、手に握った高機能端末──デジヴァイスを目の前の空間へ向けた。
歪んだ空間の先には、万華鏡のように怪しく揺らめく光の亀裂──『ゲート』が口を開けている。
直後、アキヒコのデジヴァイスから鋭い電子音が鳴り響いた。画面に躍る数値を一瞥した彼の表情が、途端に険しくなる。
「次元の干渉パターンが、過去のデータベースにあるどれとも一致しない。完全に未知のパターンだ」
「未知……? ウィッチチェルニーやイリアスのような、別のデジタルワールドへ繋がっているわけでもないんですか?」
「ああ。そのどちらのデータ特性とも異なっている」
ショウの問いに、アキヒコは首を横に振った。
二人が提示されたデータの分析に意識を向けていた、その時だった。
『おお〜い! ショウ、アキヒコ〜!』
風を切り裂いて、豪快な声が響き渡る。
声のした方へ視線を向けると、一頭の存在がこちらへ近づいてくるところだった。
人のような体躯でありながら、全身は硬質な青銀の鎧に包まれ、肩や背からは結晶化した氷の刃が鋭く伸びている。
ショウのパートナ──―究極体デジモン、ヘクセブラウモンだ。
『このあたりに棲むデジモンたちに聞き込みをしてきたよ。だが、急な異変や妙なデータの乱れを感じた個体はいなかったそうだよ』
ヘクセブラウモンは大きな足音を立てて二人の前に着地すると、調査結果を報告した。
「目立った情報なしか……ありがとな、ヘクセブラウモン」
「となると、まずはリーダーに現状を報告するのが先決だな。ショウとヘクセブラウモンは、そのまま周辺の監視を続けてくれ」
アキヒコはデジヴァイスの通信機能を起動し、セキュリティチーム【ライトファング】の通信回線を繋ぐ。
「こちらアキヒコ。リーダー、今よろしいでしょうか」
数秒のノイズののち、スピーカーから落ち着いた男性の声が返ってきた。
『やあ、アキヒコ。定時報告の時間には少し早いようだが、何か動きがあったかい?』
「はい。例の次元ゲートですが、現時点で周囲への直接的な悪影響は見られません。周辺のデジモンたちも特に異変を感じていないようです。ただ、観測される次元波形が過去の事例にないパターンを示しています」
アキヒコの説明を聞き、通信の向こうでしばし沈黙が流れる。
『……了解した。これ以上の現地調査は危険と判断する。一度本部へ戻ってきてくれ。他のチームや協力者とも情報を共有し、対応を協議しよう』
『了解しました。これより撤収します』
通話を終えたアキヒコはデジヴァイスを収め、ショウたちに向き直った。
「というわけだ。一度引き上げるぞ」
「了解です。……でも先輩、このゲート、このまま放置しておいて大丈夫でしょうか?」
「今のところ安定しているようだが、念のため周囲のデジモンには近づかないよう警告を出しておこう」
アキヒコが肩をすくめて見せると、ショウも「そうですね」と納得し、引き揚げようと足を踏み出した。
──その瞬間。
静寂を破り、空間の亀裂が激しい眩い光を放ち始めた。
「──っ!? な、なにっ!?」
光の膨張とともに発生したのは、強烈な空間の引き波だった。
周囲の空気、雪、さらには岩片までもが、ブラックホールのごとく巨大な暴風となってゲートへと吸い込まれていく。
「くっ……体が……!?」
唐突な大質量重力に、ショウの体が宙へ浮き上がる。
『ショウ!!』
一瞬の判断だった。ヘクセブラウモンは巨大な両腕を伸ばすと、吹き飛ばされそうになるショウの全身を抱きすくめ、自らの巨体でショウを庇い立てた。
「ショウ! ヘクセブラウモン!!」
アキヒコは咄嗟にデジヴァイスを掲げ、自身のパートナーデジモンを実体化させようと叫ぶ。
しかし、次元の歪みが生み出す嵐はあまりにも苛烈で、一瞬で二人の姿を飲み込んでしまった。
光が弾け、次の瞬間には──山頂には吹きすさぶ風の音と、呆然と佇むアキヒコだけが残されていた。