神々の剣士は電脳都市で生きる   作:アイエオ

19 / 37
第十九話 鋼鉄の値段

神々の剣士、ナイトシティの常識を学ぶ

 朝、目が覚めたとき、俺の顔のすぐ横に巨大な狼の鼻先があった。

 

「うおっ!?」

 

 思わず身体を起こす。

 

 銀灰色の毛並み。澄んだ青い瞳。立派な耳と、ふさふさした尻尾。

 

 シルヴァだ。

 

 霊狼は俺の反応が面白かったのか、尻尾を一度だけ床に打ちつけた。

 

「……お前、絶対わざとやっただろ」

 

 そう言って額を指で押すと、シルヴァは何食わぬ顔で鼻を鳴らした。

 

 狩猟の神から授かった霊狼。

 

 魔獣を追跡し、夜営地を守り、時には俺と肩を並べて戦ってくれた頼もしい仲間。

 

 そのはずなのだが、最近は妙に悪戯好きな一面を見せている。

 

 特にミナと仲良くなってからは、すっかり家庭犬のような振る舞いを覚えてしまった。

 

 もっとも、本人にそんなことを言ったら不満そうな顔をされそうだが。

 

「おはよう。二人は?」

 

 シルヴァが廊下の方へ顔を向ける。

 

 耳を澄ませると、台所から小さな物音が聞こえた。

 

「……ああ、もう起きてるのか」

 

 俺は寝台から降り、軽く身体を伸ばした。

 

 昨日は軍用義体の兵士たちと戦ったが、幸い大きな怪我はなかった。細かな打撲や擦り傷は、休息と豊穣の女神の祝福によってほとんど回復している。

 

 窓の外には、灰色の空が広がっていた。

 

 遠くの高層建築に巨大な広告が浮かび、道路を走る車両の音が絶え間なく響いている。

 

 ナイトシティ、2072年。

 

 この街へ来てから、まだ一週間ほど。

 

 だというのに、すでに銃撃戦を何度経験したことか。

 

 ……そろそろ普通の生活を送りたいものだ。

 

 そう考えながら居間へ向かうと、台所に立っていたリクが振り返った。

 

「おはよう、カイ」

 

「おはよう。早いな」

 

「ミナが腹減ったって起こしてきたんだよ」

 

「なるほど」

 

 食卓では、そのミナがパンを両手で持っていた。

 

「カイお兄ちゃん、おはよう!」

 

「おはよう、ミナ。よく眠れたか?」

 

「うん! ここのベッド、ふかふか!」

 

 少女は満面の笑みで答えた。

 

 以前の部屋では、二人が使っていた寝具は薄く、かなり傷んでいた。新しい避難先にはまともな寝台があり、室温も安定している。

 

 それだけでも、ミナの身体には随分といいはずだ。

 

「それはよかった」

 

 俺が椅子へ座ると、ミナは不思議そうに首を傾げた。

 

「カイお兄ちゃん、今日はお仕事?」

 

「今のところ予定はないな」

 

「じゃあ、一緒にいられる?」

 

 期待に満ちた視線。

 

 俺は思わず笑った。

 

「そうだな。何か急な用事が入らなければ」

 

「やった!」

 

 ミナが両手を上げる。

 

 その瞬間、パンが落ちそうになった。

 

「あっ」

 

 俺は咄嗟に手を伸ばし、床に落ちる寸前で受け止めた。

 

「危ない危ない」

 

「すごい!」

 

「パンを落とさなかっただけだぞ?」

 

 リクが呆れたように笑った。

 

「カイがやると、何でもすごく見えるんだよ」

 

 ……そういうものなのか?

 

 俺にはよく分からない。

 

 ともあれ、こうして平和に朝食を食べられるのはありがたかった。

 

     ◇

 

 朝食を終えた後、俺は通信端末を取り出した。

 

 昨日の仕事で受け取った二千五百エディー。

 

 その前の護衛任務で得た千五百エディー。

 

 そして、最初に金貨を換金したときの残金。

 

 手元の資金を確認しながら、今後必要になるものを考える。

 

 住居費。

 

 食費。

 

 衣服。

 

 医療費。

 

 通信費。

 

 それに、身分証明の問題も残っている。

 

 何より、俺にはこの世界で使える正式な身分がない。

 

 ……やっぱり、そこを何とかしないとな。

 

 そのとき、端末が振動した。

 

 エリオットからの着信だ。

 

「もしもし」

 

『おはよう、カイ。昨日はよく眠れたかい?』

 

「ああ。おかげさまで」

 

『それはよかった。少し話せるかな?』

 

「大丈夫だよ」

 

『実は、ヴィクターから伝言があるんだ』

 

 俺は姿勢を正した。

 

「……昨日の件か?」

 

『それもあるけど、今日は別の話だ』

 

「別の?」

 

『君の身分登録について、相談できそうな人物が見つかった』

 

