SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
「わたくしはメイナ。おはようございます、ご主人様」
そう言って、筐体から出てきたのはメイド姿の少女──否。
「嘘でしょ、アンドロイドじゃない」
思わず口を突いて出たようなミオラの言葉を、無言で首肯する。
確かに、彼女は人間ではない──だけど、正確にはアンドロイドでもない。
「アンドロイドっていうか……正確には、
「て、テンチョー。それって何か違うの?」
「ん~……まあ、似たようなもんではある。言うほど違いはない」
巷で言うアンドロイドってのは、その名の通り、機械で精巧に作られた自律思考型のロボットだ。
基本的には電力を充填し、それで動く。少なくなれば充電し、再稼働。
人の命令に違反することはなく──まあ、一般的には、自我を持つこともない。
100年以上は余裕で動く、最新鋭の機械。
それに比べて魔法人形というのは、魔法全盛期に良く作られた人形のことを指す。
人間そっくりに作られたドールに、滅茶苦茶複雑な魔法陣を刻むことで作られる──それこそ、アンドロイドのようなもの。
魔力を流して起動した人間を主人とするこれらは、基本的には雑用であったり、奉仕するのに使われた。
こちらは動力を魔力とする以上、魔力がないと指一本動かせない。
魔力を持つ人間がどんどん減って、今では一人も生まれてこないのだから、そりゃ廃れるよなって感じだ。
しかも、耐用年数はどれだけ傑作であっても、10年にも満たない。
そもそも魔法というのは、長く効果を発揮するものではないのである。
複雑な魔法陣になれば、それも尚更だ。
「おはよう、メイナ。何年振りのお目覚めだ?」
「──実に769年10カ月23日振りほどかと存じます、ご主人様」
「わお、年代物ね。769年って、何代前よ……」
「さて、な。少なくとも、二人よりは先輩らしい──それで? 何でこんなところで眠ってたんだ?」
そう聞けば、メイナと名乗った魔法人形は、きょろきょろを周りを見渡して──深々と、頭を下げた。
礼儀正しい、整えられた所作。
それだけで、随分上等な魔法人形であることが分かる──粗雑な作りだと、動きが鈍かったり、ぎこちないもんだ。
「申し訳ございません、分かりません。記録を遡ってみても、眠りに入るまでの前後の記憶が抜け落ちており……」
「……つまり、それ以外は覚えている、と? 例えば、元の主人とか」
「ええ、覚えておりますとも。ミトラス・リューベルスタイン様の元、50年以上奉仕しておりました」
「ま、マジか……」
誰に仕えていたのかはどうでも良いのだが、記憶を保持している──という一点に、ビックリしてしまった。
いや、普通有り得ないから!
どんだけ良いやつでも、10年くらいしか持たなかったの!
それが──50年?
そりゃ魔道具の中にでも隠すわと、一人納得した。
それが何故、ゲームの筐体だったのかは分からないが──誰かの手に渡ることを、避けたかったのだろう。
こんだけ出来が良ければ、独占したくなる気持ちは分かる。
まあ、そのお陰で今、扱いに困ってるんですけどね?
持ち主が分かれば返せたのだが、それも今となっては、望めないだろう。
「……多分、元ご主人様的には、望ましくない目覚めだったと思うんだけど。どうする? どうとでもできるけど」
「ちょっと、アンドロイドに自由意思を聞いてどうすんのよ。意味ないわよ」
「馬鹿お前、魔法人形だって言ったろ──彼女には、自我があるんだよ」
「──えっ」
絶句したように、ミオラが俺を見る──そう、魔法人形には自我がある。
というか、時間を経るごとに自我を獲得すると言うべきか。
曰く──魔力には、持ち主の魂が混ざっているという考えがある。
これを動力とし、長年稼働することにより、魂が染み付き自我が生まれるのではないかと、当時は考えられていたのだが……。
今じゃ真相は闇の中である。
そしてそれこそが、魔法人形とアンドロイドの、明確な違いと言えるだろう。
しかしながら、メイナは困ったように笑った。
「それは、ご主人様のご命令次第かと。わたくしに、わたくしのことを決める権利はございません」
「あー……なるほど……」
再度、ミオラへと目を合わせる。
自我はあるんだけど、ないように躾けられているタイプだ。
まさかの地雷に冷や汗をかけば、理解したらしいミオラも微妙に表情を歪めた。
「すまん、自由意思なかったわ」
「それ、今伝えられるとすっごい気まずいんだけど……」
「いや、だからごめんって」
「謝られると更に気まずいのよ……!」
馬鹿ッ! とヒールで足を踏み抜かれる俺だった。
飛び出そうになったどでかい悲鳴を気合で堪えていれば、バイトちゃんがスッと、俺の横をすり抜けた。
メイナの方へ、歩み寄る。
「メイナ……って言ったよね。メイドさんなの?」
「はい、お嬢様。以前までは、そのような振る舞いを求められておりました」
「じゃあ、あまり気は進まなかったんだ?」
「いえ、そういう訳ではございませんよ、お嬢様──むしろ、わたくしは嬉しかった……と感じていたはずです」
「ふぅーん……それは、ご奉仕するのが? それとも、メイドさんをやることが?」
「それ、は──……」
メイナが少しだけ、悩む素振りを見せた。
ミオラはそれを、実に訝しげな──あるいは、物珍しい目で見る。
まあ、実際に珍しいだろう。
アンドロイドが悩むことってないしな。
人間、あるいは魔法人形独特のものだ。
「恐らくは、前者を。わたくしは、人に奉仕することに、幸せを感じるのです」
「──あは。そっかそっか。それなら、ね、テンチョー!」
「……あっ、俺? え、何?」
急にこっちに矛先が向いたものだから、半端な返事をしてしまう。
しかし、バイトちゃんは構うことなく、メイナの手を取った。
「メイナ、ウチで雇おう!」
「はぁ?」
「だってメイナ、人に奉仕したいんだって──それってつまり、働きたいってことでしょ?」
「まあ……そうとも言うかもしれんが」
「だからさ、ウチでバイトしてもらえば良くない?」
「いや、これ以上バイトはいらねーよ……」
「ガーン!」
何で~!? という顔をするバイトちゃんだったが、当然だろと思う。
ただでさえ、仕事なんて無に等しいのである。
仮に、メイナが働きたいというのであれば、むしろ俺みたいなところは、不適格極まりない──あっ。
「……なぁ」
「やめて」
「ミオラ」
「やめてってば」
「お前、猫の手も借りたいとか言っていたよな?」
「……バカの触手でも、ね。はぁ〜〜〜」
深々とした、大きなため息。
それを以て、ミオラはジロリと俺を見た。
「確かに言ったけど、貴方ね。そもそも魔力? とかいうのがないと、動かないんでしょう」
「そこはほら、定期的に提供してやるからさ──それに、メイナは優秀だ。きっと役に立つ、お墨付きだ」
「何よそれ……ったく。仕方ないわね」
ツカツカと、ミオラがメイナに歩み寄り、ジロジロと観察をする。
それから、「良し」と一言吐き出した。
「貴方にはこれから、ウチで働いてもらうわ。ビシバシ行くから、覚悟することね」
こうして、ミオラのゲームセンターには魔法人形の看板娘が誕生するのだった。
それがSNSで話題になって、更に忙しくなるのは、また別のお話である。