個性「死に戻り」の青山くん   作:永愛垣生

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八つ当たり

 十八回目の死は、USJの中央広場だった。

 

 黒い靄に呑み込まれた後、僕はまた、噴水へ続く石段の陰に投げ出されていた。一度目と同じ場所だった。あの靄は、飛ばす先を毎回でたらめに選んでいるわけではないらしい。

 

 今度は、待たなかった。

 

 相澤先生が敵(ヴィラン)の群れの中で戦っている間に、僕は広場の外周を回り込み、あの巨体の背後へ近づいた。脳無は、手の男の後ろで、じっと出番を待つように立っていた。

 

 頭は、撃っても再生するかもしれない。なら、目だ。目を焼けば、少なくとも見えなくなる。

 

 脳無の正面に回り込み、ぎょろりとした両目に向けて、細く絞った光を撃ち込んだ。

 

 目が、焼けた。

 

 焼けた目は、三秒で元に戻った。

 

 そして、その三秒の間に、脳無の腕は、もう僕の首を掴んでいた。

 

 見えていなくても、関係なかったのだ。

 

 首の骨が鳴る音を、僕は自分の耳で聞いた。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 目を開けると、入学二日目の朝だった。

 

 壁の制服。真新しい匂い。枕元の時計。もう、確かめるまでもなかった。

 

 僕はベッドの上で体を起こし、しばらく自分の手のひらを見つめていた。

 

 門は、守れなかった。光を撃っても、名前のない紙を差し込んでも、遠い町から手紙を出しても、たったひと言ほのめかしただけでも、あの男は知っていた。この世界のあの男は、そのどれも覚えていない。けれど、覚えていなくても、同じように知るのだろう。そして次は、僕ではなく、父と母に手を伸ばすのかもしれない。

 

 言葉でも、変えられない。僕の嘘は、電話越しでさえ聞き分けられる。

 

 なら、残っているのは――

 

 僕は、自分のお腹に手を当てた。

 

 あの広場で起きることを、力で変えるしかない。

 

 脳無を、止められるくらいに。敵(ヴィラン)の群れを、相澤先生ひとりに背負わせないくらいに。それだけの力が、僕にあれば。

 

 ない。分かっている。脳無の目を焼いた光は、三秒しか保たなかった。

 

 それでも、七日ある。

 

   ◇ ◇ ◇

 

「次! ヒーローチームH、敵(ヴィラン)チームE!」

 

 あなたが箱から引いたボールを掲げた時、僕は、隣で跳ねている芦戸さんの声を、ほとんど聞いていなかった。

 

 五階建てのビル。最上階の核兵器。五分間の作戦会議。

 

「あたしの酸、床に撒いたらツルッツルになるんだよね。階段とか廊下とかに撒いといて――」

 

「いいね、それでいこう」

 

 僕は、芦戸さんの言葉を最後まで待たずに頷いた。

 

「ただ、ひとつだけ。蛙吹さんは、天井を這って上がってくる。芦戸さんは上の階段に酸を撒いて、核の前で待っていてほしい。常闇くんは、反対側の階段から回り込んでくるはずだ。そっちは、僕が三階で迎える」

 

 芦戸さんは、目を丸くした。

 

「……え、なんで分かんの?」

 

「キラメキの勘さ☆」

 

「勘でそこまで言う!?」

 

 芦戸さんは笑った。それでも、言われたとおりに階段へ走っていった。

 

「ヒーローチームH、敵(ヴィラン)チームE、スタート!!」

 

 僕は、階段を駆け下りた。

 

 三階の廊下は、薄暗かった。窓は少なく、照明もほとんど点いていない。前の世界と、何ひとつ変わらなかった。

 

 ぺた、ぺた、と、湿った何かが壁を這う音が、頭上から近づいてくる。

 

 僕は、その音に背を向けた。

 

 前の僕は、この音に釣られて天井を撃った。その隙に、常闇くんは反対側の階段から回り込んでいた。蛙吹さんの音は、囮だ。

 

 廊下の突き当たり、暗い階段の踊り場を、僕はじっと見つめた。

 

 影が、揺れた。

 

「黒影――」

 

 常闇くんの声が聞こえた時には、もう撃っていた。

 

 細く絞らなかった。

 

