Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
「今回は私の負けです……。ですが、次は絶対に勝ちますからね!」
「おう、いつでも受けて立つよ!」
健闘を称え合ってオーダイルとマスカーニャをそれぞれのボールに戻し、二人が差し出された手でしっかりと握手を交わしたその瞬間――。
アリサがふっと柔らかく微笑むと、そのまま予想外の勢いでショウへと顔を近づけ、そっと自分の唇を彼のそれに重ね合わせた。
「……は……?」
ほんの数秒の出来事のあと、アリサがスッと顔を引いた直後、ショウの口からは情けないような気の抜けた奇声が漏れた。
「……優勝した、ご褒美です」
アリサは頬を真っ赤に染めながらそう呟き、照れくさそうに視線を逸らす。それを目撃した観客席の生徒たちからは、女子たちの興奮混じりの黄色い歓声と、男子たちの凄まじい嫉妬の怒号が入り交じった巨大な地響きのような大歓声が巻き起こった。
「あれ……? ショウさん?」
真っ赤になって固まり、微動だにしなくなったショウの顔を覗き込みながらアリサが首をかしげる。あまりの衝撃に完全にフリーズしてしまったショウは、その後もしばらく魂が抜けたような人形のようになっていた。
最終的に、痺れを切らした相棒のオーダイルが勝手にボールから這い出てくると、心配そうに頭を覗き込んだ主人の顔面めがけて容赦なく冷水の【ハイドロポンプ】をブチかまし、ようやくショウは盛大に水を吹き出しながら正気へと引き戻されたのだった。
びしょ濡れになりながらもどうにか正気を取り戻したショウが、クラベル校長からマイクを渡されて苦笑いを浮かべる。
「大丈夫ですか、ショウさん? 突然の事に心神喪失してしまったようですが……」
「は、はい……! お恥ずかしいところを見せました……!」
顔を真っ赤にして弁解するショウに観客席からクスクスと笑い声が漏れる中、クラベル校長は表情を引き締め、厳かに宣言した。
「さて! 本当であればこのまま盛大に閉会式へと移るところですが……皆様、開会式のときにお話ししたのを覚えていますでしょうか? 今大会で見事優勝を果たしたショウさんと、準優勝のアリサさんには、この後『特別なお客様方』との記念エキシビションマッチを行っていただきます!」
校長の合図と同時に、バトルフィールドの入場ゲートから2つの影がゆっくりと歩み出てきた。
一人は深くフードを被って表情を隠した男性、もう一人は同じくつばの広い帽子を目深に被り、顔を完全に隠した女性だった。
謎の男女は校長に向かって小さく頷くと、
「クラベルさん、始めてもいいんですね?」
「はい、よろしくお願いします」
その声を聞いた瞬間、ショウとアリサ、そして観客席で固唾を飲んで見守っていたハルトやボタンたち全員が、一斉に「えっ……!?」と驚愕の声を上げた。
なぜなら、そのフードと帽子がふわりと脱げたとき、そこに現れた男女の顔立ちは――驚くべきことに、目の前にいるショウとアリサに瓜二つだったからだ。
「――はじめましてかな? 俺はショウ、タツミ・ショウだ。よろしく頼むぜ、別世界の俺」
「私はアリサ・スコートと言います。どうぞよろしくお願いします」
あまりにも自分そっくりな顔で爽やかに挨拶を交わす「もう一人の自分たち」を目の当たりにし、ショウは思わず引きつった顔で呟いた。
「……なぁ、自分とまったく同じ顔の人間を目の当たりにするって、想像以上にめちゃくちゃ気持ち悪いなこれ」
「『気持ち悪い』とか言うなよ、同じ顔なんだから。 まぁ、名前も同じでこのままだとややこしいから……俺は『タツミ』で頼むわ」
まるで漫才のような掛け合いを自然と繰り出しながらタツミはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「オモダカさんやクラベルさんから『優勝者と準優勝者と戦ってやってほしい』って頼まれたんだけどよ……二人のこれまでの試合を観戦させてもらった。やっぱり2対1で相手をしてやった方が面白そうだな。なぁ、お嬢、お前もそれでいいよな?」
「「その『お嬢』呼びはやめてくださいっ!」」
アリサとスコートの息が完璧にぴったり合った同時ツッコミが炸裂し、周囲で見守っていた観客たちも「あ、中身もやっぱり同一人物なんだ……」と妙に納得して苦笑いを浮かべる。
「まぁいい。で、だ。そっちの二人、本気で俺たちとやり合うつもりなら……ダブルバトルのパートナーを見つけて、準備をしてこいよ」
「そうですね。傲慢に聞こえるかもしれませんが――そうでなければ、私たちと対等な勝負の土俵にすら立てないと思いますよ」
タツミとスコートが放つ、底知れない実力者特有の余裕と威圧感。それに強烈な反感と闘志を掻き立てられながら、ショウとアリサは鼻を鳴らした。
