GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
海中に投下されてから早一時間、俺は急速潜航形態となったイイジマの機体に先を任せつつ、問題なく航行形態の最大速度で深海に向けて進んでいく。
モルドスキー医学員曰く、花鏡社やロマノフ社は内部工作員で国内情勢を把握している近隣の国よりも、人員の1人すらスパイに送り込めないアングラー達の現状を警戒しているとの事だ。
あの連中に「一度殺された」俺からすれば、確かに彼らが得体も知れない相手の動向を探りたくなるのは分かる。
だが、その一方では「アルツェイトの革命派が協力して、ビッグホール・オーシャンからの解放を条件にアングラーと取り引きをした」という噂をジ・アークで滞在していた時に聞いた。
それがもし本当だとするならば、人工島と見間違う程の壁の内に長らく閉じ込められていた彼らは何をしているのか……。
『姫巫女様、そろそろ最大深度に到達するぞ。ここからは奴らの探知システムに引っかからないよう、低速度での航行およびに暗視システムに切り替えて調査していってくれ』
「了解です、イイジマ。システム、航行速度の低下。通常ライト、オフライン……モニターを暗視システムに切り替えます」
ライトで照らしていた部分しか見えなかった深海が、暗視システムにより緑を基調とした映像でクッキリと海底全体を映し出す。
――そこには海中に入った時の美しい景色は全くなく、ただただ海中ソナーの探知音だけが響くだけの暗く寂しい岩肌や砂底ばかりが広がっている。
それらは別な意味で静けさに満ちており、俺からすれば「花園」以上に墓場のような雰囲気すらも感じられる。
すると、そんな中で俺の目の前を黒い影がシュッと通った。
「きゃっ!?い、今のは……?」
『落ち着け、あれは単なる深海魚だ。普通の魚とは違い、この場所に適応する為に異様な進化を遂げているから、お前は初めて見るかもしれんがな』
そうイイジマに言われた俺は、ふと幼い頃に読んだ魚類図鑑のギョロリとした目玉とかを持つ魚のイラストを思い出した。
あの時は単純にオバケのようで怖いと感じるばかりだったが、こうして色々な準備をして潜っている今になってみると、彼らも生きる為の進化として行き着いた姿なのだと実感させられる。
すると、そんな事を考えている内に壁らしきものが前方に見えてきた。
『アレがビッグホール・オーシャンを隔てる壁だ。以前にアルツェイトが襲撃されたとなれば、こちらの方角から調べるべきだろう』
「ええ……可能性があるとするなら、そこから外に出てきたと考えるのが自然ですものね。ですが、敵の戦力が不明なので慎重に行きましょう」
『ああ、勿論だ。あの方角から連中がアルツェイトを襲ったとなれば、その周辺の警備はスムーズな侵攻を進める為に強くなっているハズだからな』
「そのようですね……一旦、近くの岩場で様子を見ましょうか」
何故なら、「不審なものがソナーに映りこんだ」「気のせいかもしれないが、確認してみよう」という誰かの心の声が聞こえたからだ。
この海底で行動を共にしている以上、この心の声はイイジマのものでないのは明らかだ。だとすると、もうアングラーの哨戒部隊が近くに来ているのだろう。
それから、すぐに俺とイイジマが岩場の陰に隠れた数分後、アングラーの機体が壁の近くを通り過ぎて行った。
『まさか、哨戒部隊まで回しているとは……やはり、既に壁の何処かが突破されたと考えた方が良さそうだな』
「そうですね、イイジマ。早いところ、その突破された箇所を確認して戻りましょう。その情報を他国に回せば、早急に対処もしてくれるハズです」
『だと良いがな……』
かつて全ての海洋権を手にしようとアングラーの起こした大騒動により、PNDどころか殆どの国も連中の動向には強い注意を払っている。
その情報を持ち帰る事が出来たならば、隣国との共同戦線を張る切っ掛けとなり、長らく続く険悪な関係を改善する事も出来るハズだ。
――それがヒノモトの巫女として、俺の望む平和への良い流れ。
誰も利益の為なんかに戦いなどせず、単なる建機や娯楽の一部としてビースト・ユニットが用いられる未来を夢見ている。
今の世界情勢だと、目指す先はまだ遠いけれど……ね。
「よし、ソナーの探知距離から敵の反応は完全に離れました。彼らの向かってきた方角を目印に、引き続き壁の様子を偵察していきますか?」
『しかし姫巫女様、哨戒部隊まで出ているから無理はするな。アングラーが実際にビッグホール・オーシャンの外で活動しているかどうかを調べるのが、今回の任務目標だ』
「そうですね、イイジマ。こうして彼らが出てきてしまっているのを確認出来た以上、あまり長居するのはが伴うかもしれません。それならば――」
しかし、引き返そうと岩陰から機体を動かした瞬間、通り過ぎて行ったハズの敵機反応が高速でソナーの探知範囲に入ってきた。
『やはり、何処かの小魚が紛れ込んでいたか。我々の作戦行動を見た以上、生かして海の上には逃がさんぞ!!』
『こんな動きの鈍い紛い物程度、哨戒部隊の我々2人だけで十分!』
「くっ……まさか、ここまで気取られるのが早いなんて!?」
こうして、表の記録には残らない「ヒノモト史上初の海中におけるアングラーとの戦闘」が幕を開けた。