ありがとうございます。
ちなみに7話の内容を6話で書こうとしたら何故か6話が喧嘩回になりました。
「で、亦紅」
「何ですかせんぱい」
「そろそろ離して欲しいんだが。時間もヤバいし」
亦紅に押し倒されてから、かれこれ30分程経過していた。
亦紅に色々とぶつけられたおかげで、私の馬鹿さ加減はよくわかったし、抱き合ったおかげで寂しさもマシになったからそろそろ解放して欲しい。
実はもうぶっちぎりで遅刻確定ラインだったりするので。
しかし。
「…………そんな事言って、逃げたりしません?」
私が馬鹿な事を言ったのが悪いのだが、ジト目になった我が愛しき後輩に睨まれてしまった。
どうやらよほど私の言葉がショックだったらしい。
ただこのままここでずっとこうして抱き合ってるのもそれはそれでまずい。
お互いに大学もあるし。
亦紅に甘えるのは何というか凄く安心したので私としてもまだ抱き合っていたいとこはあるんだが。
…………まあ、これは亦紅の気持ちを顧みなかった私の自業自得か。
だから、信用して貰える様に頑張ろう。
「…………逃げない、と私は言いたいんだが…………亦紅は、どうやったら信じてくれる?」
暗に亦紅の言うことなら何でも聞く、という意味を込めながら、亦紅に問いかける。
すると。
「…………ちょっと待っててください」
私の上から離れた亦紅が、私の髪を纏めた道具、亦紅が自分の部屋から持ってきた色々なアイテムを漁り始めた。
そして。
「僕のチョーカーを『貸す』ので、夕方に返してください」
と、亦紅に黒いチョーカーを突きつけられた。
どうやら、これを付けろという事らしい。
首輪代わりだろうか。
言われるままにチョーカーを受け取り、首に巻き付ける。
すると、亦紅が留金に手を伸ばしてきた。
「…………外したら、許しませんから」
留金を弄りながら、亦紅が耳元で囁く。
首輪代わりという事で合ってるらしい。
だけど…………私は、この黒革のチョーカーに、束縛というよりかは、亦紅との繋がりを感じていた。
確かに、私は縛られた。
このチョーカーを通した、亦紅との約束に。
しかしその束縛は、ある意味では私をこの見知った様で見知らぬ世界に繋ぎ止めてくれる、楔でもあるのだ。
「わかった…………ありがとう」
そう思うと、目の前の愛しき後輩に感謝せずにはいられなかった。
「…………せんぱいは僕のですからね。勝手にいなくなっちゃダメですよ」
「そうだな」
「わかってるならいいんです。では、どうぞ」
果たして、亦紅に私の意思は伝わったらしい。
亦紅が私から離れて、身体が自由になる。
そのまま起き上がり、急いで大学に行く準備を整える。
「…………じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、桜せんぱい。気をつけて」
「お前もな」
亦紅に見送られながら、扉を開ける。
僅かな人以外、誰も私を知らない見知った様で見知らぬ世界へ、足を踏み出していく。
だけど…………寂しさは、感じなかった。
亦紅を感じる事が出来たからだ。
首を戒める黒革を撫でると、自然と笑みが溢れる。
さあ行こう。
今日もきっと、いつも通りの退屈な、だけど知らない日常が待っている。
「…………やってしまいました」
せんぱいが出て行ってからしばらくして。
僕は、せんぱいのベッドの上で身悶えてました。
思い返すのは、せんぱいとの会話。
せんぱいに怒った僕が、怒りのままに自分の中の感情をぶちまけてしまったとこです。
「…………流石にちょっと恥ずかしいですね」
後悔してるかと言えば、全然してないんですけど。
あそこはどう考えてもせんぱいが馬鹿なのが悪いので言わないといけない場面でしたし。
…………ただ、怒りのまま言わなくていい事まで言った気がして、顔が熱くなってしまいます。
せんぱいの一生貰わないと釣り合わないとかなんなんですかプロポーズなんですかプロポーズしたんですか僕。
いえ確かにせんぱいには一生かけて責任とってもらうつもりでしたけど。
それにしたって、もうちょい言い方とかあったでしょ僕。
こうして振り返ってみると、プロポーズにしか見えませんよあの告白。
後さっきのチョーカーも何で僕はチョーカーを選んじゃったんですか。
僕のものを貸してせんぱいを縛り付けるだけなら、リボンとか他に色々あったのに。
わざわざチョーカーを選んで、せんぱいの首に巻き付けたという事実が、何というか僕の中のせんぱいへの独占欲を示している様な気がして、堪らずゴロゴロとベッドを転がります。
「…………どう考えても首輪ですよねアレ」
せんぱいを縛って安心させるという思惑も確かにありましたけど。
それなら別にさっきも言った通り髪に結ぶリボンでもいい訳です。
つまり。
チョーカーを選んだのは、せんぱいに首輪着けて僕のものってアピールしたいという欲望によるもので。
どうしても顔が熱くなってしまいます。
蓬さんに対してはいつもアピールしてるんだから今更?
