Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
洗脳されたハルトの身体を連れ、人里離れた冷たい隠れ家へと戻ってきたクラハシは、手元に光を失ったデジヴァイスを転がしながら冷ややかに呟いた。
「むっ……? ギズモンたちの生体反応がすべて消滅しましたか。あのブラックセラフィモンの自爆に巻き込まれて、相討ちになったようですねぇ。まあ、使い捨ての兵隊としては十分な働きをしてくれましたが」
クラハシは不気味な笑みを浮かべながら、手元のモニターへと視線を落とした。そこには、何やら恐ろしい実験計画を示す不穏な映像データが映し出されていた。
「ふふっ……。せっかく上質な素材が手に入ったのです。計画の仕上げに、もう少し香ばしい『スパイス』を加えてあげましょうかねぇ……」
その頃――。
連絡を受けたショウとアリサが急行した現場には、凄まじい爆発の痕跡を示す巨大なクレーターだけがポツンと残されていた。
「確かに、ここで激しい戦闘があったのは間違いなさそうですが……ブラックセラフィモンは一体どこに?」
「分からない……ただ……あいつの生体反応が、どこにも感じられないんだ……!」
「周辺をくまなく探してみましょう! ひょっとしたら、限界を迎えてデジタマへと退化しているだけかもしれません」
血相を変えて周囲を探そうとした二人の背後から、痛切な声がかけられた。
「お二人方……」
振り返ると、そこに立っていたのは、腕の中に大切そうに漆黒のデジタマを抱えたハイビジョンモニタモンだった。
「ハイビジョンモニタモン……! いったい何があったのですか?」
「はい……実を申しますと、三大天使用に特別調整されたオファニモン、ケルビモン、セラフィモンの3体が突如として現れ、あのクラハシに強制使役されていたのです。対してBセラフィモン殿はハルト殿と即席のタッグを組んで勇敢に立ち向かわれましたが、いかんせん戦力差は覆せず……3体の合体必殺技をまともに受けて、消滅寸前のダメージを受け更にギズモンの大軍を差し向けられ為に【テスタメント】を使用されました」
状況を詳細に説明しながら、HDモニタモンは悔しそうにギュッと拳を握りしめて俯いた。
「そうですか……では、これが……」
「申し訳ありません……! 拙者などが下手に割って入っては足手まといになると思い……ハルト殿をみすみす敵の手に……!」
護衛対象を救えなかった無力さに歯噛みするハイビジョンモニタモンに対し、ショウは静かに首を振った。
「いや、お前は悪くない。……すべて俺の判断ミスだ」
ショウはハイビジョンモニタモンから受け取った真っ黒なデジタマを両手でそっと包み込み、その表面を震える指で優しく撫でた。ハイビジョンモニタモンとアリサは報告の為に先にテーブルシティに戻るなかショウは
「ごめん……な……。無理をさせて……ホントに、ごめんな……!」
あふれ出る涙を堪えきれず、ショウはその場で声を震わせて謝罪した。
ひとしきり泣き濡れて拳を強く握りしめると、ショウは顔を上げ、自らのデジヴァイスを掲げて他の仲間たちを次々とリアライズさせた。
「みんな……力を貸してくれ。仇を取るぞ!!」
「「うんっ!」」
「「応ッ!!」」
「承知いたしました!」
「了解だ、任せてくれ!」
「分かったわ、絶対に許さない!」
仲間たちの力強い返声が、クレーターの底に響き渡る。
「それで、まずはどうする?」
「取り敢えず、一度アリサと合流して情報共有するか」
ショウの判断のもと、一グリフォモンの背中に飛び乗ると、一気にパルデアの中心地であるテーブルシティへと空を駆けた。
シティに近づくにつれ、ショウはふと違和感を覚えた。
「……なんだか、街の雰囲気が変な感じがするな」
「そうだね、なんだか街の人たちの様子がおかしいよ。急いだ方がいいかも知れない」
嫌な気配を察知したショウたちはスピードを上げ、アカデミーの敷地内へと急行した。一見するといつもと変わらない平穏な風景が広がっているように見えたが――。
