変わらないTSガールと変わる男の娘   作:96963

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キリがいいとこまで来たので一旦ここで。
ほぼ亦紅と桜の会話メイン


2話

「せんぱいでしょ」

 

「は?」

 

 亦紅の言葉に、スマホに映るピンクブロンドの美少女が困惑する。

 意味のわからない言葉に夢を疑ってペタペタと自分の顔を触ってみると、確かな肌の感覚と共にスマホの中の少女が同じ動きをする。

 なるほど、どうやらこの美少女は確かに私らしい。

 は?

 

「どうなってんだ、こりゃ」

 

「知りませんよ。僕だって朝起きたらせんぱいがこうなってたんですから」

 

 起き抜けに理解できないものを叩きつけられて困惑していると、同じく困惑した顔で亦紅が口を尖らせる。

 

「夢じゃないよな、コレ」

 

「せんぱいと僕が同じ夢を見てるって中々ミラクルですねー。しかも痛いですよこの夢」

 

 つまり現実という事か。

 俄には信じがたいというか信じたくないが…………待てよ。

 

「なあ亦紅よ」

 

「どうしました桜せんぱい」

 

「これ現実だとしたらかなり不味くないか?」

 

「まあ免許証とか戸籍とか学生証とか色々不味いですよね」

 

「ならやっぱ夢じゃないかこれ?」

 

「現実見ましょうよせんぱい」

 

「現実逃避へマジレスやめてくんない?」

 

 やっぱ不味いよなこれ。

 私の肉体が女になってるのはまあ百歩譲って飲み込もう。

 ただ女になった事で生じる影響については全く飲み込みたくないぞ。

 というかこいつは何で不審者扱いした割にスムーズに私を受け入れてる訳?

 助かるからいいけど。

 

「そりゃ外見以外いつものせんぱいすぎますし。態度もそうですけど細かい仕草とかせんぱいそっくりですよ」

 

 え怖こいつ…………

 起きてからまだちょっとしか経ってないのに何でそれだけで確信するに足る根拠見つけてんだ。

 何ならまだお互いベッドの上だから碌に動いてないんだが?

 

「まあとりあえず、うるさいんでコレ止めてくれません?」

 

 後輩の怖い一面に内心震えてると、亦紅がアラーム鳴りっぱなしの私のスマホを渡してくる。

 そういや驚きすぎて鳴ってたの忘れてたな、とスマホを受け取り、いつも通りにロックを解除してアラームを止める。

 

「ん?」

 

「どうしました、せんぱい?」

 

「ちょっと確認したいことが」

 

 何か今おかしくなかったか?

 その違和感に任せて、もう一度スマホのロックを解除してみる。

 

「…………どういう事だこれ」

 

 果たして、その違和感は正しかった。

 

「? ちょっとよくわかんないですけど」

 

「顔認証が生きてんだよ」

 

 そう。

 違和感の正体は、いつも通りにスマホが開いた事だった。

 

「顔認証が生きてる? それがどうし…………え?」

 

「わかったか。そう、おかしいだろ。私の顔とは似ても似つかないのに」

 

「まー、今のせんぱいはザ・美少女って感じですよねー。持ち帰って飾っていいですか?」

 

「なのにスマホはいつも通り開いた。つまりこのスマホには今の顔が登録されてるって訳だ」

 

「ボケを拾う余裕もない」

 

「わかってるなら投げるな。というか美少女なのは事実だろ」

 

 パッと見た印象的にはお前の趣味に近い気がするけどな。

 お前ゲームだとこの手のキャラ好きになる傾向にあるし。

 

「なんか他人事ですねー」

 

「余裕はないが実感も無いからな。で、話を戻すが」

 

 顔認証が生きてるなら、指紋認証も生きてる可能性がある。

 そう思って、愛用のタブレットを手繰り寄せて触ってみる。

 果たして結果は。

 

「…………開いたな」

 

「開きましたね」

 

 あっさりと、指紋認証を突破した。

 試しに色んなサイトにパスキーでログインを試してみるが、普通に成功する。

 

