神々の剣士、鋼鉄の兵士たちと激突する
人間を殺さずに倒すことと、殺すつもりで倒すこと。
その二つは、似ているようでまったく違う。
剣を振るう速度も、踏み込む距離も、相手の攻撃に対する判断も変わってくる。
敵の命を奪わないためには、斬ってはいけない場所を考えなければならない。
相手が倒れた後のことまで計算しなければならない。
だが、殺し合いにおいては違う。
敵の攻撃を止める最も確実な方法を、迷わず選べる。
それがどれほど大きな違いなのか。
俺は、邪神との戦いで嫌というほど学んでいた。
そして今。
ナイトシティの廃ビルで、俺は久しぶりにその戦い方を選ぼうとしていた。
◇
――ダダダダッ!
銃声が響いた。
非常階段の奥に現れた二人の重装兵。
そのうち一人が、自動小銃の引き金を引いたのだ。
俺は銃口がこちらへ向く瞬間に動いていた。
左へ踏み込み、崩れた机を蹴り上げる。
古い机が宙を舞った。
直後、銃弾がその天板を貫く。
木片が飛び散る。
当然、こんな机で軍用銃の弾丸を防ぎきれるはずがない。
だが、一瞬だけ相手の視界を遮るには十分だった。
「ノア! 奥へ!」
「了解!」
背後で足音が響く。
ノアが事務所の奥へ走り出した。
俺はその姿を確認しながら、前方へ踏み込む。
視界を遮っていた机が砕ける。
その向こうから、赤い光が二つ覗いた。
重装兵の目だ。
「目標、接近――」
最後まで言わせなかった。
俺は神剣を振り下ろした。
銀色の刃が、男の右肩へ吸い込まれる。
――ザンッ!
金属が断ち切られる音。
肩部装甲が裂け、内部の機械構造が露出する。
だが、そこで止めない。
俺は剣を返し、胴体の装甲へ斜めに斬り込んだ。
――ギィンッ!
重い手応え。
刃が装甲を深く裂いた。
しかし、完全には切断できない。
……硬いな。
俺は目を細めた。
神剣の切れ味が鈍ったわけではない。
相手の装甲が、昨日戦ったガレスのものとは明らかに違うのだ。
しかも、ただ硬いだけではない。
衝撃を逃がす構造になっているらしい。
刃を受けた瞬間、内部の駆動装置が身体を僅かに捻り、致命的な損傷を避けていた。
……なるほど。
なかなかよくできている。
だが。
「――遅い」
俺は踏み込みを止めなかった。
剣を引き抜き、さらに一歩。
重装兵の左腕が動く。
こちらの頭を掴もうとする動きだ。
俺はその内側へ潜り込んだ。
そして、神剣を横薙ぎに振るう。
狙いは、胴体と首を繋ぐ装甲の継ぎ目。
――シュッ!
刃が走った。
金属製の首部装甲が裂ける。
次の瞬間、兵士の赤い目が消えた。
重い身体が前のめりに倒れる。
――ドォンッ!
床が揺れた。
俺はその身体を一瞥した。
動かない。
……一人。
そう判断した直後。
もう一人の兵士が、こちらへ銃口を向けた。
◇
「――目標、脅威度上昇!」
機械的な声。
銃口が俺の胸元へ向く。
だが、相手が引き金を引くより早く、俺は倒れた兵士の身体を蹴った。
重装甲の巨体が滑る。
もう一人の兵士の足元へ衝突した。
「――ッ!」
相手の姿勢が崩れる。
その一瞬。
俺は距離を詰めた。
神剣を低く構える。
敵の銃口が、再びこちらへ向く。
……撃たせない。
俺は左足を踏み込んだ。
そして、剣を下から斬り上げる。
――ガギィンッ!
銃身が断ち切られた。
切断された部品が宙を舞う。
だが、重装兵は怯まなかった。
左腕を振り上げる。
装甲の内側から、短い刃が飛び出した。
……格闘用の武器か。
俺は身体を捻った。
刃が頬のすぐ横を通り過ぎる。
風圧が髪を揺らした。
そのまま相手の腕をやり過ごし、俺は一歩踏み込む。
神剣を持つ右手に力を込めた。
狙うのは、胸部装甲の中央。
そこには、僅かな継ぎ目がある。
俺は剣先をその一点へ向けた。
「――はっ!」
突き。
銀色の刃が、装甲の隙間へ滑り込んだ。
――ズンッ!
