Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
ハルトと別れたショウは、すぐさまテイマーユニオンのホスピタルルームへと駆け込んだ。病室のドアを開けると、すでに意識を取り戻したヒデトの姿があった。
「ヒデト! 大丈夫か!?」
「「ショウ(さん)! 静かに!!」」
「あ、わりぃ……。それより、怪我の具合は大丈夫なのか?」
思わず大声を上げてしまいアリサとエイジに咎められたショウは、声を落としてヒデトの容態を尋ねた。
「幸い、ヒデト自身に酷い怪我はなかったみたいだけど……」
エイジがそこまで言いかけて、苦々しい表情で言葉を濁す。
「……パートナーのキャノンドラモンが、俺や試験を受けていた受験生を庇ってくれてな。その影響で……デジコアを酷く損傷しちまったんだ」
「まさか……デジタマに戻ったのか……?」
ショウが息を呑んで呟くと、ヒデトは静かに頷いた。
「ああ。でも……幸い、記憶データは完全に保持できていると判明したから、そこは本当に良かったよ」
「そうか……。命が無事で本当によかった……」
ショウたちが胸を撫で下ろしていると、バタバタと廊下を走ってくる足音が響き、サクヤが病室へと駆け込んできた。
「ヒデト君! 無事でよかった……!」
安堵の声を漏らしたサクヤだったが、すぐに表情をキリッと引き締めた。
「実は、コウリーダーから頼まれて事件の事情聴取に来たの。ヒデト君、あなたたちを襲撃した犯人の特徴や手掛かりは覚えている?」
「確か……ギズモンを大量に使ってきていた。それと犯人本人はペストマスク……鳥みたいな形をしたマスクをつけてたな。だから素顔は見えなかったが、体格的には間違いなく男性だった」
ヒデトが記憶を辿りながら答えると、ショウが思わず感情を爆発させた。
「ギズモンだと!? あの人工デジモンなんて危険な代物を作るのは、あのクラハシの野郎くらいだろ!」
「ええ、間違いなくあの男の関与が疑われますね」
「同感だ。あいつ以外に考えられない」
ショウの怒りの声に、アリサもエイジも一気に表情を鋭くさせる。その時――ショウの腰にあるデジヴァイスから、普段聞き慣れない緊急の暗号受信音がピピピと鳴り響いた。画面を確認したショウは、途端に眉間に深い皺を寄せた。
「……今、ブラックセラフィモンから直通の暗号通信が届いた。……どうやらクラハシの野郎、パルデアに現れてハルトに接触したみたいだ!」
「「「何だって!?!?」」」
「俺は今すぐハルトの所へ引き返す! アリサ、お前も一緒に来てくれ! エイジとサクヤは、この状況をすぐにリーダーたちへ報告してくれ!」
「「「了解!!」」」
「すまねぇ……俺はまだ動けそうにない……」
「気にするな! まずはお前は身体を休めておけ! 仇は絶対に俺たちが取る!」
ショウが力強くそうと言い放つと、4人は一斉に病室を飛び出し、それぞれの任務へと行動を開始した。
「頼んだぞ……みんな……」
ベッドに残されたヒデトは静かに呟くと、再び深く横になるのだった。
【ハルトサイド】
ショウと別れたハルトは、サンドウィッチ作りに必要なスパイスの在庫が足りなくなったため、アカデミー近くの結晶を巡ってテラレイドバトルを行っていた。
「よしっ、今日はこれくらい集まれば十分かな」
無事にスパイスを手に入れ、そろそろ自室へ戻ろうとそらをとぶタクシーを呼び出そうとした、その時だった。
「……やあ、こんにちは」
背後からスッと落ちてきた不気味な声に、ハルトは反射的に振り向いた。そこには、どこか異様な雰囲気を纏った見知らぬ大人の男性が立っていた。
「あなたが、パルデア地方のチャンピオンの1人……ハルトさんですね?」
「……そうですけど、どちら様ですか……?」
警戒感を露わにし、後ずさりするハルトに対し、男は不気味な笑みを浮かべた。
「おっと、失礼。私はクラハシという者です。――突然ですがハルトさん。あなたは……『さらに強力な力』が欲しくはないですか?」
怪しげな光を宿した瞳で、クラハシはハルトへ静かに語り掛け始めるのだった。
「ハルトさん、どんな存在にも勝てる絶対的な力……欲しくはありませんか?」
不気味でどこか聞き覚えのある男・クラハシからそう問われ、ハルトは思わず困惑して足を止めた。
「えっと……僕に……力?」
「ええ。私の実験に協力してさえいただければ、あなたの友人である『ショウ』という学生にも、二度と負けることのない圧倒的な力を手にすることができますよ」
クラハシの甘い言葉を聞いていると、どういうわけかハルトは「もっと話を聞きたい」と不思議な興味に囚われ始めていた。『クラハシ』という名前に何処かで聞き覚えがある気がして思い出そうとするものの、頭の中に薄暗い靄(モヤ)が広がったように考えがまったく纏まらない。
「さあ……そういうことで、私に協力していただけますね?」
クラハシが怪しい微笑を浮かべながらぬっと手を差し出し、ハルトが吸い寄せられるようにその手を掴もうとした――その刹那!
