神々の剣士は電脳都市で生きる   作:アイエオ

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第十二話 フィクサーとの取引

神々の剣士、ナイトシティで生きる術を学ぶ

「……お前、本当に人間か?」

 

 目の前の男が、そんな質問を投げかけてきた。

 

 ヴィクター。

 

 ナイトシティでフィクサーをしているという、中年の男だ。

 

 短く整えられた黒髪に、鋭い目つき。

 

 落ち着いた服装をしているが、その佇まいには独特の威圧感がある。

 

 少なくとも、ただの商人ではない。

 

 俺は男の顔を見つめた。

 

「……そのつもりだけどな」

 

 そう答えると、ヴィクターは声を上げて笑った。

 

「ははっ! いい答えだ!」

 

 ……何がそんなに面白いんだろうか。

 

 俺は内心で首を傾げた。

 

 隣に立っていたエリオットも、苦笑している。

 

「ボス。あまり彼を困らせないでください」

 

「分かってるよ」

 

 ヴィクターは片手を振った。

 

 そして、俺の向かいの椅子を指差す。

 

「まあ、座れ」

 

「……ああ」

 

 俺は椅子に腰を下ろした。

 

 背負っていた長いケースは、すぐ手が届く位置に立てかける。

 

 ヴィクターはその動きを見て、口元を歪めた。

 

「……用心深いな」

 

「昨日、爆発に巻き込まれたばかりだからな」

 

「そいつは災難だった」

 

「……他人事みたいに言うなよ」

 

 俺がそう返すと、男は再び笑った。

 

「違いねえ」

 

 そして、テーブルの上に置かれていた端末を操作した。

 

「さて、本題に入ろうか」

 

 その瞬間、男の雰囲気が変わった。

 

 先ほどまでの軽い調子が消える。

 

 代わりに現れたのは、長年裏社会で生きてきた人間特有の、冷静な眼差しだった。

 

「まずは、初仕事の成功を祝わせてくれ」

 

「……ありがとう」

 

「医療物資は無事に届いた。依頼人も満足している。マーカスからの評価も上々だ」

 

 ヴィクターは俺を見た。

 

「それどころか、あいつはお前をべた褒めしていたぞ」

 

「……マーカスが?」

 

「ああ。『あのガキは普通じゃねえ。だが、背中を預ける価値はある』だとさ」

 

 俺は少し驚いた。

 

 マーカスとは、まだ一度しか仕事をしていない。

 

 しかも、最初は俺のことをかなり疑っていた。

 

 それなのに、そこまで評価してくれていたとは。

 

「……嬉しいな」

 

 思わず、そんな言葉が出た。

 

 ヴィクターが眉を上げる。

 

「ほう?」

 

「何だ?」

 

「いや。普通、そこで喜ぶのは報酬が上がる可能性についてだと思ってな」

 

「……それも嬉しいけど」

 

 俺は少し考えた。

 

「一緒に戦った人間から信頼される方が、俺にとっては大事だ」

 

 ヴィクターは黙った。

 

 数秒間、俺を見つめる。

 

 そして、小さく笑った。

 

「……なるほどな」

 

 男はグラスを手に取った。

 

「エリオット。お前の言っていたことが、少し分かった気がする」

 

「でしょう?」

 

 エリオットは穏やかに答えた。

 

 ……何の話だ?

 

 俺は二人を見比べた。

 

 だが、説明してくれる様子はなかった。

 

     ◇

 

「それで、カイ」

 

 ヴィクターが話を続けた。

 

「お前、ナイトシティに来てどれくらいだ?」

 

 ……来たか。

 

 俺は内心で身構えた。

 

 この質問は、いずれされると思っていた。

 

 俺には、この世界での経歴がない。

 

 身分証もなければ、住所もない。

 

 生まれた場所を聞かれても、正直に答えられない。

 

「……まだ日が浅い」

 

 俺は慎重に答えた。

 

「具体的には?」

 

「……一週間も経ってないな」

 

 ヴィクターの眉が動いた。

 

「……一週間?」

 

「ああ」

 

 男はエリオットを見た。

 

 エリオットも小さく頷く。

 

「彼の身元については、こちらでも調べました」

 

「結果は?」

 

「該当する記録がありません」

 

 ヴィクターは再び俺を見た。

 

「……記録がない?」

 

 エリオットが続ける。

 

