Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
デジタルワールドでの激闘からしばらくが経った、パルデアでの穏やかな日常。
「何か、ここ数日ハルトを見かけないな?」
「そうですね。もしかしたら、交換留学でブルーベリー学園にでも戻っているのでしょうか?」
ショウとアリサがアカデミーの廊下でそんな雑談を交わしていると、向こうから大きな料理本を抱えたペパーが歩いてきた。
「オイッス、ペパー!」
「今日は、ペパーさん」
「お疲れちゃん、2人とも!」
「なぁ、最近ハルトを見かけないんだが、何か知ってるか?」
挨拶も早々にショウが本題を切り出すと、ペパーは「あぁ」と手をぽんと打った。
「ハルトなら数日前、グラウンドに変な光るリングが空中に現れてさ。『なにこれ!?』って興味津々ちゃんなハルトが、俺たちに一言声をかけてから、そのまま迷わず中に飛び込んで行っちまったぞ」
「えっ……? 俺……そんな大事、一言も聞いてないぞ?」
「私も……初耳です……」
「あれ? 言ってなかったっけか? まぁ、あいつのことだからそのうちケロッと戻ってくるだろ! 探検みたいなもんだし、気にすんなよ!」
能天気に笑いながら、ペパーは「じゃあな!」と手を振って食堂の方へ去っていった。残された2人は思わず顔を見合わせ、深々と溜め息をついた。
「……つまり、そのリングの形状からして……ハルトの奴、『ポケモンマスターズ』の世界へと行っちまったってことか」
「……話の整合性を考えると、そうなりますね……」
「俺、一回ハマったら課金沼に片足突っ込みそうだからポケマスは手を出してないんだよなぁ。……お嬢は?」
「その『お嬢』呼びはやめてください。私も……ダウンロードはしていますが、そこまでは……」
そんな頭を抱えたくなるような会話を交わしていると、タイミング悪くショウとアリサのデジヴァイスが甲高い警告音を鳴らし始めた。画面をスクロールしてマップデータを確認するショウ。
「どうやら、パルデアにデジモンが複数現れたようだぞ」
「……やれやれ、ハルトさんを追いかけたいところですが、まずはこっちの片付けが先ですね。行きましょう」
2人はすぐさま表情を引き締め、現場へと急行していった。
【ハルト サイド(人工島パシオ)】
一方その頃――。
フーパが作り出した謎の空間リングを後先考えずにくぐり抜けたハルトが辿り着いたのは、あらゆる世界のトレーナーたちが集う人工島「パシオ」であった。
右も左も分からないまま散策していたハルトは、幸運にもこのパシオの世界のネモ、ペパー、ボタン、そして相棒のコライドンを連れたアオイという少女と出会い、すっかり意気投合していた。
「へぇ~! ハルトの世界のショウとアリサって人たち、そんなに強いんだぁ! いいなぁ、私とも全力バトルしてほしいなぁ!」
「ネモはどこの世界に行っても本当にブレないね……」
「やっぱり、ハルトの世界のネモもバトル大好きっ子なんだねぇ」
ポケモンセンターのカフェスペースで賑やかに談笑していたその時――ハルトのリュックの奥から、ピピピピッと聞き覚えのある電子音が鳴り響いた。
「ん? なにこの音……」「目覚ましちゃんか?」
「……嘘でしょ!? なんでこんなところに……っ! ごめんみんな! ちょっと急な用事ができたから行くね!」
「あっ、ちょっとハルト!?」
ハルトはカフェを飛び出すと、ボールからミライドンを繰り出し、その背へと飛び乗った。
「(なんで……なんでデジモンの警告反応が、この『パシオ』で鳴ってるの……!?) 急ぐよ、ミライドン!」
「アギャッス!」
デジモンという存在がもたらす破壊力と脅威を身をもって知っているからこそ、ハルトの顔から余裕が消える。主の焦りを察したミライドンはドライブモードの出力を全開にし、風を切り裂いてパシオの沿岸部へと爆走した。
現場である静かな海岸線に辿り着くと、ハルトは急いでミライドンの背から降り、周囲を警戒した。
「周囲に人は……よし、誰もいないね。それに、まだデジモンの実体は現れてない……?」
「アギャッ……」
ミライドンと共に海風が吹く空を見上げていると、空間がぐにゃりと歪み、かつて自分が飛び込んできたフーパのリングと同じ巨大な金色の輪が空中に浮遊した。
「まさか……あのリングを通って、あっちの世界からデジモンが渡ってこようとしてるの!?」
「アギャッ!」
実体化して街へ被害が出る前に防ぎ切らなければならない。ハルトはあの事件の後、テイマーユニオンから正式に譲渡されたデジヴァイスを強く掲げると周囲の空間がデジタル障壁によって隔離されると同時に、リングの奥から凄まじい威圧感と共に、咆哮をあげる異形の影が飛び出してきた。
空間の裂け目からゆっくりと舞い降りたのは、青白い不気味な肌に六つの瞳が刻まれた仮面を被り、手足が異様に長く背中に不気味な翼を生やした、悪魔そのものの姿をしたデジモンだった。ハルトが冷や汗を拭いながら手元のデジヴァイスを素早く向け、個体データをスキャンする。
「……ネオデビモン。完全体……っ!」
データの重さに息を呑みながらも、ハルトはすぐさま通信機能を立ち上げてショウの番号を呼び出す。しかし、向こう側でもちょうど激しい戦闘の最中なのか電波が乱れて繋がらない。焦ったハルトは次にアリサの番号へと発信した。
『はい! どうしました!? ハルトさん!』
通信が繋がった瞬間、向こうでも何かトラブルが起きているのか、アリサの緊迫した声が飛び込んできた。
「あっ、アリサ! 実は今、パシオの世界にネオデビモンっていう完全体のデジモンが突然現れて……!」
「……分かりました! 状況は把握しました。なら、私がすぐそちらの次元のゲートを通って向かいます! いいですね、ショウさん!」
『了解だ、任せろ……っと、危ねぇな!?』
「なのですみませんが、アリサさんが到着するまで何とか時間を稼いでください! ネオデビモン1体なら、ハルトさんの手持ちのポケモンや、以前私たちが渡した【デジメモリ】を駆使すれば十分に渡り合えるはずです……ですが、絶対に無茶はしないでくださいね!」
早口でまくし立てると、アリサは一方的に通信を切った。
「よし……! アリサが来るまで、僕がこの場で抑え切る! ミライドン!」
「アギャーッス!」
主の気迫に応じたミライドンが瞬時に【コンプリートモード】へと変形し、紫電を纏って戦闘態勢に入る。その圧倒的な敵意を察知したネオデビモンは、不気味な六つの目をギラつかせながら、獲物を狩るような足取りでハルトたちへと突撃を開始した!
