Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
「頼むぞ! ラジエルモン!」
「お願いします! ディルビットモン!」
ショウがリアライズしたのは、神々しい翼を持つ天使型究極体デジモンのラジエルモン。一方、アリサがリアライズしたのは、不敵な兎のマスクを着け、二刀流の剣技を操る剣士型究極体デジモンのディルビットモンであった。
「お任せを」
「わかったわ」
「ショウさん! そちらのスカルバルキモンをお願いします。私はワルシードラモンに対応します!」
「わかった!」
二人はそれぞれの相手へと素早く散り、激突の構えを見せる。
「ラジエルモン、頼む。倒さないように手加減してくれ!」
「分かったわ!」
ラジエルモンは聖なる光を巧みにコントロールし、スカルバルキモンの周囲へ展開する。
「【セイントシールド】!」
眩い光のドームがスカルバルキモンをすっぽりと覆い、その内側から収束した光の圧力が優しく、しかし確実に相手の自由を奪っていく。やがて光のドームが消え去ると、スカルバルキモンは気絶するようにその場にバタリと倒れ伏した。
「威力を最小限に落としたので、少し時間を置けば目を覚ますと思います」
「ありがとう、ラジエルモン」
ショウが安心したように礼を言うと、ラジエルモンは穏やかに微笑んだ。
「ディルビットモン、相手の命までは奪わないよう、手加減をよろしくお願いします」
「お任せを! 【ボルジャーグ】!」
ディルビットモンが鋭く跳躍すると同時に、空間から現れた2本の仕込み槍が鋭い軌道を描いてワルシードラモンへと射出された。槍は交差するような見事な軌道でワルシードラモンの急所を捉え、凄まじい衝撃とともに地面へと押し伏せる。
「峰打ちの要領で気絶させました」
「ありがとうございます、ディルビットモン」
アリサが丁寧に礼を述べると、ディルビットモンは恭しく剣士の礼を返した。
こうして、暴れていた2体のデジモンとの戦闘は瞬く間に終了した。
戦闘後、すぐにラジエルモンたちの治療魔法でワルシードラモンとスカルバルキモンの手当を行っていると、先ほど影に消えていたフウマモンが、異界化の源となっていた不気味な装置を抱えてグラウンドへと戻ってきた。
「ご苦労、フウマモン」
「あぁ、問題ない」
治療を終えると、ワルシードラモンとスカルバルキモンはゆっくりと意識を取り戻した。
「痛たたたた……あれ……? ここはどこだ? デジタルワールドじゃなさそうだが……」
「くそ、全身が痛むぞ……ん? おい……お前らはユニオンのテイマーじゃねぇか? 他の奴らは見慣れない顔だな……」
「正気のようですね」
「ああ、正気を取り戻したみたいだな。おい、お前らはクーロン商会の構成員だろ。何で急にこんなところで学園を襲ってきたんだ?」
「あぁん? ……そういえば、頭のモヤが晴れてきたな……記憶に覚えがあるぞ」
「もしかして俺たち……いいようにハメられたのか……?」
「どういうことですか?」
アリサがすかさず詰め寄り尋ねると、2体は自分たちが置かれていた状況を包み隠さずあっさりと明かした。
どうやら、今回の異変の原因となっている謎の機械の部品調達を何者かから依頼され、たっぷりと報酬を貰った上で、調達した部品を依頼人に渡したところまでの記憶はあるが、その後の記憶がすっぽりと曖昧になっているという。
「なら、この学園の異変を根本から解決するにはどうすればいい?」
「部品調達を引き受けるために、その依頼人から設計図の端っこを見せてもらったことがある。……この異界化の装置をすべて破壊すれば、フィールドの同期は完全に解除されるはずだ」
スカルバルキモンが苦悶の表情を浮かべながらもハッキリと断言した。