「顔認証、公開されている住民記録、既知の傭兵名簿。どれにも一致しませんでした」

 

「……なるほど」

 

 ヴィクターは顎に手を当てた。

 

 俺は黙っていた。

 

 ここで下手に話せば、余計な疑いを招く。

 

 もちろん、何も話さなければ信用されない。

 

 その程度のことは理解している。

 

「……身分証を持ってないんだ」

 

 俺は先に口を開いた。

 

 ヴィクターが目を細める。

 

「ほう?」

 

「事情があって、以前いた場所から来た。今は、こっちで生活する方法を探してる」

 

「以前いた場所、ねえ」

 

「ああ」

 

「どこだ?」

 

 俺は少し考えた。

 

 そして、首を横に振った。

 

「……今は話せない」

 

 ヴィクターは黙った。

 

 エリオットも、俺を見ている。

 

 数秒間、沈黙が続いた。

 

 やがて。

 

「……正直だな」

 

 ヴィクターが呟いた。

 

 俺は眉をひそめる。

 

「……そうか?」

 

「ああ。下手な嘘を並べるよりは、よほどいい」

 

 男はグラスを置いた。

 

「だが、覚えておけ」

 

 その声が、少し低くなる。

 

「この街で身元不明の人間が力を持っていると、必ず誰かが興味を示す」

 

 俺は黙って聞いた。

 

「企業、ギャング、傭兵、情報屋。連中はお前が何者なのか知りたがる」

 

「……どうして?」

 

「利用できるかどうか、判断するためだ」

 

 ヴィクターは即答した。

 

「そして、利用できないと判断した連中の中には、お前を危険物として扱う奴もいる」

 

 ……なるほど。

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 元の世界でも、似たようなことはあった。

 

 強い魔術師。

 

 特殊な加護を持つ人間。

 

 神々の使徒。

 

 そういった存在は、権力者にとって魅力的な道具だった。

 

 そして、制御できない力は恐れられる。

 

 世界が違っても、人間の考えることは大して変わらないらしい。

 

「……忠告、ありがとう」

 

 俺は素直に礼を言った。

 

 ヴィクターは少し驚いたようだった。

 

「……礼を言うのか?」

 

「役に立つ話だったからな」

 

 男は口元を歪めた。

 

「……ますます変わった奴だ」

 

     ◇

 

「ところで、カイ」

 

 ヴィクターは端末を操作した。

 

「お前の戦闘映像を見せてもらった」

 

 画面に、昨日の護衛任務の映像が表示される。

 

 黒煙。

 

 銃撃。

 

 そして、長剣を振るう俺。

 

 ……なるほど。

 

 あの状況でも、記録されていたのか。

 

 映像の中で、俺は銃を持った男の懐へ潜り込み、武器を斬り落としていた。

 

 続いて、車両を押し動かす場面。

 

 さらに、機械化された大男との戦闘。

 

 ヴィクターは映像を停止した。

 

「……これだ」

 

 画面には、俺が男の機械化された腕を斬った瞬間が映っていた。

 

「普通の剣で、こんなことはできねえ」

 

「……そうだろうな」

 

 俺は頷いた。

 

 ヴィクターが眉を上げた。

 

「否定しないのか?」

 

「事実だからな」

 

 俺は答えた。

 

「この剣は、特別なものなんだ」

 

「……どれくらい特別なんだ?」

 

 俺は少し考えた。

 

 鍛冶と炎の神が鍛えた神造の剣。

 

 正義と力の神から授かった武器。

 

 邪神の眷属すら斬り伏せた刃。

 

 ……どう説明したものか。

 

「……俺にとって、何より大切な武器だ」

 

 結局、そう答えた。

 

 ヴィクターはしばらく俺を見つめていた。

 

 そして、笑った。

 

「……なるほど。売る気はないってことか」

 

「ああ」

 

 俺は即答した。

 

「絶対に売らない」

 

「分かった分かった」

 

 ヴィクターは両手を上げた。

 

「別に買い取ろうって話じゃねえよ」

 

 俺は少しだけ安心した。

 

 だが、男は続けた。

 

「……問題は、剣だけじゃない」

 

 画面が切り替わる。

 

 今度は、輸送車両の内部。

 

 負傷した運転手。

 

 そして、その頭へ手をかざす俺。

 

 淡い金色の光。

 

