Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い   作:ガチャガチャクツワムシ

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アリサの回想

「私、6歳の冬の時に家族で日本へ旅行した際、誘拐されたことがあるんです」

予想外の告白に、ショウはわずかに眉をひそめたが、口を挟まずに無言で続きを促す。

「知らない大人が怒鳴り声を上げながら、私を人気のない狭い物置のような部屋に閉じ込めて、そのまま鍵をかけていなくなってしまって……。寒くて、怖くて、心細くて、暗闇の中でただ泣くことしかできませんでした。そうして怯えていたら、部屋の隅からコツコツと小さな音が聞こえてきて……。さらに恐怖心を煽られた私が恐る恐るその方向を覗き込むと、なんと床板の隙間から、私と同年代くらいの男の子が3人、這い出てきたんです」

「……同年代の子供が3人?」

「はい。当時はまだ日本語なんて全く分からなくて、母国語しか話せなかった私は、目の前の光景にパニックを起こして悲鳴を上げてしまいました。でも、その3人は私に気づくと、驚愕の声をあげて……」

当時の記憶を辿るように、アリサの瞳がわずかに遠くを見つめる。

『〇%&#!』

『〇!? ゛#%』

『○●◎@◇▽▼◆!?』

「当時の私は彼らが何を言っているのかちんぷんかんぷんでしたが、ただ怯えきっている私を見て、彼らは『これ以上怖がらせないようにしなきゃ』と感じてくれたんだと思います。優しく微笑むようにしながら、こっちに来るように手招きをしてくれたんです」

「監禁されていたその部屋は、出入口が目の前の頑丈な扉しかなかったためか、幸い私は拘束されていませんでした。恐る恐る3人のところに近づくと、そこには子供が1人ずつようやく通り抜けられるほどの、手製の狭い穴が空いていたんです」

「先に2人その穴から下へ降りて、残った1人が私の背中を優しく押しながら、穴に入るように促してくれました。私が震えながらそこを抜けると、残りの子も続いて降りてきて、すぐに塞ぎの板を戻して痕跡を隠したんです」

「そのまま薄暗い床下通路を道なりに進むと、やがて外へ通じる通用口から脱出することができました。でも、当時の私は室内で着る薄着のドレスのままで……。それに気づいた3人は、何も言わずに自分たちが着ていた各々の防寒具――コートやマフラーを、震える私に次々と着せてくれたんです」

温かな記憶を思い出すように、アリサの頬にふっと柔らかな笑みが浮かぶ。

「そして、『大丈夫だから、ついておいで』と言わんばかりに手招きして私も、その温もりにすがるように彼らの後ろをついて歩きました。監禁されていたところから外に出て少し歩くと、雪の中に一台のソリが置かれていて。それに乗るようにジェスチャーされたので私が乗ると、男の子3人で力を合わせて引っ張ってくれたんです。しかも、周りに気付かれないようにわざと交代交代で引っ張っている遊びをしているような工夫をしながら……。

しばらくそのソリに揺られていると、やがて大きな学校のような敷地へと辿り着きました。グラウンドには年上の子供たちが何人かいて、私たちを連れてきてくれた男の子の1人が、知り合いらしき女の子に何かを必死で伝えると、その子が周りの大人を呼びに行ったり、別の1人が走って建物の中へ入っていったりして……。

やがてその女の子が私たちを手招きして、ソリごと建物の中へと案内してくれました。玄関で『ここで降りて』とジェスチャーされ、自分の靴を持って中に入ると、職員室に通されたんです。中には何人かの教師がいて、どこかへ慌てて電話をしている様子でした。私に気づいた先生たちが男の子たちに事情を聞き始めたのですが、そのうちの1人の先生が私の母国語で話しかけてくれて……。

不安で震えながら事情を説明していると、すぐに警察の人と両親が駆けつけてくれて、私を強く抱きしめてくれたんです。それまで張り詰めていた糸が切れて、安心した私は両親にしがみついて思いっきり号泣してしまいました。

その後、犯人もすぐに捕まって事件は解決したのですが……私を助けてくれたあの3人は、みんな何度もクシャミをしていて、気づいたらいなくなっていたんです。後日、警察が調べてくれてご自宅に両親と一緒にお礼を言いに行ったのですが、あのあと全員が寒さで風邪をこじらせて入院してしまったそうで、結局直接会うことはできませんでした。男の子たちの名前も分からないまま、お礼も言えないまま、私は国へ帰るしかなくて……」

静かに当時を回想し終えると、アリサはふっと息をついてショウを見据えた。

「ただ……その時、着せてくれた防寒着のタグに、うっすらと『ショウ』という名前の刺繍が書いてあったんです。それがずっと私の心に残っていて。……その後、日本の友人からデジタルワールドのことに誘われて、皆さんに出会うことができました」

アリサがそこまで語り終えると、ショウは目を見張り、頭を抱えるようにしてポツリと呟いた。

「……待てよ。じゃあ、あの時助けたお姫様な泣き虫の女の子って……お前だったのかよ……!」

「はい。最初は、まさかあの時の男の子がショウさんだなんて思ってもみませんでしたから、出会った頃は少し冷たい態度をとってしまってごめんなさい」

「いや、俺の方こそ……あんな冬の日に迷子になってた外国の女の子を見捨てられなくて、仲間と一緒に必死こいて助け出したのは覚えてるけど、そんな昔の恩返しだなんて思わなかったからな……。いつ気付いたんだよ?」

「日本へ交換留学した時、通っていた学校の先生にすごく見覚えのある方がいて、思わずお聞きしたんです。そしたらその先生が、ヒデトさんの近所に住んでいた方で、当時の話を教えてもらえたんです」

「……ちなみに、この話はヒデトやエイジは知ってるのか?」

「いいえ、誰にも話していませんから、今のところ2人とも知りませんよ」

少しバツが悪そうに肩をすくめるショウに、アリサはまっすぐな瞳を向けた。

「あの……ショウさんは、『どうしてそこまで好意を寄せるのか分からない』って言いましたよね。エイジさんにはサクヤさんがいますし、ヒデトさんだってみんなから頼りにされています。でも、私にとってショウさんは……あの凍えるような暗闇から、私を連れ出してくれた救いの王子様だったんです。テイマーになってからも、私に邪険にされながらも任務中に危険な目に遭いそうになった時、何度もあなたに助けてくれました。あの時からずっと意識していたのに、正体を知ってからは……当時の思い出と今の想いが重なって、もう抑えられなくなってしまって」

アリサはベンチから立ち上がると、ショウの正面に立ち、両手をギュッと握りしめて決意を込めた声を響かせた。

「だから、ショウさん……私と、お付き合いしてくださいっ!」

静かなファーム島の風が吹き抜ける中、一途で熱い想いを込めた直球の告白が、ショウへとまっすぐに投げかけられたのだった。

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