店長!注文は「バンド」です。   作:桑原伸

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第二話「女子高生とセッション?」

校門から出て、いつもの帰り道。まだ少し冷たい春の空気の中を、私たち四人は駅へ向かって歩き始めたその途中。

「あれ?」奈央が足を止めた。

「どうしたの?」

「いつもの道、通れない」

見ると、道路の先が工事用の柵で塞がれていて誘導の人が立っている。

「工事?」

「朝はこんなのなかったよね」

「なかったよね?」

「回り道はこっちだって」看板を見ながら育美ちゃんが言う。

 

駅まで少し遠回りになるその道をしばらく歩いたところで、育美ちゃんが一軒の店を見つけた。木製の看板「喫茶メイプル&ローズ」

「あれ?」

「こんな店あったっけ?」

「あるよ。私、前に見たことある」やよいさんは知っていたみたいだ。

「ねぇ、ここでもう少し話していかない?」育美ちゃんが店を指差した。

「いいね」

「賛成」

「私はコーヒー」やよいさんが即答する。

「早いな」

「喉乾いた」

四人は笑いながら、店の扉を開けるとカラン、と小さなベルが鳴った。

 

「いらっしゃいませ」

カウンターの奥から、若い女性が顔を上げた。小柄で、明るい笑顔のエプロン姿。

「四名様ですか?」

「はい」

「どうぞ、好きなところへ」

四人は窓際の席についた。

 

「注文どうする?」奈央がメニューを広げる。

「コーヒー」即答のやよいさん。

「私、紅茶。レモンで」

「ん~と、私、グレープフルーツジュース」育美ちゃんはメニューを指さす。

「私は……」奈央がメニューをめくる。

「バナナパフェ!」

「高校生だなあ」

「いいじゃん」

 

女性の店員が注文を聞いて、カウンターへ戻っていく。そのとき、奈央が店の奥を見た。

 

「あ」

「ん?」

「ステージある」

四人が一斉に店の奥を見る。そこには、本当に小さなステージがあった。ドラムセット。アンプ。電子ピアノ。ギターやベースまで置かれている。

 

「ここ、ライブやったりするんですか?」育美ちゃんが店員に聞く。

「たまにですよ、普段はほとんど使ってないですけど」女性はカウンター越しに答えた。

「へえ」四人は席を立つ。

やよいさんが真っ先に機材へ近づく。

 

「……これ、結構いいやつじゃん」

「そうなの?」

「うん」

悠木はドラムセットを眺めた。

「DWだよ、これ」

「ディーダブリュー?」

「DW。アメリカのドラムメーカー」

「こっちはJCで、こっちAmpeg」アンプを指さしながら、やよいさんが続ける。

「わかるの?」

「当然」やよいさんは即答。

私も電子ピアノの前に立った。

「これ、RD-700SXだわ」

「沙織、知ってるの?」

「弾いてみたいって思ってたから」

 

スタンドにはギターも掛かっていた。フェンダーのストラトキャスター。その隣には見たことがない形だけどESPとロゴがある。

 

「おぉMusic ManのStingRay」やよいさんがベースに目を輝かせる。

「なんか、妙にいいのがそろってる」

「このストラト、お父さんのと同じ色」育美ちゃんが言った。

「じゃあ、お父さんも弾くんだ」

「そう。たぶん同じフェンダー」

「昔、バンドやってたってよく言ってるし、私が使ってるムスタングはお父さんのおさがりだし」

「へえ」

 

四人が機材を見ながら話していると、カウンターから声がした。

「君たち、バンドやってるの?」

四人が振り返る。カウンター席に、五十代くらいの男が一人座っていた。コーヒーを飲みながら、こちらを見ている。突然話しかけられ、四人とも少しだけ警戒しながらも答える。