 俺は思わず顔を上げた。

 

「本当か?」

 

『ああ。ただし、簡単な話ではないよ』

 

「……だろうな」

 

 この街で、何の記録も持たない十六歳の少年が突然現れたのだ。

 

 そう簡単に正式な身分を手に入れられるとは思っていない。

 

『それと、昨日の戦闘で使った剣について、ノアが少し調べたいそうだ』

 

「……剣?」

 

『そう。もちろん、君が許可する範囲で構わない』

 

 俺は少し考えた。

 

 神剣は、正義と力の神から授かった大切な武器だ。

 

 手放すつもりはない。

 

 だが、この世界の兵器とどれほど違うのかを知ることには意味がある。

 

 特に、昨日の軍用義体の装甲。

 

 あれは今まで戦ったサイバーウェア使用者とは、明らかに強度が違った。

 

「……壊したり、持ち帰ったりしないなら、少しは協力できるよ」

 

『ありがとう。ノアも喜ぶと思う』

 

「それで、どこへ行けばいい?」

 

『今日はヴィクターの知り合いが使っている工房だ。場所を送るよ』

 

「分かった」

 

 通話を終えると、端末に地図が表示された。

 

 ワトソンの一角。

 

 今いる避難先から、それほど遠くない。

 

 俺はリクへ顔を向けた。

 

「悪い。ちょっと用事ができた」

 

「仕事?」

 

「いや、今日は相談事かな」

 

 リクは頷いた。

 

「分かった。ミナは俺が見てる」

 

「頼む」

 

 俺はシルヴァへ視線を向けた。

 

 霊狼は、ミナの隣で気持ちよさそうに伏せている。

 

「シルヴァも頼むぞ。何か危険があったら、戦うより先に二人を逃がしてくれ」

 

 青い瞳がこちらを向いた。

 

 小さく尾が動く。

 

 意思は伝わったらしい。

 

 俺はミナの頭を撫でた。

 

「昼には帰れると思う」

 

「おみやげは?」

 

「……昨日は肉を買ってきただろ?」

 

「今日は甘いの!」

 

 なかなか欲張りな少女である。

 

「分かった。何か探してくるよ」

 

「約束!」

 

 俺は差し出された小さな指に、自分の小指を絡めた。

 

「約束だ」

 

     ◇

 

 指定された工房は、古い自動車整備場の一角にあった。

 

 外観はかなり年季が入っている。

 

 壁には色褪せた企業広告が貼られ、入口のシャッターには無数の傷が残っていた。

 

 だが、内部へ入ると印象が変わった。

 

 工具が整然と並び、作業台には分解されたサイバーウェアが置かれている。

 

 奥では、小型の機械が金属部品を削っていた。

 

「……へえ」

 

 俺は思わず声を漏らした。

 

 元の世界にも鍛冶場や魔導具工房はあった。

 

 だが、ここはまったく違う。

 

 魔力を込めた炉もなければ、刻印された魔法陣もない。

 

 代わりに、精密な機械と電子機器が並んでいる。

 

「来たね」

 

 奥から声が聞こえた。

 

 ノアだった。

 

 今日は眼鏡をかけておらず、作業用の薄いジャケットを着ている。

 

「おはよう、ノア」

 

「……おはよう」

 

 彼女は俺の背中にある長いケースを見た。

 

「……持ってきた?」

 

「ああ」

 

 俺はケースを軽く叩いた。

 

「ただし、約束は守ってくれよ」

 

「……分かってる」

 

 ノアは頷いた。

 

「分解しない。傷つけない。持ち帰らない」

 

「よし」

 

 俺は笑った。

 

 そのとき、工房の奥から大柄な男が現れた。

 

 四十代後半くらいだろうか。

 

 短く刈り込んだ髪に、無精髭。

 

 右腕は肩から先が機械化されている。

 

 油の染みた作業着を着た男は、俺を見て眉を上げた。

 

「……こいつが例のガキか?」

 

 ノアが頷く。

 

「……そう」

 

 男は俺を上から下まで眺めた。

 

「軍用義体をぶった斬ったっていう?」

 

「……まあ、そうですね」

 

 俺が答えると、男は鼻を鳴らした。

 

「冗談みてえな話だ」

 

 そして、機械化された右手を差し出してきた。

 

「俺はダリオ。ここで機械をいじってる」

 

「カイです。よろしくお願いします」

 

 俺は握手を返した。

 

 ダリオは俺の手を握ると、少しだけ目を細めた。

 

「……なるほど」

 

「何か?」

 

「いや。随分と鍛えてる手だと思ってな」

 

 俺は苦笑した。

 

「剣を使いますから」

 

「それだけじゃ説明がつかねえ気もするが……まあいい」

 

 男は肩をすくめた。

 

「とりあえず、見せてくれ」

 

     ◇

 