 ……やっぱり、そこも記録されていたか。

 

「……こいつは何だ?」

 

 ヴィクターが尋ねた。

 

 俺は画面を見つめた。

 

「……治療だよ」

 

「それは分かる」

 

 男は頷いた。

 

「だが、どうやってる?」

 

 俺は黙った。

 

 ヴィクターは続ける。

 

「医療用ナノマシンか? 特殊なサイバーウェアか? それとも、俺の知らない新技術か?」

 

「……どれでもない」

 

 俺は答えた。

 

 男の目が細くなる。

 

「……ほう」

 

「詳しいことは、今は話せない」

 

 俺は静かに言った。

 

「でも、人を治すための力だ」

 

 ヴィクターは黙った。

 

 しばらくして、口を開く。

 

「……戦闘にも使えるのか?」

 

「直接攻撃する力じゃない」

 

「……なるほど」

 

 男は頷いた。

 

 そして、端末を閉じた。

 

「……分かった。これ以上は聞かねえ」

 

 俺は少し驚いた。

 

「……いいのか?」

 

「ああ」

 

 ヴィクターは笑った。

 

「誰にだって秘密はある。俺にもな」

 

 そして、少しだけ真剣な顔になる。

 

「ただし、一つ忠告しておく」

 

「……何だ?」

 

「その力を、人前でむやみに使うな」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……どうして?」

 

「価値がありすぎるからだ」

 

 ヴィクターは即答した。

 

「この街じゃ、命を救う技術ですら商品になる」

 

 男は俺を見つめた。

 

「お前の力を知った連中が、必ずしも感謝するとは限らねえ」

 

 俺は黙った。

 

「治療費を稼ぐために使わせようとする奴もいるだろう。独占しようとする企業もいるかもしれねえ」

 

 ヴィクターは続けた。

 

「最悪の場合、お前自身を確保しようとする連中だって現れる」

 

 ……なるほど。

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 治癒の奇跡。

 

 元の世界では、神殿や治療師の間で珍しいものではなかった。

 

 もちろん、高度な治癒能力を持つ者は貴重だったが、俺だけが使える力ではなかった。

 

 だが、この世界では違う。

 

 俺の力は、既存の技術体系から外れている。

 

 それが何を意味するのか。

 

 ようやく、少し理解できた気がした。

 

「……気をつけるよ」

 

 俺は答えた。

 

 ヴィクターは頷いた。

 

「それがいい」

 

     ◇

 

「さて」

 

 ヴィクターは話題を変えた。

 

「ここからは仕事の話だ」

 

 俺は姿勢を正した。

 

「……ああ」

 

「お前、今後も傭兵として働くつもりなんだろ?」

 

「そのつもりだ」

 

「だったら、まずは生活基盤を整える必要がある」

 

 俺は頷いた。

 

「……それは、俺も考えてた」

 

 ヴィクターが笑った。

 

「だろうな」

 

 男は指を一本立てた。

 

「まず、通信手段」

 

 俺はポケットからカード型の端末を取り出した。

 

「……これじゃ駄目なのか?」

 

「連絡を取るだけなら十分だ」

 

 ヴィクターは頷いた。

 

「だが、仕事の情報を受け取ったり、地図を使ったり、支払いを管理したりするには不便だ」

 

「……なるほど」

 

「次に、身分証」

 

 俺は黙った。

 

 これは、最も大きな問題だ。

 

「正式な市民登録をするには、過去の記録が必要になる場合がある」

 

 ヴィクターは説明した。

 

「お前みたいに何もない奴は、簡単にはいかねえ」

 

「……そうか」

 

「だが、方法がないわけじゃない」

 

 俺は顔を上げた。

 

「……本当か?」

 

「ああ」

 

 ヴィクターは頷いた。

 

「ただし、金と時間がかかる」

 

「……どれくらい?」

 

「状況次第だ。今すぐ正確な金額は出せねえ」

 

 俺は少し考えた。

 

「……合法的な方法は?」

 

 ヴィクターが笑った。

 

「いい質問だ」

 

 男は端末を操作した。

 

「まずは、身元確認を受けられる窓口を探す。そこで登録可能か調べる」

 

「……登録できなかったら?」

 

「別の方法を考える」

 

 ヴィクターは肩をすくめた。

 

「だが、最初から偽造IDに手を出すのは勧めねえ」

 

