個性「死に戻り」の青山くん   作:永愛垣生

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観戦

「状況設定は、敵(ヴィラン)がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている!」

 

 グラウンド・βの入り口で、あなたは手元のカンペをちらちらと見ながら説明した。

 

 二人一組で、ヒーローチームと敵(ヴィラン)チームに分かれる。ヒーローは、制限時間内に核兵器に触れるか、敵(ヴィラン)を全員確保すれば勝ち。敵(ヴィラン)は、時間いっぱい核兵器を守り抜くか、ヒーローを全員確保すれば勝ち。確保の証は、渡された確保テープを相手の体に巻きつけること。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「ぶっ飛ばしてもいいんスか」

 

「除籍とかあるんですか……」

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

 

「この骸骨やばくない?」

 

 クラス中から一斉に質問が飛び、あなたは「んんん~聖徳太子ィィ!!」と頭を抱えた。

 

 組み合わせは、くじ引きで決まった。

 

 僕が引いたのは、Eの札だった。

 

「やったー、青山とだ! よろしくね、死神くん!」

 

 同じEを引いた芦戸さんが、ぴょんと跳ねて僕の肩を叩いた。ピンク色の肌に、黒い白目。頭には小さな角が二本。

 

「メルシー☆ 僕のキラメキと君の溶解液で、華麗に勝利をいただこうじゃないか」

 

「キラメキって、その格好で言う!?」

 

 芦戸さんは、けらけらと笑った。

 

 よく笑う人だ、と思った。悪意のない、真っ直ぐな笑い方。こういう人の隣にいると、自分の笑顔がどれだけ作り物なのか、嫌でも思い知らされる。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 最初の対戦は、ヒーローチームAの緑谷くんと麗日さん。敵(ヴィラン)チームDの爆豪くんと飯田くん。

 

 残りの生徒は、地下のモニタールームで観戦することになった。いくつもの画面に、ビルの内部が映し出されている。音声は、あなたの持つ無線にしか入らない。

 

 敵(ヴィラン)チームの二人が先にビルへ入り、五分後にヒーローチームが潜入する。

 

 画面の中で、飯田くんが核兵器の前に仁王立ちしていた。腕を組み、ひどく思い詰めた顔で何かをぶつぶつと呟いている。無線から漏れ聞こえてきたのは、「俺は至極悪いぞぉ……」という、低い独り言だった。

 

「飯田くん、真面目すぎない……?」

 

 誰かが呟き、何人かが吹き出した。

 

 僕は、笑えなかった。

 

 敵(ヴィラン)を演じる、という課題に、飯田くんは本気で向き合っていた。敵(ヴィラン)になりきるために、悪の心を理解しようとしていた。

 

 僕は、なりきる必要すらない。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 開始直後から、爆豪くんは緑谷くんだけを狙っていた。

 

 曲がり角から奇襲をかけ、爆破で吹き飛ばす。緑谷くんは、それを読んでいたように身を翻した。爆豪くんの右の大振りを掴み、そのまま背負い投げで床に叩きつける。

 

「すげえ!! あいつ個性使わずに入試一位と渡り合ってるぞ!!」

 

 切島くんが、身を乗り出して叫んだ。

 

 画面の中で、爆豪くんの顔が歪んでいくのが分かった。音声は聞こえない。けれど、二人の間にある、何か根深くて、ねじれたものが、画面越しにも伝わってきた。

 

 幼馴染だと、誰かが言っていた。

 

 爆豪くんにとって、緑谷くんはどういう存在だったのだろう。昨日まで、いや、ほんの少し前まで、取るに足らない相手だったのかもしれない。それが、いつの間にか自分に届くところまで来ている。

 

 その気持ちは、少しだけ分かる気がした。分かってはいけない種類の気持ちだったけれど。

 

 やがて、爆豪くんが籠手のピンに指をかけた。

 

「爆豪少年、ストップだ!! 殺す気か!!」

 

 あなたの叫びと、爆発が同時だった。

 