「互角以上にやれている……! このままの勢いで押し切るよ、ミライドン!」
「アギャッス!」
激しい攻防が繰り広げられる中、先ほどの爆音とエネルギー反応を察知した誰かが、慌ててトランスフィールドの境界内へと飛び込んできた。
「君っ! 大丈夫かっ!?」
「なんなの……あれ、ポケモンじゃないよね!?」
「ハルト! 無事なの!?」
「あれって……もしかしてウルトラビーストの一種? ……でも、見たことないよ!」
そこに駆けつけてきたのは、パシオの主人公であるケイとユイ、ライバルのキリヤ、そして先ほど別れたばかりのアオイの4人だった。
「みんな、来ちゃダメだ! 危ないっ……!」
ハルトの警告が届くより早く、ネオデビモンは新たに現れた4人へと標的を切り替え、鋭い爪を振りかぶりながら猛烈な勢いで強襲した!
「危ないっ!」
ケイとユイたちが咄嗟に相棒のポケモンたちを繰り出して迎撃の指示を飛ばすも、完全体の絶大なパワーと凶悪な瘴気を纏ったネオデビモンは、ポケモンの攻撃を虫けらのようにいなしてそのまま突撃を続ける。しかし、アオイの相棒が放った牽制の一撃が、ネオデビモンの顔面を覆う仮面の端に直撃した!
パキンッ――!
乾いた音を立てて仮面の一部が破損した瞬間、ネオデビモンはぴたりと動きを止め、その場で完全に棒立ちとなった。
「「……?」」
静まり返った戦場に、突如として耳をつんざくような狂気の声が響きわたる。
「ギギイャァァァァァッ――――!!!!」
その場にいた全員が思わず両耳を激しく塞いでしまうほどの、精神を直接削るような凄まじい絶叫! 正気を失ったように暴走を始めたネオデビモンは、周囲の地形などお構いなしに、あらゆる方向へ必殺の【ギルティクロー】を無差別に乱射し始めた!
「嘘だろ、何だこれ……!?」
「急にどうしちゃったの!?」
「うわっ、危な……!」
「完全に暴走してるっ……!?」
四方八方に飛び散る死の斬撃を、ケイやユイたちが決死の回避行動で何とか躱していく。その危機的な光景を見たハルトは、歯を食いしばってポケットから一つの切り札を取り出した。
「みんなが危ない……! ショウ、すまない、これ使わせてもらうよ! デジメモリ、セット……ッ!!」
ショウたちから託されていた特殊な【デジメモリ】をデジヴァイスのスロットに強く突き刺す。眩い光の奔流から顕現したのは、ハルトのパートナーデジモンであるクリスペイルドラモンだった!
突如として現れた未知の強力な存在に、ケイたち4人が目を見開いて硬直するのをよそに、ハルトは迷うことなく指示を飛ばす。
バラバラに暴れ回るネオデビモンに向かって、クリスペイルドラモンが鋭い氷の刃を閃かせる!
「――【フローズンクロー】!」
鮮やかな連続斬撃がネオデビモンの身体を捉えたが、狂気に呑まれたネオデビモンは痛みすら感じていないかのように、なんと自らの腕を自ら力任せにもぎ取ると、凄まじい遠心力でCペイルドラモンめがけて投げつけてきた!
「っ、捨て身の反撃……!? なら、その勢いごと凍てつかせてやる! そのまま【カロスディメンション】で凍らせて!」
ハルトの叫びに呼応し、クリスペイルドラモンは周囲の水分と冷気を一気に極限まで凝縮させ、放り投げられた腕ごとネオデビモン全体を絶対零度の氷塊へと閉じ込めた!
バリバリバリッ――! と空気中のデータが結晶化し、次の瞬間、ネオデビモンは激しい閃光と共に完全に戦闘不能となり、ポトリと小さな一粒の「デジタマ」へと姿を変えて地面に転がった。
「……タマゴに、なった……?」
あまりの急展開に、ケイが呆然とした様子でぽつりと呟く。周囲の緊張がようやく解けたのを確認したハルトは、深々と息をつきながら仲間たちへ声をかけた。
「……ふう。みんな、怪我はないかい? まずはここから一旦離れよう。安全な場所で、今の事態について……全部ちゃんと説明するからさ」
驚きを隠せないパシオの面々を優しく誘導し、ハルトたちは静まり返った海岸線を後にするのであった。