「…………何か別の嫌な予感がしてきたぞ」

 

「僕も怖くなってきたんですけど」

 

 その結果に、冷たいものが背筋をかける。

 朝起きたら女になってた、なんて現実的に考えたらあり得ない事が起きてるのは一旦置いといて、普通に考えると何らかの手段で私を女にした犯人が私を女にした後にスマホやタブレットを弄って登録を変更したって事になる。

 それはつまり、呑気に二人寝てる間に不審者が入り込んで私達を起こさずに色々やってたという事で。

 想像するだけで悪寒がする。

 

「でもー、せんぱいはともかく僕が気づかないなんてありますかねー? これでも神経質な方なんですけど」

 

「確かにな」

 

 何か武術でも収めているのか、こいつには怪力に加えて並外れた気配察知能力がある。

 具体的には後ろから音を立てずに近づいてもすぐにバレるし寝てる間にイタズラしようものならする直前にマウント取られてボコボコにされる。

 

「まあ、元々超常的な現象が起きてるんだ。それ以外にも超常的な事が起きてると考えるべきか」

 

 というわけで、私のスマホやタブレットを手作業で書き換えたという線は一旦捨てる。

 さて、となると残る線は…………

 

「全部書き換えられたと見るべきか」

 

「はい?」

 

「だから、全部だよ。私が男だと示すもの全部。免許証、パスポート、学生証、後マイナンバーか。それらの登録情報全部が書き換えられたと考えてみよう」

 

「いきなりぶっ飛びすぎてません?」

 

「まず女になってる状況自体がぶっ飛んでんだからそれ以外もぶっ飛んでると考えてみるべきだろう」

 

「それはまあ、一理あるかもしれませんけど…………」

 

「という訳で、確認してみるか」

 

 ベッドから起き上がり、机に置いた財布に向かう。

 その瞬間、一瞬違和感アリ。

 

「あん? 何か違うな」

 

「そりゃ女になってるんだから色々違…………いやなんかちっちゃくないですか? 後服も随分と可愛くなっちゃってますね」

 

 同じくベッドから起き上がった亦紅に見下ろされて、その違和感に気づいた。

 身体が小さい。

 いや女になったなら平均身長的に小さくなってもおかしくはないがそれにしても小さすぎる。

 後頭が重い。

 触ってみると、昨日まではどう考えてもうなじのあたりまでしかなかった髪が、肩を超えて伸びている。

 亦紅のインカメで見る感じ、幸いな事に寝癖はついてない様だが…………

 この状況でセットとかやってられん。

 尚胸はない。

 見事にぺったんこである。

 いや別に欲しいって訳でもないが。

 ついでに言うと昨日はTシャツ短パンのラフな格好で寝てた筈なのに亦紅の言う通り何故か可愛い感じのパジャマになってるし。

 これもう服も合わせてロリとかその次元じゃないか?

 …………待てよ。

 

「…………え、なんですかその嫌な目は」

 

「…………薄々思ってたんだけどさ、この外見お前の趣味に添いすぎじゃね?」

 

「はい?」

 

「いやだって…………お前の好きなキャラ、傾向的にはピンク髪のロリ系じゃん…………」

 

「うっ…………それはそうですけど…………でも僕がそんな事出来ると思います?」

 

「お前がやったとは思わんがお前関連で起きたかもしれんとは思ったな。昨日妙な夢の話もしてたしな」

 

 偶然の可能性も勿論あるが、それにしてはこいつのストライクゾーンに刺さりすぎてる気がする。

 後はこいつの地雷の恋愛関係の夢。

 そんな夢を見た翌日にこいつにドストライクな姿になったって言うのは流石にちょっと出来過ぎだろう。

 

「ぐっ…………確かに僕の趣味ではあるのは否定出来ない以上、その可能性はあると思いますけどぉ…………」

 

「ちなみにこの外見だから素直に認めたのか?」

 

「あ、それはないです。中身がせんぱいじゃなかったらせんぱいと僕のベッドから叩き出してますよ」

 