アレは蓬さんとのじゃれ合いみたいな面もあるので、首輪という形で外にアピールするのとはちょっと違うんですよ。
ほら、口に出したら変わるってよくあるじゃないですか。
そういうのと同じで、蓬さんとじゃれ合ってるのと実際に行動を起こすのとじゃ違うんですよやっぱり。
主に僕の気持ちが。
「…………夕方に返してくださいって言いましたけど、どんな顔して会えばいいんですかこれ」
こう、言ってる間は激情の勢いに流されてましたし、せんぱいと抱き合ってる間は何というかそういうのを考えるテンションじゃなかったんですけど。
せんぱいと離れて、冷静になってる今だと自分の行動を振り返らずにはいられません。
「…………〜〜〜っ!」
そして悶えます。
「…………そもそも、せんぱいもあっさり受け入れすぎじゃないですかね」
挙げ句の果てに、せんぱいにまで恨めしい気持ちが飛んでいきます。
いや逃げられない様にしたの僕ですけど。
答えるまで逃すつもりありませんでしたけど。
僕が抑えたら、せんぱいは逃げるの無理ですし。
それにしたって、ちょっとあっさり受け入れ過ぎ様な…………
と、どう見ても自業自得の僕の行動の責任をやつあたり気味にせんぱいに押し付けて平静を保とうとした時。
『いえ何も。ではせんぱいの愛情たっぷりハムエッグ、いただきまーす』
『入れてないとは言わんが勝手に増やすな』
不意に、昨日の朝の会話が思い浮かんできました。
「…………せんぱいの、愛情」
あの時せんぱいは、当たり前の様に愛情が入ってると言いました。
つまり、僕に対して愛情を与えるのは当たり前という事です。
『だから…………お前を拾った時、思ったんだ。お前にいつか、私以外の止まり木が出来た時、後腐れなく私から離れられる様に、お前に頼っちゃいけないって』
続いて、さっきのせんぱいの言葉がリフレイン。
「…………あれ、これって…………」
その二つの言葉を組み合わせると、何となく見えてくるものがありました。
…………めちゃくちゃ気に食わない事ですが、せんぱいは、いつか僕が後腐れなくせんぱいの元から離れられる様、我慢してたという事です。
同時に、ハムエッグの件から分かるようにせんぱいは僕への愛情を隠したりしません。
出会った時から、ずっとあんな感じです。
つまり、それらが意味することは。
「…………せんぱいって、もしかして…………出会った時からずっと…………」
せんぱいが、最初から僕の事をめちゃくちゃ好きだったという事です。
というかそう考えないと、あっさり受け入れた説明が付きません。
「…………もー! なんなんですか! なんなんですか、桜せんぱい! もー!」
その事実に気づいた時、堪えようのない嬉しさと愛おしさが僕の胸から溢れてきて、語彙力が死にました。
…………あの時のせんぱいの言葉は、気に食わないですけど間違いばかりではありませんでした。
誰かの期待に押し潰された結果、倒れてしまったのを拾われたのが僕とせんぱいの出会いでしたから。
だから、拾われた時の僕に今朝と同じ事を頼まれても…………多分、僕はそれに応えられなかったでしょう。
僕も僕の事でいっぱいいっぱいでしたからね。
だからこそ僕は期待も何もせず、ただ側にいて愛を与えてくれたせんぱいに堕ちてしまった訳で。
せんぱいはきっとそれを見抜いてて…………自分の気持ちを封印したんでしょう。
僕のために。
その上で、そんな素振りをこんな異常事態が起きるまで隠し通して、ただ僕に愛を与えていたという訳です(せんぱいの行動は悪癖だと前から思ってましたけど、あんな理由があるとは思ってませんでしたし)。
何なんですか。
本当に何なんですか、桜せんぱいは。
「…………こんなの、ずるすぎます」
僕がせんぱいの事を大好きだーって殴りかかったら、それ以上の愛でカウンター決められた気分です。
こんなん一撃KOですよ。
まあせんぱいが言った訳じゃないですけど。
せんぱいプロファイリングによる僕の推測ですけど。
とはいえ、せんぱいとは僕が一番濃密な時間を過ごしていますからね。
間違いは無いはずです。
…………え? そのせんぱいの隠してた気持ちを見抜けなかったじゃないかって?
