ダンジョンコア、人になる   作:SHノーマル

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閑話 トウカの日常

「どれにしようかな……」

 

 私は今、部屋の片付けをしている。

 寮に引っ越す前の、最後の大掃除だ。

 必要な荷物はすでに送っている。

 あとは趣味の……重要なコレクションを厳選する作業だけ。

 コレクションの残りは押入れと、PCのデータに封印していく予定だ。

 手荷物として持っていけるだけにしようと考えていたが、いざとなると迷ってしまって決めきれないでいた。

 

 コレクションの一つが滑り落ちる。

 ――懐かしい。リオとピクニックに行ったときの写真だ。他にも、水泳の授業で見せたリオの眩しい水着姿、不意に見せた寝顔……データの中から特に気に入ったものだけを選んでプリントアウトしたというのに、その数は軽く1000枚を超えていそうだ。

 流石に、これ全部は持っていけないな。

 他にも泊りに来た時に使っていた歯ブラシや、こっそり拝借した使い古したトランクス……そんな私だけの宝物がいくつも眠っている。

 

「はあ……」

 

 リオの事を思うとため息が出る。

 最初に興味を持ったのはいつからだっただろうか。

 たぶん幼稚園に上がる前より、もっと前の事。

 彼は少し変わっていた。

 泣いている子供を見て、一生懸命慰めようとする。かと思えば、その子を真似て自分が涙を流そうと一生懸命泣きまねをしてみたりするのだ。

 理由を尋ねると、彼は決まってこう言った。

 

「だって、こういう時の『悲しい』って気持ち、知りたいんだもん」

 

 保育士さんが、困ったような顔でリオの話を聞いていたのを、私はよく覚えている。

 

 私が他の子に意地悪をされて泣いていた時、彼はそっと隣にやってきて、何も言わずに私の頭を撫でてくれた。

 あの時は、泣き真似なんてしなかった。ただ静かに、優しく、私の髪を撫で続けてくれた。

 

「よしよし」

「……っく、ひっく、どうして……?」

「こまった人を助けるとしあわせになるんだって。その気持ちをしりたいんだ」

 

 彼は、いつもそうだ。

 何を言っても自分が気持ちよくなりたいから、自分が楽しいからといって親切を施してくれる。

 逆に誰かを虐めたり、怪我をさせたりするような事は「よく見た感情だから、もう飽きちゃった」と言っていた。

 

 リオはやさしい。

 私がまだ幼くて未熟なため、彼にたいして理不尽に怒ったり、わざと嫌がるような事をしても、私を拒絶することなく彼はこういうのだ。

 

「今のきもち、……とっても嫌で、とっても面白い!」

 

 そんな不思議な事を言った後は、私を嫌うでもなく相変わらず私に接してくれる。

 そんな彼に聞いたことがある。

 

「わたしがこまったら、たすけにきてくれるの?」

「いいよ、たすける。やくそくする」

 

 そう言って、彼は私が遊戯会の小道具をなくして困っていた時、一緒に探してくれたりもした。

 

 ……だからだろうか。私はいつの間にか、そんなリオが近くにいないと落ち着かなくなっていた。

 

 私だけじゃない。

 そんなリオの周りには人が集まった。

 彼の周囲には不思議な……まるで惹きつけられるような風が吹いているのだ。

 私はそんなリオにちょっかいをかけて遊び、喧嘩したりした。

 少しでも気を引きたくて、見てほしくて。

 

 小学校に上がってからは、なるべくリオと一緒に居られるように……彼を独占できるように、できる限り彼の所にいく。

 そのために少しだけ不穏な噂を流したりして、周りの人を遠ざけたりした。

 不思議な雰囲気を持つ彼を少しだけでも独占できる、その事実がたまらなく嬉しかった。

 

 そんなリオも中学に入り、声変わりを迎える。

 私は彼の声の変化、その一瞬一瞬を逃さず記録するために、リオの部屋にこっそりと盗聴器とカメラを仕掛けた。

 最初は音質の悪いマイクからひろう、くぐもった彼の声と彼の日常を画面越しに観察して純粋に楽しむだけだったのだが、あることに気が付く。

 

 リオは自慰をしていない。

 

 彼はテレビも見る、筋トレもする。インターネットも使う。

 だがどれを見ても、彼のネットの履歴を調べてもそういう結果は見つけることができなかった。

 検索履歴にあったのは、「ダンジョンコア 詳細」とか、「欲望 種類」、「感情 起源」なんていう、少し毛色の違う言葉ばかり。

 

 もしかしたら誰か……私以外に、他の女の子と会っているのだろうか。

 魅力的な彼の事だ。他に会っている人が居てもおかしくない。

 そう考えてGPSで追跡などもしたが、何も出てこなかった。

 もしかしたら、同性が好きなのかも……と疑ってみたけれど、そういう気配も全くなかった。

 

 つまり、リオはまだ、誰かを好きになるような、そんな感情や欲求に目覚めていない。

 調べてみると、ごく稀にそういう事が遅い人がいるらしい。

 私がそれとなくちょっかいをかけても反応が鈍いのは、そういう事なんだろう。

 その事実に、どこかホッと安心する気持ちと、同時に、言いようのない不安を煽られるような、そんな複雑な気分になった。

 

 そうやって過去を振り返ると、写真束の中からまた一枚の写真が滑り落ちた。

 ――お風呂上がりの、無防備なリオの姿。

 隠し撮りしたものだ。

 まるで彫刻のように均整のとれた体、濡れた艶やかな黒髪、少しあどけなさの残る、けれどすごく整った顔立ち……どれをとっても完璧な、私のリオ。

 私はその写真を抱きしめる。

 

 ずっと一緒だよ、リオ。

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