何か書くごとに亦紅が生意気系になってる気がします。
1コマ目が終わった後の休み時間。
「あ〜どうにか間に合った〜」
急いで教室に入って講義を受けて暫くして。
休み時間になり、漸く緊張の糸が解けた私は、机に突っ伏していた。
「珍しいね。桜が遅刻するなんて」
すると、隣から私に語りかける透き通った声。
声の方を見ると、亦紅とは違った感じの黒髪ボブカット美少女が、こっちを見ている。
亦紅がギャル系の美人なら、こっちはゆるふわ系の美少女だな。
何と言うか全体的に柔らかい雰囲気だ。
言うまでもなく、しれっと私の分の席も取っといてくれた蓬だ。
…………遅刻するとは言ってなかった気がするんだが。
どうしてわかったんだこいつ。
「まあ、色々あってな」
まさか朝起きたらTSしてたとかこの改変された世界で言える訳がない。
というか言っても多分信じてくれないし。
周りの感じを見ても、私は女ってしっかり周囲に認識されてるみたいだしな。
そう思って、適当に流しながら道中で買った水で喉を潤してると。
「それって、可愛くなった桜についての事?」
「ぶっ…………⁉︎ごほっ、ごほっ」
「うぇ、汚い」
蓬から変な言葉が聞こえた気がして、むせてしまった。
それで咳き込んで、蓬にジト目で抗議される。
「す、すまん…………いやそれよりお前今何て言った」
「可愛くなった桜。前の桜も良かったけど、今の方が桜って名前に似合ってる。ぴったり、可愛い、一緒に帰ろ?」
「絶対言ってない言葉が混ざってるぞおい。というか前の私って何だ」
「何って、男の桜の事だけど」
「は?」
こいつ今何て言った?
男の私?
「? だって、昨日までの桜は男だった。でも今日は女の子。不思議。医学的に考えたらあり得ないくらいの変化なのに、どうやったの?」
「お前…………まさか、覚えてるのか?」
「? うん、桜は男の子から女の子になったんだよね。可愛い。やっぱ今日は一緒に帰ろ?」
蓬が衝撃的な発言ついでに世迷言を言ってるが、こっちはそれに付き合う余裕はなかった。
どういう事だ?
メッセージアプリの会話履歴や周囲の反応的に、私が男という事実はこの世界では女という事実に上書きされている筈。
なのに、蓬は男の私を覚えているという。
不可解だ。
「桜、どうしたの?」
「…………悪い、考え事してた。それよりも蓬、3コマ目が終わったら昼飯前に話したい事があるんだがいいか?」
「いいよ。一緒にお話ししてからご飯食べよ」
「あ、後今日は亦紅もこっちに来るんだけど大丈夫か?」
「あの子が? 勿論いいよ。私、可愛い子は好きだし」
「そうか。さっきの事も含めて、今日は色々と世話になるな」
「桜のお願いなら、別にいいよ。今の桜ならもっといい」
「…………ありがとう?」
「どういたしまして」
流れでお礼を言ったけど何言ってんだこいつ。
いや前からちょっと変なとこはあったが。
文脈無視して一緒に帰ろうとかそんな変な事言う感じじゃなかったと思うんだが。
もしかして私の外見、こいつにもドストライクなのか?