あーあーきーこーえーまーせーんー!
というか責任とってせんぱいの一生をくれるって言ってくれたんだからせんぱいが僕の事大大大好きなのは自明な事実ですよ!
と、脳内でテンション行方不明な自問自答の一人相撲をしていた時。
『お前の恋路の手助けをしてやろうと思ってな』
何故か、不快な夢の内容が思い浮かんできました。
一昨日、つまりせんぱいが女の子になる前の日僕が昼寝で見た夢。
僕の顔をした誰かが、僕の恋路というあり得ない、不快なものを応援するとか宣った嫌な夢を。
「…………違いますからね」
きっと、あの夢の何かが今の僕を見たらニヤニヤと笑いながら『俺の言った通りになっただろ?』とか言いそうです。
なので、釘を指すように虚空を睨みつけます。
「…………僕とせんぱいは、
確かに僕はせんぱいの事が大大大好きで、せんぱいも僕の事が大大大好きですから、アレには僕の恋路に見えるかもしれませんけど。
僕とせんぱいは
言うなれば親愛や友愛です。
…………そもそも、僕はそういうのに巻き込まれるのが嫌で嫌で仕方ないんですよ。
誰も彼も僕の事なんて見ずに好き勝手に感情をぶつけて来て、断ったら断ったで怒って。
そんな事繰り返してたら、嫌でも嫌いになりますよ。
だけど、せんぱいはそうじゃなかったから僕は…………あれ。
「…………そういえば、せんぱいは何で有象無象と同じって、言ったんでしょう」
あの時はせんぱいと他の有象無象は違うって、僕は否定しましたけど。
せんぱいが自分の事をそう卑下したのは、何か理由がある筈です。
「…………せんぱいも他の人と同じ様に、僕に恋愛感情を持ってたんでしょうか」
言ってみて思いましたけど、全然当たってない気がしますね。
せんぱいが自分の気持ちを封印してたとは言え、僕に対する態度は告白とかしてくる様な人達に比べたら全く毛色が違ってましたし。
「…………うーん、わかんないですね」
まあせんぱいにどんな下心があろうと僕がせんぱいを大大大好きなのは変わりませんけど。
──────なら、その先輩がお前に恋愛感情を持っていたらどうする?
「だから、ないですって…………っていや誰ですか⁉︎」
自然に頭の中に声が響いて来たのでうっかりスルーしかけましたけど。
何か夢の中で見た僕みたいな声が聞こえましたよ⁉︎
慌てて周りを見回しますが、当然誰もいません。
「不審者…………とかじゃないですよね」
警戒しながら辺りの気配を探ってみますけど、そっちにも引っかかる感じはありません。
僕の音以外は静かなものです。
「幻聴…………?」
となると、残るのは幻聴ってとこでしょうか。
さっきの声も変な質問したっきり聞こえて来ませんし。
「疲れてるんですかね…………」
せんぱいも色々ありましたけど、僕も結構せんぱい周りの変化に振り回されましたし、今朝は告白紛いの事までしましたし色々と疲れてるんでしょうか。
「なら、ちょっと寝ましょうか」
今日は早起きしてちょっと眠いですし。
今日の講義は昨日とは逆で、午後からスタートなので少しくらいは問題ないです。
という訳で、疲れを取るために合法的にせんぱいのベッドに潜り込み、枕に顔を埋めます。
うん、せんぱいのいい匂いがしますね。
その匂いに包まれる事に安心しながら瞼を閉じて、眠ろうとした…………んですが。
「…………」
さっきの変な声に言われた事が、胸を離れませんでした。
あり得ない仮定ですけど、せんぱいがもし、恋愛感情で僕を見ていたら。
僕は今まで通り、せんぱいに大好きだって、言えるんでしょうか。
胸に手を当てて考えてみます。
すると。
「…………あれ?」