「ショウ! 気をつけてくれ。どうやら街の人間や生徒たち……全員が【デーモンシャウト】の精神影響下に置かれているみたいだ!」
ドュフトモンが鋭く状況を分析し、無線を通じて警告を発する。
「なら、敵に気づかれないように校長室へ直行しよう」
ヘクセブラウモンの強力な認識阻害魔法によって周囲の目を完璧に眩ませながら、ショウたちはこっそりと校長室へと侵入した。部屋の中には、クラベル校長、ハッサク先生、そしてペパーとボタンの姿があった。クラベル校長がハッと息を呑み、ショウの存在に気づいて駆け寄ってきた。
「ショウさん……! よかった、無事でしたか! 実は、大変なことが起きてしまいまして……!」
切迫した表情のクラベル校長が、震える声で事態の真相を語り始めようとするのだっだ。
アリサがショウと別れて一足先にアカデミーへ戻り、クラベル校長とハッサク先生に急ぎ要件を伝えるため校長室へと向かっていると、途中で声をかけられた。
「おっ? アリサ? どうしたんだ?」
「何かあったの?」
声をかけてきたのはペパーとネモだった。
「ペパーさんにネモさん……! 実は――」
アリサは詳細をぼかしつつ状況を説明すると、二人へ頼み込んだ。
「……という事情ですので、大変申し訳ありませんが、ボタンさんとオモダカさん、そしてハッサク先生を呼んできていただけないでしょうか?」
「分かった! トップとボタンには私が声をかけてくるね!」
「ハッサク先生は俺が連れてくる!」
「ありがとうございます、お願いします!」
二人と別れて校長室へ急ぐと、そこではクラベル校長が執務にあたっていた。
「おや? アリサさん、どうされました?」
「校長先生! 大変なことが起きました……!」
アリサが先ほど現場で起きた惨劇を簡潔に説明すると、クラベル校長は顔色を変えた。
「なんと……! ショウさんは大丈夫なのですか!?」
「大きなショックを受けておられますが、大丈夫だと思います」
そう話しているところへ、ペパーとネモがハッサク先生とボタンを連れて校長室へと入ってきた。
「オモダカさんは?」
「トップはこのあと大事な会談があるから来られないって」
「それで、何があったんだ? 大変なことが起きたとしか聞いていないのだが……」
ボタンの問いにハッサク先生が重ねて尋ねると、アリサはハイビジョンモニタモンから送られてきた映像を提示しながら、改めて詳細を説明した。
「アリサ! ハルトは……ハルトは無事なの!?」
話を聞いたボタンは顔を真っ青にし、アリサの両肩を激しく揺らしながらハルトの安否を問い正した。
「ボタンさん、落ち着いてください……!」
クラベル校長が宥める中、アリサは言葉を続けた。
「落ち着いてください。今、ハイビジョンモニタモンたちが全力で調査を進めて――」
「アリサ殿――ッ!!」
説明の途中、モニタモンが慌ただしい様子で室内へ飛び込んできた。
「大変ですぞ! この街一帯が【デーモンシャウト】の精神影響下に落とされました!」
「なっ……!? 本当なのですか!?」
「間違いありませんぞ! この室内以外の生き物すべてが、洗脳状態に陥っております!」
断言され、アリサもデジヴァイスの反応を確認してそれが事実であると察した。
「なら、すぐに原因を探らなくては――」
アリサが校長室を飛び出そうとした、その時だった。
「――その必要はありませんよ」
この場にいる誰の記憶にもない、冷ややかな声が室内に響いた。全員が反射的に声のした方へ視線を向けると、先ほどまでいたモニタモンの姿は消えており、代わりに一人の男が立っていた。
「Dr.クラハシ……!!」
アリサが警戒感を剥き出しにしてその名を吐き捨てると、男はくつくつと不気味に笑った。
「いやはや、注意力が散漫でしたね。ナイトクロウのテイマー、アリサ」
アリサ以外の面々が事態を察し、クラハシを警戒してモンスターボールへ手を伸ばそうと動く。
「おおっと、余計な真似はしない方が身のためですよ」
クラハシがそう囁くと同時に、彼の足元から伸びた不気味な影が瞬く間に室内全体へ広がり、全員の身体を拘束して動きを封じ込めてしまった。