 俺は長剣のケースを開いた。

 

 中から神剣を取り出す。

 

 銀色の刃。

 

 精緻な装飾が施された鍔。

 

 そして、長年使い込んできた革巻きの柄。

 

 工房の照明を受けて、刃が淡く輝いた。

 

「……ほう」

 

 ダリオが身を乗り出した。

 

「こりゃ、また……」

 

 ノアも目を輝かせている。

 

「……きれい」

 

 俺は少し嬉しくなった。

 

 神々から授かった剣を褒められるのは、やはり悪い気がしない。

 

「鍛冶と炎の神が鍛えた剣なんだ」

 

 そう言いかけて、俺は口を閉じた。

 

 ……危ない。

 

 うっかり本当のことを言うところだった。

 

「……古い知り合いが作ったんだよ」

 

 言い直す。

 

 ノアがこちらを見た。

 

「……知り合い?」

 

「ああ。腕のいい鍛冶師だった」

 

 嘘ではない。

 

 神だという部分を省いただけだ。

 

 ダリオは剣をじっと見つめていた。

 

「触ってもいいか?」

 

「刃には気をつけてください」

 

「分かってる」

 

 男は慎重に剣の平へ指を近づけた。

 

 そして、表面を観察する。

 

「……継ぎ目が見えねえ」

 

 ダリオが呟いた。

 

「表面処理も妙だ。金属の反射にしては、少しおかしい」

 

 ノアが測定器を取り出した。

 

 小さな装置を剣へ向ける。

 

 画面に数字が表示された。

 

 彼女の眉が動いた。

 

「……変」

 

「何が?」

 

 俺が尋ねると、ノアは首を傾げた。

 

「……測定値が安定しない」

 

 ダリオが覗き込む。

 

「センサーの故障じゃねえのか?」

 

「……昨日、校正した」

 

「なら、別の装置で測れ」

 

 ノアは頷き、別の測定器を取り出した。

 

 しばらくして、彼女はさらに首を傾げた。

 

「……一致しない」

 

 俺は苦笑した。

 

 ……神剣だからな。

 

 普通の金属として測定できるのかどうか、俺にも分からない。

 

 もっとも、剣の材質については、俺自身も詳しく知らないのだが。

 

「……こいつ、どこで手に入れた?」

 

 ダリオが尋ねた。

 

「貰い物です」

 

「誰から?」

 

「……昔の恩人から」

 

 男は俺を見つめた。

 

 そして、笑った。

 

「随分と太っ腹な恩人だな」

 

「本当にそう思います」

 

 俺は心から頷いた。

 

 あの神には、感謝してもしきれない。

 

     ◇

 

 次に行ったのは、切断性能の簡単な確認だった。

 

 ダリオが用意したのは、工業用の金属板。

 

 厚さは数センチほど。

 

 一般的な刃物では、簡単に切断できないらしい。

 

「これを斬れるか?」

 

「……多分」

 

 俺は答えた。

 

 ダリオが眉を上げる。

 

「多分?」

 

「やってみないと分からないので」

 

 俺は剣を構えた。

 

 金属板は、専用の台に固定されている。

 

 周囲に人がいないことを確認する。

 

 そして、軽く息を吐いた。

 

「……いきます」

 

 剣を振り下ろす。

 

 ――シュンッ。

 

 乾いた音。

 

 次の瞬間、金属板が二つに分かれた。

 

 切断面は滑らかだった。

 

 ダリオが固まった。

 

 ノアも動かない。

 

 俺は剣を下ろした。

 

「……こんな感じです」

 

 数秒の沈黙。

 

 そして。

 

「……おい」

 

 ダリオが低く呟いた。

 

「……はい?」

 

「今、何をした?」

 

「……斬りました」

 

「それは見りゃ分かる!」

 

 男は切断された金属板へ駆け寄った。

 

 断面を確認する。

 

 指で触れ、測定器を当て、さらに別の角度から観察する。

 

「……熱変形がほとんどねえ」

 

 ノアが小さく呟いた。

 

「……切断面も、異常に均一」

 

 ダリオが俺を振り返った。

 

「お前、これで軍用義体を斬ったのか?」

 

「はい」

 

「……そりゃ斬れるわけだ」

 

 男は頭を掻いた。

 

「いや、待て。そもそも何でこんな剣が存在してるんだ?」

 

 ……それは俺も説明に困る。

 

 俺は苦笑した。

 

「……特別な剣なんです」

 

 ダリオはしばらく俺を見つめていた。

 

 そして、大きく溜息をついた。

 

「……世の中、まだまだ分からねえことがあるもんだな」

 

     ◇

 

 その後、俺は剣をケースへ戻した。

 

 ノアは名残惜しそうに見ていたが、約束通り、それ以上の検査を求めてこなかった。

 

 代わりに、ダリオが別のものを持ってきた。

 

