神々の剣士、地下第三階層への突入
人間の身体というものは、不思議なものだ。
腕を動かそうと思えば、腕が動く。
歩こうと思えば、足が前に出る。
目を閉じようと思えば、瞼が下りる。
普段は意識することさえない、ごく当たり前のこと。
だが、その当たり前を奪われたらどうなるだろう。
自分の意思とは無関係に身体が動き、誰かを傷つける。
止めたいと思っても止められない。
助けを求めようとしても、口さえ自由に動かせない。
しかも、その間ずっと意識だけは残っている。
……想像するだけで、吐き気がする。
元の世界にも、人間の精神を操る魔術は存在した。
邪神に仕える魔術師たちは、捕虜を支配して兵士として使うことがあった。
俺たちは何度も、そうした人々と戦った。
だから知っている。
操られている人間を救う戦いは、普通の戦いよりずっと難しい。
相手を倒すだけでは駄目だからだ。
そして今。
俺たちは、まさにその戦いへ向かおうとしていた。
◇
午後八時三十一分。
旧ヘリックス研究施設、地下第二階層。
赤い警告灯が、廊下を不気味に照らしていた。
『……プロジェクト・キメラ、フェーズ4開始』
『……全被験者、神経制御同期を実行』
天井のスピーカーから、無機質な音声が繰り返し流れている。
俺は長剣を握り直した。
隣ではマーカスが銃の残弾を確認している。
ガレスは、修理途中の右腕を軽く動かした。
「……くそったれ。嫌な音だな」
俺も同感だった。
警報そのものが嫌なのではない。
その向こうで、誰かが苦しんでいるかもしれないことが嫌だった。
「カイ」
マーカスが声をかけた。
「地下三階へ下りる前に、確認しておくぞ」
「ああ」
「俺たちの目的は被験者の救出だ。ヴォスを追い回すことじゃない」
「分かってる」
「それと、制御された被験者が襲ってきた場合、無理に全員をその場で助けようとするな」
俺は眉をひそめた。
「……どういうことだ?」
「制御を止められないなら、動きを封じるしかねえ。だが、相手の義体によっては、それすら危険だ」
マーカスは真剣な顔で続けた。
「お前が一人を助けようとしている間に、ほかの奴が撃たれる可能性もある」
俺は黙った。
……正しい。
だが、簡単に割り切れる話でもない。
「……分かった」
俺は頷いた。
「まず全員が生き残れる方法を考える」
マーカスは満足そうに頷いた。
「それでいい」
そのとき、通信端末からノアの声が聞こえた。
『……カイ、聞こえる?』
「聞こえる」
『……地下三階への通路を確認した』
俺は顔を上げた。
「……どうなってる?」
『……二つある。中央のエレベーターと、東側の保守階段』
「……どっちが安全?」
『……保守階段。ただし、途中に警備用の隔壁がある』
俺は頷いた。
「……解除できそうか?」
『……試してる。でも、施設側が制御を切り替えてる』
……なるほど。
簡単には通してくれないらしい。
「分かった。現地で確認する」
『……無理しないで』
「ああ」
俺は通信を終えた。
そして、二人へ顔を向ける。
「……東側の保守階段へ行こう」
マーカスとガレスが頷いた。
俺たちは、赤い警告灯の下を進み始めた。
◇
地下第二階層の東側。
保守階段へ続く廊下は、ほかの場所より狭かった。
壁には太い配管が走り、天井には古い照明が並んでいる。
俺は先頭を歩きながら、夜と月の女神の祝福を意識した。
……いる。
前方。
少なくとも三人。
敵意を持つ人間の気配がある。
俺は手を上げた。
「……止まって」
マーカスとガレスが足を止める。
「どうした?」
「……前に三人いる」
マーカスが銃を構えた。
「警備員か?」
「たぶんな」
俺は角の向こうを覗いた。
灰色の制服を着た警備員が三人。
それぞれ銃を持ち、保守階段の入口を守っている。
……どうするか。
正面から戦えば、倒せるだろう。
だが、銃声を立てれば増援が来る。
それに、相手は普通の警備員だ。
できれば殺したくない。
「……マーカス」
「何だ?」
「一人だけ、こっちへ誘い出せるか?」
マーカスは少し考えた。
「……できなくはない」
俺は頷いた。
「じゃあ、俺が取り押さえる」
ガレスが鼻を鳴らした。
「……面倒なことしやがる」
「静かに済ませたいんだよ」
俺が答えると、男は肩をすくめた。
「……好きにしろ」
マーカスが小さな金属片を拾い、廊下の反対側へ投げた。
――カランッ。
音が響く。
警備員の一人が顔を上げた。
「……何だ?」
男は銃を構え、こちらへ近づいてくる。
俺は壁際へ身を寄せた。
足音が近づく。
一歩。
二歩。
三歩。
そして、警備員が角を曲がった瞬間。
俺は動いた。
相手の銃口を横へ逸らし、手首を掴む。
そのまま身体を回転させ、男を壁へ押しつけた。
――ドンッ!
