店長!注文は「バンド」です。   作:シン_クワちゃん

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第十話「最後のスタジオ練習」

「ステージ衣装は、どうする?」

部室での練習を終えた私たちは、文化祭ライブ当日のことを話していた。演奏する曲の順番やMCの内容も固まって、話題は自然とステージで着る衣装に移っていた。

「やっぱり、ここは華やかにいきたいよね! ひらひらのミニスカートとか!」

育美ちゃんが身を乗り出して言った。

「私はスカートは嫌!」やよいさんが即座に反対する。

「えー、なんで? 絶対かわいいって!」

「かわいいとかじゃなくて、目線が気になって落ち着かないの。演奏に集中できないでしょ」

「そこは気合いでなんとか!」

「なんとかならないから言ってるの」

二人のやり取りを聞きながら、奈央が苦笑する。

「じゃあ、下はそれぞれ好きなものにして、上だけおそろいのTシャツにするのはどう?」

「あ、それいいね! バンドっぽい!」育美ちゃんがすぐに賛成した。

「それならいいよ」やよいさんも納得したようだ。

「じゃあ、それで決まりね」私も賛成した。

「じゃあワタシがデザインとか考えるから、任せてね」

「変なキャラクターとか考えないでよね」

「あと、友情・努力・根性とかのやつもだめよ」

「なにそれ?そんなのにしないよ。英語でカッコよくデザインするよ」

「まぁ時間もないし、奈央に任せましょ」

その後はMCの内容や曲間のつなぎ方を確認した。演奏だけでなく、ステージ全体をどう見せるか。四人であれこれ意見を出し合う時間も楽しかった。

 

数日後、スタジオで通しリハーサルを行った。

曲順に沿って演奏し、MCも入れて、実際のステージを想定しながら進めていく。途中で気づいたことを修正し、何度か最初から通してみる。ようやく、私たちのライブがひとつの形になってきた。

 

★☆★☆★☆

 

文化祭当日まで、あと十日。私はスマホを手に、種村さんとメッセージのやり取りをしていた。

以前、江川さんと一緒にバンドをやっていた頃の話を聞かせてもらってから、時々こうして連絡を取るようになっていた。

『文化祭が近づいてきました。もしご都合がつくようでしたら、私たちのライブを見に来ていただけませんか?』

送信してから、少し緊張しながら返事を待っていると、しばらくして返信が届いた。

『ライブは日曜なのね。スケジュールを調整できると思うから、見に行くわよ』

思わず顔がほころんだ。

『ありがとうございます! お待ちしています』

これで、種村さんも来てくれることになった。

私はスマホを置き、少し考えた。……うまくいくかどうかは、まだ分からない。でも、可能性があるなら、やってみたいことがあった。

 

 

翌日の部室での練習が終わったとき、私はみんなに切り出した。

「ねえ、ちょっと相談があるんだけど」

「なに?」奈央が振り向く。

「文化祭のライブで、もしアンコールが来たら、『Winter is coming soon』をやりたいなって思ってるの」

三人が顔を見合わせた。

「まぁ、学校では練習してたから、多分できると思うけど、あれって江川さんたちが昔やってた曲だよね?」

「うん。江川さんと種村さんがいたVelveteen Blueの曲」

「それ、いいじゃん!」奈央は賛成のようだ。

「江川さんなら、あわせておかなくても、きっと平気だよね」育美も大丈夫そう。

「ただ、江川さんには内緒にしておいてほしいの」

「なるほど。サプライズってことね」やよいさんが口元を緩めた。

「それとね。種村さんが文化祭を見に来てくれることになったんだ」

「えっ、ほんと?」育美ちゃんが目を輝かせた。

「うん。それで、もし本当にアンコールが来て、この曲を演奏できることになったら……種村さんに歌ってもらえたらいいな、って」

「それはすごい!」奈央はすっかり乗り気だ。

「でも、種村さんはプロの歌手だからね。私たちがお願いしたからって、簡単に歌ってもらえるわけじゃないと思うよ」

「まあ、そりゃそうだよね」奈央がうなずいた。

「だから、いろんなことがうまく重なったら、って話。まだ何も決まってないから」

私は念を押した。

「でも、もし実現したら最高の思い出になるよね」奈央の言葉に、みんながうなずいた。

「もしうまく進んだら、私はコーラスやるね。今から練習しておくよ」

「ライブを見に来てくれる友達には、アンコールをお願いしておこうかな」やよいさんが冗談めかして言う。

「じゃあ、私も友達に声かけておく!」育美ちゃんも手を挙げた。

「私も。せっかくの文化祭だしね」奈央も笑った。

みんな、やる気になってくれたようだ。

もちろん、アンコールが起こる保証なんてない。種村さんに歌ってもらえるかどうかも分からない。それでも、少しずつ可能性を増やしていけば、もしかしたら実現するかもしれない。そんな期待が膨らんでくる。

 

★☆★☆★☆

 