 俺は少し驚いた。

 

 フィクサーなら、そういう手段を勧めてくると思っていたからだ。

 

「……意外だな」

 

「何が?」

 

「もっと簡単に、偽物を作る話になるかと思った」

 

 ヴィクターは声を上げて笑った。

 

「ははっ! そりゃ、そういう仕事もあるさ」

 

 そして、真剣な顔になる。

 

「だが、偽物はいつかバレる。特に企業の検問に引っかかれば面倒だ」

 

 俺は頷いた。

 

「……確かに」

 

「お前は目立つ。だからこそ、足元はできるだけ固めておいた方がいい」

 

 なるほど。

 

 筋は通っている。

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

「……助かる」

 

 ヴィクターは笑った。

 

「まだ何もしてねえよ」

 

     ◇

 

「次に、住居だ」

 

 ヴィクターが言った。

 

「お前、今はどこに住んでる?」

 

 俺は少し迷った。

 

 リクとミナのことを話すべきだろうか。

 

 彼らは、俺にとって大切な存在になりつつある。

 

 だが、裏社会の人間に居場所を知られるのは危険かもしれない。

 

「……知り合いのところに世話になってる」

 

 俺はそう答えた。

 

 ヴィクターは頷いた。

 

「なるほど」

 

 それ以上は聞いてこなかった。

 

「なら、そいつらに迷惑をかけないようにした方がいい」

 

「……ああ」

 

「お前が有名になれば、周囲の人間も巻き込まれる」

 

 その言葉に、俺は少しだけ表情を引き締めた。

 

 ……そうだな。

 

 昨日の襲撃。

 

 あれが、もしリクとミナの住む集合住宅で起きていたら。

 

 考えたくもない。

 

「……できれば、別の住居を探したい」

 

 俺は答えた。

 

 ヴィクターは頷いた。

 

「分かった。安い部屋を探しておこう」

 

「……ありがとう」

 

「礼はまだ早い」

 

 男は笑った。

 

「紹介料は取るぞ」

 

 俺も笑った。

 

「……だろうな」

 

     ◇

 

「最後に、仕事だ」

 

 ヴィクターは椅子にもたれかかった。

 

「お前の腕なら、護衛だけじゃなく、もっと色々な仕事ができる」

 

 俺は黙って聞いた。

 

「用心棒。荷物の回収。人探し。危険区域での調査。場合によっては、戦闘任務もある」

 

 男は指を折りながら説明した。

 

「報酬は仕事次第だ。数百エディーのものもあれば、数万エディーになるものもある」

 

「……数万?」

 

 俺は少し驚いた。

 

 昨日の護衛任務で千五百エディー。

 

 それでも、かなりの金額だと思っていた。

 

 だが、その何倍もの報酬が支払われる仕事もあるらしい。

 

「もちろん、危険も大きくなる」

 

 ヴィクターは続けた。

 

「高い報酬には、必ず理由がある」

 

 俺は頷いた。

 

「……分かってる」

 

「それで、カイ」

 

 男は俺を見つめた。

 

「お前は、どんな仕事をしたい?」

 

 俺は少し考えた。

 

 元の世界では、神々の使徒として邪神と戦っていた。

 

 人々を守るため。

 

 世界を救うため。

 

 そして、大切な仲間たちと共に生きるため。

 

 だが、今は違う。

 

 俺には、この世界での立場がない。

 

 帰る方法も分からない。

 

 生活するためには、金が必要だ。

 

 それでも。

 

 俺は静かに口を開いた。

 

「……人を守る仕事がいい」

 

 ヴィクターの目が細くなる。

 

「……護衛か?」

 

「それだけじゃない」

 

 俺は答えた。

 

「危険な場所から人を助ける仕事でもいい。行方不明者を探す仕事でもいい」

 

 そして、少しだけ言葉を区切る。

 

「ただ、理由もなく人を殺す仕事は受けたくない」

 

 ヴィクターは黙った。

 

 エリオットも、俺を見つめている。

 

 俺は続けた。

 

「もちろん、戦う必要があるなら戦う」

 

 元の世界では、何度も命を奪った。

 

 魔物だけではない。

 

 人間と戦うこともあった。

 

 だから、綺麗事だけでは生きられないことも理解している。

 

「……でも、できるなら殺さずに済ませたい」

 

 俺は静かに言った。

 

 ヴィクターはしばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……甘いな」

 

 低く呟いた。

 

 俺は頷いた。

 

「……そうかもしれない」

 

「この街じゃ、その甘さが命取りになるぞ」

 

「……分かってる」

 

「本当に?」

 

 男の声が鋭くなる。

 

 俺は真っ直ぐに見返した。

 

「……ああ」

 

 少しだけ、昔のことを思い出す。

 

 燃え落ちる村。

 

 助けられなかった人々。

 

 仲間の血。

 

 そして、邪神との最後の戦い。

 

 俺は、すべてを救えると思っているわけではない。

 

 そんな傲慢な考えは、とっくに捨てた。

 

 それでも。

 

「……俺が守れる命なら、守りたい」

 

 俺は静かに言った。

 

「それだけだ」

 

 ヴィクターは俺を見つめていた。

 

 やがて、口元を緩める。

 

「……なるほどな」

 

 男はグラスを持ち上げた。

 

「いいだろう」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……何が?」

 

「お前の条件だ」

 

 ヴィクターは答えた。

 

「できるだけ、それに合う仕事を回してやる」

 

 俺は少し驚いた。

 

「……いいのか?」

 

「ああ」

 

 男は笑った。

 

「ただし、条件がある」

 

「……何だ?」

 

「仕事を受ける前に、内容をよく確認しろ」

 

 俺は頷いた。

 

「……もちろん」

 

「それから、無茶をするな」

 

 俺は少し苦笑した。

 

「……努力する」

 

「努力じゃ足りねえ」

 

 ヴィクターは真顔になった。

 

「お前が死ねば、仕事は失敗だ。依頼人も困るし、俺の信用にも傷がつく」

 

 ……なるほど。

 

 フィクサーらしい理由だ。

 

 俺は小さく笑った。

 

「……分かった」

 

     ◇

 

 話が一段落したところで、エリオットが飲み物を運んできた。

 

 俺の前に置かれたのは、冷たい炭酸飲料だった。

 

「……酒じゃないんだな」

 

 俺が呟くと、エリオットが笑った。

 

「君は十六歳だろう?」

 

「……まあな」

 

「それに、仕事の話をするなら頭は冴えていた方がいい」

 

 俺は頷いた。

 

 ……確かに。

 

 元の世界では、成人年齢の基準が国によって違った。

 

 酒を飲める年齢も、場所によってまちまちだった。

 

 もっとも、俺自身はあまり酒が得意ではなかったが。

 

 俺は飲み物を一口飲んだ。

 

 甘い。

 

 そして、少し刺激が強い。

 

 ……悪くない味だ。

 

「さて」

 

 ヴィクターが再び口を開いた。

 

「一つ、気になっていることがある」

 

 俺は顔を上げた。

 

「……何だ?」

 

「昨日の襲撃だ」

 

 その言葉に、俺は表情を引き締めた。

 

 ヴィクターは端末を操作した。

 

 画面には、襲撃現場の地図が表示される。

 

「今回の輸送ルートは、事前に限られた人間にしか伝えていなかった」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……そうなのか?」

 

「ああ」

 

 ヴィクターは頷いた。

 

「依頼人、輸送担当者、そして俺たち。それくらいだ」

 

 俺は黙った。

 

 男は続ける。

 

「ところが、襲撃犯は正確な場所で待ち伏せしていた」

 

 俺は地図を見つめた。

 

 道路。

 

 建物。

 

 そして、爆発物が仕掛けられていた場所。

 

 ……確かに。

 

 偶然にしては、準備がよすぎる。

 

 バリケード。

 

 狙撃手。

 

 爆発物。

 

 逃走経路を塞ぐ車両。

 

 どれも、事前に計画されていたように見えた。

 

「……情報が漏れていた?」

 

 俺が尋ねると、ヴィクターは頷いた。

 

「その可能性が高い」

 

 俺は少し考えた。

 

「……犯人は分かったのか?」

 

「まだだ」

 

 男は答えた。

 

「だが、調べている」

 

 そして、俺を見た。

 

「お前に一つ聞きたい」

 

「……何だ?」

 

「襲撃犯の中に、妙な奴はいなかったか?」

 

 俺は記憶を辿った。

 

 銃を持った男たち。

 

 狙撃手。

 

 機械化された大男。

 

 そして、爆発物。

 

