Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
ヒデトとサクヤがデジタルワールドへと帰っていってから、数日が経ったとある日の放課後。
ハルトは校内を歩き回りながら、ショウの姿を探していた。
「あっ、アリサ~!」
「ハルトさん? どうされました?」
「ショウを知らない?」
「放課後からはお見かけしていませんが……」
「そっかぁ。実はジニア先生がショウのことを呼んでいて探しているんだ」
「そうなのですか。……ふふ、もしかしたら彼なら、『あの場所』にいるかもしれませんね」
「本当!? どこか知ってるの? 教えて!」
「ええ、では一緒に行きましょうか」
「うん!」
ハルトはアリサの案内に連れられ、学園の敷地内から少し離れた特殊なファーム島の一角へと向かった。
ファーム島の一角に着くと、遠くから轟音と怒号が響き渡っていた。
「指示が遅い! 司令塔であるお前は常に全体を把握しておけ!!」
「ウスッ!!」
「ウォォォッ! 【アブソリュートブラスト】!!」
荒々しい息を吐くショウがヘクセブラウモンへと目配せすると、ヘクセブラウモンは即座に極寒の必殺技を解き放った。
「――【ガルルソード】」
しかし、対峙する白銀と赤と金の巨体が左腕の巨大な剣を一閃。放たれた【アブソリュートブラスト】を文字通り一刀のもとに消滅させてしまう。
「――【グレイキャノン】」
「ちょっ……待っ――!?!?」
右腕の超大型砲身から繰り出された極大の砲撃が、避けようとしたショウごとヘクセブラウモンを丸呑みにし、凄まじい爆煙とともに戦闘が終了した。
「ね、ねぇ、アリサ……あのデジモンって、前に戦ったオメガモンにすごく似ているけど……」
あまりの光景に呆然としながら観戦していたハルトが尋ねると、アリサは静かに解説した。
「そうですね。あのデジモンはオメガモンAlter-S。オメガモンの亜種というか、別フォルムのような存在です」
二人が話していると、直撃を受けて黒焦げになったショウの向こうから、威厳ある声が響いた。
「ん? アリサと……ハルト君か。どうした」
「お邪魔してすみません、ソウマさん。実は、そこの黒焦げになっている人に用事がありまして」
「そうか。まあ、この焦げ肉ももう少ししたら意識を取り戻すだろうから、少し待っていてくれ」
ソウマと呼ばれた人物がそう告げると、オメガモンAlter-Sの巨体がまばゆい光を放ち、やがて一人の人間の青年の姿――ソウマへと戻った。
「がはっ……!?!? はっ!?」
それと同時に、倒れていたショウがガバッと飛び起きた。
「あれ……? 2人とも、どうしてここにいるんだ?」
「ショウ! ジニア先生が今日は面談の日だって探していたよ!」
「あれ? 面談ならまだ時間に余裕があったはず……」
ショウが慌ててスマホを取り出して確認すると、ジニア先生から「ごめんね~、都合で面談の時間を少し早めるね~」というメールが届いていた。
「ヤべッ!! 特訓中だったから全然気づかなかった! あと30分しかないじゃん!?」
「ハァ……そういう急用は俺にも事前に伝えておけよ……。ほら、さっさと着替えて行ってこい」
「すみませんソウマさん! 失礼しますッ!!」
ソウマに呆れ顔で小突かれ、ショウは慌ただしく服の汚れを払いながら校舎に向かって猛ダッシュで走っていった。
「まったく、相変わらずそそっかしい奴だな……。アリサ、あの馬鹿のこと、ちゃんと見ていてやってくれよな」
「はい、分かりました」
ショウが走り去った後、ハルトはおそるおそるファーム島の奥へと視線を向け、聞きにくそうに指を指した。
「あの……ところで、彼らは大丈夫なんですか……?」
ハルトが指さした先には、ショウの手持ちポケモンやパートナーデジモンたちが、ソウマとの過酷すぎる特訓によって見事に死屍累々となって倒れていた。
「まぁ、死んではいないから少し休ませればすぐに復活するさ」
「あ、あの……ソウマさんも、ショウと同じようにデジモンに変身できるんですね……?」
「ん? ああ……まあ、少し違うかな。俺は昔、命を落としかけるほどの重傷を負ってな。その治療のためにパートナーのデジコアを移植されたんだ。その影響か、俺自身もこうしてデジモンの姿になれるようになったのさ」