「……ぐっ!」
警備員が呻いた。
俺は首元へ腕を回し、動きを封じる。
「……静かにしてくれ」
男は抵抗した。
だが、俺の力には敵わない。
数秒後、身体から力が抜けた。
俺は意識を失った男をゆっくりと床へ下ろした。
……よし。
マーカスが小さく頷いた。
「……上出来だ」
俺は頷き返した。
だが、残り二人がいる。
俺たちは慎重に角へ近づいた。
そのとき。
「……おい、どうした?」
警備員の声が聞こえた。
仲間が戻ってこないことに気づいたらしい。
俺はマーカスへ合図した。
……次は二人同時だ。
俺たちは角を曲がった。
警備員たちが振り返る。
「……誰だ!?」
俺は一気に距離を詰めた。
銃口がこちらへ向くより先に、右側の男の腕を掴む。
そのまま肘を捻り、銃を落とさせた。
――ガシャンッ!
左側の警備員が銃を構える。
だが、その瞬間。
――パンッ!
マーカスの銃声。
弾丸が警備員の足元へ命中した。
男が驚いて後ずさる。
その隙に、ガレスが距離を詰めた。
義手で銃を叩き落とし、男を床へ押さえ込む。
「……動くな」
低い声。
警備員は抵抗をやめた。
俺も相手の腕を拘束した。
……よし。
三人とも、殺さずに済んだ。
ただし、銃声は響いてしまった。
俺は眉をひそめた。
「……急ごう」
マーカスが頷いた。
「ああ」
◇
保守階段の入口には、厚い金属製の隔壁があった。
中央には電子錠。
そして、赤い警告灯。
俺は通信端末へ声をかけた。
「ノア、隔壁まで来た」
『……確認した』
「開けられそうか?」
『……少し待って』
俺たちは周囲を警戒した。
廊下の奥から、遠くに足音が聞こえる。
……増援か?
俺は剣を抜いた。
数秒後。
ノアの声が聞こえた。
『……駄目。ロックが独立系統に切り替わってる』
俺は眉をひそめた。
「……解除できない?」
『……今の接続では無理』
……仕方ないな。
俺は隔壁を見た。
厚い金属。
だが、扉そのものは一枚板ではない。
中央には継ぎ目があり、上下に固定具がある。
……斬れるか?
俺は長剣を構えた。
「……二人とも、少し下がってくれ」
マーカスが眉をひそめた。
「……おい、まさか」
「ああ」
俺は頷いた。
「……斬ってみる」
ガレスが低く笑った。
「……相変わらず、無茶苦茶だな」
「できるかどうかは、やってみないと分からない」
俺は答えた。
そして、剣を振り上げた。
正義と力の神から授かった長剣。
銀色の刀身が、薄暗い廊下で僅かに輝く。
俺は呼吸を整えた。
狙うのは、隔壁の固定部分。
装甲そのものを無理に斬るより、構造的に弱い場所を狙う。
……よし。
俺は一歩踏み込んだ。
――ザンッ!