重い抵抗。
だが、止まらない。
俺は身体ごと踏み込み、剣を深く押し込んだ。
装甲の内側で、何かが砕ける。
火花が散った。
「――内部機構、重大損傷……」
兵士の声が途切れた。
赤い目が明滅する。
そして、消えた。
俺は剣を引き抜く。
重装兵が崩れ落ちた。
――ドォンッ!
二人目。
俺は静かに息を吐いた。
……なるほど。
この程度の装甲なら、十分に斬れる。
ただし、思ったよりも頑丈だ。
そして何より、反応速度が速い。
普通の人間なら、最初の踏み込みに対応することすらできなかっただろう。
だが、こいつらは違う。
機械化された身体が、人間の限界を超えた速度で動いている。
……面白い相手だ。
いや。
今は、そんなことを考えている場合じゃない。
俺はすぐに振り返った。
「ノア!」
奥の部屋から声が返ってくる。
「……生きてる!」
「よかった!」
俺は少し安心した。
だが、その直後。
階下から、新たな足音が響いた。
……まだいるのか。
◇
俺は倒れた兵士たちを見下ろした。
全身を覆う装甲。
機械化された四肢。
そして、内部に組み込まれた火器。
生身の部分がどれほど残っているのか、外見からは分からない。
ただ、今の攻撃で致命的な損傷を与えたことは確かだった。
俺は剣についた黒い液体を軽く振り払った。
……久しぶりだな。
相手の命を奪うことを前提に剣を振るったのは。
ナイトシティに来てから、俺は可能な限り敵を殺さないようにしていた。
最初に襲ってきたチンピラ。
リクを追っていた男たち。
路地で戦ったギャング。
そして、昨日の護衛任務で遭遇したガレス。
全員、できる限り生かしたまま無力化してきた。
だが、それは決して簡単なことではなかった。
特に、ガレスのような重度のサイバーウェア使用者は厄介だった。
機械化された腕や脚を破壊しても、戦闘能力が完全に失われるとは限らない。
しかも、生身の部分を避けながら攻撃する必要がある。
昨日、俺はガレスの右腕の駆動部を斬った。
だが、本気で殺すつもりなら、最初から首か胴体の急所を狙っていただろう。
そうすれば、もっと早く決着がついていたはずだ。
……もちろん、だからといって無意味に殺すつもりはない。
俺は人殺しが好きなわけじゃない。
むしろ、できることなら避けたい。
だが、目の前の相手が本気で殺しに来ているなら話は別だ。
まして、背後にはノアがいる。
俺の迷いが原因で彼女を死なせるわけにはいかない。
「……悪いな」
俺は倒れた兵士たちへ小さく呟いた。
そして、階段へ視線を向けた。
足音は、近づいている。
……次が来るか。
◇
「……カイ!」
ノアが奥の部屋から顔を出した。
その手には、小型端末が握られている。
「……今のうちに逃げる!」
「ああ」
俺は頷いた。
「裏口は?」
「……使える」
ノアは答えた。
「でも、階下に敵がいる」
「……何人?」
「……最低四人」
俺は少し考えた。
さっき倒した三人とは別に、まだ四人いるらしい。
しかも、倉庫側にも警備員がいる。
……長居は危険だな。
俺はノアへ視線を向けた。
「……ここから飛び降りられるか?」
ノアが目を見開いた。
「……二階から?」
「ああ」
「……無理」
即答だった。
俺は苦笑した。
「……だよな」
元の世界では、二階程度の高さなら問題にならなかった。
だが、普通の人間には危険だ。
まして、ノアは戦闘用の身体を持っているわけではない。
俺は少し考えた。
そして、窓の外を見た。
建物の裏側。
狭い路地。
そこには、古いコンテナが積まれている。
……あれなら。
「……ノア」
「……何?」
「俺が先に降りる」
ノアは眉をひそめた。
「……どうやって?」
「……飛ぶ」
「……正気?」
俺は笑った。
「大丈夫」
ノアは少し黙った。
そして、溜息をついた。
「……あなたも、かなり変」
……また言われた。
俺は苦笑した。
「……よく言われる」
◇
俺は窓を開けた。
外には、二階分の高さがある。
下には、古いコンテナ。
その先には、狭い路地が続いていた。
俺は周囲を確認した。
……敵はいないな。
少なくとも、見える範囲には。
「……行くぞ」
俺はノアへ声をかけた。
そして、窓枠へ足をかける。
次の瞬間。
俺は外へ飛び出した。
身体が宙を舞う。
風が頬を撫でる。
俺は空中で姿勢を整えた。
そして、コンテナの上へ着地する。
――ドンッ!