 お腹の奥の光を、広げた。一本の線ではなく、扇のように。まともに試したこともない撃ち方だった。光は、割れた電球のようにばらばらに散り、まだらに踊り場を照らした。

 

 それでも、十分だった。

 

『ギャアッ!!』

 

 踊り場から飛び出しかけた黒い影が、光を浴びて縮んだ。

 

 鋭い爪が、ひよこのような小さな手になった。大きく裂けた口が、すぼまった。黒影は、慌てて常闇くんの胸元へ逃げ込もうとした。

 

 その胸元にも、光を当てた。

 

『ヤ、ヤメテ……!』

 

 影が、悲鳴を上げた。

 

 頭上で、空気が動いた。長い舌が伸びてくる。手首と腰を狙ってくることは、知っていた。僕は半歩だけ右にずれた。舌は、さっきまで僕の腰があった場所を空振りして、床を叩いた。

 

「あら」

 

 天井に張りついた蛙吹さんが、目を丸くしていた。

 

 僕は振り返らないまま、天井の、蛙吹さんの手のすぐ脇に、細い光を一発撃ち込んだ。焦げたコンクリートが剥がれ落ち、蛙吹さんの手が滑った。床に着地した彼女は、すぐに身を翻し、上の階へ跳ねていった。核兵器の方へ。

 

 追わなかった。上の階段には、芦戸さんの酸が撒いてある。

 

 僕は、常闇くんの方へ向き直った。

 

 常闇くんは、黒影を庇うように、マントの中に抱え込んでいた。その上から、光を浴びせた。マントの隙間から、影がかすかに震えているのが見えた。

 

『ヤメテ……ヤメテ……』

 

「青山……! もう、黒影は――」

 

 常闇くんが、何か言っていた。

 

 聞こえていた。聞こえていて、止められなかった。

 

 お腹が、きしんでいた。腸が、ねじれるように痛んだ。それでも、光を止めなかった。

 

 光の中で、黒い影が小さく縮こまっていく。爪も、牙も、もうどこにもない。ただ怯えて、震えて、僕の光から逃げようとしている。

 

 それを見ていると、胸の奥の、どこか冷たい場所が、すうっと静かになっていくのが分かった。

 

 脳無は、焼いても三秒で元に戻った。手の男は、僕など見てもいなかった。あの男は、電話の向こうで笑っていた。この七日間で、僕の光に怯えてくれるものなど、何ひとつなかった。

 

 この影以外は

 

『芦戸少女、蛙吹少女を確保!』

 

 無線から、あなたの声が響いた。

 

『そして青山少年! 常闇少年はもう戦えない、テープを巻きなさい! 光を止めるんだ!!』

 

 光が、途切れた。

 

 止めたのではなかった。ただ限界が来ただけだった。

 

 僕は、膝をついた常闇くんの手首に、確保テープを巻いた。常闇くんは、抵抗しなかった。マントの中で、黒影が、まだ小さく震えていた。

 

『敵(ヴィラン)チーム、WIN!!』

 

   ◇ ◇ ◇

 

「青山、すっご!! なになに、あたしたち勝っちゃったよ!!」

 

 ビルの出口で、芦戸さんが僕の背中をばしばし叩いた。

 

「梅雨ちゃん、ほんとに下から来たし! 酸で滑ったとこ、テープぐるぐるってしてやったんだから! 青山の勘、どうなってんの!?」

 

「メルシー☆ 僕のキラメキは、未来さえ照らしてしまうのさ」

 

「出たー!」

 

 芦戸さんは、けらけら笑った。

 

 その横で、蛙吹さんが、じっと僕の顔を見ていた。

 

「私、思ったことは何でも言っちゃうの」

 

 前の世界と、同じ前置きだった。

 

「青山ちゃん。今日の青山ちゃん、ちょっと怖かったわ」

 

 前の世界では、彼女は「捕まりに来てるみたい」と言った。今度は、怖かったと言った。どちらも、間違っていなかった。

 

「……ノンノン。キラメキが、少しばかり眩しすぎただけさ☆」

 

「そう」

 

 蛙吹さんは、それ以上は何も言わなかった。けれど、その大きな丸い目は、しばらく僕から離れなかった。

 

 少し離れたところで、常闇くんが、自分の肩口に低く話しかけていた。

 

