神々の剣士、見えない敵の思惑を追う
人を救うための薬が、人を殺すための争いを生む。
考えてみれば、奇妙な話だ。
俺が以前いた世界でも、薬や治癒魔法を巡って争いが起きたことはある。
希少な薬草。
高価な霊薬。
神殿でしか受けられない高度な治療。
それらを独占しようとする貴族や商人は、決して少なくなかった。
だが、少なくとも俺が旅をしていた頃は、そうした連中に対抗する手段があった。
神官に相談する。
冒険者ギルドへ訴える。
それでも駄目なら、国王や領主へ直訴する。
もちろん、すべてが上手くいくわけではない。
それでも、最後には正義と力の神が祝福した勇者が、拳を握り締めてこう言うのだ。
『だったら、俺たちが何とかしよう!』
……あいつは本当に、分かりやすい男だった。
そして俺も、結局はその言葉に付き合っていた。
だが、ここはナイトシティ。
王も勇者もいない。
代わりに存在するのは、巨大企業とフィクサー、そして金で動く傭兵たち。
この街で正義を振りかざすのは、きっと簡単なことじゃない。
だからこそ。
まずは、何が起きているのかを知らなければならない。
◇
「……医療用の機器、か」
俺は端末に表示された画像を見つめた。
ワトソンのバー。
奥の個室には、俺とヴィクター、エリオット、ノア、そしてマーカスが集まっていた。
ノースサイドの倉庫から逃げ帰ってきて、まだ一時間ほどしか経っていない。
俺の前には、水の入ったグラスが置かれている。
その隣には、今回の調査で得られた資料が並んでいた。
ノアが端末を操作する。
「……正確には、医療機器として登録されていた輸送ケース」
「中身が医療機器だったとは限らないんだな?」
俺が尋ねると、ノアは頷いた。
「……そう」
彼女は画面を拡大した。
黒い大型ケース。
再塗装された表面。
その下に残る、古い識別番号。
「……このケースの元の登録情報は、軍用医療機器の輸送に関するもの」
「軍用?」
「……負傷兵の治療や、戦場での医療支援に使う装備」
なるほど。
俺は少し考えた。
軍隊にも医療は必要だ。
それ自体は不自然ではない。
問題は、そのケースがどうして廃業した運送会社の倉庫に運び込まれていたのか、ということだろう。
「……昨日の輸送車両との関係は?」
俺が尋ねると、ノアは別の画面を開いた。
「……積荷の一部に、同じ規格の医療機器が含まれていた」
画面には、昨日俺たちが護衛した医療物資の一覧が表示されていた。
包帯。
消毒液。
注射器。
医薬品。
そして、診断装置。
俺は首を傾げた。
「……でも、昨日の荷物は本物だったぞ」
少なくとも、俺が確認した範囲では。
実際、あの荷物はサントドミンゴの小さな診療所へ届けられた。
そこで待っていた患者たちの姿も覚えている。
あれが偽物だったとは思えない。
「……その通り」
ノアが頷いた。
「だから、別の可能性を考えている」
「……別の?」
「……医療物資そのものではなく、輸送経路が狙われていた可能性」
俺は眉をひそめた。
そのとき、ヴィクターが口を開いた。
「つまり、あの襲撃は荷物を奪うためだけのものじゃなかったかもしれねえ、ってことだ」
「……輸送経路を調べるため?」
「あるいは、特定の荷物がどこへ運ばれるのかを確認するためだな」
俺は腕を組んだ。
……なるほど。
だが、それなら一つ疑問がある。
「……だったら、何であんな大掛かりな襲撃をしたんだ?」
狙撃手。
道路封鎖。
爆発物。
そして、ガレス本人まで出てきた。
輸送経路を調べるだけなら、もっと静かな方法があったはずだ。
ヴィクターは頷いた。
「そこが分からねえ」
男はグラスを置いた。
「ガレスが独断で暴走したのか。それとも、依頼主が最初から襲撃を命じていたのか」
エリオットが続ける。
「あるいは、途中で目的が変わった可能性もあります」
俺は静かに息を吐いた。
……情報が足りないな。
だが、少なくとも。
昨日の護衛任務と、今日の倉庫。
その二つが無関係とは考えにくくなってきた。
◇
「それで、カイ」
ヴィクターが俺へ視線を向けた。
「今回の戦闘について、少し詳しく聞かせてくれ」
「……戦闘?」