 黒い金属製の腕。

 

 肘から先だけのサイバーウェアだ。

 

「……これは?」

 

 俺が尋ねると、ダリオが答えた。

 

「古い戦闘用義腕だ。修理不能になった廃品だが、構造を説明するにはちょうどいい」

 

 男は作業台へ義腕を置いた。

 

「昨日、お前が戦った連中の装備は、これよりずっと上等だったはずだ」

 

 俺は頷いた。

 

「……かなり頑丈でした」

 

「だろうな」

 

 ダリオは義腕の外装を開いた。

 

 内部には、複雑な機械構造が詰まっていた。

 

 人工筋肉のような繊維。

 

 金属製の関節。

 

 小型の駆動装置。

 

 そして、電子回路。

 

「戦闘用サイバーウェアってのは、単に硬いだけじゃねえ」

 

 ダリオが説明する。

 

「筋力を増幅する。反応速度を上げる。衝撃を吸収する。武器を内蔵する。そういう機能を、身体のあちこちに組み込んでる」

 

 俺は興味深く眺めた。

 

 ……なるほど。

 

 元の世界で言えば、身体強化魔法と魔導鎧を組み合わせたようなものか。

 

 ただし、こちらは魔力ではなく、機械で実現している。

 

「でも、弱点もあるんですよね?」

 

 俺が尋ねると、ダリオは笑った。

 

「もちろんだ」

 

 男は関節部分を指差した。

 

「どれだけ装甲を厚くしても、動く部分には構造上の制約がある」

 

 俺は頷いた。

 

 昨日の戦闘でも、それは感じていた。

 

 肩。

 

 膝。

 

 首。

 

 装甲の継ぎ目。

 

 そこを狙えば、頑丈な相手でも動きを止められる。

 

「ただし、勘違いするなよ」

 

 ダリオが続けた。

 

「軍用義体の弱点は、メーカーや機種によって違う。古い型の知識が、そのまま新型に通用するとは限らねえ」

 

「……なるほど」

 

「それに、装甲の継ぎ目を狙うってのは、言うほど簡単じゃない」

 

 ダリオは俺を見た。

 

「相手だって動く。しかも、普通の人間よりずっと速い」

 

 俺は頷いた。

 

 その通りだ。

 

 昨日の兵士たちも、こちらの攻撃に反応していた。

 

 剣が届く前に腕を動かし、装甲で受け止めようとしていた。

 

 それでも倒せたのは、俺の方が戦闘経験と技量で上回っていたからだ。

 

「……参考になります」

 

 俺が答えると、ダリオは少し意外そうな顔をした。

 

「お前、素直だな」

 

「知らないことばかりですから」

 

 俺は笑った。

 

「教えてもらえるなら、ありがたいです」

 

 ダリオはしばらく黙った。

 

 そして、豪快に笑った。

 

「ははっ! 気に入った!」

 

 ……何だか、気に入られたらしい。

 

     ◇

 

 昼前。

 

 検査が一段落したところで、ノアが端末を取り出した。

 

「……カイ」

 

「ん?」

 

「昨日の兵士について、新しい情報がある」

 

 俺は顔を上げた。

 

「……何か分かったのか?」

 

 ノアは頷いた。

 

「……戦闘映像と、既知の軍用義体の外観データを比較した」

 

 画面には、複数の兵士の画像が表示されている。

 

 どれも重厚な装甲を身につけていた。

 

 だが、細部は少しずつ違う。

 

「……完全一致する機種はなかった」

 

 ノアは説明した。

 

「ただし、複数のメーカーの部品を組み合わせた可能性がある」

 

「……寄せ集め?」

 

「……そう」

 

 彼女は頷いた。

 

「しかも、一部の部品は民間市場に出回っていない」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……つまり?」

 

「……軍の払い下げ品か、盗難品。あるいは、非公式な経路で流出したもの」

 

 ダリオが腕を組んだ。

 

「裏市場じゃ珍しくねえ話だが、あの規模の装備を三人分も揃えるとなると、相当な金が必要だ」

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 ……やっぱり、金か。

 

 この街では、何をするにも金が必要らしい。

 

 強力な武器。

 

 高度なサイバーウェア。

 

 そして、兵士。

 

 すべてが金で動く。

 

「……ミリテクが関わっている可能性は?」

 

 俺が尋ねると、ノアは少し考えた。

 

「……ある。でも、証拠は足りない」

 

 俺は頷いた。

 

 無理に結論を出すべきではない。

 

 それに、仮にミリテク製の部品が使われていたとしても、企業そのものが関与しているとは限らない。

 

 ……慎重に調べる必要があるな。

 

     ◇

 

 そのとき、工房の入口から声が聞こえた。

 

「……ダリオ!」

 

 振り返ると、エリオットが入ってきた。

 

 灰色のジャケット。

 

 青く光る人工眼。

 