「はい。軽音楽部です」育美ちゃんが答える。

「そうかそうか」

男は嬉しそうに笑った。

「あのギターとか楽器、店の人のですか?」

「まぁそうかな。昔、俺が人からもらったり、買い取ったりしたやつ」

「へえ」

「音楽関係の知り合いがいてね」

男はそう言って、コーヒーを一口飲んだ。

 

「それで、今どきの高校生は、どんな曲やるんだ?」

「また始まった」

店員の女性が、カウンターの中からぼそっと言った。

「何が?」

「オジサンの昔話」

「まだ何も話してないだろ」

「質問の時点で、おじさんっぽいです」

「余計なお世話だ」

男は笑った。四人もつられて笑う。

「○○高校の軽音部?」カウンター越しに女性が聞いてくる。

「はい、そうです」

「私たちで、バンド組んでます」

「文化祭でライブとかやるの?」

「もちろんです、一番のイベントですし」

「なるほど、今時の女子高生は文化祭ではどんなのやるの?」おじさんが口をはさむ。

「えっと……」

「松原みきとか」育美ちゃんが答える。

「竹内まりやとか」私が続ける。

「杏里もやったよね」奈央が言った。

「……え?」男の顔が止まった。

「松原みき?」

「はい」

「竹内まりや?」

「はい」

「杏里?」

「そうですけど」

 

男はしばらく四人を見ていた。

「なんで、そんな昔の曲を?」

「昔?」奈央が首を傾げる。

「普通にカッコいいからですけど……」

「そうそう、動画サイトでたまたま見つけたんです」育美ちゃんも頷く。

「私は親の影響かな。でも、どれもオシャレな曲だし」私も答える。

「あと、他の人と違う曲やりたかったしね」奈央が笑った。

 

男はしばらく黙っていた。そして、にやりと笑った。

「よかったら、今ここで演奏してみない?聞かせてよ。JKのシティポップ」

「ほら、楽器も一通りそろってるし、オジサン興味あるなぁ」

「え?いいんですか?」育美ちゃんの顔がぱっと明るくなった。

「やりたい!」奈央もすぐに反応する。

「いやいやちょっと待って、ドラマーいないんだけど」やよいさんが二人を見る。

「あ……」育美ちゃんの顔が曇る。

私も小さく頷いた。

「実は、ドラマー先輩だったんですけど卒業しちゃったから」

「そうか。ドラムがいないのか」

男がステージを見る。

「ドラムか……」

そして、厨房のほうへ声を飛ばした。

「おーい、店長!」

「なんすか、オーナー」

厨房からバナナパフェを持った男が顔を出した。

 

★☆★☆★☆

 

クリームを乗せてからパフェスプーンを刺してバナナパフェが出来たところで、カウンターから杉山さんの声がした。

「おーい、店長!」

「なんすか、オーナー」

バナナパフェを持って、カウンターに出る。

「バナナパフェよろしく」

「は~い」

店のオーナーでカウンターに座る杉山さんが俺に向かって話してくる。

「お前、松原みきとか竹内まりやって知ってるよな?」

「もちろん」俺は少し笑った。

「大先輩達じゃないですか」

「んじゃ、叩けるよな?」

「は?」俺は杉山さんを見る。

「なんですか、一体」

「いや、この子たちがバンドやっててな」

「はあ」

「演奏してよって頼んだら、ドラムがいないらしいんだ。お前、暇だろ」

「は?まぁドリンクは、こころちゃんが作るから手すきですけど……」

 

高校生四人がこちらを見ている。その目が、妙に期待に満ちていた。俺は小さく息を吐いた。

「……何曲やるんですか?」彼女たちに声をかける。

「二、三曲でいいだろ」なぜか杉山さんが言う。

「勝手に決めないでくださいよ」

「じゃあ、二曲」

「減っただけじゃないですか」

高校生たちが笑っているから、俺もつられて少し笑った。

「まあ……いいですけど」

 

こうして、俺と女子高生との唐突なセッションが始まることになった。

 

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