SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
俺達の暮らす、アレトリウス皇国というのは、本ッ当に大昔からある国だ。
それこそ、この世界が剣と魔法のファンタジーをやっていた頃から存在する国であり、超科学を恩恵として得られた数少ない国の一つと言っても良い。
当時の王室が超柔軟だったんだよなー。
異文化や異文明を取り込むのは──ハッキリ言って、忌避感が先に来るものだ。
それは個人単位でもそうだし、その規模を国家レベルにすれば、然もありなんと言ったところだろう。
だから、始めは科学そのものを受け入れがたいとする国が多かった──というか、そういうところしかなかったと言えるだろう。
ただでさえ、こちらは勇者とその仲間によって、「超科学の軍勢」を跳ね除けてしまったのだから。
その事実は逆説的に、魔法は科学と並びうる──あるいは超えていると思わせても仕方がない。
だから、当時は反発する人間の方が多かった。当然だな。
その中で、真っ先にそれらを享受するべく動いたのが、アレトリウス皇国だった。
当時、アレトリウス皇国と言えば「魔法皇国」とも呼ばれるくらい、魔法に傾倒していた国だったから、多くの人間が「おいマジかよ、王室乗っ取られでもしたか?」という疑念を抱いたという。
しかしながら──それは、魔法をより知っているからこその判断だった、と言えるだろう。
他より魔法に精通するが故に、魔法の欠点を彼らは良く知っていた。
だからこそ、誰よりも早く科学を享受したのだ。
……まあ、その過程で変わったものも多いのだが。
かつてのアレトリウスは、王と貴族が民を治める典型的な封建制度であったが、今では貴族制度が解体され、議会と選挙が導入された。
現在は皇帝を国家元首としながら、国民が選んだ議会と政府が、政治を担う立憲皇国となっている。
これは、この星が他の星にさえ手を伸ばしたから──つまり、別の衛星や惑星を自治領として抱えるようになったからでもあるのだが。
要するに、普段は民主主義だけど、天辺には皇帝様がいる……程度のものになったってことだな。
それでも、多くの国民が畏怖と尊敬を持っているのだから、お飾りと化した訳ではないというのもミソである。
──それが、正解だったのかどうかは、今この国を見れば分かることだろう。
あちこちに高層ビルが建ち、宇宙空間へと繋がる軌道エレベーターが複数個設置されている。
治安が完璧平和とは言えないけれど、それでも地獄絵図とは程遠い。
上手いこと統治されている方だ──それは、今も昔も変わらない。
変わらないと言えば、国のど真ん中に建造されたどデカい城も、昔から見た目がそのままだけど──それは見た目だけで、内実はガチガチに科学で固められた要塞だ。
ネズミ一匹通さないような、強固なセキュリティが網を張っている。
いつだって、最先端にいる国がアレトリウスだ。
この星を束ねるようになってからも、それは変わらない。
「でも、テンチョーはそこから追放されたんだっけ? 益々何をやったのか、気になるけどなー」
「そう大したことじゃないよ。ただ、邪魔だってんで、追い出されたんだ」
「や、それ絶対色々省略してるでしょ……」
私の目は誤魔化せないぞ~? と、親指と人差し指で丸を作り、覗き込んでくるように言ったのは、言うまでもなくバイトちゃんだ。
本日は憎たらしいほどの快晴。
揃って我が店の前に置いてあるベンチに並べて座り、ぼやっと空を見る。
「テンチョーがうるさいから、最近はちゃんと勉強してるけどさー。皇帝様ってそんなに馬鹿じゃなくない?」
「馬鹿じゃないから追い出されたんだよ、分かるか?」
「また意味深な言い回しだ! そやって煙に巻くような物言いばっかだと、テンチョーホントにモテないよ?」
「……ハッ」
「鼻で笑われた!?」
モテるとかモテないだとか、俺にも気にしていた時代があったなーと思って、思わず笑ってしまった。
あの頃は若かった……今ではもう、その辺の感情が全然ない。
これを枯れているというのだろうか。
肉体はかなり若者なはずなんだがな。
「いつ来ても暇そうですねぇ、この店は。少しは商売人らしく、逞しい商魂とかお店にならないんですか?」
ふと。
そんな感じの辛辣発言が真下から飛び掛かってきた。
おや? と足元に目を向ければ──地面から
クルリとターンして、にこりと笑う。
「ねぇ、店長さん?」
「おー、ユーコク。久々だな、半年ぶりくらい?」
「1年と8カ月ぶりです。店長さんってば、時間の感覚、またおかしくなってませんか?」
「マジか、そりゃビックリだ」
わー、おっどろき~。と両手を挙げれば、むすっとしたようにユーコクが頬を膨らませる。
彼女は長い黒髪で、どこからどう見ても女子小学生の見た目をしている少女だった。
そんな俺達を見ながら、バイトちゃんが「え? いやっ、テンチョー!」と軽く叫んだ。
「そっ、その子誰!? 何!? 今地面から出てきたよね!? 後なんか透けてるし! 良く見れば足もなくない!?」
「そこまで見れてるならもう分かるんじゃないか?」
「店長さん、この子は? 随分騒がしいですが」
「最近雇った、ウチのバイトちゃん。看板娘ってやつだな」
「ほほー、なるほど」
ユーコクはポンポンと自身の真っ白なワンピースをはたき、それから恭しく一礼をした。
見た目から到底考えられない、整ったお辞儀だ。
「初めまして、バイトさん。わたしはユーコク。ユーコク・ゼ・プリスティナと申します」
「わっ、ごめんなさい、ご丁寧に! こちらこそ、初めまして。私は──」
「ああ、お名前は結構です。覚えるのが苦手でして」
可愛くウィンクをしながら、結構しんどいことを言うユーコクだった。
悪気はないのだが、言い方って大切だよなぁ……。
「見た目に騙されるなよ。ユーコクは200歳越えの婆さんだ」
「ふふ、殺しますよ? 店長さん」
「この通り、物騒な女でもある」
「物騒にさせてるのは店長さんですけどね?」
ていっ! と俺の脇腹を殴りつけるユーコク。
拳がスカスカと身体をすり抜けるのは、傍から見たらホラーだなと思った。
「さて、それでは質問に答えましょうか──わたしが何者か、でしたよね?」
コホンと意図的に咳払いをして、それから彼女は胸を張る。
バイトちゃんがごくりと息を呑んだ。
「わたしは幽霊でもなければ、異星人でもありません──わたしは魔族。今はもう、たった一握りの、生き残りです」