「さてと……取引といこうじゃないですか」
蛇のような笑みを浮かべ、クラハシは冷酷に語り始めるのだった。
「……取引とは?」
アリサが鋭い眼差しで射抜くように問うと、クラハシは口元を歪めた。
「何、君にもハルト君と同じように、私の実験に協力してもらいたいだけの話ですよ」
「よくもまあ、洗脳しておいていけしゃあしゃあと言えますね」
蔑みを込めたアリサの皮肉にも、クラハシは一切動じる様子を見せない。
「取引に応じてくださるならば、私はこの場にいる彼らに一切の危害を加えず、直ちにここを立ち去ると約束しましょう」
その言葉を聞いたアリサは、一瞬だけ思案するような素振りを見せたものの、毅然とした態度で即答した。
「……分かりました。その取引、受け入れましょう」
「「「「「アリサ(さん)!?!?」」」」」
室内に驚愕の叫びが跳ね上がる。自分を心配する面々を横目で見やりながら、アリサは冷ややかに促した。
「取引は成立しました。早く彼らを解放してください」
「フフッ、流石に今すぐ解除しては、去り際に手酷い反撃を受けかねませんからね。私がこの場から離脱すると同時に影の拘束が解けるよう仕掛けておきますよ。ちなみに街を覆う【デーモンシャウト】も、時間が経てば自然と霧散します」
「なら、一刻も早く行きましょう。……皆さん、すみません。ショウさんへの説明をお願いします」
校長たちへ静かに伝言を託すと、アリサとクラハシの姿は影の中に溶け込むようにして消え去った。直後、金縛りのような重苦しい拘束が解け、全員が自由を取り戻す。
「校長先生! 直ぐにショウに連絡をしましょう!」
「ええ、今すぐ連絡を入れます!」
ペパーが焦燥感を露わにし、クラベル校長がスマホロトムを操作しようとしたまさにその瞬間――空間の歪みとともに、ショウが姿を現したのだった。
「――ということが、ほんの先ほどまでにあったのです」
クラベル校長がこれまでの経緯を全て語り終えると、ショウは煮えたぎるような怒りを必死に押し殺し、静かで落ちついた声を搾り出した。
「……すみません。こちら側不手際で、皆さんに多大なご迷惑をおかけしてしまって……」
ショウは全員に向かって、深く深く頭を下げた。だが――
「ショウはちっとも悪くないよ!!」
「そうだぜ! 悪いのは全部そのクラハシって奴なんだろ!?」
「そうだよ、そんなに自分ひとりで背負い込まないで!」
ボタン、ペパー、ネモが間髪入れずに強い口調で叫び、ショウの謝罪を全面的に否定した。それに続くように、大人たちも温かい眼差しを向ける。
「ショウさん、あなたが常に我々の安全を最優先にして行動してくれていたことは、痛いほど理解しています。決してあなただけの責任ではありませんよ」
「そうですぞ! 聞く限り、敵は周到に策を張り巡らせて動いていたご様子。相手が一枚上手だったと割り切り、今はこれからの奪還策を考えましょう!」
クラベル校長とハッサク先生の言葉が、傷ついたショウの心に深く染み渡っていく。胸の奥から込み上げる温かさに視界を濡らしながら、ショウは涙を拭った。
「……皆さん、本当に……ありがとうございます」
再び深々と頭を下げ、ショウが気持ちを切り替えて今後の対策を話し合おうとしたその時、ポケットの中のスマホが甲高い通知音を鳴らした。画面を開き、そこに送られてきたメールに目を通したショウの表情が一気に鋭くなる。
「……クラハシから、直接連絡が来ました」
ショウが見せた画面には、パルデア地方のとあるエリアを示す位置情報データと、指定された時刻が刻まれていた。
「どうやら『ここへ来い』ということでしょうね……」
「十中八九、待ち構えている罠でしょうな……」
「ええ、分かっています。……ですが、罠だと分かっていても行かない選択肢はありません。ハルトとアリサが無事でいるか心配ですし、まずは万全の準備を整えて向かいます。皆さん、失礼します!」
ショウは固い決意を瞳に宿して告げると、ハルトとアリサ、そしてブラックセラフィモンの無念を晴らすべく、決戦の準備のために素早く校長室を後にした。