SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
剣と魔法のファンタジー異世界。
この世界に転生してきたんだと語る人々が、そう目を輝かせていたのは、1000年は前のこと。
かつて、竜と魔族のものだった空は、今では車と電車が飛び交っている。
その威光を知らしめていた城下町は、すっかりビルやセンターの群れに様変わりして。
腐るほどいた剣士や魔法使いはすっかりいなくなり、今ではアンドロイドや異星人が当然のように暮らしている。
だから──きっと。
今も転生者というのがやってくるのなら、きっと、今度はこう言うのだろう。
「SF世界だーってな」
自身が営む骨董屋にて、のんべんだらりとそうぼやく。
随分昔に始めた店だけれども、店内はガランとしていて、閑古鳥が鳴いていた。
まあ、SF世界だってのに、古臭いツボであったり、良く分からん魔法陣の刻まれた時計を売る店が、繁盛するとは考えづらいよな。
ジャンク屋の方が、まだ儲かるというもんである。
「これも昔は、国宝扱いだったんだけどなー」
プラプラと、売り物の時計を摘んで揺らす。
これに限らず店内に並べてあるものは、どれもが当時、それなり以上の値打ちであったか、あるいは、値なんてつけられないようなお宝だったものたちだ。
まあ、残念ながら、その由来を証明できるものがないので、今じゃゴミ同然であるのだが。
あの頃は良かったなー、なんて。
我ながら爺臭いことを、眺めていると考えてしまう。
「ちょっとテンチョー。何一人でポヤポヤしてんのー? サボり、ダメ。ぜった~い」
「仕事しないで、宿題に勤しんでいる人が言えることか? バイトちゃん」
「あちゃ、これは失敬」
言いながら、しかしホログラムウィンドウを閉じるつもりのない少女は、ウチ唯一のバイトちゃん。
歳は17。華の女子コーセーってやつだ。
一年ほど前から働いている、いわゆる看板娘と言っても良い。
しかしながら、閑古鳥が合唱しているようなこの店に、バイト必要なのか? と問われれば、正直そんなことはない。
お客さんが来る日の方が珍しいような店である。
であれば、どうしてバイトを雇っているのかと言えば──
「でもさ、テンチョー。こんなにお客さんがいないのに、やる気までなかったら、お店潰れちゃうよー?」
「それな~」
くぅ~、これこれ! と心の中でガッツポーズを決めながら、やる気のない声を返しておく。
さて、既にお気づきかもしれないが、こういう「寂れた喫茶店で経営を心配してくれるバイト」が欲しかったから雇ったというのが、簡素な経緯であった。
お陰様で、毎日心を潤わせていただいている。
サンキュー、バイトちゃん。
「それな~って……。もうっ、ホントにやる気ないなー。生活とか大丈夫なの?」
「そこはご心配なく。これでも店長、金持ちだから」
「……そうは見えないけど」
「真の金持ちってのは、金を持ってることをひけらかさないんだよ」
じとーっと不審な目を向けてくるバイトちゃんを、煙に巻くように笑う。
無論、嘘ではない──これでも、それなりの財産はある。
ていうか、そうじゃないとこんな店やってられないだろ。
あくせか働くのも悪くはないと思うけれど、やっぱり日々だらだら生きる方が、俺の性に合っている。
ビバ、スローライフ!
「じゃあ、お給料上げることも可能だったり……!?」
「強欲なバイトすぎるだろ。今でも十分、好条件だろうに」
「知らないの? テンチョー。人の欲望は底なしなんだ……ぜっ」
「喧しいわ」
知ってるならむしろ、自重しなさいよね……とため息を吐く。
人は欲望を持ちうるものであるが、それを表に出さないことを美徳とする生き物である。
それは、今も昔も変わらない。
欲望の赴くままに生きる人って、結局破滅するもんだしな。
歴史が証明していたりするので、たまには勉強してみると良い。
「でも、ま。ボーナスくらいはあげてもいいかな」
「へぇ!? マジで!? 私何もしてないよ!?」
「や、日々潤してもらってるから……」
「何か理由キモ」
怖いからちょっとだけで良いよ……と引いた目をして言うバイトちゃんだった。
謙虚なのか欲張りなのか、微妙に分からない娘である。
それがまた人間らしくて好ましい──とも言うのだが。
「てか、それよりさー。テンチョー、暇なら宿題見てよ」
「おい、またかよ……昨日も見たばっかだぞ」
「最近多いんだよね~。特に歴史、ほら見てこれ。今どき紙って有り得なくない? 古臭すぎるんですけど」
「仮にも骨董品屋バイトが店長に言って良い台詞?」
何ならこの星で最も古臭い場所が、此処と言っても過言ではないんですけど……。
しかしまあ、バイトちゃんの言う通り、今どきプリントだなんて珍しい。
先生は余程の物好きなのだろう。話が合いそうだ。
数枚ある内の一枚目。
その一番上には、「800年前の王女の名前を答えよ」と記載されていた。
「……おい、初手から躓くな。しかもこんな一般常識で」
「現王女様ならともかく、そんな大昔の王女様の名前は一般常識じゃありませ~ん」
「や、大昔って。たかだか800年だろ……」
「ん~、相変わらず時間の感覚バグってるなぁ、テンチョーは」
噂のエルフみたいじゃん、とバイトちゃんが笑う。
俺をあんな、数百年生きるようなやつらと一緒にしないでいただきたい。
「それより、答えは? 勿体ぶってないで教えてよ~」
「……リュシアな。リュシア・アレトリウス」
「おぉ~、さっすが。実は友達だったり?」
「友達っつーか、弟子だよ。かつての弟子」
「たはは、ナイスジョーク」
真顔で言うバイトちゃんだった。せめて作り笑いくらいしてくれよ。
どこにもナイスな要素が含まれてないんですけど?
こっちの方が、何だか悪いことをした気分である。
「でも、それが本当ならさぁ。どうして今、骨董品屋なんてやってるの?」
「あー……まあ、最終的に城を追放されてな」
「ウケる。テンチョー、何したのさ」
「……まあ、色々とな」
人間、長く生きていれば色々あるもんだ。
良い感じにそう〆て、宿題の続きを促すと、バイトちゃんは苦々しく歪めるのだった。