 いつもの落ち着いた表情だが、今日は少し急いでいるように見えた。

 

「……エリオット?」

 

 俺が声をかけると、彼は頷いた。

 

「カイ。ちょうどよかった」

 

「……何かあったのか?」

 

「ヴィクターから連絡だ」

 

 エリオットは端末を操作した。

 

「ガレス・ブレイクの部下が、一人見つかった」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……行方不明になってた男か?」

 

「その可能性が高い」

 

 エリオットは頷いた。

 

「ただし、かなり酷い状態らしい」

 

 俺は顔を上げた。

 

「……怪我をしてるのか?」

 

「ああ」

 

 エリオットの表情が引き締まった。

 

「現在、ワトソンの小さな診療所に運び込まれている」

 

 俺は少し考えた。

 

 昨夜ではなく、その前の夜。

 

 俺が集合住宅の近くで捕まえた監視役。

 

 あの男は、ガレスの部下だと名乗っていた。

 

 武器を取り上げた後、俺は逃がした。

 

 その後、行方不明になったと聞いている。

 

 ……まさか。

 

「……そいつ、俺が捕まえた男なのか?」

 

 エリオットは首を横に振った。

 

「まだ確認できていない」

 

「……そうか」

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

「それで、ヴィクターは何て?」

 

「可能なら、君にも会ってほしいそうだ」

 

 俺は少し驚いた。

 

「……俺に?」

 

「ああ」

 

 エリオットは頷いた。

 

「その男が、妙なことを言っているらしい」

 

「……妙なこと?」

 

 エリオットは少し間を置いた。

 

 そして、低い声で答えた。

 

「『ガレスは、もう自分の部下を信用していない』」

 

 俺は眉をひそめた。

 

 ……どういうことだ?

 

 エリオットは続けた。

 

「それと、もう一つ」

 

「……何だ?」

 

「『黒い装甲の連中が、仲間を連れていった』」

 

 俺は思わず顔を上げた。

 

 黒い装甲。

 

 その言葉に、昨日の兵士たちの姿が重なった。

 

 全身を機械化した戦闘員。

 

 赤く光る目。

 

 そして、軍用装備。

 

 ……まさか。

 

「……同じ連中かもしれないな」

 

 俺が呟くと、エリオットは頷いた。

 

「ヴィクターもそう考えている」

 

 ノアが端末を閉じた。

 

「……確認する価値はある」

 

 俺は少し考えた。

 

 そして、頷いた。

 

「……分かった。行こう」

 

     ◇

 

 診療所は、ワトソンの古い商業地区にあった。

 

 大通りから一本入った路地。

 

 その一角に、小さな看板が掲げられている。

 

 内部は狭いが、清潔だった。

 

 消毒液の匂い。

 

 医療機器の電子音。

 

 そして、待合室に座る数人の患者。

 

 俺はエリオットと共に奥へ進んだ。

 

 ノアは工房に残り、引き続き装備の解析を進めることになった。

 

 案内された部屋には、一人の男が寝かされていた。

 

 痩せた身体。

 

 傷だらけの顔。

 

 そして、包帯で覆われた右腕。

 

 俺はその顔を見た。

 

 ……あ。

 

 見覚えがある。

 

「……お前」

 

 男がこちらを向いた。

 

 その瞬間、目を見開いた。

 

「……お、お前は!」

 

 俺は静かに頷いた。

 

「……やっぱり、あのときの男か」

 

 集合住宅の向かいにある駐車場。

 

 そこで俺を監視していた男だった。

 

 あの夜、俺は彼を捕まえ、武器を取り上げた。

 

 そして、ガレスへ伝言を届けるように言って逃がした。

 

 ……こんなところで再会するとはな。

 

 男は怯えたように身体を縮めた。

 

「……殺すな!」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……殺さないよ」

 

「嘘だ!」

 

 男は叫んだ。

 

「お前が来たってことは、あいつらも……!」

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

「……落ち着け」

 

 男は荒い呼吸を繰り返している。

 

 俺はベッドの横へ近づいた。

 

 すると、男が必死に後ずさろうとした。

 

 だが、怪我のせいで動けない。

 

「……頼む! 俺は何も知らない!」

 

 俺は足を止めた。

 

 ……かなり怯えているな。

 

 単に俺を怖がっているだけではなさそうだ。

 

 エリオットが声をかけた。

 

「落ち着いてくれ。彼は君を殺しに来たわけじゃない」

 

 男は震えていた。

 

 俺は少し考えた。

 

 そして、静かに言った。

 

「……俺が本当にお前を殺すつもりなら、あの夜に逃がしたりしなかったよ」

 

 男は黙った。

 

 俺は続けた。

 

「今日は、何があったのか聞きに来ただけだ」

 

 しばらくして。

 

 男は、ようやく呼吸を落ち着かせた。

 

     ◇

 

「……名前は?」

 