「言ってくれるぜ……! !」
「ええ、当然です! !」
二人はそれぞれの相棒をしっかりと引き連れ、来るべき別世界のエージェントたちとの最終決戦へ向け、急ぎ足で控え室へと引き返していくのだった
「さて、ここからは私が説明をしましょう」
「皆さんが驚かれるのも無理はありません。こちらのタツミさんとスコートさんは、別の世界からいらした方なのです」
クラベル校長が混乱する全校生徒に向けて落ち着いた声で説明を開始した。
校長が語るには、タツミとスコートが住む異世界にて突如として「ウルトラホール」が発生し、そこに棲息していた生命体――「デジモン」たちが飲み込まれ、このパルデア地方各地へと流出してしまったのだという。そして二人は、その散らばったデジモンたちを元いた世界へと安全に保護・回収する極秘任務のために、この世界へ派遣されてきたのだと明かされた。
衝撃の事実に観客席の生徒たちがどよめきに包まれている間に、ショウとアリサは速やかに手持ちの回復と選別へと向かった。……しかし、その道中でショウはハルトに、アリサはネモへとそれぞれ声をかけていた。
「――そんなわけでさ、ハルト。俺と組んであいつらと戦ってくれないか?」
「ネモさん、私と一緒にタッグを組んでいただけますか?」
「「うん!/いいよっ!」」
二人は二つ返事で快諾し、心強いパートナーとしてショウとアリサの後ろについてきた。
「ねぇショウ、あの人たちは一体どんなデジモンを出してくるのかな……?」
「そこはもう一人の俺が解説してくれるから大丈夫だろ。一応、校長先生に協力してもらって、試合中はネモたちへテレパシーでリアルタイムのアドバイスを入れるつもりだ」
「わかった!」
準備を万全に整え、4人は再び大観声が響くバトルフィールドへと戻ってきた。
「最初は私がいきますね」
スコートが優雅な足取りでフィールドの片側に立つと、対峙するようにアリサとネモの二人が力強くフィールド中央へと進み出た。
「それでは始めましょう。お願いします、サーナイト!」
「サーナッ!」
「行って! ルガルガン!」
「ウォンッ!」
「リアライズ! キュウビモン!」
アリサは誇り高きサーナイトを、ネモは真昼の姿のルガルガンを解き放つ。対するスコートの手に握られた端末から光が溢れ出し、アローラキュウコンに似た九本の尾を持つ妖艶な狐型デジモン――キュウビモンが実体化(リアライズ)した!
「マスター、かの者を打ち倒せば良いのだな?」
キュウビモンがスコートに向かって、流暢な人間の言葉で粛々と語りかける。その光景を目の当たりにした観客席の生徒たちから、「ポケモンの技じゃない……!」「喋った!?」と凄まじい悲鳴と驚愕の声が上がった。
「ええ。ただし……殺さない程度に手加減してくださいね」
冷徹に言い放つスコートの横で、マイクを手にしたタツミが解説を挟む。
「一応、俺から解説しておこう。あいつはキュウビモン。デジモンの進化段階でいう『成熟期』に属する個体だ。必殺技は【鬼火玉】と【狐火龍】という強力な火炎系技だな」
『(ネモさん、聞こえますか! キュウビモンは火炎技以外にも強力な聖属性の技を使えるから注意してください!)』
『(わかったよハルト! ありがとね!)』
ハルトが事前に仕込んだテレパシーの伝達を受け、ネモが短く頷いた瞬間、エキシビションタッグマッチの火蓋が切られた!
「キュウビモン! 【鬼火玉】!」
「はぁっ!」
「サーナイト! 【瞑想】です!」
「サナァッ!」
「ルガルガン! 【ストーンエッジ】で防げ!」
「ウォンッ!」
サーナイトが精神を高めて特防を上げる間、ルガルガンが防御の盾として地面から巨大な岩の柱を展開する。しかし、キュウビモンの鬼火は硬質な【ストーンエッジ】の岩塊すら紙くずのように易々と粉砕! そのまま二体に炸裂し、一撃で莫大なダメージを刻み込んだ。
「そのまま【狐火龍】!」
「承知!」
キュウビモンが九本の尻尾を揺らめかせると、燃え盛る蒼炎の巨龍が召喚された! 青い炎の龍はうねりを上げて襲いかかり、サーナイトとルガルガンの二体を瞬く間に呑み込んで一瞬で戦闘不能へと追いやってしまった。
『サーナイト、ルガルガン、戦闘不能!』
「ふむ……【鬼火玉】だけで全滅させるつもりでしたが、少し手加減をしすぎたようですね。キュウビモン、少し本気になりましょう。――デジソウルチャージ!」
スコートが掲げた端末から絶大な光の奔流が吹き荒れる!
「キュウビモン進化―――タオモン!!」
光が弾けた中心には、陰陽師の装束を纏った神秘的なヒト型デジモン――タオモンが静かに佇んでいた。完全体へと昇華したその威圧感は、フィールド全体の空気を重く押し潰す。
「さぁ、次の手持ちを出してください」
スコートは表情ひとつ変えず、冷徹にアリサとネモへと宣告したのだった。