と、改めて私の外見について思考の手を伸ばしていると、講師が教室に入ってくる。
休み時間は終わりの様だ。
とりあえず残り2コマ、乗り切らねば。
乗り切った。
まあ正直私の外見が変わってる事以外はいつも通りなのであんま変わらないんだが。
比較的目立ちにくい席を蓬が取ってくれたから、周囲の視線も少なかったし。
持つべきものは頼りになる同級生だな。
さて、ではその友人への聞き取り調査を開始するとしよう。
「蓬、階段でいいか」
「いいよ」
さっきの休み時間、気になる事を言ってた蓬を人気の少ない階段に呼び出す。
別に怪しい事をする訳じゃないが、聞かれたら色々まずいからな。
「単刀直入に聞く。お前、今の私の状況についてどう思ってる?」
「どうって?」
「周りの反応があまりにも普通すぎただろう。その辺、どう思ってる? お前はどうやら私が女になった事に気づいてる様だが」
「確かに、変だね。でもそれは桜が可愛いからじゃない?」
「お前はもうちょい頭が回ると思ってたんだがな」
「冗談だよ。まあ、真面目に言ってもバカバカしいけど」
「聞かせてくれ」
「…………世界が書き換わってる。推測だけど多分私と桜、亦紅ちゃん、後桜の家族以外全員の認識が書き換わってると思う」
「やっぱりそう思うか」
「やっぱり、って事は桜もそう思ってたの?」
「ああ、証明書の類が軒並み書き換わってたんでな。しかしお前や私の家族が覚えているとは考えてなかったな。何でそう思ったんだ?」
「…………秘密」
「何?」
「桜には教えてあげない、って言ったの。恥ずかしいから秘密だよ」
「はあ?」
蓬がいきなり秘密主義者になったんだが。
恥ずかしいって何だよ。
謎だらけの状況で更に出てきた謎に、頭がくらくらと混乱する。
その時。
「あ、せんぱい見つけました!」
「お」
「って蓬さんも⁉︎ちょっと、こんな人気のないとこで何やってるんですか!」
とても聞き覚えのある声と見覚えのあるシルエットが、ずんずんと近づいてきた。
言うまでもなく阿保後輩、亦紅である。
若干小走りで近づいてくるその姿を見るに、今日はスカートな気分らしい。
にしても、白ニットに黒スカート、ポニテとか地味に私の趣味に沿ってんのが何か見透かされてる様で腹立つな…………
あいつ地毛がブロンドだからこの手のカラーリングがよく似合うんだよな。
「亦紅ちゃん、久しぶりー」
「お久しぶりです、蓬さん。で、せんぱいと何してたんですか?」
「何もしてないよ? ちょっと桜と話してただけ」
「本当ですかぁ?」
おっと、気づいたら亦紅が蓬と張り合い始めてるし、止めねば。
「落ち着け亦紅。蓬の言ってる事は本当だ。蓬が男の俺の事を覚えてたんでな、気になってここで話してたって訳だ」
「蓬さんがせんぱいの事を覚えてた…………?」
「そうだよ。桜、可愛くなったよね」
「む、それは確かにそうですけど。何なら宇宙一可愛くなったと思いますけど。どうしてそれを蓬さんが覚えてるんですか」
「後で教えてあげる」
「亦紅には教えるのかよ。というか亦紅、誇張しすぎだろ」
「亦紅ちゃんはいいの」
確かにこの面が可愛いとは自分でも思うが。
後蓬、お前さっき恥ずかしいとか言ってなかった?
亦紅には教えるとか新手のいじめか?
「いいじゃないですか、誇張したって。今のせんぱいはとても可愛いんですから。で、お話しはもう終わったんです?」
「いや、まだ「うん、私から話す事は終わったよ」おい」
蓬の言葉に遮られて聞き込みが終わってしまった。
まあ蓬の事だからあれ以上聞いても何も出ない気はするが。
「なら食堂に行きません? 今ならピークもある程度終わったと思うんですけど」
「そうだね。私もお腹空いたし、早く行こう」
と思ってたら、亦紅と蓬、二人して食堂に向かい始めた、
どうやら蓬の中では話は終わり、ということらしい。
そのいつも通りのマイペースさに安心と呆れの混じったため息を吐きながら、仲がいいんだか張り合ってんだかわからない二人についていく。
今日は何にするかね。
選ばれたのは、冷やしうどんでした。
学食のうどんはキンキンに冷えてて美味いんだよな。
ついでに亦紅は焼豚丼とハンバーグに唐揚げ、蓬はカツカレーと小鉢の冷奴だ。
それを丸テーブルに置いて三人で食卓を囲んでいる、のだが。
「え、今日桜と亦紅ちゃんはデートなの」
「そうなんですよねー。ほら、せんぱいが心配じゃないですかー。だから一緒にいようって言ったらせんぱいがデートしようって言ってくれてー」
