Re.ポケットモンスターSV~電子生命体との出会い 作:ガチャガチャクツワムシ
スター団のアジト襲撃およびテーブルシティでの大規模襲撃事件は、事前の防衛ラインや各所での迅速な迎撃、そしてデジタルワールドへの戦場移行などの適切な処置が功を奏し、幸いにも人命に関わる被害はほとんど発生しなかった。被害は一部の建物や外壁の破損程度に留まったものの、デジモンたちによる異様な進軍や激しい戦闘の様子はテレビやSNSを通じて大々的に放映され、ネット上でも瞬く間にパルデア中を揺るがす大騒動となっていた。
「さすがにこれだけ大々的に暴れ回れば、大騒動になるのも無理はないか。……もっとも、幸いなことに俺たちの顔はショウのヘクセブラウモンの認識阻害魔法のおかげで、マスコミのカメラやネットの映像には一切映らなかったがな」
「そうだな。警察やリーグも必死に対応しようとしたが、相手が群れをなして牙を剥いて進軍してきたものだから、現場は大混乱だったと今朝の新聞にもデカデカと書いてあったぞ」
「この事件のせいで、グレープアカデミーも暫くの間は休学措置になってしまいましたね……」
「ポケモンリーグの方も、事後対応や各所への被害報告に追われてててんてこ舞いみたいだ」
事件から2日後。緊張が少しだけ和らいだ落ち着いた雰囲気の中で、ショウとアリサはソウマが借りているアパートの一室に集まり、現状の整理と今後の話し合いを行っていた。
「それで、本部や関係各所から何か新しい連絡は入りましたか?」
ショウが尋ねると、ヒョウガが手元の資料に目を落としながら答えた。
「ああ。調査の結果、今回の襲撃で雑魚として使われていたデジモンの大半は、スプラッシュモンの一部である【ドリッピン】を核にして、その上から特殊なホログラムのテクスチャを貼り付けただけの『偽造デジモン』だったことが判明した」
「なるほど……。だから、倒しても実体が残らず、すぐに消滅するだけだったんですね」
「ただ、その偽物たちに遠隔で命令を送信・維持するため、一部には本物のデジモンが混ざっていたらしい。主犯格のデジモンたちに至っては、無理やりデジタマへ生体データを過剰に注ぎ込み、強制的に進化させて戦力に仕立て上げていたようだな」
「だから、あんなに見た目だけのハリボテみたいな強さだったわけか……」
ヒョウガの解説に納得の声を漏らすショウ。続いて、アリサが気になっていた点を切り出した。
「ところで、事前に確保した【ビッグデスターズ】の面々からは、何か有用な情報を聞き出せたんですか?」
「あの後俺達で直接問い詰めておいた。連中の言い分によれば、黒幕に高額で依頼され、『ドリッピンや襲撃犯たちがピンチに陥ったら、時間稼ぎついでに助けてやってくれ』と頼まれていたらしい。……ただ、流石に俺やヒョウガがいる上に、一歩間違えればロイヤルナイツや四聖獣すら敵に回しかねないと悟って、連中も『割に合わないからさっさと手を引きたかった』そうだ。だから、こちらの追及に対してはわりと素直に知っている情報を提供してくれている」
ソウマの報告を聞き、アリサは思わず苦笑いを浮かべるしか なかった。
「結局のところ、肝心の黒幕の正体は分かずじまいってわけですか」
「ああ。ビッグデスターズ側も、依頼主の正体は徹底的に隠蔽されていて直接の顔までは割れていないそうだし、襲撃犯の少年少女たちは未だに意識が戻らない。そして、最も重要な黒幕の繋がりや情報を握っていそうな元教頭は、自業自得とはいえ命を落としてしまったからな……。黒幕の足取りを掴むには、まず襲撃犯たちの意識が戻るのを待つしかなさそうだ」
ソウマがこれまでの経緯をそう纏めると、ヒョウガは話題を切り替えるように一つ大きく伸びをした。
「そういえば……明日には、俺とソウマはこの世界から元の場所へ帰還することになる。向こう側に戻ってからも、こちらの世界との境界や裏の調査は引き続き続けるつもりだ。何か新しい手がかりや不穏な動きが分かったら、すぐに連絡を入れる」
「分かりました。……ところで、このアパートの滞在延長料金とか、金銭面は大丈夫なんですか?」
「あぁ、それか。そろそろ大家さんに支払いにいこうとしたら、『こんな事件が起きたんだ』って言って、延長はタダにしてくれてな。だから心配いらねぇよ」
ヒョウガがフッと笑いながらそう答えると、すぐに表情を引き締め、真剣な眼差しで二人を見据えた。
