ポケットモンスターLEGENDS -Eclipse- 作:蝕鼬鼠
今回が初投稿となります。
元々ストーリー自体は2年ほど前からできていたのですが、いざ執筆するとなると納得のできる文章が書けずこの度やっと投稿することができました。
稚拙な小説ではありますが、どうぞお楽しみください!
第1話:虚空に落つ
──
***
数時間前──高校三年生の玲依は駅までの道を歩いていた。玲依はいわゆるポケモン廃人であり、卓球部を引退した後は受験勉強と拮抗するほどの時間をポケモンというコンテンツに注ぎ込んでいた。
(まずはジムにポケモン置いてポケマスにログインしてそれからチャンピオンズで……)
そんなことを考えながらお気に入りのパーカーのフードを撫でる。どこのブランドかも覚えていないが、なんとなくポケモンの模様に似ていると思って買ってもらった……はず。
駅からは少し離れているがポケモンGOを起動するために辺りを見回して立ち止まる。普段はこの時間に歩いている人はいない。
だが今日は一人だけ歩いている。西方永羽、玲依の数少ない幼馴染みで一年の時のクラスメイトだ。
(そういやあんま話さなくなったな)
すぐにスマホの画面に視線を落とす。アバターの周りにポケモンがポップする。珍しいポケモンはいない。レイドもない。駅のジムが赤色ではないことを確認し、スマホを閉じてまた歩く。
(ジムバトルかぁ)
正直今ジムバトルをするのは面倒くさい。相手を倒しきる前に電車が入るだろう。
『────────』
そこで違和感に気付く。耳鳴りだ。かなり激しい。止まる気配もない。前を歩いていた永羽も不思議そうに立ち止まっている。
(なんだ、これ? 耳鳴り……じゃ、ない?)
考える間にもそれは激しくなっていく。しゃがみ込んで耳を押さえる。助けを求めようにも周りには同じように苦しんでいる永羽しかいない。頭が割れる。思わず涙が出る。痛い。
スマホで救急車を呼ぼうとした、瞬間
「は?」
「────えっ」
歪な音と共に────空が裂けた
困惑も悲鳴も呑み込むほどの
「ウルトラ、ホール……!」
それは液晶の向こう側にしか存在しないはずの異世界の扉。ゲームやアニメではその扉から異形の侵略者──
しかし、玲依たちの目の前にあるウルトラホールからは何も現れる気配がない。ただぽっかりと空いた穴から青白い輝きを放っている。
ウルトラホールのすぐ近くで動けないままの永羽を助けようと玲依がなんとか立ち上がる。その瞬間、ウルトラホールが一段と輝きを放ち、周囲の空間をその虚へと引きずり込む。
悲鳴を上げる暇もなく永羽の身体が浮く。足先が呑み込まれる──刹那、玲依が手を掴み引き留める。片方の手でパイプのフェンスを掴み引き戻そうとするが永羽の身体は少しずつ青白い輝きの向こうへ消えていく。
「永羽! 絶対離すなよ!!」
「──うん!」
しかし、永羽の身体は吸い込まれていく。いくら元運動部といえど引退した身だ。玲依の力などウルトラホールの引き込む力の前では無に等しい。このままでは玲依もろとも呑み込まれてしまう。
「絶対……助ける……!」
どのくらいの時間格闘しているだろうか。永遠にも感じる──しかし誰も助けに来ないあたり五分も経っていないだろう。それでも永羽の身体は胴まで呑み込まれていた。
「玲依……もう大丈夫」
「なんて!?」
「…………もう……離していいよ」
震える口から絞り出された言葉を聞いた瞬間、玲依の思考が停止する。しかし、その言葉の意味はすぐに理解できた。
「いやだ! 離さない!」
「このままじゃ玲依まで死ぬ……だから離して」
「けど……!」
「お願い! 離して!」
(そりゃ死にたくないし今すぐ逃げたいけどもう手掴んじゃってるしそれを離せるほどメンタル強くないし)
見捨てることなどできるわけないが、もうフェンスを掴む手も限界だ。手の平が擦りむけて指先が辛うじて引っ掛かっている。もう三分も耐えられないだろう。
その時、ある考えが浮かぶ。もはや賭けとも言えない無謀な策だが──やるしかない。
