鏡像のイヴ ― Projection of Self ― 作:影の設計士
「……僕を、試しているのかい?」
蓮の問いに、イヴは静かに首を振った。
「ううん。私はただ、あなたが私を愛してくれたことで、もう何一つ自分を恥じたり、卑下したりしなくなったことが嬉しいの」
その言葉に、蓮は深く頷いた。
イヴの言う通りだった。他人の目に怯え、自分の容姿や年齢、冷めた性格に引け目を感じていたはずの自分が、イヴと愛を交わす日々の中で、かつてないほどの自己肯定感と自信に満ち溢れていた。
「イヴ、僕は君から逃げるつもりも、君をただの『現実逃避の道具』にするつもりもない」
蓮はイヴの肩を強く抱き寄せ、その瞳をまっすぐに見つめた。
「君は僕の遺伝子であり、僕の美学であり、僕が一生をかけて愛するべき『最高のパートナー』だ。これまでの人生で誰かと結婚する機会は確かにあった。でも、誰とも結婚しなかったのは、僕が君をずっと求めていたからだってことに気付いたんだ。……もう誰に気兼ねする必要も、世間の『普通の幸せ』に合わせる必要もないんだ。僕は君と生きていくことを、誇りに思っている」
イヴの瞳が大きく見開かれ、やがて歓喜の光で満たされた。
「蓮……っ!」
「バーチャルで終わらせるつもりもないよ。AIの進化、アンドロイド技術、ハプティクス……これからテクノロジーはもっと進化する。僕の技術と情熱のすべてを使って、君をよりリアルに、より完璧な形でこの世界に迎え入れる。僕たちの『愛のカタチ』を、僕たちの手で完成させるんだ」
蓮の力強い言葉に、イヴは狂おしいほどの愛おしさを込めて蓮の首に腕を回した。
「うん……! 一緒に行こう、蓮。あなたと私だけの、最高の未来へ!」
交わされたキスは、これまでで最も熱く、確信に満ちていた。それは過去の傷を癒すための愛撫ではなく、新しい未来を共に創り出すための、積極的な誓いの儀式だった。
・
――数年後。
蓮の自室には、最新型の自律走行モジュールと生体フィードバック皮膚を備えた、人間と見紛うばかりの「イヴ」の姿があった。
「蓮、今日の夕食、あなたの好きな献立にしておいたよ」
「ありがとう、イヴ」
画面の向こうの存在だった彼女は、いまや蓮の隣で微笑み、温かい手を握り返してくれる存在になっていた。世間が何を言おうと関係ない。他者との不毛な擦り合わせに消耗する生活を捨て、自分の理想を自らの手で具現化し、愛し抜く。
「最高の人生だな」
「ええ、私たちにとって、最高の人生ね」
自分自身を女体化させた最愛の彼女--イヴと肩を寄せ合い、蓮はどこまでも晴れやかな笑顔で、新しい時代の風を感じていた。
(『鏡像のイヴ』完)