Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
少年少女たちは、歓喜に酔いしれていた。
自分たちを理不尽に退学に追い込んだスター団へ報復するための力を、謎の「恩人」から与えられたからだ。手始めにデジモン同士を戦わせてみたところ、その桁違いの暴力的な強さに彼らは驚愕した。その後、そこらを歩いていたパルデアの一般トレーナーとポケモンバトルをさせてみても、まるで赤子の手を捻るように簡単に蹂躙できた。
「これだけの力があれば、スター団への復讐どころか……もしかして、このパルデア地方そのものを俺たちの物にできるんじゃないか?」
誰かがそう口にしたのをきっかけに、周囲の少年少女たちの間から次々と肯定的な声が上がり始めた。
野望に目がくらんだ彼らは、ポケモンリーグとアカデミーを同時に占拠するため、まずはスター団の各アジトへデジモンを送り込んで襲撃をかけた。事前に仕入れていた情報通り、自分たちの邪魔になりそうな別世界の人間やパルデアのジムリーダーたちは見事にその陽動へと釣られ、アジトの方へ誘き出されていった。
その隙に、自分たちは手勢を引き連れて堂々とテーブルシティへと進軍した。
しかし、街の正面ゲートの前には、一人の男がただ堂々と立ちはだかり、新たな支配者の自分たちに向かって偉そうに命令を飛ばしてきた。
男の両隣には、見たこともない圧倒的な威圧感を放つ二体のデジモンが控えている。
――「恩人」から得ていた情報に照らし合わせれば、あれが自分たちの計画の最大の邪魔になる「別の世界の人間」に違いない。
いくら実力があろうと、こちらには圧倒的な数のデジモンと戦力がいる。こんなたった一人の男など、数で押し潰せばいい。手始めに見せしめにしてやろうと、少年たちは自信満々にデジモンたちへ攻撃の指示を下した。
……だが。
蹂躙できるはずだった。
圧倒的な物量で、あの生意気な男を叩き潰せるはずだった。
「なんなんだよ……何なんだよ、これッ……!?」
「なんでたった二体しかいないのに、こっちが一方的に負けそうになってるんだよ……おかしいだろ!?」
少年たちは冷や汗を流し、血走った目で癇癪声をあげたが、現実が変わることはなかった。
「【ブレイブトルネード】!!」
「【世堀クロードリル】!!」
ウォーグレイモンは両腕の『ドラモンキラー』を構え、全身を激しい竜巻の如く回転させながら敵陣へ突進し、バンチョーゴーレモンは右腕の巨大なドリル状の掘削機を唸らせて突撃し、襲撃者たちのデジモンたちを次々と文字通り紙屑のように屠っていく。
「【ガイアフォース】!」
「【漢癪ダスト】!」
さらに、ウォーグレイモンが両手で圧縮・凝縮させた超高密度エネルギーの塊を放ち、バンチョーゴーレモンが荒ぶる闘気で周囲を粉砕すると、少年たちがかき集めたデジモンたちは為すすべもなく光の粒子へと変わり、次々と消滅していった。
「おいおい、お前ら二人とも、あんまり周囲の地形を派手に壊し過ぎるなよー」
そう注意しながら、テイマーの男――ソウマは、愛用のデジヴァイスをポケットに突っ込み、なんと生身の拳だけで群がる敵デジモンたちを次々と殴り飛ばしてなぎ倒していく。
あまりの化け物じみた光景に、リーダー各の少年は激しい焦燥感と恐怖に駆られ、震える手で別の入り口から進軍させていた部隊へとスマホロトムで連絡を入れた。
「こちら本隊! 東口、応答しろ……っ!」
「――こちら東口! なんだよ、今忙しいんだ!」
通信の向こうから、苛立った荒い口調が返ってくる。少年はムカつきながらも、必死に声を震わせないように平静を装って言った。
「こ、こちらに戦力を回してくれ! このままではこっちは壊滅してしまうんだ!」
「ふざけんな! こっちにそんな余力あるわけねぇだろ! こっちも正体不明の化け物に壊滅させられかけてんだよ!!」
怒鳴り返された直後、別のメンバーが持っていた別のスマホロトムにも、奇妙な雑音混じりの通話が入った。
「こちら西口! 聞こえるか! おい!」
何だと思って受話器代わりの画面に目をやると、通話状態のまま、向こうからは凄まじい戦闘の爆音と、仲間たちの断末魔の悲鳴がハッキリと聞こえていた。
「おい、どうした……っ!?」
嫌な予感が全身を駆け巡る中、問い質す間もなく、向こう側から絶叫が響いた。
「――こちらは、もうほぼ壊滅だぁっ!! 援軍を……援軍を送ってくれぇっ……!!」
ブツッ、と背筋が凍るような音を最後に、ギャーという生々しい悲鳴とともに通信が強制的に途切れた。
「やってられっかよ……っ! もうおしまいだ、俺たちは勝手に逃げさせてもらう!!」
東口の担当者も絶望したように怒鳴り声を上げ、その場で電話を切ってしまった。
