Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
ハルトたちとの熱いバトルから数日が過ぎた頃。
グレープアカデミー内では、生徒たちの間で不気味な『ある噂』が持ちきりになっていた。
「ねぇ、例の噂聞いた……?」
「聞いたよ! 真夜中の学園をひとりで歩いていると、どこからか不気味な鈴の音が聞こえてくるって話でしょ?」
「そうそう! なんでも昨日の夜、受付の先生が実際に聞いたらしいのよ」
「しかもね、気になった校長先生が防犯カメラを確認したら、鈴の音が鳴っている時間帯だけ画面のノイズが凄かったんですって……!」
「誰かがゴーストタイプのポケモンを使って、悪質ないたずらでもしてるんじゃないの?」
「それがね……夜行性のポケモンたちまでもが何かに怯えちゃって、ボールから出てこようとしないらしいの。無理に出てこさせても、ずっと周囲を警戒して怯えてるんだって!」
「なにそれ怖すぎる……! しばらく夜は外で過ごした方が安全かな……」
廊下のあちこちで、そんな不安げな噂話が飛び交っていた。
「鈴の音か……。幸い、まだパルデアにはヒョウガさんやソウマさんたちが滞在している。まずは相談してみるか……」
「そうですね。もし『あのデジモン』だとしたら、かなり厄介な事態になりますからね……」
アリサと密かに言葉を交わしたショウは、放課後、師匠たちの元へ向かう前に真実を確かめるべくクラベル校長の室を訪れた。
「おや、ショウさんにアリサさん。どうされましたか?」
単刀直入に用件を伝え、問題の防犯カメラの映像と音声を見せてもらうと、スピーカー越しに聞こえる歪んだ鈴の音にショウの表情が硬く引き締まった。
「……この独特な鈴の音は間違いないですね」
「そうだな……。クラベル校長先生、この鈴の音を一番最初に耳にした人物は特定できていますか?」
「ええ、確かこの異常な鈴の音を最初に報告してきたのは、医務室のミモザ先生ですね」
「となると……ミモリンが真っ先に狙われる危険性があるかもな」
「ミモザ先生に怒られますよ。ですが……ええ、標的になっている可能性は十分にありますね」
二人が真剣な面持ちで結論付けると、ショウは誰もいないはずの校長室の空中に向かって静かに呼びかけた。
「すまんが、誰かいるか?」
すると、誰もいないはずの家具の陰から、スーッと影が揺らめき一匹のデジモンが姿を現した。
「……おりますぞ」
現れたのは、頭部がテレビ画面の形状をした忍者のような姿を持つデジモン──モニタモンであった。
「モニタモン、今の話は聞いていたか?」
ショウの問いかけに、モニタモンは画面に「OK」のマークを点滅させながら深く頷いた。
「問題ないですぞ。そのミモザという女性を密かに監視・護衛すれば良いのですな?」
「あぁ、頼むぞ」
モニタモンが頼もしく頷くと、再び影の中へと滑り込むようにして気配を完全に消した。
「ショウさん、今の方は……?」
「あいつはモニタモン。以前お話しした、アカデミー内の異変を監視するために潜ませていたデジモンの1体です。……それとクラベル校長先生、念のためこれを出入りする間身につけておいていただけますか?」
そう言って、ショウはポケットから特殊なプロテクト機能が込められたブレスレットを取り出し、校長へと手渡した。
「万が一何かが起きても、一度だけなら強力な攻撃や精神干渉から身を守ってくれます」
「分かりました。貴重なものをありがとうございます、大切に身につけさせていただきますね」
クラベル校長は真摯な表情で頷き、ブレスレットを腕に装着した。
「それでは、師匠たちとも今後の対応を相談しなければならないので、これで失礼します」
そう告げると、ショウとアリサは静かに校長室を後にするのだった。
ショウたちが校長室から退室すると、ちょうど廊下の曲がり角でミモザ先生とバッタリ出くわした。