「……機械化された大男がいた」

 

 俺は答えた。

 

「右腕に大型の銃を付けていて、かなり強かった」

 

 ヴィクターが目を細めた。

 

「……特徴は?」

 

 俺は覚えている範囲で説明した。

 

 身長。

 

 体格。

 

 機械化された腕。

 

 胸部の装甲。

 

 そして、戦闘中の動き。

 

 ヴィクターは黙って聞いていた。

 

 やがて、エリオットへ視線を向ける。

 

「……心当たりは?」

 

 エリオットは端末を操作した。

 

 数秒後。

 

「……可能性はあります」

 

 画面に、一人の男の写真が表示された。

 

 巨大な体格。

 

 機械化された両腕。

 

 そして、凶悪な顔つき。

 

 俺は目を細めた。

 

「……こいつだ」

 

 ヴィクターの表情が変わった。

 

「……間違いないか?」

 

「ああ」

 

 俺は頷いた。

 

「昨日、俺が戦った男だ」

 

 ヴィクターは低く息を吐いた。

 

「……そうか」

 

 男は画面を見つめた。

 

「……面倒なことになったな」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……誰なんだ?」

 

 ヴィクターは少し考えた。

 

 そして、答えた。

 

「名前はガレス・ブレイク」

 

 俺は黙って聞いた。

 

「企業の下請け仕事をしていたこともある、武装集団のリーダーだ」

 

「……企業?」

 

「ああ」

 

 ヴィクターは頷いた。

 

「表向きは警備会社の人間だった時期もある。だが、今は違う」

 

 男は画面を切り替えた。

 

「最近は、物資の強奪や違法輸送に関わっているらしい」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……そんな奴が、医療物資を狙ったのか?」

 

「医療物資は高く売れる」

 

 ヴィクターは答えた。

 

「特に、正規の流通から外れた薬品はな」

 

 俺は黙った。

 

 昨日、診療所で見た人々の顔が思い浮かぶ。

 

 薬を待つ子供。

 

 怪我をした労働者。

 

 疲れ切った医師。

 

 彼らにとって、あの荷物は命綱だった。

 

 だが、襲撃犯にとっては、ただの金になる商品だったのだろう。

 

 ……腹立たしいな。

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 ヴィクターは俺の表情を見て、口元を歪めた。

 

「……怒ってるのか?」

 

「……少しな」

 

「なるほど」

 

 男は頷いた。

 

「だが、今は手を出すな」

 

 俺は顔を上げた。

 

「……どうして?」

 

「まだ、誰が裏で糸を引いているのか分からねえからだ」

 

 ヴィクターは真剣な顔で言った。

 

「ガレスが独断で動いたのか。それとも、誰かに雇われたのか」

 

 俺は黙った。

 

「それが分かるまでは、余計なことをするな」

 

 ……確かに。

 

 敵の正体が分からないまま動けば、さらに大きな問題を招くかもしれない。

 

 俺は頷いた。

 

「……分かった」

 

 ヴィクターは満足そうに笑った。

 

「物分かりがよくて助かる」

 

     ◇

 

 それから、しばらく雑談が続いた。

 

 ナイトシティの地区ごとの特徴。

 

 傭兵の仕事の仕組み。

 

 フィクサーとの付き合い方。

 

 そして、企業やギャングとの距離感。

 

 ヴィクターの話は、どれも参考になった。

 

 特に印象に残ったのは、最後の忠告だった。

 

「……カイ」

 

 男は静かに言った。

 

「この街で生き残るために必要なのは、強さだけじゃねえ」

 

 俺は頷いた。

 

「……ああ」

 

「誰を信用するか。誰と距離を置くか。どこで引くか」

 

 ヴィクターは指を折りながら続けた。

 

「それを間違えた奴から死んでいく」

 

 俺は黙って聞いていた。

 

「お前は強い。だが、無敵じゃない」

 

 その言葉に、俺は小さく笑った。

 

「……それは分かってる」

 

 ヴィクターが眉を上げる。

 

「ほう?」

 

「昨日、爆発で吹き飛ばされたからな」

 

 俺がそう言うと、男は笑った。

 

「ははっ! 違いねえ!」

 

 俺も笑った。

 

 だが、内心では真剣に考えていた。

 

 この世界には、俺の知らない技術が多すぎる。

 

 銃。

 

 爆発物。

 