「……もう大丈夫だ、黒影。光は去った」

 

 黒影は、主の襟の中に頭まで潜り込んで、出てこようとしなかった。ほんの少しだけ顔を出し、僕と目が合うと、ひゅっと音を立てて引っ込んだ。

 

 常闇くんが、ゆっくりと僕の方を向いた。

 

「……光か」

 

 前の世界と、同じ言葉だった。けれど、その後に続いた言葉は、違った。

 

「貴様の光は、ずいぶんと苛烈だな」

 

 責める声ではなかった。ただ、事実を確かめるような声だった。

 

 僕は、何も答えられなかった。

 

   ◇ ◇ ◇

 

「敵(ヴィラン)チーム、見事な勝利だった!」

 

 講評の時間、あなたは大きく手を広げた。

 

「特に青山少年! 相手の動きを、まるで最初から知っていたかのように読み切っていた! 蛙吹少女の舌をかわしたあの半歩、実に見事だったぞ!」

 

 まるで、最初から知っていたかのように。

 

 その言葉に、背中がひやりとした。

 

「――だが」

 

 あなたの声が、少しだけ低くなった。

 

「常闇少年が戦えなくなった後も、君は光を当て続けた。訓練とはいえ、勝負のついた相手を痛めつけるのは感心しないな。力というのは、使い方を誤れば――」

 

 あなたは、そこで言葉を切った。

 

 その先に続くはずだった言葉を、僕は知っていた。

 

 敵(ヴィラン)と同じだ。

 

 言われるまでもなかった。僕は敵(ヴィラン)チームで、そして、本物の敵(ヴィラン)の内通者だ。

 

「はい☆ 肝に銘じます」

 

 僕は笑って頭を下げた。

 

 八つ当たりだった。

 

 分かっていた。僕が撃っていたのは、黒影ではなかった。脳無で、手の男で、電話の向こうのあの男で、それから、何ひとつ変えられない僕自身だった。黒影は、たまたまそこにいて、たまたま光に弱かっただけだ。

 

 常闇くんにとっては、今日が初めての戦闘訓練だった。黒影にとっても。もし僕がまた死ねば、次の世界の黒影は、今日の光のことを何も知らない。常闇くんも、蛙吹さんも、芦戸さんも、あなたも。

 

 覚えているのは、僕だけだ。

 

 それが、ひどく恐ろしかった。誰も覚えていないのなら、僕は、何度でも同じことができてしまう。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 その夜、黒い携帯電話が鳴った。

 

『入学おめでとう、優雅くん。学校はどうだい』

 

 僕は、前の世界の夜と同じ答えを、同じ順番で口にした。ヒーロー基礎学は週に何度か。オールマイトの受け持ちで、ほとんど毎回来る。学外の施設を使う授業もある。

 

 そこで、口を閉じた。どこで何をするのかは、言わなかった。分からない、とは、もう言えなかった。

 

 嘘は、ひとつもなかった。足りないだけだった。

 

『そうか。それで十分だ。あとは、こちらで調べよう』

 

 電話が切れた後、僕は着替えて、屋敷の裏へ出た。

 

 使われなくなったテニスコート。中学の頃から、毎晩お腹を壊しながら光を撃ってきた場所だ。雄英に入ってからも、それは変わらない。錆びたネットの支柱が、月明かりに白く浮かんでいた。

 

 僕は、コートの真ん中に立った。

 

 昼間の撃ち方を、思い出す。細く絞らず、広げる。扇のように。

 

 撃った。

 

 光は、また割れた電球のようにばらばらに散った。明るいところと暗いところが、まだらになっている。

 

 もう一度。もう一度。

 

 何年も、毎晩撃ってきた光だった。一晩や二晩撃ったところで、太くなるわけでも、長く撃てるようになるわけでもない。この光は、もうとっくに、この体で出せるところまで来ている。

 

 それに、七日後には、この体は七日前に戻るのかもしれない。今夜お腹が少しでも光に慣れたとしても、それは全部、なかったことになる。

 

 けれど、僕は入試の時のことを思い出していた。一度目の十分間で死んで覚えたロボットの動きや、装甲の継ぎ目は、二度目の十分間の体でも、ちゃんと使えた。

 

 体は戻る。

 