「…………むぅ。ずるい」
仲良く、とはいかない絵面が目の前で発生していた。
ついでに言うと長身ブロンド美人というこのキャンパスには居ない異物が入り込んでるせいで周囲の視線が凄い。
こいつデカくて顔がいいからマジで目立つんだよな…………
後私はデートなどと言った記憶はないんだが。
ちゅるちゅるうどんを啜りながら、目の前の美人二人の張り合いにどうしたもんかと頭を悩ませる。
すると。
「ねえ桜」
「?」
「私ともデートして」
「は?」
何か頬を膨らませた蓬に巻き込まれた。
「だって、私に出席押し付けて桜と亦紅ちゃんはデートなんて、ずるい。これだけじゃ足りない」
「む」
そもそもデートじゃねえというのは置いといて、確かにサボって遊びに行くのにそのフォローへの見返りが学食の昼飯だけというのは少しモヤっとするかもしれないな。
「じゃあ埋め合わせに今度の日曜、どっか一緒に行くか? 蓬の好きなとこでいいぞ。パフェとかならまあ奢れるし」
「え」
「嬉しい。桜ならそう言ってくれると思ってた」
なら、とお詫びに提案したら蓬の顔が綻んだのでよしとする。
代わりに今度は亦紅が頬を膨らませてるので別によくはなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! せんぱいと蓬さんが休日デートですか⁉︎」
「どうした亦紅」
そして予想通り、今度は亦紅に巻き込まれる。
いやでも別に不思議な事は無いと思うが。
お前だって蓬が埋め合わせしてくれてるのはわかってるだろ。
「どうしたもこうしたも! せんぱいの休みは僕のものなんですから! 勝手に取られちゃ困ります! それ以外ならいいですけど!」
「いつからお前のものになったよ」
「せんぱいと会った時からです!」
「なら私は亦紅ちゃんより先に桜と出会ったから、桜の休日は私のもの?」
「お前のものでもないだろ」
確かにお前らと一緒にいない休日の方が少ないけど(大体亦紅7割、蓬3割って感じだが)。
それでもお前らのものじゃ無いだろ。
私の休日は私のものだ。
と、私の休日を私物化しようとするモンスターどもをどうしてやろうかと思ったその時。
「なら、亦紅ちゃんも一緒に来る?」
「え?」
蓬が、亦紅に対して何やら耳元で囁いた。
こっちからだとよく聞こえなかったが。
「ちょっと耳貸して」
「もう貸してますけど、何ですか?」
そしてそのまま亦紅と二人して、何かゴニョゴニョと話し始めた。
…………どっちも美人だから、内緒話してるだけでも絵になるな。
今は私も一応その仲間だが。
どうにも実感はない。
アレか、周りの人間の面がいいからか。
「今の桜って、凄い可愛いでしょ?」
「そうですね。渡しませんよ」
「取らないよ。で、これは提案だけど…………亦紅ちゃん、一緒に桜の服を買わない?」
「服? …………なるほど、せんぱいを着せ替え人形にしようって事ですね」
「そうそう。今の桜なら、色んな服が似合うよね」
「確かに…………そういう話なら、乗りました!」
「交渉成立だね」
ゴニョゴニョ話が終わったのか、亦紅と蓬の距離が離れる。
そしてそのままガシッと固い握手を交わし始めた。
流石蓬、どうやったのかは知らんが亦紅を上手く流してるな。
しかし。
「あ、でも桜せんぱいはあげませんからね!」
「亦紅ちゃんごと貰うならいい?」
「え、何ですかそれは。確かに蓬さんの事は嫌いか好きかなら好きですけど」
「脈あり、と」
「ありません!」
変な会話の後に、亦紅が蓬の手を離してしまった。
というか亦紅の独占欲はいつもの事として亦紅ごと貰うって何だ。
「残念。でも諦めない」
「ないですから!」
蓬は蓬でケロッとした顔でまだ変な事言ってるし。
ほんと、仲良いのか張り合ってるのかわからん二人だな。
ともあれ、二人が張り合う時間はもう終わりの様で、後は三人仲良く、という言葉が似合う時間だった。
そのまま昼飯を食べ終えて、三人でトレイを返し、食堂の前へ。
「じゃあ蓬、後は頼む」
「頼まれた。今度の日曜はよろしくね」
「おう」
そこで蓬と別れて、亦紅と一緒に出口の方に行く。
そして。
「では行きますよ、せんぱい♡」
テンションの高くなった亦紅に、思い切り腕を引っ張られる。
こいつ私が男の時の感覚で引っ張ってるな…………ちょっと痛い。
まあ私は先輩なので、そんな感情は出さない訳だが。
それはそれとして、このまま引っ張られたら死にそうなので文句はいう。
「手を引っ張るな、手を。サイズ差考えろ」