ソウマが淡々と明かした凄絶な過去の事実に、ハルトは目を丸くして驚愕の表情を浮かべた。
「……まあ、あれが俺の人生の大きな転換期だったのかもしれないな」
どこか懐かしむような柔らかい表情を浮かべ、ソウマは静かに空を見上げるのだった。
ショウが急いでジニア先生との面談を終え、再びファーム島へと戻ってくると、そこには興味深そうにソウマの話に耳を傾けているハルトとアリサの姿があった。
「すみません、戻りました!」
「おう、お帰り」
背後から聞き覚えのある低い声で返事があり、ショウは肩を跳ねさせた。
「うおっ!? ヒョウガさん! 居たんですか!?」
「今さっき来た所だ」
「一応、俺もいるぞ」
「……ってことがあったのさ。おっ、どうやらショウも戻ってきたみたいだな」
「お帰りなさい、ショウ」
「お帰り~! ……あっ、ヒョウガさんと、そちらの人は誰?」
ハルトとアリサが出迎えると、ヒョウガの隣には見覚えのない同世代の青年が立っていた。
「初めまして。俺はTeam:【ナイトクロウ】所属のエイジだ」
「初めまして! ハルトと言います」
お互いに気持ちのいい自己紹介を交わすと、ショウが口挟んだ。
「俺のデジタルワールドでの友達の1人でな、ライバルみたいな存在なんだよ」
「そうだな。ついでに言うと、俺はヒョウガさんの弟子でもある」
エイジが付け加えると、それを聞いたハルトの表情が一瞬だけ寂しそうに曇った。だが、ショウはその微小な変化に気づくことなく、久しぶりに会ったエイジとの会話に花を咲かせていた。
「代表戦に向けて順調か?」
「……毎日、ヒョウガさんにボロ雑巾にされているよ……」
「……そうか……」
特訓の苛烈さを察した二人の間に、一瞬どんよりとした空気が流れた。
「ところでショウ、どこに行っていたんだ?」
「ああ、アカデミーでジニア先生と進路面談があったんだよ」
重い空気を換えるようにエイジが尋ねると、ショウは頭をかきながら答えた。
「面談かぁ……。そう言えば、俺たちもそろそろ卒業後の進路について真剣に考えないとなぁ」
「そうだなぁ。俺は卒業したらユニオンの関連会社に就職すればいいからそこまで深刻になってないけど、やっぱり大学に進学した方がいいのかなぁ?」
「俺はアカデミーの上の大学に行くつもりだが、アリサはどうするんだ?」
「私ですか? 私もそのまま大学に通おうと考えています。サクヤさんも同じ考えだそうですよ」
「ヒデトは前に『卒業したらすぐ関連会社に就職する』って言ってたな」
そうやってショウ、アリサ、エイジの3人が将来の話をしていると、ショウがふと視線を向けた。
「そう言えば、ハルトはどうするんだ?」
「えっ、僕!?」
突然話を振られたハルトは驚きながらも、少し困ったように頬をかいた。
「うーん……僕はまだ具体的には考えていないかなぁ。でも、オモダカさんからは『卒業したらポケモンリーグに所属しないか』ってよくスカウトされているかも」
「そうかぁ。もしハルトがリーグに入ったら、ネモが毎日本部に連絡なしで入り浸りそうだな」
想像に容易いその光景に、その場にいた全員が思わず苦笑いを浮かべた。
「まあ、お前らはまだ若いんだ。自分のやりたいようにじっくり道を歩んでいけばいいさ」
「そうだな。もし道に迷ったら、信頼できる奴に相談しな。人に話すだけでも心がスッキリすることがあるからな」
ソウマとヒョウガが年長者らしく含蓄のある言葉で締めくくると、ショウ、アリサ、エイジの3人は爽やかに声を揃えた。
「「「はい! 分かりました!」」」
その頼もしい大人たちの背中を見つめながら、ハルトはぽつりと感嘆の声を漏らした。
「なんか……ソウマさんもヒョウガさんも、大人で凄く格好いいなあ……」
すると、ショウが当然のようにケロッと言い放った。
「そりゃそうだろ。あの2人、もう60歳近いんだから」
「えっ……!?」
耳を疑うハルトを余所に、ソウマとヒョウガはしみじみと語り合い始めた。
「ハハッ、もう少しで還暦かぁ。月日が流れるのは早いなぁ」
「まさか俺たちの歳で、もうすぐ孫が出来るとは思わなかったな」
「2人目がそろそろだったっけか?」
熟練の会話を交わす目の前の「若々しすぎる」大人2人とショウたちを見比べ、ハルトはファーム島全体に響き渡るほどの衝撃の大声を張り上げたのだった。
