「状況設定は、
グラウンド・βの入り口で、あなたは手元のカンペをちらちらと見ながら説明した。
二人一組で、ヒーローチームと
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ぶっ飛ばしてもいいんスか」
「除籍とかあるんですか……」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「この骸骨やばくない?」
クラス中から一斉に質問が飛び、あなたは「んんん~聖徳太子ィィ!!」と頭を抱えた。
組み合わせは、くじ引きで決まった。
僕が引いたのは、Eの札だった。
「やったー、青山とだ! よろしくね、死神くん!」
同じEを引いた芦戸さんが、ぴょんと跳ねて僕の肩を叩いた。ピンク色の肌に、黒い白目。頭には小さな角が二本。
「メルシー☆ 僕のキラメキと君の溶解液で、華麗に勝利をいただこうじゃないか」
「キラメキって、その格好で言う!?」
芦戸さんは、けらけらと笑った。
よく笑う人だ、と思った。悪意のない、真っ直ぐな笑い方。こういう人の隣にいると、自分の笑顔がどれだけ作り物なのか、嫌でも思い知らされる。
◇ ◇ ◇
最初の対戦は、ヒーローチームAの緑谷くんと麗日さん。
残りの生徒は、地下のモニタールームで観戦することになった。いくつもの画面に、ビルの内部が映し出されている。音声は、あなたの持つ無線にしか入らない。
画面の中で、飯田くんが核兵器の前に仁王立ちしていた。腕を組み、ひどく思い詰めた顔で何かをぶつぶつと呟いている。無線から漏れ聞こえてきたのは、「俺は至極悪いぞぉ……」という、低い独り言だった。
「飯田くん、真面目すぎない……?」
誰かが呟き、何人かが吹き出した。
僕は、笑えなかった。
僕は、なりきる必要すらない。
◇ ◇ ◇
開始直後から、爆豪くんは緑谷くんだけを狙っていた。
曲がり角から奇襲をかけ、爆破で吹き飛ばす。緑谷くんは、それを読んでいたように身を翻した。爆豪くんの右の大振りを掴み、そのまま背負い投げで床に叩きつける。
「すげえ!! あいつ個性使わずに入試一位と渡り合ってるぞ!!」
切島くんが、身を乗り出して叫んだ。
画面の中で、爆豪くんの顔が歪んでいくのが分かった。音声は聞こえない。けれど、二人の間にある、何か根深くて、ねじれたものが、画面越しにも伝わってきた。
幼馴染だと、誰かが言っていた。
爆豪くんにとって、緑谷くんはどういう存在だったのだろう。昨日まで、いや、ほんの少し前まで、取るに足らない相手だったのかもしれない。それが、いつの間にか自分に届くところまで来ている。
その気持ちは、少しだけ分かる気がした。分かってはいけない種類の気持ちだったけれど。
やがて、爆豪くんが籠手のピンに指をかけた。
「爆豪少年、ストップだ!! 殺す気か!!」
あなたの叫びと、爆発が同時だった。
廊下が、丸ごと吹き飛んだ。モニターのひとつが、白い閃光に塗りつぶされる。ビル全体が揺れ、地下のモニタールームの天井から、ぱらぱらと埃が落ちてきた。
誰も、声を出さなかった。
煙が晴れた時、緑谷くんは、まだ立っていた。
ボロボロだった。コスチュームは焼け焦げ、左腕は力なく垂れ下がっていた。それでも、彼は立っていた。
そして、殴りかかってくる爆豪くんに向けて、右腕を振り上げ――爆豪くんではなく、真上に向けて拳を放った。
「SMASH!!」
天井が、最上階まで一直線にぶち抜かれた。
その穴の先で、麗日さんが柱を抱えて振り回していた。砕けた瓦礫が、弾丸のように飯田くんへ降り注ぐ。飯田くんが身を庇った一瞬の隙に、麗日さんは核兵器へと飛びついた。
「ヒーローチーム、WIN!!!」
あなたの声が響いた。
勝ったはずのヒーローチームの片方は、黒焦げの床に崩れ落ちて動かなかった。振り上げた右腕は、紫色を通り越して、どす黒く腫れ上がっていた。
負けたはずの
◇ ◇ ◇
緑谷くんは、そのまま保健室へ運ばれていった。
講評の場で、あなたは「今回のベストは飯田少年だな!」と言った。理由を問われると、八百万さんが、すらりと手を挙げて答えた。
「飯田さんが一番状況設定に順応していたからです。爆豪さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程先生も仰っていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。麗日さんは中盤の気の緩み、そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと」
淀みのない分析だった。あなたは、少し困ったように「ま、まあ……正解だよ。くう……!」と親指を立てた。
僕は、モニターの前で、腕を組んだまま動けずにいた。
また、だ。
また緑谷くんは、自分の体を壊して、何かを掴み取った。
昨日は指一本。今日は腕一本。その代わりに、仲間が核に届く道を、一撃でこじ開けた。八百万さんの言うとおり、褒められた戦い方ではないのかもしれない。それでも、彼の拳は、確かに誰かのために振るわれていた。
僕なら、どうしただろう。
答えは、すぐに出た。
死んだはずだ。爆豪くんの爆発の中に、何も考えずに飛び込んで。そして三日前に戻って、爆発の来る角度とタイミングを覚えて、もう一度やり直す。何度でも、勝てるまで。
それは、勝つための方法としては、ずっと確実だ。
けれど、緑谷くんのような戦い方には、一生かかってもならない。
◇ ◇ ◇
二戦目は、ヒーローチームBの轟くんと障子くん。
開始の合図から、数秒だった。
轟くんが、ビルの壁にそっと右手を触れた。
次の瞬間、画面という画面が、真っ白に凍りついた。
ビルが、丸ごと氷に閉ざされていた。核兵器の部屋で身構えていた尾白くんも、裸足で潜んでいた葉隠さんも、足元から氷に縫いとめられて身動きが取れなくなっていた。
轟くんは、凍った廊下を悠々と歩いて、核兵器に手を触れた。
それから、左手で氷を溶かし始めた。左半身からかすかに立ち上る熱で、仲間と
「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、尚且つ
「最強じゃねえか!!」
モニタールームが沸く中で、僕は、轟くんの左半身を見ていた。
炎を、使わなかった。氷を溶かす時でさえ、ほんの少ししか。
何か、自分の力を嫌っている人間の顔だと思った。
鏡で、毎朝見ている顔に、少しだけ似ていた。
「次! ヒーローチームH、
あなたの声が、僕たちの番を告げた。