Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
アリサがチャンピオンに昇格した翌日、ショウのもとにユキダルモンから連絡が入った。アリサの合格を祝してご馳走を振る舞いたいという温かい申し出であり、ショウはアリサにもそれを伝え、次の休みの日に訪問することを約束した。その際、「ハルトたちも一緒に連れていってもいいか?」と尋ねると、ユキダルモンは「みんなで来たほうが賑やかで楽しいよ~!」と大喜びで了承してくれた。
そして約束の休日。ショウとアリサは、ハルト、ペパー、ボタン、そしてネモを伴い、ユキダルモンの住みかがある雪山のエリアへと足を進めていた。
「着いたぞ」
「結構、歩いたね……」
「んー? でも周りを見回しても、何かあるようには見えないんだけど?」
「そうだな。ただの雪原に見えるぜ」
「ネモさん、もうすぐですから頑張ってください」
「は~い……」ゼーゼー
ネモは急な雪道の登破にすっかりバテ気味の様子であった。
「まぁ見てろって」
ショウが不敵に笑うと、目の前の空間に向かってすたすたと歩き出した。すると――次の瞬間、ショウの姿が空間に溶け込むようにふっと消えてしまった!
「嘘!?」
「ショウがいなくなった!?」
「これ……ホログラム!?」
「似たようなものですね。デジタルデータの迷彩空間です」
「すごすぎちゃんだな!」
「おーい! 驚いてないで早く来いよー!」
迷彩の向こう側から、なんでもないような気楽な声でショウがハルトたちを呼んだ。
「行きましょうか」
アリサに促され、おずおずと一歩踏み出したハルトたちが迷彩空間を抜けると、一瞬で周囲の景色が切り替わり、目の前には隠された巨大な洞窟の入り口が現れた。
「来たぞ。そんじゃ、おーいユキダルモ~ン! 入るぞー!」
「は~い! いいよ~!」
洞窟の奥からユキダルモンの呑気な返事が聞こえてきた。一行が中へ入ると、大きな厨房のようなスペースでいそいそと料理を振る舞うユキダルモンの背中があった。
「いらっしゃーい! ごめんね、今手が離せないから、奥の炬燵で休んでいて~!」
「何か手伝おうか?」
ショウが声をかけるも、ユキダルモンは背中を向けたまま首を横に振った。
「大丈夫~! あとちょっとで完成するから、寒かっただろうし温まって待ってて~!」
「そこまで言うなら」
「お言葉に甘えましょうか」
「失礼しまーす……」
「てか、この炬燵デカすぎちゃんじゃね!?」
ペパーが驚くのも無理はなかった。そこにあったのは、巨大なデジモンや大人数が全員余裕で入れる特大サイズの炬燵であった。ショウたちはぬくぬくと温まりながら待つことにした。
それからしばらくして、出来上がった美味しそうな料理の数々と温かい飲み物が、ユキダルモンによって手際よく炬燵の上に並べられた。
「出来たよー! 冷めない内にどうぞ~!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
ユキダルモンに勧められ、みんな一斉に箸を伸ばし始めた。
「みんなのお口に合ったかな~?」
「……! すっごく美味しいです!」モグモグ
「これは絶品ちゃんだな! おいユキダルモンだっけ?後で絶対レシピ教えてくれよ!」ゴクン
「ハルトのお母様の料理も美味しかったけど、この料理も本当に美味しい……!」モグモグ
「えへへ、良かった! いつもショウたちに作る時より、だいぶ辛みを抑えてアレンジしてあるんだ~」
「雪だるまなのに温かい料理作るの、ギャップありすぎるじゃん……」パクパク
「やっぱり、ユキダルモンの料理はいつ食っても最高に旨いな!」ガツガツ
「ですね……合格祝いにぴったりです」モグモグ
「お代わりもたくさんあるからね~!」
「「「「「はーい!」」」」」
「ユキダルモン、デスソースくれ」
「サドンでいい~?」
「あっ、忘れるところだった! ユキダルモン、いつものムクロジのケーキ買ってきたから後で食べてくれ!」
「わぁ、ありがとう! 後でみんなで美味しくいただくね~!」