「お前そういうとこほんとドライだよな…………しかもここ私の家だし」

 

「まあまあ、細かい事はいいじゃないですか。それよりも財布を確認しましょうよー」

 

「チッ」

 

 全然細かくはないが亦紅の言う事も確かなので言われる通りに財布の中を確認する。

 そこには。

 

「…………信じたくはないが、これが現実か」

 

 私の建てた超常的な、言い換えれば馬鹿げた予想が正しかった事を示す証拠があった。

 

「うわー、ほんとに書き換わってますねぇ」

 

 引き出しをひっくり返して、財布には入れないようなもの、保険の書類やパスポート、卒業アルバムを確認するけど、どれも同じだ。

 全てが綺麗に女として書き換わってる。

 

「ここまで来ると、流石に手作業で書き換えたという線はあり得ないな…………私とお前以外の全ての認識が私が女だったと書き換えられてると見るべきか。親に連絡しても多分無意味だなこれは」

 

「さっきも言いましたけど他人事すぎません?」

 

「実感がまだ無いからな。後は冷静でいようとしてるだけだ」

 

「にしても冷静すぎる気がしますけどね」

 

「パニックになるよりいいだろ。後私は一応お前の先輩なんだからみっともないとこ見せられるか」

 

「はあ。対戦ゲームで負けると毎回再戦要求してくるのってどこの誰でしたっけ」

 

「…………みっともないとこは見せられないからな!」

 

「あ、無視した」

 

「うるさい。このままずっと話しててもアレだしとりあえず飯にするぞ」

 

「はーい」

 

 時計を見ると、起き抜けのハプニングで色々と混乱してたのもあり、結構時間が経っていた。

 急いで冷蔵庫に向かい、中からハムエッグの材料を取り出す。

 

「あ、あのせんぱい?」

 

「どうした」

 

 そしたら、亦紅が変な顔をしてきた。

 

「何するつもりなんですか?」

 

「何ってハムエッグだが。昨日お前がリクエストしたんだろ」

 

「それはそうですけども。この状況で僕のリクエストに拘る必要あります?」

 

「何言ってんだ。別に私の身体が動かない訳でもないし。お前のリクエストに答えない理由がない」

 

「あっこれ何言ってもダメなパターンですね。でも昨日までのせんぱいとはかなり身体が違うのに料理するのは危なくないですか?」

 

「それは確かに私も思ったんだけどな。何か動かす分には違和感ないんだよこの身体」

 

「はあ」

 

「何というか、感覚的には昨日までの私と今の私で身体を動かす分には差はほとんどないんだよ」

 

「でも視点の違いに驚いてませんでした?」

 

「まあ見えるものがそもそも違ってたからな。多分視覚情報に頼ってる部分だけズレが出たんじゃないか」

 

「そういうものですかねぇ?」

 

「実のところはわからん。だがまあ動けるならそれでいいだろう。身体もだいぶ縮んだが、キッチンで台を使うほどには小さくないしな」

 

「何というか、せんぱいって妙に割切りがいいですよねぇ」

 

「わからんものは無闇に解明するよりもそういうものだと飲み込んだ方が楽な時が結構あるからな」

 

「妙に実感こもってますね」

 

「実体験だからな。そして時間もないしサッと作るぞ。今後のこともあるしな」

 

「了解でーす」

 

 という訳で、ハムと卵をフライパンで手早く炒めて適当に冷蔵庫の野菜を盛る。

 

「ほれ、半熟ハムエッグだ」

 

「本当に普段通りに作ったよこのせんぱい…………頼りにはなるけどちょっと怖い」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ何も。ではせんぱいの愛情たっぷりハムエッグ、いただきまーす」

 

「入れてないとは言わんが勝手に増やすな」

 

「…………たっぷりじゃないけど入れてはいるんですね」

 

「そりゃお前のリクエストなんだから多少はお前の好みに合う様に作りはするだろ。それは愛情の一種だと思うが? まあ、ハムエッグは単純だからそこまで手は入れてないが」

 