 でも、覚えたことは、戻らない。

 

 光そのものは、変えられない。なら、変えられるのは、使い方だ。どこへ、どんな形で、どれだけの長さで撃つのか。

 

 僕は、空が白むまで撃ち続けた。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 三日目の朝、正門の前には報道陣が群がっていた。

 

 昼休みには警報が鳴り、飯田くんが非常口の表示に張りついた。僕は食堂の窓際の席から、塵になって崩れていく門を眺めていた。

 

 行かなかった。

 

 テーブルの下で拳を握りしめて、ただ座っていた。

 

 その夜から、黒い携帯電話は鳴らなくなった。前の世界と同じように。

 

 僕は毎晩、テニスコートに立った。

 

 広げる光。絞る光。一瞬だけ瞬かせる光。撃ちながら向きを変える光。太さも、撃てる長さも、中学の頃から何ひとつ変わらない。変えられるのは、撃ち方だけだった。

 

 五日目の夜には、広げた光のまだらが、ほんの少しだけ薄くなった。

 

 撃ち終えると、部屋に戻ってノートを開いた。広場の敵(ヴィラン)が、どこから現れて、どう動くのか。相澤先生が、どの順番で彼らを倒していくのか。脳無が動き出すのは、何人目が倒れた時か。覚えている限りを、書き出した。

 

 光よりも、こちらの方がずっと役に立つ。そんな気がしていた。

 

「優雅。最近、前よりずっと遅くまでお庭にいるのね」

 

 ある朝、母が心配そうに言った。

 

「キラメキの研鑽さ☆ 雄英のみんなは、とっても眩しいからね」

 

 母は少しだけ眉を下げて、それから笑った。

 

「無理はしないでね」

 

「ウィ、ママン」

 

 嘘ではなかった。けれど、本当のことでもなかった。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 九日目。

 

 バスの中の会話も、13号先生の訓示も、照明の明滅も、何ひとつ変わらなかった。

 

 黒い靄が、僕を呑み込んだ。

 

 噴水へ続く石段の陰。目を開けると、ほんの数十メートル先で、相澤先生が敵(ヴィラン)の群れの中を駆け回っていた。

 

 今度は、隠れなかった。

 

 僕は、石段の上に立った。

 

 広場の敵(ヴィラン)の位置は、もう覚えていた。噴水の右手に、刃物を持った三人。その奥に、腕が岩のようになった異形型が一人。相澤先生の背後に回り込もうとしている、背の低い二人組。

 

 細く絞った光を、立て続けに撃った。

 

 刃物を持った手首。異形型の膝。二人組の足元。

 

 狙ったところに、光が届いた。光が強くなったわけではない。誰がどこにいて、次にどう動くのかを、もう知っていたからだ。

 

「なっ……どこから――」

 

「上だ! 階段の上にガキが――」

 

 敵(ヴィラン)たちが、こちらを振り返る。その一瞬の隙に、相澤先生の布が、彼らをまとめて絡め取った。

 

 相澤先生が、ちらりと僕を見た。ゴーグルの奥の目が、わずかに見開かれていた。

 

「……青山か」

 

 布を引き絞りながら、低い声で言った。

 

「なんでここにいる。下がってろ」

 

「先生の左後ろ、二人来ます!」

 

 相澤先生は、振り返りもせずに布を放った。左後ろから飛びかかってきた二人が、宙で絡め取られ、石畳に叩きつけられた。

 

 敵(ヴィラン)の数が、目に見えて減っていく。

 

 前の世界よりも、ずっと早く。

 

 ――いける。

 

 そう、思ってしまった。

 

「おい……なんだよ、あれ」

 

 広場の奥で、手の男が首を掻きむしっていた。

 

「ガキが一匹、混ざってるぞ。キラキラ、キラキラ……目障りだなあ。黒霧、あいつ、散らし損ねたのか?」

 

 手の男の隣で、黒い靄が揺らめいた。

 

 靄の奥の目が、僕を見ていた。最初の世界と同じ目だった。何かを、知っている目。

 

「……ただの、生徒です」

 

 短い沈黙の後、靄の男はそう言った。

 

「ふうん」

 

 手の男が、首を掻く手を止めた。

 

「ただの生徒なら、殺してもいいよな?」

 

