Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
校長室を退室したショウは、すぐさまソウマとヒョウガへ緊急連絡を入れ、一刻を争う心地でファーム島へと向かった。現場ではすでに2人が腕を組んで待機していた。
「お待たせしました!」
「おう」「なら、早速やるか」
重厚な頷きとともに、ソウマはクロノモンHMを、ヒョウガはズィードミレニアモンをリアライズさせた。対するショウも、手持ちからジャスティモン、シャイングレイモン、そしてドュフトモンを呼び出す。
「まずは、この3体からお願いします!」
ショウが覚悟を込めてデジヴァイスを力強く翳すと、眩い進化の光が溢れ出し、3体のデジモンの姿が激変した。
「【X-進化】と【バースト進化】はステータスが爆発的に跳ね上がる分、体感の制御が難しい! 実戦形式で身体に叩き込んで慣らしていくぞ!」
「「「応!!」」」
「それじゃあ、よろしくお願いします!」
「かかってきな!」
「全力で来い!」
ソウマとヒョウガという超ベテランテイマーたちを相手に、ショウの限界突破を掛けた猛特訓が開始された!
【アリササイド】
一方、クラハシの手によって彼の隠れ家へと連行されたアリサは、無機質な一室へと閉じ込められていた。デジヴァイスには強力なセキュリティロックがかけられているらしく、手持ちのデジモンをリアライズすることすらできない。
どうにか外部への連絡手段を模索しようとデジヴァイスの画面を懸命に操作していると、静かにドアが開く音が響いた。アリサが顔を上げると、そこに立っていたのはハルトだった。
「ハルトさん! 良かった、無事ですか!?」
「僕は問題ないよ?」
問いかけに答えるハルトだったが、その瞳は虚ろで焦点が合っておらず、依然として強力な【デーモンシャウト】の洗脳下に置かれていることは明白だった。
「明日にはショウが来ると思うから、それまで大人しく我慢してね。……それじゃ、僕は休むね」
伝えることだけを感情なく告げると、ハルトはそのまま素気なく部屋を出て行ってしまった。
「……どうしましょう。部屋の脱出口になりそうな場所は、あそこの堅牢な扉以外だと、天井近くにあるあの小さな排気ダクトくらいですね。流石にあのサイズは私でも通れませんね……」
ハルトが去った後、念のために部屋の中を一通り調べて回ったアリサだったが、現実的に脱出できそうなルートが存在しないことを確認すると、潔く諦めてベッドの端へと腰掛けた。
「はぁ……まさか私が拐われる立場になるとは思いませんでしたね。……まあ、明日にはショウさんが必ず助けに来てくださるのですから、焦らず落ち着きましょう。夜も遅いですし、明日に備えてもう休みましょうか」
アリサはそう呟くと、持参していたバッグから当然のようにマイパジャマを取り出し、手際よく着替えてそのままベッドですやすやと寝入ってしまった。
その直後、見回りの報告を受けたクラハシは――。
「……いや、彼女……一応人質として拉致してきたつもりなんですが……肝が据わりすぎというか、図太すぎませんか……?」
頭を抱えて思わず苦笑いを漏らし、傍らに立つギズモンたちもまた、言葉を失ったように無言で大きく頷くのだった。
翌日。一死を賭した徹夜の特訓を終えたショウは、クラハシから指定された決戦の地へ向かおうとアカデミーの屋外階段付近へ足を進めた。すると、そこへネモ、ボタン、そしてミモザ先生の3人が待ち構えていたかのように声をかけてきた。
「待ってたよショウ! これから指定の場所へ行くんだよね! それじゃ、私たちも一緒に行こっか!」
「……何で?」
代表して威勢よく宣言したネモに対し、同行していたソウマが思わず素で聞き返してしまった。
「トップと校長先生から正式に頼まれたの! メールの内容を確認したけど『1人で来い』なんてどこにも書かれてなかったからね!」
「……なら、何でミモりんまでいるんだ?」
「『ミモりん』言うなし! 校長先生から『ハルトさんやアリサさんの救出直後に緊急の治療が必要になるかもしれないから、ついていってあげてほしい』って頼まれたのよ!」
ミモザ先生が腕を組んでそう反論し、ぐうの音も出ない理由に納得しかけていると――遠くからさらに賑やかな足音がこちらへ近づいてきていたのだった。
「お待たせちゃん! パワーの出るサンドウィッチを特盛りで作っていたら遅くなっちまったぜ!」
「……お待たせしました」
息を切らせて駆け寄ってきたペパーの隣には、どこかやつれた表情であるが鋭い目のスーツ姿の男性――アオキの姿があった。
「何でアオキさんが!?」
