GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
あれからは何事もなくジ・アークもヒノモトを出港し、久しぶりに俺とイイジマは住処である神社の本殿に戻って来れた。
だけど、俺はいまだにジ・アークを襲撃してきた奴らの最期の言葉が頭から離れずにいた。
よそ者の分際で、好き勝手やりやがって――か。
ヒノモト国民として傍から見れば、自分達の縄張りに入ってこられたとはいえ返り討ちに合った間抜け、としか取られない日常茶飯事の話の1つだ。
だから、俺がやった事は決してヒノモトでは正当化される事のハズなのに、どうしてか心の中では間違っているような感覚が拭えない。
「どうした、姫巫女様?今日は一段と大人しくないか?何か困っているのなら、話ぐらいは――」
「いえ、問題ありません。少し前の疲れが取れていないみたいなだけですから」
「そうか……だが、参拝客はお前の無事を祈って待っている。元気な姿を見せてやらないと、不安な気持ちを煽ってしまうぞ」
「ええ、それくらい分かっていますよ」
そう言って俺は自らの頬を軽く叩き、普段の笑顔を作って舞台の上へ昇った。
すると――圧倒されそうになるレベルの大喝采が俺とイイジマを出迎える。
「うぉぉぉお!俺達の姫巫女様が帰ってきたぞぉぉ!!」
「やっぱり、あの「花園」に賊軍を討伐に向かった話は本当だったんだ!!」
「流石、ヒノモトを護る姫巫女様と神主様だ!!」
これは一体、どういう事なんだ?
確か事前に、あの模擬戦に関する情報はアルツェイトとの契約で、極秘事項としてヒノモト国民に知らせてないハズじゃなかったのか……?
◇◇◇
それから神社での務めを終えてすぐ、俺は地下スペースにモルドスキー医学員を呼び出し、こんな事になってしまった経緯を全て聞き出した。
「つまり、ロマノフ社が情報を改竄した上でワザとヒノモトの人達に報道した……と、そんな感じですか」
「ええ、残念ながら……これは、姫巫女様の思惑を無視した上層部の判断です。万が一、アルツェイトとの模擬戦があった事などが他国やPNDに知れれば、会社の利益どころかヒノモト自体の弱みになると踏んだのでしょう」
「だが、こればかりはライバルである花鏡社が黙ってはいないんじゃないのか?俺達の宗教で機体のカバーストーリーは作られているとはいえ、わざわざ遠方まで賊軍を退治しに向かったとなれば、その繋がりを探りに来てもおかしくはないハズだ」
確かにイイジマの言う事は的を射ている。
だけど、モルドスキー医学員は何やら気まずそうな表情で運び込まれてきたコンテナを指差した。
そこにはなんと、花鏡社のロゴマークが……。
「これは何の冗談です?どうして、花鏡社のコンテナが此処に運び込まれているのですか?」
「お二人が到着する数日前になります。アルツェイトからシノダの正式採用を見送る話と共に、ロマノフ社は花鏡社も共同で今後の試験機開発に携わる契約がなされたのです。その目的は勿論、ヒノモトの脅威になりうるPND、そして――」
「近隣国であるホウチュウア共栄国やローシェン連邦国に対する抑止力になる機体の開発、か」
そのイイジマの言葉に、モルドスキー医学員は黙って首を縦に振った。
恐らくはもう、彼が関わってきた開発班の主導権すら上層部に奪われてしまったのだろう。
そうでなければ変態的ではありつつもマトモな彼が、こんな話を受け入れるなんて無謀な事にはならないハズだ。
何より、「こんなつもりじゃなかったのに」「どうしてこうなったんだ」という彼の心の声が、それを証明してくれている。
「なるほど、事情は理解しました。モルドスキー医学員、それは苦しかったでしょうね。でも……私達のやるべき事は、これからも変わりません。このコンテナにある、次の試験機の解説をお願い出来ますか?」
そう俺が優しい声色で尋ねると、モルドスキー医学員は動揺しつつも普段の調子を取り戻すべく、指を鳴らしてコンテナをダンボール箱のように開かせる。
コンテナから姿を現したのは、模擬戦で俺が使ったタタラを改修したと思わしき、航行形態を潜水艇のように改装した機体。
そして、もう1機は一見するとアングラーの使うエイ型に近い形をした機体だった。