「ああ」
男は端末を操作した。
画面には、ノアが記録した映像が表示されている。
薄暗い事務所。
全身を装甲で覆った兵士。
そして、神剣を構える俺。
ヴィクターは映像を一時停止した。
「この連中だ」
俺は頷いた。
「……ああ」
「本当に三人とも、これだけの装備をしていたのか?」
「そうだな」
俺は少し考えた。
「少なくとも、外見は似ていた。全身のほとんどが機械化されているように見えたよ」
マーカスが低く唸った。
「……厄介な連中だな」
俺は彼を見た。
「……知ってるのか?」
「似た装備なら見たことがある」
マーカスは頷いた。
「企業の特殊部隊や、軍用義体を使った傭兵だ。全身を機械化している奴もいる」
俺は少し考えた。
「……やっぱり、珍しいのか?」
「珍しいってほどじゃねえが、そこらのギャングが簡単に用意できるもんでもねえ」
なるほど。
それだけ高価な装備ということか。
ヴィクターが映像を再生した。
俺が兵士の肩部装甲を斬る。
続いて、胴体へ斬撃。
そして、首部の装甲を断ち切る。
映像の中で、兵士が倒れた。
室内が静かになった。
「……カイ」
マーカスが口を開いた。
「お前、昨日の戦いでは、ずいぶん手加減してたんだな」
俺は少し驚いた。
「……分かるのか?」
「分かるさ」
マーカスは苦笑した。
「昨日は相手の銃を壊したり、腕の駆動部を狙ったりしていただろ」
「……ああ」
「だが、今回は違う」
彼は画面を指差した。
「最初から、相手の戦闘能力を完全に奪うつもりで斬ってる」
俺は静かに頷いた。
「……そうだな」
ヴィクターが腕を組んだ。
「……理由を聞いてもいいか?」
俺は少し考えた。
そして、答えた。
「ノアを守るためだ」
ノアが顔を上げた。
「……私?」
「ああ」
俺は頷いた。
「あの兵士たちは、俺だけじゃなくノアにも銃を向けた」
俺は続けた。
「それに、装甲が頑丈だった。手足だけを壊しても、すぐには止まらない可能性があった」
実際、一人目の兵士は脚を破壊しても戦闘を続けようとしていた。
「だから、確実に止める必要があった」
俺は静かに言った。
「相手を殺さずに済ませることより、ノアを生きて帰すことを優先したんだ」
ノアはしばらく俺を見つめていた。
そして、小さく頭を下げた。
「……ありがとう」
俺は少し笑った。
「仕事だからな」
すると、マーカスが鼻を鳴らした。
「……仕事だけでそこまでやる奴は、そう多くねえよ」
俺は肩をすくめた。
「……そうなのか?」
「ああ」
マーカスは断言した。
「少なくとも、この街じゃな」
◇
その後、ノアが別の資料を表示した。
「……戦闘記録から、いくつか分かったことがある」
俺は顔を上げた。
「……何だ?」
「……敵の装甲に、ミリテク系の部品が使われていた可能性が高い」
ヴィクターの表情が引き締まる。
「……確かか?」
「映像だけだから、断定はできない」
ノアは答えた。
「でも、胸部装甲の形状と、肩部の駆動機構が既知の軍用規格に近い」
俺は少し考えた。
「……ミリテクの特殊部隊だったのか?」
「……それは不明」
ノアは首を横に振った。
「ミリテク製の装備を使っていることと、ミリテクに所属していることは別」
なるほど。
確かに、その通りだ。
俺だって、神々から授かった剣を使っているからといって、今も神々の命令で動いているわけではない。
……いや、例えとしては少し違うか。
「ただし」
ノアが続けた。
「……今回の装備は、かなり高価」
画面に、いくつかの推定価格が表示される。
俺は数字を見て、思わず目を見開いた。
「……え?」
桁が多い。
いや、多すぎる。
「……これ、一人分?」
俺が尋ねると、ノアは頷いた。
「……推定だけど」
俺は額に手を当てた。
……とんでもないな。
昨日の護衛任務で得た千五百エディーが、急に小さく思えてきた。
ヴィクターが苦笑した。
「分かったか? 企業の兵隊ってのは、金のかけ方が違うんだよ」
「……よく分かった」
俺は頷いた。
元の世界でも、強力な魔導具は高価だった。
だが、この世界では人間の身体そのものを高額な兵器に変えてしまうらしい。