ショウが驚いて尋ねると、アオキは疲れた溜め息をひとつ吐き出し、ネクタイを整えながら説明した。
「……トップから『学生や教員の安全確保のため、現場の護衛として同行するように』と直々に命じられましてね。ハッサクさんは万が一の事態に備え、アカデミーの防衛に残られています。事情が事情ですのでお気になさらず」
休日出勤の過酷さを物語るアオキのテンションに、ショウは何とも言えない表情になりつつも苦笑いを浮かべた。周囲の生徒たちの視線も集まり始めていたため、ショウは気を取り直す。
「とりあえず、ここで立ち話をしていても目立ちますし、指定された場所へ向かいましょうか」
諦めたように肩をすくめたショウは、ネモやペパー、ボタン、ミモザ先生、アオキへ向けて特殊なブレスレットを差し出した。
「もう何と言ってもついて来る気満々みたいだから、俺からは何も言わないことにするよ。……その代わり、このブレスレットを着けておいてくれ。知り合いに頼んで強力な防衛エネルギーを充填してもらった特製品だ。究極体クラスの攻撃すら数回は完璧に防いでくれるからな」
「へぇー! すごい防具じゃん! ありがとう、ショウ!」
「助かるぜ、ショウ!」
全員がブレスレットを腕に装着したことを確認し、ショウたちはクラハシから指定された座標へと向かった。現場へ到着し、ショウがデジヴァイスを翳して空間の歪みをスキャンすると、目の前の空間が波打ち、禍々しい空間の裂け目――デジタルゲートがヌッと出現した。
「……ここから入れってことか」
ペパーが唾を飲み込みながら推測すると、解析を終えたショウが厳しい表情で振り向いた。
「デジヴァイスで調べてみても、この先がどこに繋がっているのか完璧には特定できない。何が待ち構えているか分からないから、気を引き締めてついてきてくれ」
ショウはいの一番に身を投げ出すようにしてゲートの中へと飛び込んだ。
「何があるんだろう!? バトルかな!? スッゴい楽しみ!」
ネモが目を輝かせてワクワクした表情で後に続き、残りのペパー、ボタン、ミモザ先生、そして不穏な気配に胃を痛めるアオキも続々とゲートへと足を踏み入れた。
歪んだ空間を通り抜けると、そこには現実世界のパルデア地方とも、これまでネモたちが目にしてきた風景とも根底から異なる、異質な光景が広がっていた。
空間そのものがバグのように明滅し、幾何学的なデータと崩壊した地形が複雑に交差する不気味な世界――。
「何……ここ……? 空間がバグってるみたい……」
「……自分も社会人として出張で様々な地方や大穴へ行かされましたが……こんな光景を見るのは初めてですね」
「あのアオキさんでも知らない場所なんだ……」
「へぇー! なんか凄くゾクゾクしてワクワクするね!」
「……ネモちゃん、マイペースすぎるでしょ……もう帰りたくなってきたんだけど……」
口々に驚きや困惑を漏らしていると、周囲の地形や空間の安定度を警戒しながら探索していたショウが静かに戻ってきた。
「……どうやらここは【トランスフィールド】のようだ。まさかあの野郎、俺たちをここに連れて来るとはな……」
顔を歪ませて毒吐くショウに、ネモが首を傾げる。
「トランスフィールド……? もしかして、ここが本物の『デジタルワールド』なの?」
ショウは嫌そうに眉間を寄せながらも、重く頷いた。
「そうだ。……そして皆に分かりやすく伝えるなら、ここはパルデアの大穴の最深部すら生ぬるく思えるレベルの、超危険地帯なんだよ」
「……なるほど。ならば、一歩一歩周辺を厳重に警戒しながら進む必要がありますね」
アオキが社会人らしい冷静さで思案しながら発言すると、ショウも深く同意してデジヴァイスから3体のデジモンを即座にリアライズさせた。
「頼むぞ、ムゲンドラモン! ホウオウモン! スラッシュエンジェモン! みんなの護衛を頼む!」
ドスンと地響きを立てて現れたのは、背中に巨大な2門の大砲『ムゲンキャノン』を装備した全身金属の暗黒竜・ムゲンドラモン。
天を舞い、荘厳で神々しいオーラを纏う不死鳥・ホウオウモン。
そして全身が刃で構成され、鋭い殺気を放つ天使型究極体・スラッシュエンジェモンであった。
「……(コクリ)」
「OK! まかせて!」
「承知! 我が刃にかけて守り抜こう!」
巨体から発せられる圧巻のプレッシャーにネモたちが息を呑む中、3体の究極体デジモンたちは力強く頷き、一行を隙なく囲むようにして配置についた。
「……よし、それじゃあ進もう。ハルトとアリサを助け出すぞ!」
ショウの力強い一言とともに、一行は異質なトランスフィールドの奥深く、クラハシの待つアジトを目指して歩みを進め始めたのだった。