Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
トランスフィールドの鬱蒼としたジャングルエリアを進むショウたち。当然のように縄張りを侵されたと判断した野生のデジモンたちが次々と襲いかかってきたが、護衛に就くムゲンドラモン、ホウオウモン、スラッシュエンジェモンが圧倒的な火力と手際でことごとく返り討ちにしていく。
「ヤバ過ぎない……? いかにもって奴らがポンポン出てくるだけど……」
「エリアゼロクラスっていうのも納得だぜ……」
「うずうずする……! 私も一緒に戦いたぁい!」
「ネモちゃんやめなさい」
「……胃が痛いです」
一通りの敵を退けて少し開けた場所に出たため、一行は小休止を取ることにした。戦慄する一同を余所に、ショウが周囲を警戒しながら解説する。
「ここは元々、『とある勢力』が会合場所や試練の場として利用していた特殊な地域でな。生息しているデジモンたちのレベルが格違いに高いんだ。だからテイマーユニオンでも、ゴールドテイマー以上のランクがないと立ち入り許可すら下りない場所なんだよ」
「とある勢力……?」
「このデジタルワールドを古くから監視・管理している組織さ。まあ、俺自身は直接会ったことはないんだけどな」
そう短く話を切ると、ショウは再び歩みを進め始めた。ネモが頭上や周囲を固める3体の巨体を見上げながら尋ねる。
「そういえば、この子たちって今まで見せてくれたチームの子? 初めて見る気がするんだけど!」
「ああ、こいつらは元々ギガドラモン、シャッコウモン、ガルダモンが進化した姿だよ。本当ならもう少しじっくり鍛え上げてから最適なタイミングで進化させたかったんだけどな……背に腹は代えられない」
ショウがネモの質問に答えていると、木々の隙間から淡く発光する巨大なトランスパネルが見えてきた。
「よし、次のエリアへの転送ゲートが見えたな」
「次はどんな場所なの!?」
「今いたところがジャングルエリアだから、転送先はアイランドエリアだな」
そう答えると、全員で光るパネルに乗り込み、次の階層へと転送された。
潮風の匂いが漂うアイランドエリアへと足を踏み入れた直後、ショウの腰にあるデジヴァイスから通信が入った。
『ショウ、ちっといいかい?』
「どうした、サゴモン?」
『取り合えず、俺っちを外に出してくれ』
要請に応じてサゴモンをリアライズさせると、その腕にはショウが大切に保管していた真っ黒なデジタマが抱えられていた。
「デジヴァイスの中でコイツが急に凄い勢で動き始めたからさ。もしかしたらと思って連れてきたんだ」
「なるほどな……ちょっと見せてくれ」
ショウはデジタマを受け取ると、デジヴァイスのスキャン機能をかざしてバイタルデータを解析した。
「うーん……生まれるにはまだ早いっぽいな。ただ、妙なバイタル反応が気になるから、このまま外に出して様子を見てみるか」
「了解っと。なら俺っちは中に戻るぜ」
「応、助かった」
サゴモンがデジヴァイスへと戻ると、ショウは抱えていたデジタマをミモザ先生へと手渡した。
「ミモりん、このデジタマの管理、任せていいか?」
「いいけど……何か異常でもあるの? 脈動がすごく激しいわね……」
愛おしそうにデジタマを抱き抱えながら尋ねるミモザ先生に、ショウは少し懐かしむような目を向けた。
「こいつはブラックセラフィモンのデジタマなんだけど、さっきから見たことない異常な数値が出ててな。……実は昔、こいつと一緒に『とある実験』をしたことがあって、その影響が出てるのかもしれないんだ」
「実験……?」
「ブラックセラフィモンは元々、【デーモン】っていう七大魔王の一角に至る中間段階のデジモンなんだよ。だから『魔王に進化する素質』を生かして、他の魔王型デジモンのデータを移植・混入させれば、別の魔王型へ分岐進化できるんじゃないかと思ってな。ブラックセラフィモン自身も乗り気で協力してくれたんだ」
ショウがそう説明すると、まるで「そうだな!」と主張するかのように、ミモザ先生の腕の中でデジタマがピクッと大きく揺れた。
「えぇ!? そんな実験みたいな進化のさせ方が可能なの!?」
「デジモンの進化ルートは本来すごく柔軟で、テイマーの育て方や取り込んだデータ次第でいくらでも改変できるんだよ。だから意図しない予想外のデジモンに進化することもある。まあ、とてつもない変異を嫌がるデジモンもいるから、進化先を固定するプログラムを使うことも多いんだけどな」