「えぇぇぇぇぇっ―――!?!?!?」
ハルトがようやく衝撃から立ち直るのを待ってから、ソウマが優しく語りかけた。
「さっきの話は本当でな。俺とヒョウガはテイマーユニオンが出来てそんなに経っていないごく初期の時期に入ったのさ。なぜ見た目が老化しないかと言うと、俺の場合は昔デジコアを体内に埋め込んでから、何故か身体の老化が止まってしまってな。後で調べてみたら、手術の影響で身体がデジモンに近い存在へと適応してしまったからなんだ」
「そして俺の場合は、パートナーであるズィードミレニアモンが俺の老化を止めてくれているのさ。まあ、こちらの世界で知り合いと会う時は、年相応の姿に見えるよう調整してもらっているけどな」
ソウマとヒョウガの超然とした解説を聞きながら、ショウとアリサは別の部分に引っかかりを覚えて目を丸くした。
「……見た目のことより、俺はヒョウガさんにお孫さんがいること自体にめちゃくちゃ驚いてます」
「「同じくです」」
「そう言えば、この件を知っているのはソウマ以外だとグレさんや各Teamのリーダー達くらいだろうな」
「そうななるな。だが……」
ソウマは「言ってもいいか?」と確認するようにヒョウガへ視線を向けると、ヒョウガは静かに頷いて了承を示した。ソウマはニヤリと笑いながら言葉を続ける。
「それに、お前ら全員、その『ヒョウガの娘』に一度は会っているぞ」
「「「えっ……!?」」」
ショウ、アリサ、エイジの3人がキョトンと首を傾げる。
「お前らの3期先輩にあたる【マヤ】が、俺の娘だ」
「「「えぇぇぇぇぇっ―――――!?!?」」」
ファーム島に本日二度目の絶叫がこだました。
「マヤ先輩が……ヒョウガさんの娘さん!?」
「マ、マジっすか!?」
「確かに、以前赤ちゃんを見せにユニオンへ来られていましたけれど……!」
パニックになるショウたちに、ヒョウガはポケットからスマホを取り出すと「ほれ、証拠だ」と言って、幸せそうに赤ん坊を抱くマヤとヒョウガが写った家族写真を見せた。
驚きと納得が入り混じる中、談笑を続けていたその時――突然、全員の腰にあるデジヴァイスが一斉に甲高いアラートを鳴らし始めた。
「ボクのことは気にせず、出て大丈夫ですよ!」
ハルトの気遣いを受け、全員がデジヴァイスを起動して通信に応答する。すると、受話口の向こうから異口同音で緊迫した同じ報告が飛び込んできた。
「……本当なんですか!?」
『はい……ブロンズテイマーへのランクアップ試験の最中に謎の刺客による襲撃を受け、試験を担当していたテイマーが重傷を負いました!』
「了解した。俺とソウマはこれから直ちにリーダールームへ向かう」
『お願いします!』
通信が切れると、現場の空気は一瞬で氷点下へと叩き落とされた。
「俺とソウマはリーダールームへ向かう。お前らはホスピタルルームへ向かえ」
ヒョウガが一切の冗談を排した厳しい表情で告げる。
「分かりました! エイジとアリサは先に行ってくれ。俺はハルトを送っていってから合流する」
「分かりました!」「了解だ」
「ショウ、僕の送りなんて気にしなくていいよ!」
「ハルト、俺らの誰かと一緒にいないとハルトはここから外に出られないんだから気にすんな! そんじゃ行こうぜ。ソウマさん、ヒョウガさん、失礼します!」
ソウマたちと別れ、ショウはハルトをアカデミーまで送り届けるために走り出した。その道中、ショウは険しい表情のままハルトへ呟いた。
「……実はな、負傷した試験官のテイマーってのがヒデトなんだよ」
「えっ……!? ヒデトさんが!?」
「こちらと向こうじゃ時間の流れが違うから、俺たちと別れてからこっちじゃそんなに時間は経っていないはずなんだ」
「もしかして……さっきのエキシビションマッチで消耗していたから……?」
「いや、ヒデトのパートナーデジモンは大会では出してないし、オメガモンは別所属のデジモンだから大会の疲れは関係ない。問題は……一体『何』と遭遇して襲われたのかだ」
「そうなんだ……」
緊迫した会話を交わしているうちにアカデミーの敷地へと到着し、二人は別れの言葉を交わした。
「何かあったらすぐに連絡をくれ」
「分かった! ショウも気をつけて!」
ガッチリと拳を交わすと、ショウはすぐさま翻転し、デジタルワールドのホスピタルルームを目指して駆け出していった。