……恐ろしい話だ。
◇
「さて」
ヴィクターが手を叩いた。
「ここまでの情報を整理するぞ」
男は端末に三つの項目を表示した。
一つ目。
ガレスの襲撃。
二つ目。
ノースサイドの倉庫。
三つ目。
軍用義体を使った兵士たち。
「この三つに関係があるのは、ほぼ間違いねえ」
ヴィクターは言った。
「だが、誰が何のために動いているのかは、まだ分からない」
エリオットが頷いた。
「ガレスの部隊は、倉庫へ荷物を運んでいた形跡があります」
「……ああ」
ヴィクターは続けた。
「だが、あの倉庫の警備は、ガレスの連中より明らかに上等だ」
俺は腕を組んだ。
……確かに。
ガレスの部下たちは、装備こそ整っていたが、戦い方には粗さがあった。
一方、今日の兵士たちは違う。
動きが統一されていた。
反応速度も速い。
何より、こちらの逃走経路を塞ぐように動いていた。
……訓練された兵士だったな。
「つまり」
俺は口を開いた。
「ガレスより上の立場にいる奴が、あの倉庫を使っている可能性がある?」
ヴィクターが頷いた。
「そういうことだ」
俺は静かに息を吐いた。
……なるほど。
だが、そうなると。
「……ガレスは、何を運んでいたんだ?」
俺が尋ねると、ヴィクターは首を横に振った。
「それが分かれば、話は早いんだがな」
ノアが画面を操作する。
「……ただ、一つ気になることがある」
俺たちは彼女へ視線を向けた。
「……何だ?」
ノアは静かに答えた。
「……倉庫の搬入記録に、医療機器とは別の識別番号が混ざっていた」
俺は眉をひそめた。
「……別の?」
「……人体用の神経接続装置」
室内が静かになった。
俺は首を傾げた。
「……神経接続?」
ノアが頷いた。
「……人間の神経系と、機械を接続するための装置」
俺は少し考えた。
……つまり。
「……サイバーウェアに関係するものか?」
「……そう」
ノアは答えた。
「しかも、一般的な医療用より高性能な規格」
俺は画面を見つめた。
軍用医療機器。
神経接続装置。
全身義体の兵士。
……何となく、嫌な予感がしてきた。
◇
「……まさか」
俺は小さく呟いた。
ヴィクターがこちらを見た。
「……何だ?」
「……あの倉庫で、人間を改造している可能性はないか?」
室内が静まり返った。
ノアが顔を上げる。
マーカスが眉をひそめた。
ヴィクターは、しばらく俺を見つめていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……あり得る」
俺は静かに息を吐いた。
……やっぱりか。
この世界では、身体を機械化すること自体は珍しくない。
義手。
義足。
人工臓器。
そして、戦闘用のサイバーウェア。
だが、今日の兵士たちは、普通の人間とは明らかに違っていた。
全身を機械化し、武器まで内蔵している。
もし、あの倉庫でそうした兵士を製造、あるいは改造しているのだとしたら。
……かなり危険な施設ということになる。
「……ただし」
ヴィクターが言った。
「まだ証拠はねえ」
「……分かってる」
俺は頷いた。
「だから、調べる必要があるんだろ?」
ヴィクターは少し笑った。
「……そういうことだ」
だが、すぐに表情を引き締めた。
「ただし、次は慎重にやる」
俺は頷いた。
「……ああ」
「今日のように、いきなり軍用義体の兵士が出てくる場所だ。無計画に踏み込めば、命がいくつあっても足りねえ」
……もっともだ。
俺自身は、あの兵士たちと戦うことができる。
だが、ノアやエリオットまで同じように戦えるわけではない。
それに、敵が何人いるのかも分からない。
もし、数十人単位で待ち構えていたら。
いくら俺でも、全員を相手にしながら仲間を守り切れるとは限らない。
……戦う場所と状況は、こちらで選ぶべきだな。
◇
そのときだった。
俺の通信端末が振動した。
「……ん?」
画面を見る。
表示されていたのは、リクからのメッセージだった。
『カイ、今大丈夫?』
俺は少し驚いた。
……何かあったのか?
すぐに返信する。
『大丈夫だ。どうした?』
数秒後。
『ミナが、シルヴァに名前を教えようとしてる』
……ん?