「…………せんぱいってほんと、いい性格ですよねぇ」

 

「褒めても何も出ないぞ」

 

「せんぱいがボケないでくださいよ。まあこの半熟ハムエッグが僕の口に合うのは事実なので、せんぱいの愛情はありがたく受け取っておきまーす」

 

「おう。じゃあ私は食べ終わったし出る準備するから、食べ終わったら流しに置いといてくれ」

 

「はーい…………ってちょっと待ってください」

 

「どうした?」

 

「え、今日大学に行くつもりなんですか、せんぱい?」

 

「当たり前だろう」

 

 何を言ってるんだろうか、この後輩は。

 今日も講義はあるのだから、休む理由はない。

 

「いや今日くらいは休みません? いくら動けると言っても、その身体でいきなり大学行くのはチャレンジャーすぎるというか。後服とかどうするんですか」

 

 ふむ、なるほど。

 確かに亦紅の言うことにも一理ある。

 しかし、講義の他にも行かなければならない理由があるから、亦紅の提案は否定せざるを得ない。

 

「と言っても、学生証がこれだからなぁ」

 

 書き換えられた学生証を亦紅に見せながら、言葉を続ける。

 

「さっき私は推測で全てが書き換えられてると言ったが、その推測が実際に当たってるのか検証する必要がある。後今は集中講義で1日に大量に同じ講義のコマが入るから下手に休むと出欠が怖い。服に関しては、まあ…………どうせこんだけ改変されてるんだし、適当に何かあるだろ」

 

「最後だけ凄いアバウト。いや僕もそう思いますけど」

 

 結局、さっきまでの話はあくまでこの部屋の中から私が推測した事であって、現実にはまだ証明されてない。

 だから、実際に確かめてみる必要がある。

 まあ、元々私の交友関係は少ないから、変わったところで影響は少ないだろうが…………

 むしろ休んだことによる出欠カウントの減少の方が影響的に大きいまである。

 言ってて悲しくなってくるな。

 ちなみに言いながらタンスを漁ってたら丁度いい感じに着るのが楽そうな服を見つけた。

 本当にあるのかよ…………

 

「…………確かに、そういう理由だとこっちとしても下手に休め、なんて言いにくいですけど…………でも心配なんですよねぇ」

 

 うーん、と亦紅が悩む。

 まあ仮に私が亦紅の立場なら同じ事を思うだろうから気持ちはわかるんだが…………でもどうすればいいんだこれ?

 と、私も頭を悩ませてた時。

 

「あ、じゃあこうしましょうせんぱい。今日僕、午前中だけ講義なんで午後は一緒にいましょうよ」

 

「はあ?」

 

 亦紅が、変な事を言い出した。

 

「一緒にいるって、どこでだよ」

 

「そりゃもう、せんぱいのキャンパスに決まってるじゃないですか」

 

「阿呆」

 

 話を聞いてみると思い切り阿呆な事を言い出したのでペチンと頭をはた…………こうとしたが届かなかったので腹の辺りを小突いとく。

 こいつほんとデカいな…………

 

「今、頭の方叩こうとしてませんでした?」

 

「気のせいだな」

 

「いやしてましたよね? それで届かないから変えましたよね? 誤魔化すのにも無理ありますって。…………子供みたいで桜せんぱい、かわいいですね♡」

 

 秒速でバレた上に煽られた。

 クソが。

 だがタダでは負けてやれん。

 

「子供なのはお前の頭だろ、阿呆。冷静に考えろ。お前みたいなモデル体型の長身ブロンド美人がこっちのキャンパスに来てみろ。一瞬で騒ぎになって面倒事が余計増えるだろ」

 

「ぐっ…………」

 

 よしよし。

 こいつがウチのキャンパスに来る事で生じる明らかな問題点を指摘したら黙った。

 …………だがまあ。

 こいつの心配する気持ちもわかるし蔑ろにはしたくないな。

 さて、取れるものなら折衷案を取りたいがどうしたものか…………

 その時。

 

「…………待てよ」

 