「このパルデアの世界で、お前たちの手に負えないような何か重大な異変が起きたときは、いつでも遠慮なく呼べ。すぐに俺たちもこちら側に駆けつけるからな。……だから、お前らもあまり無茶はするなよ」
先輩テイマーたちからの力強い言葉に、ショウとアリサはしっかりと力強く頷き返すのだった。
ソウマたちとの重要な話し合いを終えたあと、パルデア地方のトップであるオモダカチャンピオンと、グレープアカデミーのクラベル校長から、帰還する二人へ直接挨拶をしたいという申し出があり、ポケモンリーグの本部にて正式な時間を設けてもらうことになった。
迎えた翌日。ショウとアリサが二人を見送るために寮を出ようとしたところ、ハルトとボタンの二人も「自分たちも直接お礼を言いたいことがあるんだ」と言い出し、一緒に同行することになった。
「この度は突然の挨拶になりすみません。……もっとも、私たち自身の事情で、また元の世界へ帰還することになりますが」
「構いませんよ。むしろ、今回のテーブルシティの防衛と危機を救っていただいたこと、パルデアを代表して心より感謝いたします」
「私からも改めてお礼を申し上げます。我がアカデミーの生徒たちの命と未来を守っていただき、本当にありがとうございました」
厳かでありながらも穏やかな雰囲気の中、ソウマ、ヒョウガの二人と、オモダカ、クラベル校長の間で丁重な挨拶が交わされていた。そのやり取りがちょうど一段落した頃合いを見計らい、ショウたちは静かにノックをして入室した。
「失礼します。チリさんから『今ここに応接している』と聞いてやって来ました。……お二人にどうしても話があるという二人を連れてきました」
ショウが代表してそう告げると、ハルトとボタンがソウマとヒョウガの前に進み出た。
「あの……最初にアカデミーで会った時にアドバイスしてくれたおかげで、友達と無事に仲直りできました。本当にありがとうございました!」
「ウチの大切な友達と、みんなの宝物を守ってくれて……ありがとうございました!」
ハルトとボタンはそれぞれ感謝の言葉を述べると、揃って深々と頭を下げた。
「気にするな。若者たちが自分の足で立ち直るのを導くのも、大人の義務ってやつだからな」
「こちらの世界のいざこざのせいで色々被害も出たしな。……顔を上げろ、当然のことをしたまでだ」
ソウマとヒョウガは少し照れくそうに笑いながら、二人へ頭を上げるよう促した。
ハルトとボタンが顔を上げ、ホッとしたような笑顔を見せたその横で、ヒョウガがふと思い出したようにショウの方を向いて声をかけた。
「そういえばショウ、そろそろ『あの時期』になる頃だぞ。お前も今年の大会に参加するなら、今のうちからしっかり準備をしておけよ」
「えっ……? ああ、なるほど……もうそんな季節ですか」
二人の突然の会話の内容に、ハルトやボタンが首をかしげていると、アリサがすかさず補足説明を入れた。
「私たちの世界で年に1回開催される、両チーム対抗の公式戦のことです」
「今年は、お前らもランクが上がったからな。『プラチナランク』の代表戦ってことで、向こうでもすでに結構話題になっているらしいぞ」
「もうそんな時期なんですね……」
「まぁ、もし特訓相手が必要になったらいつでも連絡しろ。付き合ってやるからな」
「わかりました、ありがとうございます」
短い雑談交じりの確認を終えると、ソウマとヒョウガは再びオモダカとクラベル校長に向き直り、ビシッと敬礼をきめた。
「それでは、私たちはこれで失礼します。……なお、例のデジモンや怪しげなプログラムを提供した黒幕に関する情報が向こう側で分かり次第、ショウかアリサの方へ必ず情報を転送します」
「承知いたしました。よろしくお願いいたしますね」
「どうか、ショウとアリサのことも引き続きよろしくお願いいたします」
「お任せください!」
しっかりと言葉を交わすと、二人は応接室を後にした。
全員でポケモンリーグの本部ビルを出たあと、周囲に人のいない静かな場所へと移動し、ヒョウガがデジヴァイスを操作してデジタルワールドへと繋がるゲートを開いた。
「それじゃ、二人とも、この世界でもしっかり頑張れよ!」
「「はい!!」」
ショウとアリサが力強く敬礼して見送るのと同じく、ソウマとヒョウガも引き締まった表情で敬礼を返し、眩い光の向こう側へと姿を消していった。
こうして、パルデア地方を揺るがした激動の異変は、ひとまずの平穏を取り戻すのだった。