 廊下が、丸ごと吹き飛んだ。モニターのひとつが、白い閃光に塗りつぶされる。ビル全体が揺れ、地下のモニタールームの天井から、ぱらぱらと埃が落ちてきた。

 

 誰も、声を出さなかった。

 

 煙が晴れた時、緑谷くんは、まだ立っていた。

 

 ボロボロだった。コスチュームは焼け焦げ、左腕は力なく垂れ下がっていた。それでも、彼は立っていた。

 

 そして、殴りかかってくる爆豪くんに向けて、右腕を振り上げ――爆豪くんではなく、真上に向けて拳を放った。

 

「SMASH!!」

 

 天井が、最上階まで一直線にぶち抜かれた。

 

 その穴の先で、麗日さんが柱を抱えて振り回していた。砕けた瓦礫が、弾丸のように飯田くんへ降り注ぐ。飯田くんが身を庇った一瞬の隙に、麗日さんは核兵器へと飛びついた。

 

「ヒーローチーム、WIN!!!」

 

 あなたの声が響いた。

 

 勝ったはずのヒーローチームの片方は、黒焦げの床に崩れ落ちて動かなかった。振り上げた右腕は、紫色を通り越して、どす黒く腫れ上がっていた。

 

 負けたはずの敵(ヴィラン)チームの片方は、呆然と立ち尽くしていた。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 緑谷くんは、そのまま保健室へ運ばれていった。

 

 講評の場で、あなたは「今回のベストは飯田少年だな!」と言った。理由を問われると、八百万さんが、すらりと手を挙げて答えた。

 

「飯田さんが一番状況設定に順応していたからです。爆豪さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程先生も仰っていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。麗日さんは中盤の気の緩み、そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと」

 

 淀みのない分析だった。あなたは、少し困ったように「ま、まあ……正解だよ。くう……!」と親指を立てた。

 

 僕は、モニターの前で、腕を組んだまま動けずにいた。

 

 また、だ。

 

 また緑谷くんは、自分の体を壊して、何かを掴み取った。

 

 昨日は指一本。今日は腕一本。その代わりに、仲間が核に届く道を、一撃でこじ開けた。八百万さんの言うとおり、褒められた戦い方ではないのかもしれない。それでも、彼の拳は、確かに誰かのために振るわれていた。

 

 僕なら、どうしただろう。

 

 答えは、すぐに出た。

 

 死んだはずだ。爆豪くんの爆発の中に、何も考えずに飛び込んで。そして三日前に戻って、爆発の来る角度とタイミングを覚えて、もう一度やり直す。何度でも、勝てるまで。

 

 それは、勝つための方法としては、ずっと確実だ。

 

 けれど、緑谷くんのような戦い方には、一生かかってもならない。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 二戦目は、ヒーローチームBの轟くんと障子くん。敵(ヴィラン)チームIの尾白くんと葉隠さん。

 

 開始の合図から、数秒だった。

 

 轟くんが、ビルの壁にそっと右手を触れた。

 

 次の瞬間、画面という画面が、真っ白に凍りついた。

 

 ビルが、丸ごと氷に閉ざされていた。核兵器の部屋で身構えていた尾白くんも、裸足で潜んでいた葉隠さんも、足元から氷に縫いとめられて身動きが取れなくなっていた。

 

 轟くんは、凍った廊下を悠々と歩いて、核兵器に手を触れた。

 

 それから、左手で氷を溶かし始めた。左半身からかすかに立ち上る熱で、仲間と敵(ヴィラン)を解放していく。けれど、その横顔は、少しも嬉しそうではなかった。

 

「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵(ヴィラン)も弱体化!」

 

「最強じゃねえか!!」

 

 モニタールームが沸く中で、僕は、轟くんの左半身を見ていた。

 

 炎を、使わなかった。氷を溶かす時でさえ、ほんの少ししか。

 

 何か、自分の力を嫌っている人間の顔だと思った。

 

 鏡で、毎朝見ている顔に、少しだけ似ていた。

 

「次! ヒーローチームH、敵(ヴィラン)チームE!」

 

 あなたの声が、僕たちの番を告げた。

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