一番輝くアイドル星 作:ももはね
音もなく、スーツの内ポケットでは既に録画アプリを起動したスマホが点灯していた。
小さな部屋の中に二人の男と一人の少女がいた。スーツを着た男にラフな格好の中年男、そして煌びやかな衣装を纏う年若い少女だ。
真夏のねっとりとした空気が滲む部屋の中に低い声が響いた。
「なあ、わかるだろ? 次の番組でも使って欲しかったら……なぁ?」
中年男は少女へ囁きながら右手を彼女の臀部へと伸ばす。少女は強張った顔と肩を小さく震わせながら小さく頷き、太く肉の付いた手を受け止め、その不快感を必死に抑え込んだ。
「従順で可愛いアイドルじゃないか」
太い指が尻を摩り、撫で、揉み、柔肉を弄ぶ。弧を描くシルエットに掌を被せ、押し込み、離し、押し込んで、その匂いが染みつくほどにねっとりと触る。
「……っ」
声を押しこらえる少女の顔を愉快そうに眺める中年男の左手が胸へと伸びた。衣装が彼の手によって歪む。ついさっきまではスポットライトを浴びながら歌って踊る少女を更に華やかな物へ昇華させていたはずの衣装が、もはや中年男の欲望を更に滾らせるオカズへと堕落させられていた。
「君のグループにおっぱいの大きな子居たよな……あれ。名前覚えてないけど、呼んでよ。ねぇ、いいでしょ?」
「それ、は……」
「リーダーだからって君だけが体を張る必要はないんだよぉ?」
少女が唾を呑んだ。中年男の指が胸の先端で弾む。
それらを眺めている青年が、一人いた。
まだまだ新品の匂いが残っている黒いスーツに皺のない革靴。安っぽいリュックに無地のネクタイを付けた年若い青年だ。
彼は少女よりも強張った顔で瞳をぐるぐると回し、足は震え、指先は何度も開閉を繰り返している。
「ねぇ……ズルいって思わない? 君は俺と遊んでくれてるから売れるのは当然だ。でも、君の仲間たちは何もしてない。君が売れるから、一緒に売れてるだけなんだ」
「……」
「ねぇ……君の仲間も、汚れるべきだって思わないぃ?」
「……ぃ、ゃ」
少女の小さな、小さな小さな反抗に、中年男は少女の胸を殴って返した。
「きゃっ……」
「はぁ……萎えちゃうじゃん。そういうことされると。ねぇ、どうしてくれるわけ? 次からもう呼ばないよ? 共演もしたくないなぁおい!」
「ぁ、そ、それはっ……」
「今まで本番は我慢してあげてたけどさぁ……」
下卑た笑みを浮かべ、
「許して欲しかったらどうすればいいか、わかるよねぇ?」
「…………わかり、ました」
「はっ、おい。お前、こいつらのマネージャーだろ。何とか言って人除けしとけよ。暫く人近づけさせんな」
「……っ」
「おい、返事」
「っは、はい!」
青年は叫ぶとぐるりと振り返り────
「……っ」
途中で諦めた瞳で虚空を見つめる少女を見て。
────足を止めた。
「………………馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ」
青年は扉を見つめながら頭をぶんぶんと振り回した。
就活に失敗して色んな会社に顔を出して、何とか引っ掛かったのが中小芸能事務所のマネージャーの仕事。
蛙みたいな顔をした事務所一番の売れっ子の奴隷みたいな生活を約一年して、次に任せられた仕事が学生アイドルたちのマネージャー。アイドルたちは素人同然で鳴かず飛ばず、それでも半年ほど続け何とかテレビに出られるようになったかと思えば──これだった。
「おい、どうした?」
わかっている、わかってはいるんだ、と。青年は自分の正気を疑いながら深く息を吸った。
自分が勝手なことをして、確かに今この瞬間は少女が助かるかもしれない。だが、その後は……?
「さっさと──」
「わかってる。わかってんだよ!」
「……あぁん!?」
突如として叫んだ青年に、中年男は顔を歪めながら返した。
青年はスーツのジャケットを脱ぎ捨て床に放る。カタッと音を立てながらスマホがカメラを上向にポケットを飛び出して床を滑った。続けてネクタイを解き、ズボンのベルトを解き、シャツのボタンを上からゆっくりと開け始めた。
それを眺めていた二人は何も理解できずぽかんと眺めている。そして、青年が少女へ言った。
「さあ出ていってくれ!」
「……え?」
「恥ずかしいだろ! 俺も初めてなんだ!」
「い、いや、何が……」
困惑する少女の背を出口へ向かって押し飛ばすと、青年は中年男へ頭を下げた。
「俺のケツで良ければお相手致します!」
「い、いやお前何を──」
「最近は筋トレできてないんで締まりは緩いだろうけど許して!」
「ちが──」
「着衣と全裸どっちがお好きでしょうか!?」
「お──」
ガバッと青年は振り返り、まだ狼狽えている少女の肩を強く押した。
「さあ早く出ていってくれ! それとも俺の純潔が散るところを見たいのか!?」
「わ、わぁー……!」
少女は赤面に困惑を浮かべながら走って逃げ去った。
こうして残ったのは……小さな密室に男が二人。半裸の青年と中年の男。
「あ、童貞と処女っ、どっちが欲しいですか!?」
「っ……で、出てけー!」