鈍い音。
だが、問題はない。
膝を曲げ、衝撃を逃がす。
俺はすぐに顔を上げた。
「……ノア!」
窓から、彼女が顔を出した。
「……本当に飛んだ」
俺は笑った。
「……次は、こっちだ」
俺はコンテナの上から、建物の壁を確認した。
窓のすぐ下には、古い配管が通っている。
その配管を利用すれば、ある程度は降りられる。
だが、ノアには難しいだろう。
……仕方ない。
俺は再び壁を蹴った。
身体が上昇する。
そして、窓枠へ手をかけた。
ノアが目を丸くする。
「……何、それ」
「……ちょっとした身体能力だよ」
俺は答えた。
「……ちょっと?」
彼女は呆れたようだった。
俺は苦笑した。
「……とにかく、掴まってくれ」
ノアは少し躊躇した。
だが、やがて頷いた。
「……分かった」
俺は彼女の身体を支えた。
そして、慎重に窓から降ろす。
ノアは俺の肩へしがみついた。
「……落とさないで」
「大丈夫」
俺は答えた。
「……絶対?」
「絶対」
その言葉に、ノアは小さく息を吐いた。
俺は壁を蹴り、コンテナの上へ降りた。
――ドンッ!
衝撃が足元へ伝わる。
だが、問題ない。
ノアは目を閉じていた。
「……着いたぞ」
俺が声をかけると、彼女はゆっくりと目を開いた。
「……生きてる」
「……そりゃそうだろ」
俺は苦笑した。
ノアはしばらく俺を見つめた。
そして、小さく呟いた。
「……本当に人間?」
……最近、そればかり聞かれるな。
◇
俺たちはコンテナから地面へ降りた。
路地は静かだった。
だが、遠くから警報音が聞こえている。
……時間がない。
「……ノア」
「……何?」
「撤退するぞ」
彼女は頷いた。
「……了解」
俺たちは路地を走り出した。
ノアは小型端末を操作しながら、周囲の地図を確認している。
俺はその隣を走り、後方を警戒した。
……追ってくるか?
今のところ、足音は聞こえない。
だが、安心はできない。
相手は軍用装備を持った兵士たちだ。
こちらの位置を追跡する手段を持っていても不思議ではない。
「……ノア」
「……何?」
「通信は使えるか?」
「……使える」
彼女は答えた。
「エリオットに連絡する」
「頼む」
数秒後。
ノアが端末へ話しかけた。
「……エリオット」
『ノア? どうした?』
「……調査地点で、武装した兵士と遭遇した」
通信の向こうで、沈黙があった。
『……兵士?』
「……軍用の全身義体に近い装備」
エリオットの声が変わった。
『……何だって?』
「……三人と交戦。現在、撤退中」
『……カイは?』
ノアが俺を見た。
「……無事」
俺は小さく頷いた。
『……分かった。すぐに迎えを手配する』
エリオットは続けた。
『現在位置を送ってくれ』
ノアは端末を操作した。
「……送信した」
『確認した。十分ほどで車を向かわせる』
「……了解」
通信が切れた。
俺は静かに息を吐いた。
……十分か。
それまで、追手を振り切る必要がある。
◇
俺たちは工業地区の奥へ向かった。
大通りを避け、建物の陰を移動する。
ノアは息を切らしていた。
当然だ。
彼女は戦闘員ではない。
俺と同じ速度で走り続けるのは難しい。
「……少し休むか?」
俺が尋ねると、ノアは首を横に振った。
「……まだ、大丈夫」
だが、声は苦しそうだった。
俺は周囲を見回した。
近くには、使われていない工場がある。
入口は半分壊れている。
内部には、古い機械が並んでいた。
「……あそこへ入ろう」
俺が言うと、ノアは頷いた。
俺たちは工場の中へ入った。
薄暗い室内。
埃の積もった床。
そして、錆びた機械。
俺は入口付近へ立ち、周囲を警戒した。
ノアは壁際へ座り込む。
「……はぁ……はぁ……」
俺は水を差し出した。
「……飲めるか?」
ノアは少し驚いた。
そして、受け取った。
「……ありがとう」
彼女は少しずつ水を飲んだ。
俺は静かに息を吐いた。
……さて。
ここまで来れば、少しは時間を稼げるだろうか。
だが、そのとき。
遠くから、低い機械音が聞こえた。
……ん?