剣が金属へ食い込む。
火花が散った。
だが、完全には切断できない。
……硬いな。
俺は剣を引き抜いた。
もう一度。
今度は角度を変える。
――ギィンッ!
金属が裂ける音。
固定具の一つが破損した。
俺は続けて下部を狙った。
――ガキンッ!
鈍い音。
隔壁が僅かに歪んだ。
……あと少し。
俺は剣を構え直した。
そして、最後の一撃を叩き込む。
――ガァンッ!
固定具が砕けた。
隔壁の片側が、重い音を立てて傾く。
俺は剣を下ろした。
……よし。
マーカスが目を丸くした。
「……本当に斬りやがった」
ガレスが鼻を鳴らした。
「……だから化け物だって言っただろ」
俺は苦笑した。
「……褒め言葉として受け取っておくよ」
俺たちは歪んだ隔壁の隙間を通り抜けた。
◇
地下第三階層。
階段を下りた瞬間、空気が変わった。
冷たい。
そして、消毒液の匂いが強い。
白い壁。
明るい照明。
整然と並んだ扉。
まるで、大きな病院のようだった。
だが、普通の病院とは決定的に違うものがある。
壁の向こうから、機械の駆動音が聞こえる。
そして、遠くから人間の呻き声が響いていた。
俺は拳を握った。
……ここか。
プロジェクト・キメラの中心。
俺たちは、ようやく辿り着いた。
「……カイ」
マーカスが小声で言った。
「……気をつけろ」
「ああ」
俺は頷いた。
夜の祝福を意識する。
……いる。
複数の敵意。
廊下の先。
左右の部屋。
そして、さらに奥。
……かなり多いな。
俺は眉をひそめた。
少なくとも、十人以上。
だが、この感覚では相手が人間なのか、どの程度機械化されているのかまでは分からない。
それに、敵意のない被験者や無人の警備装置は感知できない。
……油断できないな。
「……前方に敵が多い」
俺が伝えると、マーカスが頷いた。
「……正面突破は厳しいな」
ガレスが銃を構えた。
「……なら、別の道を探すか」
俺は周囲を確認した。
廊下の右側に、保守用の扉がある。
その先には、細い通路が続いているようだった。
「……あそこは?」
俺が尋ねると、マーカスが確認した。
「……保守通路だな」
俺は頷いた。
「……使えるかもしれない」
俺たちは慎重に扉へ近づいた。
そのとき。
――ピッ。
短い電子音が響いた。
俺は足を止めた。
天井の監視カメラが、こちらを向いている。
……見つかったか。
次の瞬間。
『……対象、カイ』
無機質な音声。
俺は剣を構えた。
『……ドクター・ヴォスより、指示』
俺は顔をしかめた。
「……またか」
『……中央試験室へ進め』
俺は天井のカメラを睨んだ。
「……断る」
短い沈黙。
そして。
『……命令拒否を確認』
廊下の奥から、重い足音が聞こえた。
――ガン。
――ガン。
俺は目を細めた。
……来るな。
黒い装甲。
赤く光る義眼。
軍用義体兵が、二体。
さらに、その後ろ。
別の人影が現れた。
俺は息を呑んだ。
……何だ、あれ?
それは、全身を機械化された男だった。
だが、軍用義体兵とは違う。
装甲は不完全。
人工皮膚の一部が剥がれ、内部の金属骨格が露出している。
そして、首筋には神経制御装置。
男は苦しそうに顔を歪めていた。
「……たす……け……」
俺は剣を握り直した。
……被験者か。
その男の義眼が赤く光った。
――ピッ。
次の瞬間。
男の身体が、不自然に動き始めた。
俺は歯を食いしばった。
……やっぱり。
本人の意思とは無関係に、身体を操られている。
軍用義体兵二体。
そして、制御された被験者一人。
俺は剣を構えた。
「……マーカス、ガレス」
二人が頷いた。
「……分かってる」
「……ああ」
俺は続けた。
「……被験者は殺さない」
ガレスが鼻を鳴らした。
「……面倒な注文だな」
「頼む」
俺は真剣に言った。
ガレスはしばらく俺を見つめた。
そして、低く答えた。
「……分かったよ」
俺は頷いた。
……よし。
戦闘開始だ。
◇
最初に動いたのは、軍用義体兵だった。
右側の兵士が銃を構える。
俺は即座に床を蹴った。
――ダダダダッ!