「……実に奥が深いのですね。まるでイーブイの多彩な進化の可能性を見ているようです」
「あはは、確かに例えとしてはすごく似ているかもしれませんね」
不気味なトランスフィールドの緊張感を少しだけ和らげながら、ショウたちはアイランドエリアの奥深くへと進んでいった。
トランスフィールドのアイランドエリアを進んでいると、前のエリアと同じように縄張りを主張するデジモンたちが果敢に襲いかかってきた。しかし、ムゲンドラモンたちの容赦ない迎撃によって返り討ちにされると、倒れたデジモンたちの崩壊したデータを、ミモザ先生が抱えるデジタマが時折すーっと吸収していった。
「なあショウ、何かこのデジタマがデータを吸い取ってるんだけど……これって大丈夫ちゃんなのか?」
「ああ、大丈夫だ。生まれるためのエネルギーとしてデータを吸収しているだけだからな。ただ……さっきからミズ種族のデータだけを選んで吸っているな」
「その『ミズ種族』って何のこと?」
不思議そうに首を傾げるボタンに、ショウが分かりやすく噛み砕いて説明する。
「ポケモンで言う『タマゴグループ』や分類に近いものだな。デジモンは大きく分けて【リュウ】【ケモノ】【トリ】【ムシ・クサキ】【ミズ】【キカイヘンイ】【セイ】【アンコク】の8つの種族と、【ワクチン】【データ】【ウィルス】【フリー】【ヴァリアブル】の5つの属性で分類されているんだ」
「へぇ~! 色々細かく分かれてるんだねぇ!」
「あとはポケモンのタイプのように『火』『地』『水』『風』『草木』『雷』『光』『闇』の元素属性にも分かれているな。これは古代の『十闘士』が大きく影響しているんだ」
「古代十闘士……?」
「俺がよく【スピリットエボリューション】で変身するアグニモンやヴリトラモンの元になった、古代の英雄デジモンたちの総称さ。さっき話した8つの属性に『鋼』と『氷』を加えた10種類の属性が存在するんだ。……長くなるから、移動しながら話すよ」
ショウは仲間たちを引き連れて歩みを進めながら、古代デジタルワールドの壮大な十闘士伝説を語り聴かせた。
「……そして、最後に生き残った『光』と『火』の十闘士は、暴走したルーチェモンを倒しダークエリアへと封印し、その壮絶な命を終えた。しかし彼らの魂は『スピリット』として現代まで残され、今もデジタルワールドの平穏を見守っている……というのが十闘士の伝説だ」
「へぇ~! すごい大昔のロマンだね! ……ねえショウ、その封印された『ルーチェモン』ってやつはどうなったの?」
「ルーチェモンは後に『傲慢』を司る最凶の魔王へと堕ち、デジモンが死後に辿り着く『ダークエリア』の最深部・コキュートスにて、他の魔王どもと共に厳重に封印されているよ。……ネモ、『そいつと戦ってみたい!』とか言い出しそうだけど、絶対にやめておけよ?」
「えぇ~っ!? なんでさー! 戦ってみたいじゃんかー!」
釘を刺されたネモは、ブーブーと不満そうに両頬を膨らませた。その無邪気なリアクションに、緊迫していた周囲の大人たちも思わずフッと表情を緩めて笑ってしまう。
談笑しているうちに、前方からまたしても発光するトランスパネルが姿を現した。
「あっ、見えてきたぞ。確か次のエリアが最後だ。そこにハルトやアリサが囚われているはずだ。ただ……最深部になるから、今まで以上に規格外の強いデジモンがうごめいている。全員、気を引き締めて行くぞ!」
ショウの言葉に全員が表情を引き締め、重く頷いて転送パネルへと乗り込んだ。
転送された先の【遺跡エリア】に足を踏み入れた瞬間、ミモザ先生の腕の中でデジタマがドクンドクンと激しく脈打ち、荒ぶり始めた。
「きゃっ……!? な、なんかものすごく荒ぶってるんだけど、本当に大丈夫なのこれ!?」
「ああ、周辺に漂う上質な『アンコク種族』のデータに反応したんだと思う。こいつにとっては、ここは極上のバイキング会場に感じられているんだろうな」
「……食べ放題ですか。仕事に追われる身としては、少し羨ましい環境ですね」
「アオキさんらしい感想だね……」
軽口を叩きながらも慎重に遺跡の奥へと進んでいく。襲いかかってくる強力な暗黒デジモンたちを返り討ちにするたび、溢れ出る黒いデータをデジタマは物凄い勢いでグングンと吸収し、その輝きを増していった。
そして、幾重もの罠と敵を破り、ついに最深部の巨大な広間へと到着した時――。
「――待っていたよ、ショウ」
広場の中央で、冷たい静寂を纏ったハルトがぽつりと佇んでいた。