俺は顔を上げた。
音は、工場の外。
空中から聞こえてくる。
……ドローンか。
俺は窓の隙間から外を見た。
そこには、小型の飛行機械が浮かんでいた。
黒い機体。
赤いセンサー。
そして、下部に取り付けられた小型の銃口。
……なるほど。
追跡用のドローンか。
俺は静かに息を吐いた。
……まだ終わっていないらしい。
◇
「……ノア」
俺は小さな声で呼びかけた。
彼女が顔を上げる。
「……何?」
「……ドローンが来た」
ノアの表情が変わった。
「……追跡された?」
「たぶんな」
俺は頷いた。
ドローンは、工場の周囲をゆっくりと飛んでいる。
こちらを探しているようだった。
……どうする?
剣で斬ることはできる。
だが、空中を飛ぶ相手だ。
しかも、銃を装備している。
不用意に姿を晒せば、ノアまで危険になる。
俺は少し考えた。
そして、指輪へ視線を落とした。
正義と力の神の祝福。
雷の奇跡。
一日に使える回数は、五回。
今は、まだ一度も使っていない。
……これなら。
俺は静かに息を吐いた。
ただし、問題がある。
周囲には、古い機械が並んでいる。
電気設備も残っているかもしれない。
雷を使えば、火災や爆発を引き起こす可能性がある。
……慎重に狙う必要があるな。
俺は窓の外を確認した。
ドローンは、工場の入口から少し離れた場所を飛んでいる。
周囲に人影はない。
近くに燃料タンクらしいものも見当たらない。
……よし。
俺は右手を上げた。
指輪が淡く輝く。
そして、静かに祈った。
「……正義と力の神よ」
掌に、小さな光が生まれる。
青白い雷光。
空気が、僅かに震える。
ノアが目を見開いた。
「……何、それ」
俺は答えなかった。
ただ、ドローンを見つめる。
距離。
角度。
風向き。
そして、周囲の障害物。
すべてを確認する。
……今だ。
俺は指先を向けた。
「――雷よ」
次の瞬間。
青白い光が走った。
――バチィンッ!
鋭い音。
雷が、ドローンの機体を直撃した。
赤いセンサーが弾ける。
小さな火花が散る。
そして、機体が制御を失った。
――ガシャンッ!
ドローンが地面へ落下する。
俺は静かに息を吐いた。
……よし。
雷の奇跡。
本日、一回目。
残り四回。
俺は指輪を見つめた。
……問題ないな。
そのとき。
背後から、小さな声が聞こえた。
「……カイ」
俺は振り返った。
ノアが、こちらを見つめていた。
その表情は、驚愕そのものだった。
「……今の、何?」
俺は少し考えた。
そして、答えた。
「……雷だよ」
「……それは見れば分かる」
ノアは即答した。
……なるほど。
どうやら、彼女もレナと同じ反応をするらしい。
俺は苦笑した。
「……詳しい説明は、あとで」
ノアはしばらく俺を見つめていた。
そして、額を押さえた。
「……情報が多すぎる」
俺は小さく笑った。
「……悪い」
◇
それから数分後。
俺たちは工場を出た。
ドローンの残骸は、道の端に転がっている。
俺は周囲を確認した。
……追手は?
今のところ、見えない。
だが、ドローンが破壊されたことは、相手にも伝わっているだろう。
ここに長居するのは危険だ。
俺はノアへ声をかけた。
「……もう少しだ」
彼女は頷いた。
「……分かってる」
俺たちは再び走り出した。
やがて、指定された合流地点が見えてきた。
古い駐車場。
そこには、黒い車両が一台停まっていた。
運転席の窓が下がる。
「……乗れ!」
聞き覚えのある声。
俺は少し驚いた。
「……マーカス?」
運転席には、昨日の護衛任務で一緒だった大男が座っていた。
赤く光る義眼。
機械化された左腕。
そして、厳つい顔。
マーカスは眉をひそめた。
「……話は後だ!」
俺は頷いた。
「……分かった!」
俺たちは車へ乗り込んだ。
ドアが閉まる。
直後、車が加速した。
俺は後方を確認した。
……追手は見えない。
ひとまず、逃げ切れたらしい。
◇
「……まったく」
マーカスが低く呟いた。
「お前と組むと、ろくなことが起きねえな」
俺は苦笑した。
「……俺のせいか?」
「半分くらいはな」
マーカスは答えた。
……半分か。
それなら、まだいい方なのかもしれない。
「……助かったよ」
俺が言うと、マーカスは鼻を鳴らした。
「……礼はいい」
そして、バックミラー越しに俺を見た。
「……それより、何があった?」
