Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
目を覚ますとアカデミー全体が不気味な霧に覆われているのを確認し、ショウは急いでアリサの部屋へと向かった。部屋の前に着くと、激しく扉を叩いた。
「アリサ! 起きているか!?」
少しすると扉が静かに開き、可愛らしいパジャマ姿のアリサが眠そうに目を擦りながら顔を出した。
「どうされたのですか? こんな夜中に……」
「寝ぼけてないで周りを見ろ!」
ショウに促されてアリサが廊下に目をやると、足元から視界を遮る濃い霧が立ち込めているのを確認し、一瞬で目が冴え渡った。
「これは……異常事態が起きたのですね」
「ようやく目が覚めたか。すぐに着替えて調べに行くぞ」
「分かりました!」
10分ほどして、身支度と戦闘の準備を整えたアリサが部屋から出てきた。
「お待たせしました!」
「おう。とりあえずモニタモンたちとは何かあればグラウンドで落ち合う手はずになっている。行くぞ」
二人は警戒を怠らず、視界の悪い廊下を抜けてグラウンドへと向かった。
グラウンドに到着すると、モニタモンとよく似た頭部を持つ上位デジモン――ハイビジョンモニタモンが影から現れて待っていた。
「お待ちしておりましたぞ」
「すまない、待たせた。悪いがすぐに状況を教えてくれ」
「承知しました。夜中の0時頃になり急に霧が発生し、瞬く間にこのアカデミー一帯が覆われてしまいました。外部との通信は遮断されましたが、我々の特殊伝達能力により、なんとかテイマー仲間内のみ通信を維持しております」
「そうか……生徒や先生たちの様子は?」
「眠っておられる方が大半で、目を覚まされた方もこの異常な気配と不気味な霧により、自室から動き出せないご様子です」
「わかった、助かる。引き続き情報の収集と危険の察知を頼む」
ショウが伝えると、ハイビジョンモニタモンは「御意」と深く一礼して再び霧の中へと消えていった。
「ショウさん、とりあえず二手に分かれて手分けして調査しませんか?」
「そうだな。30分したらまた一度ここに集合しよう」
取り決めを交わすと、二人はそれぞれ二手に分かれてアカデミー内の調査を開始した。
アリササイド
ショウとグラウンドで別れた後、アリサは一人校舎の暗い廊下を調べていた。すると、霧の奥から不意に声が掛けられた。
「そこにいるのは……どなたでしょうか?」
「そのお声は……クラベル校長先生!」
霧を押し開くようにして現れたのは、ショウから渡されたプロテクトブレスレットを手首にはめたクラベル校長であった。
「あなたはアリサさん! 良かった、ご無事のようですね」
「校長先生も無事のようで何よりです。ここは危険ですので、一度安全なグラウンドへ向かいましょう」
「分かりました。案内をお願いします」
そう提案し、共にグラウンドへ移動しようとしたその時――急に周囲の霧がサーッと引き始めると同時に、校舎の壁や床が禍々しいデジタルデータと不気味な暗黒空間へ変化し始めた!
「な、なんですか……!? 景色が……!」
「デジタルフィールド……不味いですね、アカデミー全体が空間ごと完全に取り込まれてしまいましたか……!」
クラベル校長は周囲の恐ろしい変貌に激しく戸惑い、アリサは想像以上に悪化した状況に強い焦りを募らせる。
その時――暗闇の奥から『ズズズ……』と重い何かを引きずる異様な音が響いてきた。
音の聞こえる方へ視線を向けると、そこには左腕に巨大な獣の頭蓋骨を装着した、落ち武者の亡霊を思わせる禍々しいデジモンの姿があった。
「あれは……オボロモン!? 何故こんな場所にまで……!?」
アリサが驚愕する中、オボロモンは怨念を孕んだ眼光でアリサたちを捉えると、左腕の頭蓋骨から鋭利な刀を抜き放ち、猛然と襲いかかってきた!