ショウとユキダルモンのディープな会話や、心遣いのプレゼントに笑顔が広がり、賑やかで温かなお祝いの時間がどこまでも穏やかに流れていくのだった。
料理を食べ終わると、ユキダルモンが和やかな雰囲気の中で改めて自己紹介を始めた。
「僕はユキダルモン。ショウとは、ショウが初めてデジタルワールドに来たときからの仲なんだよ~」
「下手するともう5~6年ぐらいの付き合いになるかな」
「そうだねぇ~」
「えっ……? 初めてデジタルワールドに来た……?」
ユキダルモンの何気ない言葉に、ハルトがふと疑問を口にした。その言葉を聞いたユキダルモンとショウは一瞬キョトンとした顔を見せたが、ショウはハッと何かを思い出したように納得の表情を浮かべた。
「あぁ、そうか。ハルトたちには話してなかったな。俺やお嬢は、最初からデジタルワールドにいたわけじゃないんだ。俺たちがもともといた世界とデジタルワールドは、全く別の世界なんだよ」
「えっ!? そうなの!?」
「ショウさん、ハルトさんたちに説明してなかったんですか!?」
「オモダカさんやクラベル校長先生たちには説明してあったんだけど、そういえばハルトたちにはまだ話していなかったな……」
「もう、しっかりしてください!」
アリサからコ咎められているショウを横目に、ユキダルモンが優しく補足の説明をしてくれた。
「僕たちデジモンは、正式名称を『デジタルモンスター』というんだけど、ショウやアリサがいた世界……『人間界』の電子機器やネットワークを通じて繋がっている世界に住んでいるんだ」
その説明を聞き、ハルトやペパーたちは目を丸くして驚いた。
「だから、デジタルワールドにいる人間はみんな人間界から来ているんだよ。人間界にいる人たちは、デジモンの存在なんてほとんど知らないんじゃないかなぁ」
「そうだな。せいぜいネットの都市伝説とか、怪しい噂くらいでしか知られてないな」
「じゃあ……ショウはどうやってユキダルモンと出会ったんだ?」
ペパーが興味津々といった様子で尋ねると、ショウは懐かしそうに目を細めた。
「11になる夏休みにデジモンの噂を聞いてさ。友達と一緒に学校のパソコン室で調べていたら、たまたまデジタルワールドに繋がるゲートが開いて、そこに吸い込まれちゃったんだよ」
「あの時は本当に驚いたよ~! 急に光るゲートが現れて、そこから人間の子供たちが落っこちてきたんだから!」
「俺たちも、受け止めてくれたのが『喋る熊の形をした雪だるま』だったから、めちゃくちゃ叫んじゃったんだよな~」
そう言って顔を見合わせ、楽しそうに笑い合うショウとユキダルモン。
「それがユキダルモンとの出会いだったんだ。そのままテイマーユニオンがある場所に送ってもらって、正式にテイマーになったんだよ」
「へぇ~! じゃあ、アリサは?」
「私は身近な知り合いにテイマーの方がいらしたので、その流れで自然とテイマーになりました」
「で、テイマーになるための研修の時に、俺とアリサが知り合ったんだ」
「そうでしたね」
「へぇ~、そういう繋がりだったんだ!」
ハルトたちが感心したように頷いていると、ショウがふっと苦笑いを漏らした。
「ただ……俺はアリサや他の同期たちと違って、当時は本当に凡才だったんだ。ランクアップ試験にも落ちまくっていて、かなり悩んでてさ。そんな時にソウマさんとヒョウガさんに出会って……なぜか弟子にされちゃったんだよ」
「僕もヒデトからその話を聞いたときは、ひっくり返るくらい驚いたよ~」
「私や他の同期の人たちも、あの伝説的な有名人の弟子になったショウさんに驚いて……嫉妬して『自分たちも弟子にしてください!』って押し掛けたんですよね……」
「ただ……師匠たちの修業が信じられないくらい超スパルタでさ……マジで途中で断れば良かったって本気で後悔したよ……」
「本当に辛すぎて、押し掛けた同期の全員が初日で諦めて辞めたほどでしたからね……。あの時、テイマーユニオンの先輩たちが必死になって止めていた理由が身にしみて分かりました……」
遠い目をして、瞳から光を消しながら語るショウとアリサ。地獄のような特訓の日々を思い出しているふたりの虚ろな様子に、ボタンとペパーが顔を引きつらせた。