何故でしょうか、僕の予想に反してせんぱいの事が大好きな気持ちが止まりませんでした。
むしろ、更に強くなった気がします。
「…………せんぱいと、付き合う…………」
昨日みたいに、一緒にデートして、ご飯食べたり、写真撮ったり、色々する事を想像します。
何故か顔が熱くなり、心臓の鼓動が心なしか早くなっていきます。
「…………どうして…………僕は好きになられるのも、好きになるのも嫌な筈、なのに…………」
せんぱいにだけ起きる心のイレギュラーに、胸の高鳴りと困惑が同時に去来します。
結局、僕は出る時間になるまで寝付く事は出来ず、もやもやとしたものを抱えるだけになりました。
「さて、なるべく早く大学に着きたいが…………」
家を出て、全力疾走しながら時計と大学までの距離を見比べる。
今の時刻は1コマ目が始まってからちょっと過ぎたと言ったところ。
昨日の感覚だと、この身体じゃ男の時より大学に行くのに時間がかかる。
単純に体格が小さくなって歩幅も小さくなってるからだ。
着くのは、大体講義が始まって半分と行ったとこだろうか。
今日の授業は終わりタイミングに出欠を取るから間に合いはする分まだいいが。
それでも少しでも早く大学に付ける様に、全力で足を動かす。
「…………にしても、この身体は元気だな」
身体は小さいが、体力が無尽蔵にある気がする。
準備無しに全力でそこそこの距離走ってるのに、息が切れる気配が全くしない。
小学生はやたらとエネルギーがあるというが、それと同じ理屈だろうか。
仮にそうだったとした場合、私の身体が小学生相当という事が確定してしまうのでやめて欲しいのだが。
と、急ぎつつも益体のない事を考えていた時。
「待ってくださいよー!」
「あん?」
後ろから聞こえる聞き慣れた声に、足を止められた。
振り返ると、亦紅が私を追って来ていた。
何か忘れ物でもしたか?
立ち止まって、亦紅が追いつくのを待つ。
「どうした」
「どうしたじゃないですよ先輩。大切な事忘れてるじゃないですか」
「大切な事?」
今この瞬間私の頭にはとにかくヤバいから逃げろって警告が出始めたんだが。
それ以上に大切な事とかあるか?
「はい。だって…………僕にキス、忘れてるじゃないですか」
「お前にキスとか死んでもあり得ん」
何でお前としなきゃいけないんだよ。
「えー、酷くありませんか、桜先輩?」
「そのヘタクソな猿真似をやめろ」
見ているだけで虫酸が走る。
「猿真似?」
「私の可愛い後輩のヘタクソな猿真似してんじゃねえぞ偽物野郎、って言ったんだ」
「…………へぇ、わかるのか」
瞬間、亦紅の偽物の気配が変わる。
こいつが偽物である事は一言聞いてすぐにわかった。
何故なら。
「私の可愛くも憎らしい愛しき後輩が、私の事を『先輩』なんて呼ぶ訳ないだろ。イントネーションが違いすぎる。ヘタクソ。騙す気あるならもっとクオリティ上げてからこい偽物」
「…………なるほどなるほど、俺が偽物かあ」
亦紅が私の事を『先輩』なんていかにも後輩ぶった呼び方するわけ無いからである。
ぶっちゃけあいつは私に甘えてるとこと私を舐めてるとこが多分にあるので『先輩』なんて呼ばない、『せんぱい』と呼ぶ。
それにしても亦紅の名前を呼ばなかったのは偶然とはいえ良い判断だったな。
この手のは名前を教えると面倒くさい事になるからな。
というわけで。
「じゃ、急ぐんで」
三十六計逃げるに如かず。
さっさとこんな得体の知れない偽物からは逃げるに限る。
と、亦紅の偽物に背中を向けて足を踏み出したのだが。
「まあ待てよ」
亦紅そっくりの偽物に、道を阻まれてしまった。
え、今どうなった?
こいつ確かに私の後ろにいたよな?