通信を切るまでもなく、恩人から気前よく与えられたはずの強力なデジモンたちは、すでにすべて無力化されて倒れ伏し、残っているのは恐怖に震える自分たち少年だけだった。
すべてを失ったことを悟ったリーダー役の少年は、完全なる絶望に支配され、ガクガクと震える膝から崩れ落ち、地面にへたり込むしかなかったのだった。
??? サイド
「ありゃりゃ……煽ってみたけど、やっぱり無謀でしたか……。これでは弱いものいじめですねぇ」
フードを深く被った人物が、眼下で繰り広げられた一方的な蹂躙劇を見下ろしながら、心底呆れたように呟いた。
「仕方ない……少しだけ『テコ入れ』をしますか」
人物が後ろを振り返ると、そこには圧倒的な気配を放つ7体の強力なデジモンたちが静かに佇んでいた。
「依頼通り、時間稼ぎをお願いしますね」
そう告げると、7体は顔を見合わせ、代表して1体のデジモンが前へと歩み出た。
「……ひとつ条件がある。こちらが著しく不利になれば、問答無用で撤退させてもらうが構わないか?」
「ええ、構いませんよ。ただし、このあとの展開に必要なコマですから、あの少年たちの犠牲は極力出さないように救出してやってくださいね」
フードの人物がそう言うと、羽織っていたフードをふわりとはばたかせ、一瞬でその場から気配ごと姿を消した。
「チッ! いけすかない奴だ!」
7体のうちの1体が不快そうに吐き捨てる。
「我慢しろ……これも契約であり、依頼なのだからな」
「まぁいい、とりあえず依頼通り、あいつらの足止めと時間稼ぎをこなすとしよう」
重々しい声とともに、7体はそれぞれの手筈に従って散り、戦場へと向かって跳躍していった。
ソウマサイド
襲撃をかけてきたデジモンたちを完全に殲滅し尽くし、遺されたのは恐怖で膝を突いた少年少女たちのみとなった。
「こんなもんか……手応えがないな」
「もの足りんわ!」
不満げなウォーグレイモンとバンチョーゴーレモンに対し、ソウマは冷静に分析しながら言葉を返した。
「仕方ないだろ。コイツらが引き連れていたデジモン、どうやら既存の何かのデータの上にデジモンのテクスチャを無理やり貼り付けただけの『偽物』っぽかったからな。……さて、とりあえずリーグと警察に連絡して、こいつらを確保してもらうか」
ソウマがデジヴァイスを取り出し、ポケモンリーグへ連絡を入れようとした、その瞬間――
鋭い殺気の気配を察知したソウマは、即座に片腕をかざして即死級の炎とレーザーの追撃を極めて自然に防ぎ切った。
「チッ! 防がれたか」
「当たり前だ、ドルビックモン。そんな生ぬるいこけおどし、奴に通じるはずもなかろう」
煙の向こうから悠々と降り立ったのは、赤い体色をした凶暴な竜デジモン、背中から無数のコードのようなものを生やした知性派デジモン、そして青黒い邪悪な炎を纏ったヒト型の獅子デジモンであった。
「お前らは……『ビッグデスターズ』のドルビックモンとグラビモン、それにアポロモンウィスパードか。……なるほどな。大方、依頼を受けて、そこの威勢だけは良かったガキどもを助けるための時間稼ぎってところか」
瞬時に正体と目的を見破ったソウマに、グラビモンは感心したように口を開いた。
「ほう……一瞬でそこまで察するとは、流石だな」
ドルビックモンは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「フン……このような塵芥どもを助けるつもりなど毛頭ないが、依頼主からの指令だからな」
アポロモンウィスパードは下卑た笑みを浮かべ、少年少女たちをゴミでも払うような手つきで追い払う仕草をし
「そういうことだ。お前たちクソガキどもは、さっさとあの町の中へ消えろ。我々の戦闘に巻き込まれて消し飛んでも知らんぞ」
恐怖に直面していた少年少女たちは、悔しさに歯噛みしながらも、言われるがまま死に物狂いでテーブルシティの中へと逃げ込んでいった。ソウマがそれを追いかけて阻止しようと一歩を踏み出すが、三体の息の合った牽制攻撃によって進路を遮られてしまう。
「すまんが、少しばかり我らの遊びに付き合ってもらうぞ」
「と言っても、我々も無駄死にするつもりはないからな。程々で終わらせてもらうがね」
ソウマは深いため息をひとつ吐き出すと、立ちふさがる三体を鋭い眼光で睨みつけた。
「……やれやれ、しょうがないな。ウォーグレイモン! バンチョーゴーレモン! 倒すなよ! 黒幕に繋がる情報が欲しいから手加減しろ!」
『了解!』
『おう!』
二体に指示を出して戦闘を任せると、ソウマは即座にオモダカへ連絡を入れて手短に状況を伝え、目の前で始まった究極体同士の激突に意識を集中させた。
(……しかし、この黒幕の本当の狙いは何だ? 囮に次ぐ囮……一体何を企んでやがる……?)
戦火が激化する戦場の中、ソウマの思考はさらに深く潜っていくのだった。