俺は少し考えた。
そして、答えた。
「……軍用装備の兵士に襲われた」
マーカスの表情が変わった。
「……何人?」
「三人」
「……倒したのか?」
「ああ」
俺は頷いた。
「ただし、一人は動けなくしただけだ」
マーカスは黙った。
そして、低く呟いた。
「……お前、本当に何者なんだ」
……またか。
俺は苦笑した。
「……剣士だよ」
マーカスは大きく溜息をついた。
「……もういい」
ノアが小さく笑った。
俺は少し驚いた。
彼女が笑うところを、初めて見た気がする。
◇
その後、俺たちはヴィクターの指定した場所へ戻った。
ワトソンのバー。
奥の個室。
そこには、ヴィクターとエリオットが待っていた。
俺たちが入ると、ヴィクターが顔を上げた。
「……無事だったか」
「ああ」
俺は頷いた。
「ノアも無事だ」
ノアが小さく頭を下げる。
ヴィクターは安心したように息を吐いた。
「……よかった」
そして、俺を見た。
「……で、何があった?」
俺は簡単に説明した。
倉庫の監視。
軍用輸送ケース。
暗号化通信。
そして、全身を機械化した兵士たち。
ヴィクターは黙って聞いていた。
やがて、ノアが端末を操作した。
「……映像がある」
画面に、事務所跡での戦闘映像が表示された。
俺が神剣を振るう。
装甲が裂ける。
兵士たちが倒れる。
ヴィクターは、しばらく黙っていた。
そして。
「……おいおい」
低く呟いた。
「……こりゃ、想像以上だな」
エリオットも画面を見つめている。
ノアが説明した。
「……装備は、ミリテク系の軍用規格に近い」
ヴィクターの表情が変わった。
「……確かか?」
「……完全には断定できない。でも、可能性は高い」
俺は静かに息を吐いた。
……なるほど。
どうやら、本当に面倒な相手が関わっているらしい。
そのとき。
ノアが、もう一つの画面を開いた。
「……それと、これ」
そこには、倉庫から搬出される大型ケースの映像が表示されていた。
ノアが拡大する。
ケースの側面。
再塗装された表面。
その下に、僅かに残っている文字。
ヴィクターが目を細めた。
「……何だ、これは」
ノアは静かに答えた。
「……旧式の軍用識別番号」
そして、少し間を置いた。
「……ただし、登録されている中身が一致しない」
俺は眉をひそめた。
「……どういうことだ?」
ノアは画面を操作した。
「……この番号は、本来なら医療用の機器に使われていた」
俺は目を見開いた。
「……医療用?」
ヴィクターの表情が変わる。
エリオットも顔を上げた。
ノアは続けた。
「……しかも、昨日襲撃された輸送車両の積荷と、同じ分類」
室内が静まり返った。
俺は画面を見つめた。
……医療物資。
昨日の護衛任務。
ガレスの襲撃。
そして、今回の倉庫。
それらが、少しずつ繋がり始めている。
ヴィクターは低く呟いた。
「……なるほどな」
男は端末を閉じた。
そして、俺たちを見た。
「……どうやら、俺たちは思っていた以上に大きな仕事に首を突っ込んじまったらしい」
俺は静かに息を吐いた。
……まったく。
この世界に来てから、まだ一週間も経っていないというのに。
どうして、こんなことになっているんだ?
俺は胸元の護符に触れた。
セレーネ。
……君がここにいたら、きっと呆れるだろうな。
だが、今はまだ戻れない。
そして、この世界には、守りたい人間がいる。
俺は静かに顔を上げた。
「……ヴィクター」
「ん?」
「これから、どうする?」
男は少し考えた。
そして、口元を歪めた。
「……まずは、情報を整理する」
俺は頷いた。
「……それから?」
ヴィクターは、ゆっくりと答えた。
「……相手が何を隠しているのか、突き止める」
俺は静かに息を吐いた。
ナイトシティ。
巨大企業。
軍用装備。
そして、謎の医療物資。
その裏側には、まだ見えない何かが隠されている。
だが、少なくとも一つだけ分かったことがある。
俺がこの世界で生きていくためには、剣を振るうだけでは足りない。
知ること。
考えること。
そして、誰を信じるのかを見極めること。
それらもまた、必要なのだ。
俺は神剣の柄へ手を置いた。
……さて。
次は、どんな相手が待っているのだろうか。
その答えは、まだ分からない。
だが。
もし、再び剣を抜くことになったなら。
俺は、守るべきもののために戦うだけだ。