「お前、気に入った。ちょっと話そうぜ」
「後輩の偽物と話す事なんてないが」
「つれないなあ」
「あいにくだが、お前に付き合う義理がない。何なら今の時点で嫌いだ」
亦紅の顔で、亦紅のフリして、何をしようとしたんだお前。
時と場合によらなくても許せる事ではないんだが。
「ふぅん、ますます気に入った」
「お前に気に入られても嬉しくないが」
むしろ怒りが湧いてくるのでやめて欲しい。
こっちはさっさと講義に行きたいのにいい加減無視出来なくなる。
しかし。
「じゃあ、嬉しくなる情報をくれてやるよ。…………例えば、お前の身に起きてる事とかな?」
「…………何?」
偽物が溢した言葉のせいで、私には怒り以外の理由でこいつを無視出来ない理由が出来てしまった。
「…………お前、何だ?」
思わず、怒りを忘れて疑問が溢れる。
亦紅にそっくりな上、この改変された世界の事を知っている謎の偽物。
前者だけでも意味不明なのに、後者まで加わると更に意味不明だ。
そして。
「俺が何か、ね…………ま、平たくいえばこの事態の元凶って奴だな」
あっさりと、謎の偽物は私が女になったのは自分が理由である、と自白した。
「元凶?」
「ああ。あ、でも語弊があるな、俺は元凶ではあるが黒幕って訳じゃない。むしろお前らを応援したいって側だ」
「…………どういう事だ?」
「…………ふむ、ここで話すのには少し長い話だ。悪いが、何処かに話せる場所はないか?」
「…………私はこれから講義があるんだが」
「心配するな。要はその講義に参加した記録とお前に付与される筈だった知識を与えてやればいいのだろう? その程度はサービスしてやる」
「…………意味がわからんが、配慮する気があるならテーブルには乗ってやろう」
この偽物には詳しい話を聞く必要がある。
私だけならまだいいが、恐らくこれは亦紅にも関係する事だからだ。
そうでなきゃ、この自称元凶がお前らと言った事や、亦紅そっくりの顔をしている理由が思いつかない。
幸いにもこの自称元凶は、多少はこちらの事情を汲み取ってくれるらしい。
だから、危ない事になる可能性は低いと考えていい筈だ。
無論危なくなる可能性を考えて、出来るだけ開けたスペースのある喫茶店に奴を連れて行く。
「なるほど、大胆なのか臆病なのかわからんやつだな」
とは人でそこそこ席の埋まった喫茶店に連れてこられた自称元凶の発言である。
「両方だと思っとけ」
「前から思ってたけど面白い奴だな」
「いちいち気になる言い方だな…………で、その長い話とは何なんだ?」
「ふむ、はぐらかす必要も無いので単刀直入に行こう。まず、お前の身に起きてる記録の書き換えだが…………それは確かに俺がやったものだ。しかし、俺はお前が女になった事については、元凶ではあるが実行犯では無いと言っておこう」
「お前が…………書き換えた…………?」
「ああ、その方が不便無いと思ってな」
正直言って狂ってるのかこの男はと一瞬思ったが、よく考えたらさっきも変な事を言っていたので恐らく事実なのだろう。
というか事実と考えなないと話が進まないので一旦事実という事にする。
そもそも朝起きたら女になるなんて事態が超常現象だしな。
人智を超えた超常的存在が関わっているとしても不思議ではない。
しかし、そうだとすると…………応援したい、という言葉は事実と見ていいのだろうか。
私が女になって混乱する中、記録が書き換えられて逆に助かったのは事実ではあるし。
「…………成る程。その点では意見が合うみたいだな。一応感謝しておこう。しかし…………その後がわからない。実行犯でないとはどういう事だ?」
ならば一応、その点には感謝しておくべきだろう。
しかし…………こいつが本人の言う通り元凶なら、私が女になったのもこいつがやった事になると思うのだが。
「そうだな…………ここに爆弾があるとしよう。その爆弾はリモコンで動く爆弾だ。さて、ではその爆弾のリモコンが開発者とは違う人間の手で操作された時…………起爆した実行犯は誰になる?」
「…………つまり、お前は爆弾を作った開発者だが、起爆した人間では無いという事か?」
「そういう事だ。確かに、お前が女になったのは俺が原因だ。だけど俺にとっても想定外の事態でな。だから、サポートしてやろうと思って色々弄ったって訳だ」
「ちなみに男に戻す事は出来なかったのか」
正直言ってサポートというならそれが一番だと思うが。
そもそも私が女になってるから混乱が生まれてる訳だしな。
「無理だな。これは呪いみたいなもので、俺にも解除は出来ない。だから、俺が出来るのは記録の書き換えだけって事だ」
「それだけでも十分おかしいと思うが…………とにかく、お前が犯人ではないのはわかった。じゃあお前は何だ?」
少なくとも人間ではないだろう。
人が生きた記録を、他人の記憶ごと纏めて書き換えられるのだから。
どう低く見積もっても人外だ。
そして。
「いやいや、俺は人間だぜ? 元、がつくけどな。その上で正体を言うなら…………俺は、お前が愛してやまない後輩のご先祖様って奴だ」
「は?」
自称元凶が吐いた言葉は、私の頭を停止させるのに十分な衝撃を持っていた。
亦紅の、先祖?
登場人物紹介
桜 TS幼女系主人公。亦紅に縛られて嬉しい。偽物にはキレてる。
亦紅 大型犬系男の娘ヒロイン。自分の感情に振り回されている。せんぱいの事が大好き。
偽物 亦紅の先祖らしい。元凶だけど犯人ではない。亦紅にそっくり。でも亦紅のエミュは下手。