 靄の男は、何も答えなかった。

 

 それが、答えだった。

 

「脳無」

 

 巨体が、動いた。

 

 相澤先生ではなく、僕の方へ。

 

 速かった。何度見ても、目で追いきれない速さだった。

 

 僕は、ありったけの光を撃った。細く絞るのではなく、太く。腕ほどの太さの光の束が、脳無の顔面を正面から呑み込んだ。

 

 肉の焼ける匂いがした。脳無の顔の半分が、黒く焦げて抉れていた。

 

 それでも、止まらなかった。

 

 焦げた顔が、走りながら泡立つように盛り上がり、元の形に戻っていく。

 

 もう一度撃とうとした時には、もう、目の前にいた。

 

「青山!!」

 

 相澤先生の布が、脳無の腕に巻きついた。脳無は、鬱陶しそうに腕を振った。それだけで、相澤先生の体は布ごと宙に浮き、石畳の上を転がっていった。

 

 助けに来たのは、僕のはずだった。

 

 それなのに、あの人は、僕を庇おうとしていた。

 

 脳無が、僕の前に立った。

 

 その横から、誰かが飛び込んできた。

 

「SMASH!!」

 

 緑谷くんだった。水辺から、まっすぐに駆けてきたのだ。振りかぶった右の拳が、脳無の脇腹に叩き込まれた。風圧が、僕の髪を巻き上げた。緑谷くんの腕が、嫌な音を立てて折れ曲がった。

 

 脳無は、揺らぎもしなかった。

 

 巨大な手が、ゆっくりと、緑谷くんの体を掴んだ。

 

「緑谷くん!!」

 

 僕は、撃った。撃ち続けた。脳無の腕を、顔を、焼いた。焼けた端から、肉は泡立つように盛り上がって、元に戻っていった。

 

 緑谷くんの体が、石畳に叩きつけられた。

 

 一度。

 

 それきり、緑谷くんは、動かなかった。

 

 ぐしゃぐしゃになった右腕が、石畳の上に投げ出されていた。その指が、まだ、拳の形をしていた。

 

 僕のところへ来なければ、緑谷くんは、死ななかった。

 

 巨大な手が、今度は、僕の頭を掴んだ。

 

 十九回目だった。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 目を開けると、自分の部屋の天井があった。

 

 お腹に手を当てる。膨れていない。頭に手をやる。割れていない。

 

 入学二日目の朝だった。

 

 僕は、しばらく天井を見つめたまま、さっきの広場のことを考えていた。

 

 敵(ヴィラン)の群れは、前よりもずっと早く減った。光は、少しも強くなっていない。どこを撃てばいいのかを、知っていただけだ。それでもあれは確かに、前の僕にはできなかったことだった。

 

 それでも、脳無の前では、何ひとつ変わらなかった。

 

 変わったのは、死んだのが、僕だけではなかったということだ。

 

 石畳の上に投げ出された、拳の形の指を、思い出した。

 

 あの世界では、緑谷くんは、死んだままだ。僕がこうして戻ってきても、あの世界に置き去りにされた緑谷くんは、二度と起き上がらない。この世界の緑谷くんが、今朝も何も知らずに教室へ向かうのだとしても。

 

 だから、戻らなければならなかった。何度でも。誰も死なない世界に、辿り着くまで。

 

 七日では、足りなかった。

 

 なら――

 

 僕は、ゆっくりと体を起こした。

 

 七日を、重ねればいい。

 

 体は戻る。光も、強くはならない。けれど、覚えたことは戻らない。撃ち方も、敵(ヴィラン)の位置も、脳無の速さも。死ぬたびに、僕は七日分の戦いと、ひとつ分の死に方を抱えて戻ってこられる。

 

 その考えは、驚くほど自然に、僕の中に収まった。

 

 壁に掛けられた制服が、真新しい匂いをさせていた。

 

 僕は鏡の前に立ち、髪を整え、笑顔を作った。

 

 その朝、僕は初めて、自分が死ぬことを、予定の中に組み込んだ。

体育祭編ですが何故かAFOに自爆させられて何度も繰り返す青山くんをいじめるルートとネビルレーザーが強化される覚醒ルートどちらが良いでしょうか?

  • 青山くんをいじめるルート
  • 覚醒ルート
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