「校長先生は私の後ろへ!! リアライズ! クイーンチェスモン!!」
アリサはクラベル校長を庇うように立ち塞がると、デジヴァイスを高く掲げ、リアライズしたのは、チェスの駒をモチーフにした重厚で洗練された究極体デジモン――クイーンチェスモンであった。
「クイーンチェスモン。時間をあまり掛けられません、一気に決めます」
「承知いたしました。……チェスの神よ、許し賜え!」
クイーンチェスモンが胸元で静かに祈りを捧げると、そのまま戦闘の火蓋が切られた。
「オオォ……【幽玄】……!」
オボロモンは首に巻きついた不気味なスカーフを鞭のように伸縮させ、クイーンチェスモンへ向けて解き放った。
「甘い! 【クイーンスティック】!」
クイーンチェスモンは手に携えた杖を流麗な軌道で振るい、迫るスカーフを瞬時に細切れに切り刻む。それと同時に、オボロモンは左腕の頭蓋骨から禍々しい刀を抜き放ち、怒濤の連続斬撃【千万ノ太刀】を繰り出した!
しかし、クイーンチェスモンは杖で的確に刃を受け止め、激しい火花を散らしながら鍔迫り合いの体勢へと持ち込んだ。
「気をつけてください! オボロモンの刀は折れやすいですが、すぐに生え変わるので不意打ちに注意して!」
「なにっ!?」
アリサの叫びと同時に、鍔迫り合いの負荷でオボロモンの刀が砕け散った。次の瞬間、オボロモンは左腕から新しい刀を一瞬で生み出し、無防備になったクイーンチェスモンの胸元へ突き刺そうと突きを繰り出す。
事前の注意を受けていたクイーンチェスモンは、間一髪で上身を反らして突きを回避! すかさずバックステップを踏んで距離を取った。
距離が離れたことで仕切り直しとばかりに、オボロモンは再び刀をクイーンチェスモンへ向けた。
「羅生門……!」
オボロモンの下半身を包む怨念の鬼火が分離し、周囲の空間を燃え上がらせていく。なんとその鬼火を刀の身へと纏わせ、灼熱の炎の刀を作り上げたのだ。さらに、先ほど折れて地面に転がっていた刀の破片にも鬼火を宿らせ、【幽玄】で生み出したスカーフでそれを操ることで、変幻自在の『擬似二刀流』を完成させた。
炎の双刃を構え、オボロモンは激しい怨念を爆発させて突撃する。
「勝利への執念ですか……ならば此方も、その執念に全力で答えましょう」
クイーンチェスモンは静かに目を閉じると、全身のエネルギーを杖の先へと集中させ、己が放てる最大級の必殺技を放つ構えを取った。
「オォォ……いざ……尋常に!」
「勝負!」
二体はお互い眼前の相手を撃破することのみに意識を研ぎ澄ませた。
その時――アカデミーの遠くの校舎から、誰かが激しい戦闘を行っているかのような微かな振動が地面を揺らした。それを合図とするかのように、二体は持てる最大級の必殺技を同時に解き放った!
「【ハートブレイカー】!」
「オオォォォーッ!」
極大のエネルギー波と怨念の炎刀が正面から激突! 凄まじい衝撃波が円状に吹き荒れ、崩れ落ちる瓦礫の中からアリサとクラベル校長は近くの物陰に身を隠して直撃をやり過ごした。
「オォォ……み……見事……」
必殺技の激突を制し、体勢を崩したオボロモンに対し、クイーンチェスモンは間髪入れずに追撃の巨足を振り下ろした!
「【クイーンスタンプ】!!」
ドッガァァン!!
重厚な一撃が直撃し、オボロモンの全身が眩い光の粒子へと崩壊していく。クイーンチェスモンの勝利が確定した瞬間であった。
「チェスの神よ、この者を許し賜え……」
クイーンチェスモンが祈りを捧げると、光の粒子は集束し、一粒のデジタマとなって静かに地面へと転がった。
「すまない、少々時間を取らせてしまったな」
「問題ありません、素晴らしい戦いでした。クイーンチェスモン、このまま引き続き校長先生の護衛をお願いします」
「承知した」
「校長先生、グラウンドへ行きましょう」
「ええ、分かりました。アリサさん、ありがとうございます」
その後、アリサたちは新たな敵デジモンに遭遇することもなく、無事に集合場所であるグラウンドへたどり着くことができた。
グラウンドに到着すると、影の中からモニタモンが姿を現した。
「アリサ殿! ショウ殿が別ルートにてギュウキモンを撃破し、ただいまこちらへ向かっておりますぞ。護衛対象である『ミモザ』という女性もご一緒です!」
モニタモンが報告を終えたまさにその時、霧の奥からショウとミモザ先生が揃ってこちらへと歩いてくる姿が見えたのだった。