「じゃあおぶります?」
すると、また阿呆の発言が出てきた。
何か普段よりテンション高いなお前。
低いよりいいけど。
「阿呆。目立つにも程があるだろ。というか何処行くか決めてなかったな」
午後サボるって事以外、ノープランだったしな。
「あ、じゃあ僕の行きたいところ行っていいですか? 今行きたい場所があるんですよねー」
「じゃあそこ行くか。行き当たりばったりよりマシだろうし」
「はーい!」
という訳で、亦紅の行きたい場所とやらを目指して電車に揺られる事十数分。
目的の場所に、ついたのだが。
「…………おい」
「なんですか、せんぱい?」
「ここがお前の行きたかった場所か?」
「そうですよ?」
「よりにもよってここかよ…………」
着いたのは、カップル限定の人気メニューがある喫茶店だった。
まあ、カップルと言っても二人で来ればいいだけで別に付き合ってる必要はないらしいが…………こういうとこに来るのは大体恋愛カップルな訳で。
そういう話のない身としては気後れしてしまう。
まあそれはそれとしてカップル用メニューの内、キングサイズパフェが値段の割に死ぬほどボリューミーなのもあって時々こいつと食いに行ってたから別に初めてという訳ではないんだが。
とは言え今行くってのは妙な文脈が乗せられそうな気がするぞ。
「だってー、今のせんぱいとっても可愛いじゃないですかー。それにここの通常サイズのカップルパフェってめっちゃ写真映えがいいんですよねー。つまり最強って訳ですよ! 後せんぱい、写真撮らせてくれないじゃないですかー。写りが悪いって。僕は全然気にしないのに」
そりゃ写りが悪いのは事実だからな。
別にわざわざ自分の顔を卑下したくはないが、お前とか蓬に比べたら流石に落ちるわ。
「お前の外見めちゃくちゃ良いから蓬と一緒に行けば良い画が撮れたと思うんだが…………?」
というかそう、蓬と一緒に行けば良いんじゃないか?
あいつ何だかんだで写真好きだし。
「いやいや、せんぱいにそうやって褒められるのは嬉しいですけどー。蓬さんとこういうとこに行くのはナシですよ! 僕はこういうとこにはせんぱいとだけ行きたいので! それに、僕はせんぱいとおそろの写真が欲しいんですよ! そして今のせんぱいならせんぱいがどんなに卑下してもしきれなくらい写真映えが良いから大丈夫ですよね?」
しかし、亦紅はあくまでも私との写真に拘ってる様だ。
そして亦紅が言ってる事がある種の事実を突いてるのもタチが悪い。
今の私の顔なら確かに写りが良いだろうからな。
私が写真を拒む理由がない。
つまり。
「…………左様か」
「左様ですね!」
何を言ってもダメという事だ。
まあこいつのこういう一本芯通った所は好感の持てる部分だから弱いというのもあるが。
問題なのは腹具合だが…………亦紅はかなりの大食いだし、私もそれなりに余裕はある。
見た感じ限定メニューは普通の奴なら二人前として常識的な量のフルーツパフェみたいだし大丈夫だろ。
と、思っていたのだが。
「はいせんぱい、あーん♡」
「何でこうなる」
全然大丈夫ではなかった。
長身ブロンド美人にあーんされそうになってるピンク髪幼女の絵面が爆誕していた。
どうしてこうなる。
届いて写真撮るまでは普通だったのに。
「えー、だってさっきも言ったけど今のせんぱいとっても可愛いじゃないですかー。ならこうやって、スチルになりそうなシーンは作っとかなきゃ損じゃないですかー? せっかくカップル向けのメニュー頼んでるんですし♡」
「人の食事をスチルとか言うなよ。確かにお前が食ってる時似たような事考えるけども」
何やっても絵になるからな。
「じゃあ僕もせんぱいに対してそう思ってるのでおそろっちですねせんぱい♡というわけであーん♡」
「くっ…………」
まずい。
地味に反論しにくいし逃げ場がない。
どうすれば良いんだこれ。
いや別にあーんされるのが嫌とかではないんだが。
なんかこいつの言う通りに動くのが死ぬほど嫌なだけで。
でもカフェの狭い椅子じゃ碌に逃げれる場所はないし。
亦紅のスプーンはもう目と鼻の先だし。
ああもうこうなったらヤケだ。
「…………ええい、ままよ!」
勢いに任せてそのままぱく、と亦紅のスプーンに取り分けられたフルーツパフェを食べる。
「…………ん、美味い」
瞬間、冷たいアイスと果物の甘味が広がって、さっきまで戸惑っていた事がどうでも良くなる。
まあここのパフェが美味い事自体は前から知ってはいるんだが。
それでも、また食べたい、と思いたくなる味だ。