「なら話は早いな。フウマモン、今回収してきた現物を合わせると、残りの装置はあといくつある?」
「今持ってきたこの1個を含めずとも、残りは全部で4つだ」
「なるほど、了解した。なら……」
ワルシードラモンとスカルバルキモンから情報を貰い、解決策をドゥフトモンと考え始めたショウは、考えがまとまったのかアリサの方を向いた。
「アリサ、お前のパートナーデジモンをリアライズしてくれないか?」
「分かりました。リアライズ! ベルスターモン!」
アリサがリアライズしたのは、黒いレザースーツを身に纏った妖艶な女性型デジモン――ベルスターモンであった。
「アタイの出番かい? アリサ?」
「そうなりますね。それでショウさん、作戦は?」
「ベルスターモンが上空から狙撃で破壊する。これが時間を掛けずに、ここにいる人たちを守りながら行える作戦だとドゥフトモンのお墨付きだ」
「それならアタイじゃなくて、ガンドラモンやマグナキッドモンでもいいんじゃないかい?」
「ドゥフトモン曰く、俺とアリサのパーティーだとベルスターモンが周囲に被害を出さずに精確な狙撃ができるだろうとのことだ。それに……これを渡す」
そう言うと、ショウは自身のデジヴァイスを操作し、とあるデータをアリサのデジヴァイスへと転送した。
「……これって、いいんですか? ショウさん!?」
アリサは送られてきたデータを確認し、目を丸くして驚きながらショウへ問いかけた。それに対しショウは、苦虫を噛み潰したようななんとも言えない表情を浮かべ、
「成功率を上げるためだ……」
と、葛藤を滲ませながらも口にした。
「ショウの奴、大分お悩みちゃんな様子だぜ?」
「うん……なんかあげたくないけど、背に腹は代えられないから渡したって感じだな」
ペパーとハルトがひそひそと話していると、
「気にしないでください。ショウの悪い癖です」
と、ラジエルモンが会話に割り込んで解説を始めた。
「おそらくアリサに渡したのは、以前苦労して手に入れたものの、勿体なくて使おうとしなかった特殊な進化アイテムです」
「あぁ……アレか! 確かにあれはなかなか手に入らないからな」
「そうなん? ショウってエリクサー症候群なん?」
「え~使わないと勿体ないじゃん。また手に入ることもあるんだし!」
ショウはそんな周囲の会話を聞こえない振りをしつつ、アリサに向かって強がってみせた。
「まだもう1つストックがあるから気にするな。さっさと異変を解決させた方がいい」
強がりながらも言い切ったショウに、アリサは苦笑いを浮かべつつ、ベルスターモンと深く頷き合った。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきますね。ベルスターモン!」
「了解!」
「ベルスターモン、【X-進化】!!」
ベルスターモンの全身が眩い幾何学模様の光に覆われた。その光の真ん中から『X』の文字が鮮やかに浮かび上がり、光が弾け飛ぶと――
「ベルスターモンX抗体!!」
ベルスターモンは【X-進化(ゼヴォリューション)】を果たし、より研ぎ澄まされた美しさと圧倒的な砲撃性能を秘めたベルスターモンX抗体へと姿を変えた。
「すごくカッコいいですよ、ベルスターモン!」
「サンキュー! アリサ、ショウ。これなら上空から一網打尽にできるよ。アタイに任せな!!」
ベルスターモンがX抗体へと進化を遂げた姿を見て、ハルトたちは目を丸くした。
「あれって……メガ進化、みたいなものなの?」
「まぁ、似たようなものと言えば似ているか? ……だが、あれは【X-進化】だ。【Xプログラム】という全てのデジモンを消去するための危険なプログラムが、デジモンの持つ生命の核『デジコア』と反応することで、その個体の限界を超えた潜在能力を引き出す特殊な進化さ」