俺は首を傾げた。
続けて、メッセージが届く。
『シルヴァはもう名前あるって言ったんだけど、ミナが「シルヴァちゃん」って呼びたいらしい』
俺は思わず笑った。
……なるほど。
どうやら、平和な話らしい。
俺は返信した。
『シルヴァが嫌がってなければ、いいんじゃないか?』
すぐに返事が来る。
『めちゃくちゃ尻尾振ってる』
……そうか。
俺は小さく笑った。
シルヴァ。
狩猟の神から授かった霊狼。
元の世界では、魔獣の追跡や夜営の警戒を任せていた。
だが、今は十歳の少女に撫でられて喜んでいるらしい。
……まあ、それもいいか。
俺は端末をしまった。
すると、ヴィクターがこちらを見ていた。
「……何だ、随分と嬉しそうだな」
俺は少し笑った。
「……知り合いから連絡が来たんだ」
「……無事なのか?」
「ああ」
俺は頷いた。
「今のところ、問題ない」
ヴィクターは安心したように息を吐いた。
「……そいつはよかった」
俺は少し驚いた。
……意外と、気にしてくれているんだな。
いや。
フィクサーとして、関係者の安全を気にするのは当然なのかもしれない。
だが、それでも。
俺は少し嬉しかった。
◇
その後、ヴィクターは今回の調査について報酬を支払ってくれた。
二千五百エディー。
現金だ。
俺は紙幣を受け取り、少し驚いた。
「……全額?」
ヴィクターが眉を上げた。
「当然だろ」
「……途中で撤退したのに?」
男は鼻を鳴らした。
「情報は持ち帰った。ノアも無事だ。しかも、敵の戦闘能力まで確認できた」
ヴィクターは続けた。
「十分な成果だ」
俺は少し考えた。
そして、頷いた。
「……ありがとう」
男は笑った。
「礼を言うなら、次もちゃんと仕事してくれ」
「……分かった」
俺は笑った。
これで、少し資金に余裕ができた。
もちろん、避難先の費用や生活費も必要だ。
だが、当面の食料には困らないだろう。
……よかった。
俺は紙幣をしまった。
そのとき。
ノアが静かに口を開いた。
「……カイ」
「ん?」
「……一つ、聞いてもいい?」
俺は頷いた。
「もちろん」
彼女は少し考えた。
そして、真剣な顔で尋ねた。
「……あなたの剣、何でできてるの?」
……なるほど。
そう来たか。
俺は少し苦笑した。
「……特殊な金属だよ」
「……名前は?」
俺は首を傾げた。
そういえば、正式な材質名を聞いたことがあっただろうか。
鍛冶と炎の神が鍛えた剣。
正義と力の神が、俺へ授けてくれた武器。
神々の力が込められた特別な金属で作られている。
だが、詳しい製法までは知らない。
「……分からない」
俺が答えると、ノアは目を丸くした。
「……自分の武器なのに?」
「……貰い物だからな」
俺は苦笑した。
ノアはしばらく黙った。
そして、小さく呟いた。
「……調べたい」
……おっと。
俺は少し警戒した。
「……壊したりしないよな?」
ノアは即答した。
「……しない」
「……絶対?」
「……絶対」
俺は少し考えた。
そして、首を横に振った。
「……今はやめておくよ」
ノアは少し残念そうだった。
「……そう」
俺は苦笑した。
……この剣は、そう簡単に他人へ預けられない。
俺にとって、神々との繋がりを感じられる大切な品だからな。
◇
夕方。
俺はバーを出た。
空は赤く染まり始めている。
巨大な広告が、少しずつ明るさを増していた。
俺は長剣のケースを背負い直した。
そして、通信端末を取り出す。
リクへ連絡した。
数秒後。
『……カイ?』
「ああ」
『仕事、終わった?』
「終わったよ」
俺は笑った。
「これから帰る」
『……分かった』
リクの声が少し明るくなった。
『ミナが、夕飯一緒に食べたいって』
「……そうか」
俺は少し嬉しくなった。
「じゃあ、何か買って帰ろうか」
『……本当に?』
「ああ」
俺は頷いた。
「何がいい?」
少し間があった。
そして、遠くからミナの声が聞こえた。
『……お肉!』
俺は思わず笑った。
「……了解」
リクが苦笑する声が聞こえる。
『……ミナ、聞こえてるぞ』
『だって、お肉食べたいもん!』
俺は笑った。
「じゃあ、肉料理を買って帰るよ」
『……ありがとう、カイ』
「ああ」
俺は頷いた。
「また後でな」
通信が切れた。
俺は端末をしまった。
……さて。
この世界に来てから、まだ数日。
だが、こうして帰る場所がある。
それは、思っていた以上にありがたいことだった。