なので、亦紅からスプーンをひったくって別の場所をすくって食べる。
「あ、ずるい! 僕も食べますからね! …………これ、キングサイズとはちょっと味が違いますね?」
ひったくられた亦紅も若干不満気な顔をしながら、一緒にパフェを食べ始めた。
すると亦紅が不思議な顔をする。
確かに、言われて見れば少し違うかもな。
「んー、まああの手のサイズって食ってる途中で飽きることが多いから飽きないように通常のとは味付け変えてるんじゃないか」
「一皿千円のフカヒレ料理的な?」
味に対する考察を素人なりに考えたら予想外のネタが飛んできた。
確かにそれは全巻フルセットで私の部屋に置いてあるが。
お前読んでたのかよ。
「マニアックだな。まあそういう事だ。一口しか食べられない料理ならしっかりと旨味を感じさせて満足させろって主張の逆というか。キングサイズはあのサイズを全部食って満足出来る味付けにしてるんじゃないか。推測だけどな」
「確かに、このパフェとあのパフェじゃサイズ全然違うのに、満足度的には変わりませんね」
「パフェでどうやったらそんな調整が出来るのかは摩訶不思議だけどな」
そうやってとりとめのない会話をしてる内に、パフェがどんどん少なくなっていく。
それを見て、ちょっとした悪戯心が芽生えた。
「ところで亦紅」
なので、悪戯する事にした。
「なんですか?」
「ちょっとスプーン貸せ」
「? はい」
怪訝な顔をしながらスプーンを渡してきた亦紅に内心しめしめと笑いながら、パフェをすくう。
そして。
「ほれ、あーん」
さっきの仕返し代わりに、亦紅の口に突きつける。
私だけやるってのは不公平だよなぁ!
しかし。
「あ、そういう…………では遠慮なくいただきますね、せんぱい♡」
「え」
亦紅はそれに動揺するどころか嬉々とした表情で、パクりといってしまった。
「やっぱ美味しいですよね、このパフェ」
「お前もうちょい躊躇いとかないわけ?」
「やだなー、せんぱいのあーんなんて見逃せる訳ないじゃないですか! それに悪戯心が顔に出てて可愛かったですし♡」
「チッ」
見破られてる上に煽られた。
許せねぇ。
「んー、行動はいつものせんぱいですけどー、いつもよりかわいいですね♡」
「流石に普通の成人男性がこれやってたらビビるわ」
「いや、流石にあーんとかはしませんけど、僕にイタズラしようとして失敗した時大体こんな感じですよ…………?」
「マジかよ…………」
幼女スタイルだから許される行動してたのかよ男の時から…………
亦紅の何気ない指摘にショックを受け、地味に落ち込む。
「いやだってせんぱい極度の負けず嫌いじゃないですか。他にもカードゲームで負けが込んだらデッキメタしてきますし」
「ぐっ…………」
「言い返せないせんぱい、口喧嘩よわよわでかわいいですね♡」
お前が事実ベースで抉ってくるのが悪い。
そう言いたかったが、ちょっとメンタル的に言い返なかった。
なので代わりに、パフェの器ごとこっちに引き寄せて残りを一気に貪る。
「あ、ちょっとせんぱい! 全く、先輩としてみっともないとこを見せられないとか言ったのはどの口ですか!」
「今の私は美幼女スタイルだから知らんな」
「都合よく切り替えてますね!」
「お前も都合よく今の私の姿を利用してるからな」
「まずい全く言い返せない反論来ちゃいました」
ふふん。
どうやらこの口喧嘩では私が勝利したみたいだ。
やーいやーい、ざまーみろ。
…………幼女連呼してたから思考が本当に幼女に寄ってる気がする。
これはいけない。
私は先輩だからな。
というわけで、少し譲歩してやろう。
「まあ残り全部食べたのは私が悪かったな。なのでお詫びとして夕飯はお前の好きなものにしてやろう」
「何で上から目線なんですかねこの幼女せんぱいは…………まあ良いですけど」
「それで、何にする?」
「んー…………じゃあ焼肉で」
「焼肉か。まあ懐に余裕はあるから良いが。どこにする?」
「いつもの食べ放題のとこでお願いしまーす」
「わかった。なら今のうちに予約しとくか」
食べ放題チェーンのアプリを開いて確認すると、まだ14時くらいだからか、予約時間は割とスカスカだった。
まあ平日だしな。
「19時くらいで良いか?」
「大丈夫ですよー」
という訳で時間も決まったのでサクッと予約。
すると。
「あ、ついでに蓬さんも呼びません?」
「蓬?」
亦紅が珍しい提案をしてきた。
こいつが自発的に蓬を呼ぶなんて滅多にないのに一体どういう心境の変化だ?