「では、まず両機体の特徴はアングラーに対する水陸両用機としての改装になります。この潜水艇型に再設計された「カナヤコ TH-3タタラ 水中戦仕様」は、先日の模擬戦におけるエヴォルブ・フレームの頑強さに着目し、それを徹底的に防水・耐圧に優れた構造にする事で海中での変形や戦闘も可能になりました。とはいえ、コレを作るにあたってはロマノフ社が設立される以前からアングラーとの戦闘経験もあった花鏡社の技術のお陰ではありますが……」
「でも、両社がヒノモトの為に一致団結してくれた事は、私は良い傾向だと思います。それで、こちらのエイ型の機体の方は?」
「聞いて驚かないでください。実はコレ……同じく先日の時に試験運用をしたシノダの改修機なんですよ」
「「なっ!?」」
その似ても似つかないフォルムの原型機が出た事に、つい俺はイイジマと同時にビックリしてしまったよ。
だけど、そんな反応で元気を取り戻したからか、モルドスキー医学員は久しぶりの饒舌ぶりを発揮し始めた。
「そして、アルツェイトからボツを食らった事で正式にナンバーも付けられました!その名も、「シノダ TH-4 コリエステ」です!この機体は「カムイの儀式」第4段階として開発された水陸両用ギア・ユニットで、防水・耐圧措置を施したシノダをコアモジュールとしております。それに急速潜航用モジュールを外装する形で組み込んだ事で、一方通行的な変形にはなってしまいますが、通常の潜航形態から急速潜航形態を経て人機形態へと状況に応じた変形が可能になりました!」
「なるほど、潜航能力としては高水準だな。しかし……そうなると武装面の方は、どうなっているんだ?」
「それなら心配ご無用です!通常の潜航形態ではカートリッジ式パイルバンカーを内蔵したクローアームに使い捨ての誘導式魚雷発射管が基本装備となります。これらは急速潜航形態ではボディに収納する都合で使えなくなってしまいますが、人機形態となれば大きく様変わり!ハコ機などが使える汎用レーザーライフルにロングバレルやストックパーツ、出力増幅装置を装着したレーザーランチャーが主力武器となります!そして、潜航形態でボディを隠していたパーツは大型シールドとして運用可能で魚雷も引き継いで使える他、シールド裏面には大型ビームサーベルも搭載した火力満載の武装となっております!」
そこまで話を聞いた俺とイイジマはモルドスキー医学員のテンションに圧されかけたが、何か妙に物足りない感覚がある事に気付いて、それからお互いに顔を見合わせて頷いた。
「すまん、モルドスキー。そこまで熱心に解説してくれたところに水を差すようで悪いんだが……人機形態だと、潜航形態時のクローアームはどうなる?」
「まぁ、基本的に脚部としての機能に切り替わるので……これ、死に装備になっちゃいますかね」
「それに、よくよく考えてみたのですけれど……いくら高火力だとはいえ、人機形態での基本装備がレーザーランチャーと大型ビームサーベルというのも、何だか取り回しが悪いような気がしませんか?」
すると、そんな俺の言葉にモルドスキー医学員は少し黙り込んでから、プルプル震えた声で強く訴えかけてきた。
「だって!水中戦だとレーザーとか光線系の武装は減衰してしまって、出力を上げないと使い物にならないのです!それに、最後になるかもしれない開発に携われたんですよ!?それなら私の生き様らしく、盛れるだけ盛ったって良いじゃありませんかぁ〜!!」
「わ、分かった分かった……データを見る限りは積載量ギリギリにやってくれているようだし、お前がコリエステに入れ込んでいる情熱も強く伝わった!」
「はぁ、はぁ……で、ではコリエステの方は――」
「俺がパイロットをやらせてもらおう。シノダの時に、機体自体の操縦感覚は掴めている。この組み込まれ方から察するに、人機形態はタケウマの要領で動かせば良いんだろう?」
「えぇ!流石、イイジマ大尉は物分りの良い人ですよ!姫巫女様の方も、それくらい人の気持ちを汲み取ってもらいたいのですけれどねぇ……」
おいモルドスキーさんよ、今ボソッと愚痴こぼしたの聞こえてるからな。
それに武装を盛りたいだけ盛りたいとか言う人の心なんて欲望が次から次に溢れてくるから、汲み取っても汲み取っても汲み取りきれないんですってば……。