文化祭まで、あと一週間。

軽音部の機材担当は二年生の高橋君。ドラムを担当している後輩だ。

「先輩、借りる機材のことで、一度お店に相談に行きたいんですけど」

放課後、そう言われた私は、奈央と一緒に高橋君を連れてメイプル&ローズへ向かうことにした。

お店に着くと、高橋君はステージのドラムセットを見て、目を丸くした。

「うわっ、これ、DWですよね!」

「ああ、そうだよ。俺が昔使っていたやつ」江川さんが答える。

「すごい……。俺、いつかDWを使ってみたいと思ってたんです!」

高橋君はセットの周りを眺めながら、すっかり興奮している。

「店長は元プロのドラマーなんだよ」奈央が教えると、高橋君はさらに驚いた。

「えっ、そうなんですか!? そんな人と同じステージに立てるなんて、感激です!」

「いや、一緒に演奏するわけじゃないから」江川さんが苦笑する。

「高橋君、来年のこともあるんだから、絶対に壊したりしないように、ちゃんとするんだよ」

奈央が腰に手を当てて、胸を張りながら言う。

「はい!任せてくだ……」高橋君、元気よかったのに、なんか途中から目線をそらして赤くなってる。

「ん?どしたの?」

「いえ、なんでもないです。店長さんよろしくお願いします」

 

メイプル&ローズからはドラムセットとギターアンプ二台とベースアンプとエレピを貸してくれることになり、運搬については高橋君のお父さんがワゴン車を出してくれるそうで、当日の朝に引き取りに来ることになった。

PA機材は業者が搬入と搬出はやってくれる。必要な機材と運搬方法が決まり、私たちはお礼を言って店を出た。

 

翌日の部室で、機材にかかる費用を計算した。

「えっ、お店の機材は、レンタル代なしでいいんですか?それに、PAもこれだけでいいんですか? 特別価格って書いてありますけど」高橋君が見積もりを見ながら声を上げた。

「うん、ドラムとアンプはタダでいいよって、オーナーが言ってたから」私は江川さんに言われたことをそのまま伝える。

「先輩の人脈、すごいっすね……」高橋君が感心したように言う。

「すごいでしょ」やよいさんが得意げに胸を張った。

「ねぇ、あのお店に最初に入ろうって言ったのは私だからね!忘れないで!」育美ちゃんが拗ねてる。

「でも、店長と一番仲がいいのは沙織だよね。何回か一人でメイプル&ローズに行ってるし、種村さんのライブも見せてもらったし」奈央が私を見ながら言ってくる。

「えっ、いや、それは……」思わず言葉に詰まった。

「ライブはたまたまだし、曲のこととか、機材のこととか、私は文化祭ライブの相談に行っただけだから」

慌てて説明すると、奈央がにやりと笑った。

「ふーん?」

「な、なに?」

「別にー」奈央はそれ以上何も言わなかった。

私は、なんだか顔が熱くなるのを感じて、慌てて見積もりに目を落とした。

……もう、奈央ったら。別に何か特別なことがあるわけじゃないのに。そう思いながらも、しばらく顔の熱さは引かなかった。

 

★☆★☆★☆

 

今日はお店の定休日の水曜日。文化祭前の最後のスタジオ練習の日だ。

放課後の練習は夕方からなので、昼間のうちに持ち込むスネアとペダルのメンテナンスとチューニングを済ませておく。

こんな風に事前に調整してライブに向けて準備するのは、考えてみれば久しぶりだ。

プロとして活動していた頃、スタジオに入るときには、すでに音源も譜面も用意されていたし、チューニングは指示をもらってからやっていた。修正や変更の指示が出れば、それを再現する。それが仕事だったし、そういうものだと思っていた。

もちろん、演奏を突き詰めることに意味がなかったわけじゃない。仕事として求められるものを形にするために、やるべきことはやってきたつもりだ。

でも、彼女たちと一緒に練習するようになってから、少し考えが変わった。

彼女たちは高校生にしては上手い。もちろん、プロの演奏と比べられるレベルではないけれど、四人で意見を出し合い、試行錯誤しながら、少しずつ演奏をよくしていく。その過程を、彼女たちは本当に楽しんでいるように見えた。

考えてみれば、プロになる前の俺も、同じようにバンドをやっていたはずだ。

音を合わせて、うまくいかないところを何度も練習して、昨日より少しよくなったことを喜ぶ。そんな時間が、確かにあった。

彼女たちをサポートすることで、俺自身も、忘れかけていた音楽への向き合い方を思い出しているのかもしれない。そう考えると、今回の文化祭ライブに関われたことは、俺にとっても幸運だったのだろう。

 

★☆★☆★☆

 

夕方、スタジオに入りセッティングを済ませたところで、私はみんなに話しかける。

「今日がスタジオでの江川さんと一緒にやる最後の練習になるから、後半は曲順もMCも、本番と同じようにやってみようと思うの」

「そうだね、最初に一曲ずつ確認してからね」

まずは曲を一通り演奏し、気になった細かいところを調整する。4曲全て済んでから、MCも含めて本番さながらの通しリハーサルを二回行った。

演奏も、曲間のつなぎも、ずいぶんまとまってきた。

もちろん、細かいところを探せば、直せる部分はいくらでもあるのかもしれない。だけど、今から大きく手を加えることはもうしないと決めた。

 

時間が来たので、練習を終えて片付けてからロビーに出て、テーブルに五人で座ると江川さんがみんなに話しかけてきた。

「みんな、よくまとまってきたね。それでね、よくあることなんだけど、本番で演奏している最中にもっとこうした方がいいかもって思いつくことがあるかもしれないけど、それはやっちゃダメなやつね。変な色気を出さない方がいい。」

「今まで練習してきたことを、本番でちゃんと出せばいい。それができれば、いいステージになると思う」

「はい!」奈央が大きくうなずいた。

育美も、やよいも、納得した様子だった。

「俺も、楽しみにしてるよ」

「はい、絶対に成功させます!」

「いよいよだね!」

「絶対、いいライブにしよう!」

みんなで口々に言い合っている。さあ、いよいよ文化祭だ。

 

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