「せんぱい?」

 

 ちょっとしたアイデアが、私の中で閃いた。

 それが実行可能かどうか確認する為に、スマホのメッセージアプリを開いてみる。

 

「…………行けるか」

 

 そこには、以前からの私の知り合いが連絡先に変わらず登録されていた。

 私のアイコンは無機質な初期アイコンから可愛らしい犬のアイコンに変わってたし、知り合いとの会話履歴はだいぶ異なっていたが。

 幸いな事に、目的の人物との会話履歴は男の時のものと変わらなかった。

 これなら大丈夫だろう、とその知り合いにメッセージを送る。

 

『すまん、今日午後急用出来て大学抜けないといけないから午後代返頼む』

 

『見返りは?』

 

『今日の学食奢り』

 

『乗った』

 

「よし」

 

 どうやら企みは上手く行ったようだ。

 見た感じ、この超常的な現象は過去にはそこまで干渉してない。

 メッセージアプリの会話記録がそのままな事、そして知り合いと普通に会話出来た事がその何よりの証拠だ。

 恐らくメインになってるのは私に対する認識の改変だ。

 まあ、過去の改変も行っていない訳ではないようだが。

 知り合いとの会話履歴がだいぶ異なってたのがその証拠だ。

 私に対する認識を女に改変するだけでは過去に矛盾が生じるからな。

 矛盾箇所だけ過去改変を行っているのだろう。

 会話履歴が変わってたのが主に男の知り合いなあたりも、その説を補強している。

 閑話休題。

 

「よし亦紅」

 

「どうしました、いきなり後輩をほっぽってメッセに夢中になったせんぱい」

 

「それは悪かった。代わりと言ってはなんだが…………今日の午後は、一緒に遊ぼうぜ」

 

「え?」

 

「さっき知り合いに連絡を試してみてな。上手く行ったから代返を頼んできたんだよ。これで一緒にいれるだろ?」

 

「それは…………僕としてはまあ、嬉しいですけど。大丈夫なんですか?」

 

「まあ、出席を取れるなら少しのサボりは大丈夫、と言っておこう」

 

 ぶっちゃけ講義のスライドは既に配布されてるしな。

 

「そういう事なら…………遊びましょうか、せんぱい」

 

 そう言って、亦紅が薄く笑ったのを見て内心ガッツポーズ。

 いやー、どうにか折衷案を出せて良かった良かった。

 こいつにはどうせなら笑っていて欲しいしな。

 私のせいで下手に負担かけたくないし。

 

「おう。という訳でお前もそろそろ準備しろよ」

 

「はーい。あ、集合はいつにします?」

 

「んー…………学食で知り合いに飯奢る約束したから、昼過ぎでいいか?」

 

「…………まあ良いですけど。ちなみにその人って誰か、聞いてもいい感じですか?」

 

「…………まあお前も知ってるしいいか。蓬だな」

 

「げ、あの人ですか。いやまあ確かに、あの人ならせんぱいの予測が外れてたとしても今のせんぱいにそこまで態度変わらないでしょうけど…………」

 

 蓬。本名を銀灰 蓬(ギンバイ ヨモギ)という。私の少ない知り合いの中でも更に少ない女の知り合い、いや同級生だ。

 何となくウマが合うのであっちのキャンパスだと一緒に過ごしてる事が多い。

 ちなみに亦紅とは休日に蓬が家に来た時知り合った。

 そして。

 亦紅は何故だか知らんが蓬に死ぬほど対抗心を燃やしてる。

 若干話すのを躊躇ったのはそういう理由だ。

 まあ仲が悪いって訳ではないので教えない理由もないんだが…………ここからの展開が予想付くなあ。

 

「あの人が来るなら、僕も学食に行っていいですよね、せんぱい」

 

「やっぱこうなるか…………まあ、構わんが…………」

 

「よし言質取りました。では僕は大学に行くので戻りますね」

 

 予想通り、亦紅が風の速さで自室に戻って行った。

 …………私の部屋の窓から。

 