 俺が尋ねると、男は小さく答えた。

 

「……ディーン」

 

「ディーンか」

 

 俺は頷いた。

 

「俺はカイだ」

 

「……知ってる」

 

 男は苦々しそうに呟いた。

 

 ……まあ、そうだろうな。

 

 俺は椅子へ座った。

 

「……何があった?」

 

 ディーンはしばらく黙っていた。

 

 そして、震える声で話し始めた。

 

「あの夜……お前に逃がされた後、俺はガレスのところへ戻ろうとした」

 

 俺は頷いた。

 

「……ああ」

 

「でも、途中で車が来た」

 

「……車?」

 

「黒い車だ。窓も真っ黒で、中が見えなかった」

 

 俺は眉をひそめた。

 

 ……黒い車。

 

 リクとミナを移動させたとき、俺たちを襲った車も黒かった。

 

 だが、それだけで同じ連中とは限らない。

 

 この街には黒い車などいくらでもある。

 

「……それで?」

 

 俺が促すと、ディーンは続けた。

 

「中から、黒い装甲の男たちが降りてきた」

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

「……何人?」

 

「二人……いや、三人だったかもしれない」

 

 ディーンは額を押さえた。

 

「顔は見えなかった。全員、マスクをしてた」

 

「……赤い目だったか?」

 

 俺が尋ねると、ディーンの身体が強張った。

 

「……そうだ」

 

 男は俺を見た。

 

「……知ってるのか?」

 

 俺は頷いた。

 

「……似た連中と戦った」

 

 ディーンの顔色が変わった。

 

「……戦った?」

 

「ああ」

 

 俺は答えた。

 

「昨日な」

 

 ディーンはしばらく口を開けたまま固まっていた。

 

 そして、小さく呟いた。

 

「……化け物だ」

 

 ……俺のことか?

 

 それとも、あの兵士たちのことか?

 

 どちらとも取れる言い方だった。

 

     ◇

 

「……そいつらは何をした?」

 

 俺が尋ねると、ディーンは視線を落とした。

 

「……俺を車に押し込んだ」

 

 男の声が震える。

 

「それから、仲間のことを聞いてきた」

 

「……ガレスの?」

 

「ああ」

 

 ディーンは頷いた。

 

「ガレスが誰と会っているのか。どこに武器を隠しているのか。誰から仕事を受けているのか」

 

 俺は腕を組んだ。

 

 ……なるほど。

 

 あの兵士たちは、ガレスの部下を調べているのか。

 

「……答えたのか?」

 

 ディーンは首を横に振った。

 

「最初はな」

 

 男は包帯で覆われた右腕を見た。

 

「でも、あいつらは……」

 

 言葉が途切れる。

 

 俺は静かに待った。

 

 しばらくして、ディーンが続けた。

 

「……俺の腕を壊した」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……サイバーウェアか?」

 

「いや……生身だ」

 

 ディーンは震える声で答えた。

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 ……酷いな。

 

 この街では、暴力による尋問も珍しくないのだろう。

 

 だが、だからといって許せる話ではない。

 

「……それで、何を話した?」

 

 俺が尋ねると、ディーンは俯いた。

 

「……ガレスが、医療物資の輸送を襲ったこと」

 

 俺は頷いた。

 

「……ほかには?」

 

「……倉庫のこと」

 

 俺の目が細くなった。

 

「……どこの?」

 

 ディーンは少し躊躇した。

 

 そして、答えた。

 

「……ノースサイドの古い物流倉庫だ」

 

 ……やっぱりか。

 

 俺はエリオットへ視線を向けた。

 

 彼も表情を引き締めている。

 

 俺は再びディーンを見た。

 

「……ガレスは、その倉庫とどう関わっていた?」

 

 ディーンは首を横に振った。

 

「詳しくは知らねえ」

 

 そして、続けた。

 

「ただ、あそこへ何度か荷物を運んだことがある」

 

「……何の荷物?」

 

「分からねえ。開けるなって言われてた」

 

 俺は少し考えた。

 

 ……なるほど。

 

 ガレスは、何かを運ぶ仕事もしていたらしい。

 

 だが、荷物の中身までは知らされていなかった可能性がある。

 

「……誰から依頼された?」

 

 俺が尋ねると、ディーンは顔を歪めた。

 

「……知らねえ」

 

 俺は眉をひそめた。

 

 ディーンは慌てて続けた。

 

「本当だ! 俺たちみたいな下っ端には、依頼主の名前なんて教えられねえんだ!」

 

 俺は頷いた。

 

「……分かった」

 

 嘘をついているかどうかは、まだ判断できない。

 

 だが、少なくとも今の彼は、かなり追い詰められているようだった。

 

     ◇

 

「……それで」

 

 俺は静かに尋ねた。

 

「どうやって逃げた?」

 

 ディーンは少し黙った。

 

 そして、答えた。

 

「……途中で、銃声がした」

 

「……銃声?」

 

「ああ」

 

 男は頷いた。

 

「車が止まって、外で誰かが撃ち合ってた」

 

 俺は眉をひそめた。

 

 ……別の連中が襲ったのか?