 サイバーウェア。

 

 ネットワーク。

 

 そして、企業の持つ巨大な力。

 

 剣の腕だけで、すべてに対処できるとは思わない。

 

 だからこそ、学ぶ必要がある。

 

 ……生き残るために。

 

 そして、いつか元の世界へ帰るために。

 

     ◇

 

 店を出た頃には、夕方になっていた。

 

 空は赤く染まり始めている。

 

 巨大なビルの隙間から、沈みかけた太陽が見えた。

 

 俺は立ち止まり、空を見上げた。

 

 ……今日も、色々あったな。

 

 フィクサーとの面会。

 

 仕事の話。

 

 身分証の問題。

 

 そして、昨日の襲撃の裏にある疑惑。

 

 まだ、分からないことばかりだ。

 

 だが、少しずつ前へ進んでいる。

 

 俺は胸元の護符に触れた。

 

 セレーネ。

 

 勇者。

 

 盗賊の仲間。

 

 ……みんな、どうしてるだろうか。

 

 元の世界では、俺が消えた後、何が起きたのだろう。

 

 邪神は、本当に倒されたのか。

 

 仲間たちは無事だったのか。

 

 そして、俺がこの世界にいることを、誰かが知っているのか。

 

 答えは、まだない。

 

 それでも。

 

「……必ず帰る」

 

 俺は小さく呟いた。

 

 そのときだった。

 

 ポケットの中で、通信端末が振動した。

 

「……ん?」

 

 取り出す。

 

 画面には、エリオットからのメッセージが表示されていた。

 

『カイ。先ほどの件について、追加情報が入った』

 

 俺は眉をひそめた。

 

 続けて、もう一通。

 

『ガレス・ブレイクの部下が、今朝から何者かと接触しているらしい』

 

 ……なるほど。

 

 やはり、裏に誰かいるのか。

 

 さらに、三通目。

 

『そして、その接触相手が君について調べている可能性がある』

 

 俺は足を止めた。

 

 ……俺について?

 

 画面を見つめる。

 

 数秒後。

 

 最後のメッセージが届いた。

 

『しばらくは周囲に気をつけてくれ。特に、君の知り合いには』

 

 俺の表情が変わった。

 

 ……リクとミナ。

 

 真っ先に、二人の顔が浮かんだ。

 

 俺は通信端末を握りしめた。

 

 そして、静かに息を吐いた。

 

「……なるほどな」

 

 どうやら。

 

 ナイトシティは、俺が思っていた以上に厄介な街らしい。

 

 俺は歩き出した。

 

 向かう先は、リクとミナの住む集合住宅。

 

 まずは、二人の無事を確認する。

 

 それから、今後のことを考えよう。

 

 夕暮れの街を歩きながら、俺は小さく呟いた。

 

「……今度は、守りきってみせる」

 

 その声は、街の喧騒に紛れて消えていった。

 

     ◇

 

 同じ頃。

 

 ナイトシティの別の場所。

 

 薄暗い部屋の中で、一人の男が映像を眺めていた。

 

 画面には、長剣を持った黒髪の少年が映っている。

 

 銃を持った男たちを圧倒する姿。

 

 車両を押し動かす怪力。

 

 そして、負傷者を治療する金色の光。

 

 男は静かに笑った。

 

「……面白い」

 

 隣に立つ部下が尋ねる。

 

「……どうしますか?」

 

 男はしばらく考えた。

 

 そして、答えた。

 

「まずは調べろ」

 

「……何を?」

 

「名前。経歴。住居。交友関係」

 

 男は画面の少年を見つめた。

 

「……すべてだ」

 

 部下が頷く。

 

「了解しました」

 

 男は椅子にもたれかかった。

 

 そして、低く呟いた。

 

「……カイ」

 

 その声には、明らかな興味が込められていた。

 

「お前が何者なのか、知りたくなってきたぜ」

 

 画面の中で、少年が剣を振るう。

 

 その刃が、機械化された腕を斬り裂く。

 

 男は口元を歪めた。

 

「……ナイトシティには、まだ知らないものがあるらしいな」

 

 部屋に、低い笑い声が響いた。

 

 そして。

 

 神々の剣士を巡る、新たな思惑が静かに動き始めていた。




AIに全部任せて書いてもらってるけど、全然知らない黒幕っぽいやつまた出てきて笑う
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