「理由は?」
「それは勿論、せんぱいの同級生ですから仲良くしたいのは当たり前じゃないですか」
「本当は?」
お前ぶっちゃけ私と蓬以外の人間大体嫌い寄りだし蓬とも仲は良い寄りだけどそんな殊勝な事言う間柄じゃないだろ。
「当然、今日撮ったせんぱいの写真を共有するついでにマウント取ってですね…………ハッ⁉︎」
「なるほどな」
納得した。
まあ一応聞いてみるか…………
『亦紅が蓬と一緒に焼肉行きたいって言ってるんだが』
『行く。桜は?』
『早いな。私も行くよ。ちなみに亦紅は私の写真でマウント取りたいとか言ってるけど大丈夫か?』
『断る理由がない』
『わかった、なら19時にいつものとこで』
『おっけー』
なんか普通に乗り気だったので怖い。
まあ来るのは来るらしいのでアプリをもう一回立ち上げて予約を変更。
変更が効くタイプで助かった。
さて、夜行く場所は決まったがまだ時間は結構ある。
「で、どうするよ、亦紅」
セットのドリンクで口直ししながら、亦紅に今後の予定を聞いてみる。
すると。
「勿論、決まってますよ! 蓬さんと夜会いますし、ここからはせんぱいのコレクション作りです!」
碌でもない予定が返ってきた。
「碌でもないな」
おっと、口に出てた。
「いやいや、よく考えてくださいせんぱい。今のせんぱいはせんぱいも認める程の美少女ですよね?」
「まあ、それはそうだな」
同時にお前の趣味すぎるだろこれとも思ってるが。
「ならその美少女の姿は出来るだけ保存するべきじゃないですか?」
「…………」
それお前が保存したいだけじゃないか? と思ったが先述の通り私も似たような事を考える事があるので否定しにくい。
「沈黙は肯定と見做しますよ」
「やめろ阿呆。まあ、お前が私の写真を撮りたいのはわかった」
「そうです。だってせんぱい、全然写真写ってくれないんですから!」
「そりゃ写真写り悪かったしなぁ…………」
後苦手なんだよ写真。
だけど。
「せんぱいの言うことも確かにわかります。僕だって泣いてる顔とか撮られたくないですし。でも…………」
「でも?」
「…………寂しいんですよ。せんぱいと一緒に遊んだのに、僕しか写真に写ってないのは。せんぱいがそこにいなかったみたいで」
「…………む」
寂しい顔をした後輩を見て、雷に打たれた様な気持ちになった。
言われて見れば、確かにそうか。
どれだけ楽しい思い出があったとしても、いずれは風化していく。
その時、写真があれば風化した思い出の一部でも思い出せるだろうが、無い部分はきっと風化したままだろう。
それは確かに…………寂しい。
そう気づくと、さっきまであった抵抗感が自然と無くなっていた。
幸い、今の私は写真写りも良いしな。
「…………あーもうわかったよ。私の負けだ。一緒に写真でも何でも撮ってやる」
「…………良いんですか?」
「良いよ。お前の言うことにも一理あると思ったしな」
「桜せんぱい…………」
…………まあ、ちょっとお前の寂しそうな顔に踊らされた面もあるが。
だけどたまには良い事言うなこの後輩。
しかし。
「…………やっぱ桜せんぱい、ちょろいですね♡」
「あ?」
次の阿呆の言葉で、何もかも台無しになった。
「しっかり見えましたよー、僕の顔に動揺したところ♡まあ寂しいってのは本音ですけどー、それでも僕が寂しそうな顔したらすぐに甘やかしてくれるの、ほんとちょろいですね♡」
「こ、こいつ…………」
訂正。
この後輩はやはり阿呆だ。
登場人物紹介
蓬 桜が色んな意味で好きな可愛いもの好きの天然同級生ヒロイン。桜のTSについてはっきり認識してる。桜が可愛いからそこまで気にしてない。
亦紅の事は可愛い大型犬だと思ってる。
桜が男の頃から割とこんな感じ。
犬か猫なら猫派。
好きなデッキタイプはガチャを回すタイプのデッキ。
桜 実は負けず嫌いで子供っぽい部分が多いTS幼女主人公。幼女のガワがピッタリ。
地味に適応能力が高い。
犬か猫なら犬派。
好きなデッキタイプは色々 何でも使う。
亦紅 せんぱい限定で煽り魔になる大型犬系後輩ヒロイン。それはそれとしてテンションが若干バグってる。桜と蓬、その家族と自分の家族以外は有象無象だと思ってる節がある。
犬か猫なら多分犬派。
好きなデッキタイプはコントロール。