 

「……誰が?」

 

「分からねえ」

 

 ディーンは首を横に振った。

 

「ただ、黒い装甲の連中が慌ててた」

 

 俺は少し考えた。

 

 軍用義体の兵士たちが慌てるほどの相手。

 

 ……一体、何者だ?

 

「……その隙に逃げたのか?」

 

「ああ」

 

 ディーンは頷いた。

 

「車のドアが開いてた。俺は転がるように外へ出た」

 

 そして、苦しそうに笑った。

 

「……あとは、よく覚えてねえ」

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 ……なるほど。

 

 つまり、ディーンを連れ去った連中と、別の武装集団が衝突した可能性がある。

 

 以前エリオットが言っていた、ガレスの拠点周辺で動いている複数の武装集団。

 

 あれとも関係しているのだろうか。

 

「……エリオット」

 

 俺は隣の男へ声をかけた。

 

「ん?」

 

「この話、ヴィクターに伝えた方がいいな」

 

 エリオットは頷いた。

 

「もちろん」

 

 そして、端末を取り出した。

 

「すぐに連絡するよ」

 

     ◇

 

 俺は再びディーンを見た。

 

 男は疲れ切った顔をしていた。

 

 右腕には包帯。

 

 頬には傷。

 

 そして、身体のあちこちに打撲の跡がある。

 

 ……このままじゃ、しばらく動けないだろうな。

 

 俺は少し考えた。

 

 昼間。

 

 今は、太陽の神の祝福を使うには適した時間帯だ。

 

 もちろん、精神力の消耗がなくなるわけではない。

 

 だが、夜よりはずっと負担が軽い。

 

「……ディーン」

 

 俺は声をかけた。

 

 男が顔を上げる。

 

「……何だ?」

 

「怪我を治したいか?」

 

 ディーンは目を丸くした。

 

「……は?」

 

 俺は続けた。

 

「腕の怪我だ。治療できるかもしれない」

 

 男はしばらく俺を見つめていた。

 

 そして、苦笑した。

 

「……何言ってんだ、お前」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「まあ、信じられないよな」

 

 エリオットがこちらを見た。

 

 俺は小さく頷いた。

 

 彼は少し考えた後、診療所の医師へ声をかけに行った。

 

 俺はディーンへ視線を戻す。

 

「……無理にとは言わない」

 

 男は黙った。

 

「でも、痛みがなくなるなら、その方がいいだろ?」

 

 しばらくして。

 

 ディーンは、小さく頷いた。

 

「……できるなら、頼む」

 

 俺は頷いた。

 

「分かった」

 

 医師が戻り、本人の同意と治療内容を確認した後、俺はベッドの横へ立った。

 

 そして、静かに祈る。

 

「……昼と太陽の神よ」

 

 胸元の護符が、淡く輝いた。

 

 次の瞬間。

 

 柔らかな金色の光が、室内を満たした。

 

 ディーンが目を見開く。

 

「……な、何だ!?」

 

「動かないでくれ」

 

 俺は穏やかに言った。

 

「すぐに終わる」

 

 光が、男の身体を包み込む。

 

 包帯の下。

 

 傷ついた筋肉。

 

 損傷した骨。

 

 そして、炎症を起こしていた組織。

 

 それらが、少しずつ回復していく。

 

 俺は意識を集中させた。

 

 ……よし。

 

 腕の損傷は、思ったより深い。

 

 だが、再生できないほどではない。

 

 数十秒後。

 

 俺は光を収めた。

 

 ディーンは、ゆっくりと右腕を動かした。

 

「……え?」

 

 指が動く。

 

 手首が曲がる。

 

 肘が伸びる。

 

 男は、自分の腕を見つめた。

 

「……嘘だろ」

 

 俺は小さく笑った。

 

「……どうだ?」

 

 ディーンは何度も腕を動かした。

 

 そして、震える声で呟いた。

 

「……痛くねえ」

 

 俺は頷いた。

 

「よかった」

 

 男は俺を見た。

 

 その表情には、驚きと困惑が入り混じっていた。

 

「……何でだ?」

 

「ん?」

 

「……何で、俺を治す?」

 

 俺は少し考えた。

 

 そして、答えた。

 

「……怪我してたからだよ」

 

 ディーンは黙った。

 

「……俺は、お前を監視してたんだぞ」

 

「ああ」

 

 俺は頷いた。

 

「知ってる」

 

「……殺そうとしたかもしれねえんだぞ」

 

「……そうだな」

 

 俺は静かに答えた。

 

「でも、今のお前は怪我人だ」

 

 ディーンは、しばらく何も言わなかった。

 