「ドア通れよ」

 

 部屋に虚しく、私の声が響く。

 昔から蓬に対して亦紅はなーんか張り合うんだよなあ。

 デート? みたいな事してた事もあるから仲は良いんだろうけど。

 

「おっと、こんな考え事してる場合じゃないな」

 

 時計の針はかなりギリギリの時間を指していた。

 というかこれぶっちゃけ遅刻だ。

 出欠取るタイミングが割とザルだから今からでも間に合うっちゃ間に合うからまあ良いんだけど。

 悪目立ちはしたくないので、なるべく早く教室に入れる様に、目を付けていた服にさっさと着替える。

 選んだのは当然、パンツスタイルの服装だ。

 これなら男の時に近い感覚で着れるしな。

 …………服を脱いだらスポブラじみた下着が既に装着されてて地味に恐怖を覚えたのは内緒だ。

 最後に、何故か残されていた私好みの上着である灰色のジャケットとマスクを取って、装着する。

 感染対策もあるけど、今はそこまで顔を見せたくないからな。

 こういう時マスクは便利だ。

 これで準備は終了。

 

「さて、行くか」

 

 ドアを開けて、大学に向かう。

 昨日までとは打って変わった、刺激的な一日に足を踏み出す。

 

 

 

 

 

「あーもう、本当なんでせんぱいはあの人に頼っちゃうんですかね」

 

 部屋に戻った僕は、若干むしゃくしゃしながら今日の服装を考えていた。

 蓬さんに負けない様な服装を。

 全く、せっかくのせんぱいとのデートなのに何で蓬さんが出るんですかね。

 

「そりゃ蓬さんは悪い人じゃないし、せんぱいと同じ立場の人だから、頼るのも無理ないですけど…………ああもうなんかモヤモヤしますね!」

 

 銀灰蓬。せんぱいの同級生であり、一応私の先輩でもあるが、とことんウマの合わない人です。

 いや、それでも有象無象よりはよっぽど好みな人ではありますけど。

 せんぱいにかなり性格が近いし。

 だけど。

 僕のせんぱいにやたらと距離が近いのは頂けないですねー。

 あ、いえ別にせんぱいに恋愛感情があるとかじゃないですよ?

 せんぱいは責任取って僕の世話を焼くって言ったんですから、それを横から取らないで欲しいってだけです。

 あの人、なーんかせんぱいと怪しい感じなんですよねー。

 いや僕も側から見たらかなり距離近いですけど。

 あの人もあの人で相当距離近いんですよねー。

 だから、せんぱいが僕のものであると蓬さんにアピールしないと。

 その為に相応しい服を選ばないと。

 

「うーん…………」

 

 クローゼットを開き、中身を吟味する。

 中には女ものから男ものまで多種多様な服達。

 それらの内どれが、せんぱいとのデートや、蓬さんにマウントを取るのに適してるかしばし悩む。

 

「…………よし、これですね」

 

 結果選んだのは、大きめの白ニットと黒のスカート。

 これなら僕のかわいさを存分にアピール出来ますね!

 せんぱいが褒めてくれる通り、僕って美人で何でも似合いますし!

 選んだ服に手早く着替えて、髪を整える。

 

「この服なら、ポニテかな?」

 

 なら髪留めはこれにしよう。

 一度決まれば、後はスムーズだ。

 流れる様に服装や髪型、メイクを整えて、せんぱいとのデートに備えて鞄に荷物を詰める。

 そして鏡で全身チェック。

 

「よし、今日も綺麗で可愛い。さすが僕ですね」

 

 これなら、せんぱいの趣味にもぴったりでしょう!

 一通り満足して、部屋のドアを開けて大学に向かう。

 せんぱいとのデートのために、今日はしっかり頑張らないと、ですね!

 

 

 

 

 

 

 

 




(ホラーでは)ないです
亦紅は執着はありますけどまだ恋愛感情ではありません
せんぱい大好きな大型犬ではあります。
亦紅と桜の身長差はTS前は20cmくらい、TS後は40cmくらい
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