ディルビットモンが丁寧に解説すると、ハッサク先生は腕を組みながら納得したように頷いた。
「以前、ショウ君から似たような話を聞いたことがありますが、確かにそのプログラム自体はあなた方デジモンにとって大変危険なものなのでしょう?」
「ええ、本来は危険な代物ですが、先ほどショウが渡したのはその危険を抑え込むための『抗体プログラム』です。人間に例えるなら、予防接種や血清のようなものですね」
ラジエルモンが補足するように優しく微笑みながら説明を加える。
「それに、消滅のリスクこそあるが、一気に戦闘力を跳ね上げられるという大きなメリットがあるからこそ、あえてX抗体を欲しがるデジモンも少なくない。うちの会長が言うには、会長や副会長といった一部の並外れた強者たちは、生まれながらにしてこのX抗体を所持している奴もいるそうだがな。……ちなみに、そこにいるスカルバルキモンも持っているぞ!」
「えっ!? 本当に!? ちょっと戦ってみたいかも……!」
「ネモさん、今はそんな場合ではありませんよ。落ち着いてください」
ワルシードラモンの言葉にネモが目を輝かせて反応すると、クラベル校長が慌ててやんわりと宥めた。
そんなやり取りをしている間に、ベルスターモンXは軽やかな身のこなしで上空高くへと舞い上がり、残された4つの装置を一網打尽にするための必殺技を放つ体勢に入った。
「新しいアタイの力、その目にしかと焼き付けな! 【フライバレット・セグンド】!!」
完全体デジモンたちの気配を正確に捉え、ベルスターモンXは舞うように二丁の銃『リゾマデロート』から特殊な翼の付いた弾丸を次々と発射した!
放たれた銃弾は意思を持っているかのように美しい軌道を描き、護衛のデジモンたちのデジコアをミリ単位の狂いもなく的確に撃ち抜いて無力化すると同時に、そのまま目標である異界化の装置をも一寸の狂いもなく貫通し、完全に破壊し尽くした。
「見事……流石は『三銃士』の一角。かの暴食の魔王にもひけを取らぬ、見事な狙撃腕前ですね」
「それを本人には言わないでくださいね。……さて、これで霧も晴れて、今回の異音の元凶も全て排除されたわけですね」
「あぁ、見ろよ。霧がどんどん晴れていくぞ」
フウマモンが淡々と呟き、ショウが指差した方向を見ると、アカデミーを覆っていた禍々しい霧がまるで嘘のようにサーッと晴れ渡っていくのが確認できた。
装置の完全な破壊と霧の消散を確認した後、ショウたちはフウマモンやモニタモンたちに協力してもらい、一時的に保護していた生徒や先生たちを安全にそれぞれの自室へと戻した。さらに、事後処理としてワルシードラモンとスカルバルキモンをデジヴァイスへ安全に収納し、戦闘の末にデジタマへと戻ったデジモンたちの回収も手際よく済ませた。
空が白み始め、夜明けの気配が校舎を包み込む頃には、今回の騒動に関わった全員が無事に自室へと戻り、学園に平穏が戻りつつあった。
しかし、その誰もが胸を撫で下ろした静寂の裏で――この一連の一部始終を、闇の中から誰にも気づかれることなく、冷徹に観察し続けていた人物がいた。
「……ふむ、今回の余興としては、まあまあ退屈を紛らわす程度には楽しめましたね。さて、次は……っと」
その人物は、暗がりの中で不敵な笑みを浮かべながら、ふと何かを思い出したように呟いた。
「そういえば……こちらの世界でひそかにスカウトしておいた『彼ら』を、そろそろ本格的に動かしますか……」
闇に溶け込む影が、愉快そうに肩を揺らす。
「彼らはいったい、どのような面白い『爪痕』を残してくれるかな……? こちらの計画は、まだ始まったばかり。せいぜい楽しませてくださいよ、ユニオンのテイマーたちよ。フフフ……フハハハハッ!」
歪んだ笑い声を残し、その人物の気配は夜の闇へと完全に溶け込むようにして消え去っていったのだった。