銃声。
弾丸が壁を削る。
俺は身体を低くし、兵士の懐へ飛び込んだ。
剣を横薙ぎに振る。
――ギィンッ!
装甲に火花が散る。
……硬い!
だが、以前戦った兵士と同じだ。
関節部分には、必ず隙間がある。
俺は剣を返し、膝裏を狙った。
――ザンッ!
金属が裂ける。
兵士の右膝が折れた。
だが、倒れない。
左腕を床へつき、身体を支えながら反撃してくる。
……しぶといな!
俺は一歩引いた。
その瞬間、マーカスの銃声が響いた。
――パンッ、パンッ!
弾丸が兵士の肩へ命中する。
俺はその隙に、右腕の銃身を斬り落とした。
――ガキンッ!
火花。
黒煙。
兵士の右腕が動きを止めた。
……よし。
だが、もう一体が近づいてくる。
俺は剣を構え直した。
そのとき。
――ガァンッ!
ガレスの銃声。
大口径の弾丸が、二体目の兵士の胸部へ命中した。
装甲が大きくへこむ。
兵士が一歩後退した。
「……カイ!」
ガレスが叫んだ。
「……今だ!」
俺は頷いた。
床を蹴り、一気に距離を詰める。
剣を斜め下へ振り抜いた。
――ザシュッ!
兵士の左膝関節が破損した。
巨体が床へ崩れ落ちる。
俺は続けて、武装した右腕の駆動部を破壊した。
――バキンッ!
兵士の動きが止まる。
……よし。
二体とも、戦闘不能にできた。
だが。
まだ一人、残っている。
◇
制御された被験者が、こちらへ近づいてきた。
男の顔には、苦痛が浮かんでいる。
だが、機械化された腕は止まらない。
右腕の先には、小型の銃口。
俺は剣を構えた。
「……聞こえるか?」
男の唇が動いた。
「……に……げ……」
俺は首を横に振った。
「逃げない」
男の義眼が赤く光る。
――ピッ。
銃口がこちらへ向く。
俺は横へ飛んだ。
――ダダダッ!
弾丸が床へ突き刺さる。
俺は一気に距離を詰めた。
男の右腕を掴み、銃口を天井へ向ける。
――ダダダッ!
銃声が響いた。
俺は歯を食いしばった。
……重い!
義手の力はかなり強い。
だが、ダニエルを助けたときと同じだ。
制御装置を止められれば、本人の意思が戻るかもしれない。
「……マーカス!」
俺は叫んだ。
「……首の後ろを確認してくれ!」
マーカスが駆け寄る。
男の首筋を確認した。
「……接続端子がある!」
俺は頷いた。
「……緊急遮断は!?」
マーカスは眉をひそめた。
「……前の奴と型が違う!」
……くそっ。
そう簡単にはいかないか。
俺は男の腕を押さえ続けた。
そのとき。
通信端末からノアの声が聞こえた。
『……カイ!』
「……何だ!?」
『……その被験者、制御信号が外部から送られてる!』
俺は顔を上げた。
「……止められるか!?」
『……試す! でも、少し時間が必要!』
俺は歯を食いしばった。
……時間か。
なら、稼ぐしかない。
俺は男の腕を押さえながら、足を払った。
――ガシャンッ!