「――【ナイトメア】!!」
ドドンッ!!
足元で激しい闇の爆発が巻き起こり、ハルトはハッと我に返ると、瞬時に後ろへ跳んで大きく距離を取った。
「フン、どうやら洗脳が解けたようだな」
爆炎の向こうから姿を現したのは、漆黒の甲冑と黒翼を纏うデジモン――ブラックセラフィモンだった!
「ふむ……どうやらボディーガードがついていたようですね」
「僕……何で急にあの人の手を握ろうと……!?」
未だ混乱し戸惑っているハルトに対し、ブラックセラフィモンは静かに告げた。
「あの男の洗脳魔術である【デーモンシャウト】を受けさせられたのだ。正気を奪われ、特定の思考へ誘導されていたのだよ」
「そんな……僕、操られそうになってたなんて……!」
ブラックセラフィモンの説明に、ハルトは背筋を凍らせて愕然とする。
「チッ……こうなると邪魔者が増えそうですので、少し急ぐとしましょうか」
クラハシが深いため息とともに腕をかざすと、空間に巨大なデジタルゲートが出現。その奥から、尋常ではない神威を纏った3体のデジモンが現実世界へと降り立った。
1体はアリサやネモが激闘を繰り広げた聖なる女性型究極体・オファニモン。
もう1体は、ピンク色の愛らしい体色と巨躯を持つ聖獣型デジモン・ケルビモン善。
そして最後の1体は、ブラックセラフィモンと対をなす白銀と青の聖鎧を纏った絶対の存在――セラフィモンであった。
「オファニモン、ケルビモン善、そしてセラフィモン……三大天使の揃い踏みか……!」
ブラックセラフィモンは降臨した3体を見抜き、忌々しそうに低く吐き捨てた。
「ここは……もしや別世界……?」
「……そこにいるのは、堕天せし我が同族か……!」
セラフィモンが目の前に立つブラックセラフィモンの存在を察知し、即座に戦闘態勢に入ろうとする。だが、すかさずケルビモン善がそれを制止した。
「ストップ! セラフィモン! ここは以前報告を受けた『あの世界』かもしれないから、一旦落ち着いて!」
ハルトを守るように立ちはだかったブラックセラフィモンは、3体へ向けて鋭い圧力を放つ。
「聖なる者共よ! 忌々しいが、こちらにはお前たちと無益な戦いをする気はない! 速やかにこの地から去れ!」
不機嫌そうに退去を促すブラックセラフィモンに対し、ケルビモン善は困ったように顔をしかめた。
「……悪しき者に命令されるのは癪だけど、君の言い分には一理あるから僕たちだって去りたいんだ。……だけど、あのゲートを作ったそこの男の命令を絶対強制で聞かされる強制プログラムがインストールされていてね。僕たちの意思とは関係なく、体が勝手に動いてしまうみたいなんだよ」
申し訳なさそうにケルビモンが告げた直後、3体の三大天使たちの瞳が赤いプログラム光に染まり、一斉に殺気あふれる戦闘態勢へと移行した。
「チッ……忌々しい男め……!」
ブラックセラフィモンは盛大に舌打ちをすると、背後のハルトへ向けて視線を投げかけた。
「ハルトと言ったな。……すまないが、ショウがここへ戻るまでの間、お前が我に指示を出してくれないか?」
「えっ……!? 僕がブラックセラフィモンに……指示を!? いいの……!?」
あまりの申し出に思わず聞き返すハルト。それに対し、ブラックセラフィモンは力強く頷いた。
「我の主であるショウが『友』と認めた男だ。何の問題もない!」
その言葉を聞き、ハルトも腹を括って強く頷いた。
「……分かった! 一緒にショウくんたちが来るまで持ちこたえよう! よろしくね!」
「承知――!!」
ショウの相棒である闇の天使と、パルデアのチャンピオン・ハルト――異色の即席タッグによる、三大天使との防衛戦が幕を開けた!