「ども~ミモりん、元気?」「こんにちは、ミモザ先生」
「ミモりん言うなし……」
返ってきたのはいつものツッコミだったが、声に張りがなく、その表情には強い疲労感が色濃く滲み出ていた。
「どうしましたか? 酷くお疲れの様子ですが……?」
「やっぱり? 今日いろんな人から言われるのよねぇ……。な~んか夜中になると不気味な鈴の音が聞こえて、そのあと必ず嫌な夢を見るのよ」
「夢の内容はどんなものですか?」
「なんか……ケンタロスみたいな顔を持つ巨大なポケモンに襲われる夢なのよ」
「ミモりんはスリーパーを持っているんだから、悪夢を【夢喰い】で食べてもらったらどうなん?」
「それがね、一度スリーパーが食べようとしてくれたんだけど、直後にすごく体調を崩しちゃったのよ……。それからは可哀想でお願いしてないの」
「なるほど……なら、これをつけてみたらどうでしょう?」
ミモザ先生の話を聞き終えたアリサは、ポケットから綺麗な輝きを放つブレスレットを取り出して手渡した。
「これは……?」
「その石は、シンオウ地方に生息しているクレセリアというポケモンが持つ【みかづきのはね】と同等の悪夢払いの効果を持っています。それを身につけやすく加工したブレスレットです」
「ふ~ん……なら今夜さっそく試してみようかしら……」
そう言ってミモザ先生が手首に装着すると、すっと表情の毒気が抜けていった。
「あ、なんかつけたら重かった疲れも和らいできた気がするかも……? サンキュー、お二人さん! ……ところで、二人はこれからデート?」
「違ぞ」
「共通の知人に会いに行くところです」
「ほ~ん、そうなんだ~?」
ニヤニヤと意地悪そうにからかってくるミモザ先生と別れ、二人はソウマたちが滞在しているアパートへと向かった。
ソウマたちのアパートに到着すると、ちょうど玄関前で夕食の買い物袋を持ったソウマと鉢合わせた。
「よっ、どうしたふたりとも? 何かあったのか?」
「お疲れ様です、師匠。至急ご相談しなければならない件が出来まして……ヒョウガさんは?」
「あぁ、ヒョウガなら一度本部へ報告をしにデジタルワールドへ戻ってる。そろそろ帰ってくると思うが、とりあえず中で用件を聞こうか」
部屋に入り、アカデミーで起きている不気味な鈴の音とミモザ先生の悪夢について話すと、ソウマは渋い表情を浮かべて腕を組んだ。
「その特徴……ほぼ確実にギュウキモンだろうな。しかし、一体どこから現れたんだ?」
「そこは自分も不思議なんですよね……」
「私のデジヴァイスにも、空間の歪みやリアライズの反応は一切ありませんでした」
「こちらのデジヴァイスにも反応がなかったからな。とりあえず、ヒョウガが戻り次第、学園周辺のノイズ調査を進めてみるよ」
「よろしくお願いします」
一通りの話し合いを終え、アパートを後にした。
「それではショウさん、私もこれから本格的なジム巡りに出かけますので、これで失礼しますね」
「あぁ、気をつけてな」
アリサはそう告げると、セルクルタウンへ続くテーブルシティの出入り口に向かって歩いていった。
「俺も軽く巡回しておくかぁ……」
ショウもそう呟くと、反対側のボウルタウンへ続く出入り口へと足を向けたのだった。
──その日の真夜中。
胸を突くような冷たく禍々しい嫌な気配を感じ、ショウはハッと目を覚ました。ベッドから飛び起きると、なんと自室の中が足元も見えないほど濃い不気味な霧に覆われていた。
「これは……異界化か……!?」
すぐさま窓へと駆け寄り外を覗き込むが、窓の向こう側も深い霧で覆われており、アカデミーの景観すら一切確認することができない。
「不味いな……通信も遮断されているかもしれない。とりあえずお嬢と合流した方がいいか」
瞬時にそう判断すると、ショウは手早く服を着替え、デジヴァイスを握りしめてアリサの部屋へと向かって走り出した。