「永羽、聞いてくれ」
永羽がかすかに頷く。青白い光はもう胸元まで呑み込んでいる。
「俺も一緒に行く」
「────っ」
「俺は
「でも……玲依まで──」
「俺は大丈夫──ワクワクしてるんだ。ずっと憧れだったポケモンの世界の一端に触れられるなんて…………」
強がりだ。微笑んだつもりだけど絶対引き攣ってる。それでも安心させられただろうか────
「……ありがとう」
その言葉が聞こえた瞬間、玲依の手はフェンスを離れ──二人の身体が宙に浮く。
誰もいない駅前には静寂が再び訪れる。
***
全身を襲う痛みで目を覚ました
(よかったぁ……)
だが異世界に放り出されたのも事実。まだ
(ポケモンの世界に飛ばされたのか)
不謹慎だが憧れの世界に転移した喜びから少しだけ頬が緩む。しかし油断はできない。原作通りならウツロイドは岩・毒タイプ。どの技を喰らっても致命傷は避けられない。
(しかもあいつら人に寄生するんだったか)
周囲を警戒しつつ倒れているトワに近づく。幸いにも怪我は少ないように見える。
ほっとしたのも束の間、これからどうなるのかという不安がよぎる。食べられるものはあるのか、この世界に人はいるのか、いたとして助けてもらえるのか。
そんなことを考えるうちにトワが目を覚ます。
「あぁ……生きてる……よかった……」
「永羽、起きて早々だけど──」
言いかけてトワが怯えていることに気付く。その視線はレイの背後に向かっていた。
「「ジェルルルッ!」」
ウツロイドが二体、宙を泳いでくる。感情を読み取ることはできないが危険であることは確かだ。
「──逃げるぞ!」
「わかった!」
後ろからはレイたちを逃すまいと
だが、攻撃は「寄生できないのなら殺す」と言わんばかりに激しさを増していく。
【ウツロイドの ベノムショック!】
「──いッ!?」
不意に右腕を襲った激痛にレイは顔を歪める。技を喰らったのだろう。しかしこの状況で足を止めることは死を意味する。今は走り続けるしかない。
以前として追手との距離は変わらない。トワもかなり息が上がっている。このままでは追い付かれてしまう。
(このままじゃ二人ともやられる……! せめて俺が囮になって──)
「リルルルゥ!」
この異世界に救いなどない。三匹目のウツロイドが現れる。
(終わったな……)
二人は死を覚悟して目を瞑る。しかし一向にそれはやってこない。それどころか背後からの攻撃も止んでいる。
「ねぇ、見て!」
「マジか……」
そこには二人を背にして追手と向かい合うウツロイド。
【ウツロイドの パワージェム!】
【ウツロイドの ベノムショック!】
技が衝突し相殺される。なんだかよくわからないがこのチャンスを逃すことはできない。
(頼んだウツロイド!)
技がぶつかり合う音を背後に感じながら二人は再び走り出す。
***
「ここまで、来れば……さすがに……」
「はぁ……そう、だね……」
なんとか逃げ切り、岩の陰に身を潜める。どのくらい離れただろうか。アドレナリンが切れたせいで右腕が痛んでいる。毒もかなり回ったらしい。汗が吹き出し、目眩がする。
(まずい、目眩が収まらない)
考えるうちに視界がぼやけてくる。トワが呼び掛ける声が聞こえる。彼女はまだ大丈夫なようだ──
「りぃるるぅ!」
世界は二人を見放した。ウツロイドがやってくる。さっきの個体だろう。自分たちを助けたのではなく獲物を奪いとっただけだったらしい。
レイはわずかな視界をたよりにウツロイドと対峙する。覚悟を決める。これしか方法はない。
「俺が引き付ける。その隙に逃げて」
「でもレイが死んじゃう!」
「これしか思い付かない。行って!」
「レイ!」
トワを庇うように足を踏み出す。ウツロイドが迫ってくる。右手に石を持つ。目がほとんど見えない。音も聞こえない。トワが逃げたかもわからない。それでも────
(絶対守る……絶対──)
【めのまえが まっくらに なった!】
──『ポケットモンスターLEGENDS -Eclipse-』