「……ふたりとも、大丈夫ちゃんなの?」
「今はそっとしておいてあげて……」
ユキダルモンは苦笑いしながら、地獄の思い出に囚われた2人の背中を優しく撫でて慰めるのだった。
「済まんな、見苦しい所を見せた」
そう言って頭を下げるショウに、ボタンが少し引き気味の苦笑いを浮かべた。
「もう完全にトラウマになってるやん……」
「まぁまぁ、2人のお陰でショウもアリサもあんなに強くなれたんだから、良かったと思わないとね~」
ユキダルモンが優しく取り成していると、ネモが場の空気を変えるように目を輝かせて尋ねてきた。
「そう言えばさ! ショウとアリサの『初めてのデジモン』って誰なの?」
「私は、ベルスターモンですね」
「俺は、ヘクセブラウモンだな」
「へぇ~! どうやって出会ったの?」
「ヘクセブラウモンは、テイマーになるときにユニオンから渡されたデジタマからの付き合いだな」
「私もショウさんと同じですね」
「へぇ、そうなんだ! じゃあ、いま一緒にいる他のデジモンたちとはどうやって出会ったの?」
ネモの尽きない好奇心に応えるように、空間が揺らぎ、ヘクセブラウモンとベルスターモンがリアライズして会話に加わった。
「ボクたちの中だと次に古株のグリフォモンとは、僕がまだ成長期のブルコモンだった頃に出会ったんだ」
「そうだったな。ユニオンの教官からやり方を教わって、バクモンから何とか必要なスキャンデータを集めきったんだよな」
「スキャンデータ……?」
「スキャンデータというのは、出会ったデジモンのデータをデジヴァイスで分析・蓄積したもののことです。規定の量まで集めれば、そのデジモンを自力で産み出すことができるんですよ」
ハルトの純粋な疑問に、アリサがわかりやすく補足説明をした。
「アンタ達が知っているウチラの仲間だと……例えばディルビットモンは、他のテイマーと交流した際に作られたデジタマから生まれた個体だね」
「それってどういうことなん?」
今度はボタンが興味深そうに身を乗り出してきた。
「パルデア地方以外の他地方だと、育て屋さんにタマゴグループが同じ異性のポケモンを預けると、いつの間にかタマゴを持っているだろ? こっちだと、他のテイマーのデジモンと自分のデジモンをマッチングさせたり交信させることで、新しい能力を継承したデジタマを作り出せるシステムがあるんだよ」
今度はショウが分かりやすくポケモンに例えて説明した。
「へぇ~! ポケモンとちょっと似ているところがあるんだね!」
「そうだな。データ生命体ならではの仕組みなんだ」
しばらくそんなデジモンの知識や思い出話に花を咲かせていると、ふと思い出したようにユキダルモンが手を叩いた。
「そう言えばショウ、アリサ。そろそろ今年も『対抗戦』の時期になるけど、どうするの~?」
「あ……もうすぐそんな時期か。師匠に相談して特訓してもらおうかな……。あぁ~……やりたくないなぁ……」
「そうですね……。ところでショウさん、本音がダダ漏れですよ」
「対抗戦ってなに!? どんなバトル!?」
案の定、心なしか目を爛々と輝かせたネモが喰いついてきた。
「対抗戦っていうのはね、年に1度、僕らが所属する『ライトファング』と――」
「アタイらが所属する『ナイトクロウ』が、それぞれ代表テイマーを何人か選出して真っ向勝負で競い合う、一大祭典のようなものさ」
ヘクセブラウモンとベルスターモンが誇らしげに説明すると、ネモは身を乗り出して叫んだ。
「面白そうっ! 私もそれ参加してみたい! 戦いたい!」
「ネモさん、所属テイマーじゃない外部の人間は絶対に参加無理ですからね?」
アリサから即座に冷ややかなツッコミを入れられ、ネモは分かりやすく「ズーン……」としょんぼり垂れ下がってしまった。そのあまりに素直なリアクションに、炬燵を囲んでいた全員からどっと温かい笑い声が湧き上がった。
その後も美味しい料理と楽しい談笑は尽きることなく続き、アリサのチャンピオン昇格をお祝いする和やかなパーティーは、雪山の洞窟の外が静かな夜の帳に包まれるまで、賑やかに続いていくのだった。