男が床へ倒れる。
俺はその身体を押さえ込んだ。
だが、義体の力は強い。
少しでも気を抜けば、振りほどかれる。
……頼む、ノア。
早く。
男が苦しそうに呻いた。
「……やめ……て……」
俺は低い声で答えた。
「……大丈夫だ」
そして、続けた。
「……必ず止める」
数秒後。
ノアの声が響いた。
『……カイ!』
「……どうした!?」
『……制御信号を一時的に遮断できた!』
その瞬間。
男の義眼の赤い光が消えた。
機械化された腕から、力が抜ける。
俺は男の身体を支えた。
「……大丈夫か?」
男は荒い息を吐いていた。
だが、先ほどまでの苦痛に歪んだ表情は、少し和らいでいる。
「……あ……ああ……」
俺は安心した。
……よかった。
少なくとも、今は制御が止まっている。
俺は男の肩へ手を置いた。
昼と太陽の神の祝福。
夜間のため負担は大きい。
だが、傷ついた身体を少しでも癒したかった。
俺は意識を集中した。
――ふわり。
金色の光が、男を包む。
筋肉の損傷。
神経の疲弊。
そして、義体との接続部分に生じた炎症。
それらを癒すように、力を流し込む。
数秒後。
男の呼吸が落ち着いた。
俺は祝福を止めた。
……よし。
男が俺を見上げた。
「……あんた……」
「カイです」
俺は笑った。
「助けに来ました」
男の目に、涙が浮かんだ。
「……ありがとう……」
俺は頷いた。
「どういたしまして」
◇
そのとき。
天井のスピーカーから、拍手の音が響いた。
――パチ、パチ、パチ。
俺は顔を上げた。
……ヴォスか。
『……素晴らしい』
男の声が響いた。
『君は本当に、予想を超えてくれる』
俺は顔をしかめた。
「……見世物じゃないぞ」
『もちろんだ。だが、君の能力は実に興味深い』
俺は剣を握り直した。
「……被験者たちを解放しろ」
『それはできない』
「……どうして?」
『彼らは、重要な研究資産だからだ』
俺は歯を食いしばった。
……研究資産。
人間を、物のように扱う言葉。
「……あんた、本当に最低だな」
ヴォスは笑った。
『そう言われることには慣れている』
俺は天井のカメラを睨んだ。
「……なら、直接会って話そうか」
短い沈黙。
そして。
『……いいだろう』
廊下の奥で、重い金属音が響いた。
――ガシャンッ。
大きな隔壁が開く。
その先には、広い通路が続いていた。
『……中央試験室へ来たまえ』
俺は剣を構えた。
……また罠か。
だが、ここまで来た以上、引き返すわけにはいかない。
俺はマーカスへ顔を向けた。
「……この人を頼めるか?」
マーカスが頷いた。
「ああ。後方へ送る」
俺は頷いた。
「ありがとう」
ガレスが銃を構え直した。
「……行くのか?」
「ああ」
俺は答えた。
「……ヴォスを止める」
そして、開いた通路へ視線を向けた。
その先には、まだ多くの被験者がいる。
そして、子供も。
俺は一歩を踏み出した。
……待っていてくれ。
必ず、助けに行く。
◇
同じ頃。
地下第三階層、中央制御室。
ドクター・エイドリアン・ヴォスは、監視映像を見つめていた。
黒髪の少年。
銀色の長剣。
そして、金色の治癒の光。
ヴォスは満足そうに微笑んだ。
「……実に素晴らしい」
隣の研究員が口を開いた。
「……ドクター。被験者CHM-011の制御が一時的に遮断されました」
ヴォスは頷いた。
「……確認している」
「……どうしますか?」
ヴォスは少し考えた。
そして、画面を切り替えた。
そこには、中央試験室が映っていた。
広い空間。
複数の収容装置。
そして、その中央に立つ一体の巨大な義体兵。
通常の軍用義体兵より、さらに大きい。
黒い装甲。
赤く光る複数のセンサー。
そして、両腕に組み込まれた大型武装。
ヴォスは静かに笑った。
「……次の試験へ進もう」
研究員が顔を上げた。
「……まさか、あれを?」
「そうだ」
ヴォスは頷いた。
「……キメラ計画の最新成果だ」
男は端末を操作した。
画面に、新しい指示が表示される。
PROJECT CHIMERA
PHASE 4:完全制御試験
特別試験機:CHM-000
戦闘試験、開始準備完了。
ヴォスは満足そうに頷いた。
「……さあ、カイ」
その目には、冷たい期待が宿っていた。
「……君が、どこまで戦えるのか見せてくれ」