俺は胸元の護符へ触れた。
セレーネ。
……君も、元気にしているだろうか。
元の世界では、今頃何をしているのだろう。
俺を探しているのか。
それとも、仲間たちと一緒に次の道を考えているのか。
……会いたいな。
その気持ちは、日に日に強くなっていた。
だが、今はまだ戻る方法が分からない。
だからこそ。
この世界で、生きていかなければならない。
俺は静かに息を吐いた。
そして、歩き出した。
◇
一方、その頃。
ノースサイドの物流倉庫。
地下に設けられた、薄暗い部屋。
そこには、数人の男たちが集まっていた。
壁には複数の端末。
中央には、大きな作業台。
そして、奥には金属製の扉が設置されている。
一人の男が、画面を見つめていた。
黒いスーツ。
整えられた髪。
そして、冷たい目。
「……三人、失ったのか」
男が低く呟いた。
隣に立つ部下が頷く。
「はい」
「……相手は?」
「未確認の少年です」
男は眉をひそめた。
「……少年?」
「十代半ばと思われます。黒髪、長剣を使用」
部下は端末を操作した。
画面に、監視映像が表示される。
そこには、神剣を振るうカイの姿が映っていた。
男は黙って映像を見つめた。
兵士が斬られる。
装甲が裂ける。
そして、倒れる。
男の目が細くなった。
「……何だ、この武器は」
「不明です」
部下が答えた。
「既知の高周波ブレードとは異なる特性を示しています」
男はしばらく黙った。
そして、映像を巻き戻した。
今度は、カイが兵士の攻撃をかわす場面。
男は画面を見つめる。
「……サンデヴィスタンか?」
「加速装置の使用痕跡は確認できません」
「……強化筋肉?」
「それも不明です」
男は眉をひそめた。
「……何も分からないのか」
部下は黙った。
男はしばらく映像を見つめていた。
そして、静かに笑った。
「……興味深い」
部下が顔を上げる。
「……どうされますか?」
男は少し考えた。
そして、答えた。
「……まずは、身元を調べろ」
「了解しました」
「ただし、無闇に手を出すな」
部下が少し驚いた。
「……よろしいのですか?」
男は画面を指差した。
「この少年は、軍用義体を三人も倒している」
そして、静かに続けた。
「正体が分からない相手に、次々と兵士を送り込むほど私は愚かではない」
部下は頷いた。
「……承知しました」
男は再び画面へ視線を戻した。
そこには、神剣を構えるカイの姿が映っている。
「……それに」
男は小さく呟いた。
「……使い道があるかもしれん」
その言葉を最後に、部屋は静まり返った。
◇
夜。
俺は、リクとミナの待つ部屋へ帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり!」
ミナが元気よく駆け寄ってくる。
その後ろには、リク。
そして、姿を現したシルヴァがいた。
銀色の霊狼は、静かに尾を揺らしている。
俺は思わず笑った。
「……ただいま、シルヴァ」
狼が鼻先を寄せてくる。
俺はその頭を撫でた。
……ありがとう。
今日も、二人を守ってくれたらしい。
「カイお兄ちゃん!」
ミナが俺の手元を見た。
「……お肉?」
「ああ」
俺は袋を持ち上げた。
「約束通り、買ってきたぞ」
ミナの顔が輝いた。
「やった!」
リクも笑った。
「……ありがとう、カイ」
「いいって」
俺は頷いた。
「じゃあ、食べようか」
その夜。
俺たちは、久しぶりに落ち着いた夕食を囲んだ。
ミナは嬉しそうに肉料理を食べ、リクはその様子を見て笑っている。
シルヴァは、床に伏せて静かに俺たちを見守っていた。
俺はその光景を眺めながら、少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
……こういう時間は、守りたいな。
そう思った。
巨大企業。
軍用義体。
謎の医療物資。
そして、俺を調べ始めた何者か。
問題は、まだ何一つ解決していない。
だが、今だけは。
この小さな部屋の中にある平穏を、大切にしたかった。
俺は静かに箸を置いた。
そして、胸元の護符へ触れる。
……セレーネ。
いつか、君にもこの世界を見せたい。
もちろん、危険な場所ばかりじゃない。
こんなふうに、誰かと食卓を囲む時間もあるんだ。
俺は小さく笑った。
……その日が来るまで。
俺は、ここで生きていく。
神々から授かった剣と共に。
そして、新しく出会った仲間たちと共に。