 そして、俯いた。

 

「……変な奴だな」

 

 俺は苦笑した。

 

「……よく言われる」

 

     ◇

 

 診療所を出た頃には、午後になっていた。

 

 エリオットはヴィクターへ連絡を済ませ、今後の対応について話している。

 

 俺は建物の外で、少しだけ空を見上げた。

 

 灰色の雲。

 

 巨大な広告。

 

 そして、遠くに見える高層ビル群。

 

 ……さて。

 

 少しずつ、情報が集まってきた。

 

 ガレス。

 

 ノースサイドの倉庫。

 

 軍用義体の兵士たち。

 

 そして、彼らと敵対しているらしい別の武装集団。

 

 どうやら、俺が思っていた以上に複雑な争いが起きているようだ。

 

 そのとき、エリオットが近づいてきた。

 

「カイ」

 

「ん?」

 

「ヴィクターから、もう一つ連絡があった」

 

 俺は顔を上げた。

 

「……何だ?」

 

 エリオットは少し表情を引き締めた。

 

「ガレス・ブレイクが、直接会いたいと言っているらしい」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……ガレスが?」

 

「ああ」

 

 エリオットは頷いた。

 

「君に話があるそうだ」

 

 俺は少し考えた。

 

 昨日の襲撃で戦った大男。

 

 機械化された右腕を斬り、戦闘不能にした相手。

 

 そして、リクとミナを監視させていた男。

 

 ……なるほど。

 

 どうやら、向こうも何か事情が変わったらしい。

 

「……罠の可能性は?」

 

 俺が尋ねると、エリオットは頷いた。

 

「もちろんある」

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 ……だよな。

 

 だが、ガレス本人から話を聞けるなら、かなりの情報が得られるかもしれない。

 

 それに。

 

 俺には、一つ確認したいことがあった。

 

 リクとミナを狙うつもりが、まだあるのか。

 

 もしそうなら、放置するわけにはいかない。

 

「……分かった」

 

 俺は頷いた。

 

「ヴィクターに伝えてくれ」

 

 エリオットが顔を上げる。

 

「……何て?」

 

 俺は静かに答えた。

 

「会うつもりはある。ただし、場所と条件はこちらで決めたい」

 

 エリオットは少し驚いた。

 

 そして、笑った。

 

「……分かった。そう伝えるよ」

 

 俺は頷いた。

 

 ……さて。

 

 ガレス・ブレイク。

 

 今度は、剣ではなく言葉で話ができるだろうか。

 

 できれば、そう願いたい。

 

 だが。

 

 もし、また俺の大切な人たちへ手を出そうとするなら。

 

 そのときは、相応の覚悟をしてもらうことになる。

 

     ◇

 

 夕方。

 

 俺は避難先の集合住宅へ戻った。

 

 途中で買った、小さな菓子の袋を手に持っている。

 

 部屋の扉を開けると、ミナが駆け寄ってきた。

 

「カイお兄ちゃん!」

 

「ただいま」

 

「おみやげ!」

 

 ……挨拶より先にそれか。

 

 俺は思わず笑った。

 

「ちゃんと買ってきたぞ」

 

 袋を見せると、ミナの顔が輝いた。

 

「やった!」

 

 リクが奥から顔を出した。

 

「おかえり、カイ」

 

「ああ。ただいま」

 

 俺は部屋へ入った。

 

 シルヴァが姿を現し、こちらへ近づいてくる。

 

 俺はその頭を撫でた。

 

「今日もありがとう」

 

 霊狼は静かに尾を揺らした。

 

 ……よし。

 

 今日も二人は無事だった。

 

 それだけで、少し肩の力が抜ける。

 

 俺は菓子を皿へ移し、三人で分けた。

 

 ミナは嬉しそうに食べ、リクも珍しそうに眺めている。

 

 シルヴァは床に伏せ、こちらを見守っていた。

 

 ……平和だな。

 

 少なくとも、この部屋の中は。

 

 俺は胸元の護符へ触れた。

 

 セレーネ。

 

 ……君がいたら、きっとこの二人とも仲良くなれるだろうな。

 

 銀色の髪。

 

 深い青の瞳。

 

 そして、少し冷たく見えるけれど、本当は優しい少女。

 

 彼女の姿を思い浮かべる。

 

 ……会いたい。

 

 その気持ちは、今日も変わらない。

 

 だが、今はまだ、この世界でやるべきことがある。

 

 俺は静かに息を吐いた。

 

 そして、目の前の二人へ視線を向けた。

 

 リクがミナの口元についた菓子の欠片を拭っている。

 

 ミナは笑いながら、兄へ何かを話していた。

 

 シルヴァが、その様子をじっと見つめている。

 

 俺は小さく笑った。

 

 ……この時間を守るためなら。

 

 多少の面倒事くらい、引き受けてやるさ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。