GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
あの極秘偵察作戦で得られた情報は後にPNDを通してユグドル中に流され、結果的にPNDの協力を前提に各国の戦力でそれぞれ海洋防衛ラインを敷く事が決定された。
だが勿論、今回の作戦は虎の尾を踏むような真似をしたという事で、ロマノフ社と花鏡社の両方に一時的な海洋調査権の停止が言い渡された。
――そんな訳もあり、ここ数週間は俺もイイジマもずっと神社の務めをこなす比較的平和な日々が続いていた。
なので必然的というか、仕事の後に神社の部屋でイイジマと同棲する事も、いつの間にか日常となっていた。
「それにしても今更だが、姫巫女様の宗教組織も今やヒノモト最大に近くなってきたな。首都から離れた山間部の方まで信仰する者が増えているとバラエティ番組で見た時には、思わず茶を吹き出しそうになったぞ」
「元はと言えば、ロマノフ社が初めた「カムイの儀式」なんて計画を隠す為の、いわばカバーストーリーみたいなものでしたのにね。それなのに……今は気付けば、私はヒノモト中の皆にとっての希望扱いですよ」
「だが、それにしては姫巫女様も満更でもなさそうな様子じゃないか?」
「そりゃあアルツェイトも何も関係なく、困っている人々が幸せに暮らせるのが私の目指す目標ですし?そ、それに神主のイイジマとの神前結婚はまだか、という話もやぶさかでないというか……」
そう恥ずかしさに顔を赤らめながらも、自分が心から惚れている事実を遠回しに伝えたのだが、当のイイジマ本人は困ったような表情を浮かべてくる。
「いや、無理に俺なんかと結婚しなくても良いんだぞ?元男としてのプライドが許さないんじゃなかったのか?」
「そんな事は言った覚えがありません!第一、私はヒノモトの巫女として務める事を決めた手前、今まで生きてきた男性としての価値観は捨ててきました!」
「ほぅ……それなら、ジ・アークとの模擬戦の後で、サーリャと共にシャワーを浴びても何も感じなかったと見て良いんだな」
「あの時は気が動転しちゃっていたといいますか、何といいますか……あ〜もう!じゃあ逆にイイジマは私の事、どう思ってるんです!?」
だけど、そこで俺は自分が非常にヤバい発言をしてしまった事を自覚してしまい、ボンッ!と一瞬で顔が真っ赤なレベルで熱くなる。
こ、これじゃあ自分はイイジマの事を異性として好きだと言っちゃってるようなものじゃないか!
「えっと、今のはその……忘れて欲しいといいますか、そこまで深い意味は――」
「俺も好きだぞ。姫巫女様としてではなく、アキ=イヅモとして……そして、1人の女性としてな」
「なっ……な、なな……っ!?」
嘘でしょう?まさか、イイジマも私の事を意識してくれていたなんて!あ、ヤバい……ちょっと鼻の下が伸びてしまいそう。
ここはせめて、乙女らしく決め――ようとした矢先。
そんな甘い空気に水を差すように俺の通信機から、企業アライアンス技研主任に昇格したモルドスキーの連絡が久しぶりに入ってきた。
「はい、もしもし?技研主任となった時ぶりですね、モルドスキーさん?」
『えっ、何か機嫌が悪くありませんか?実は、「カムイの儀式」の第5段階となる実験機が完成したので、それのお披露目に呼びたくて連絡させてもらったのですが……』
「あ、すみません。機嫌が悪かったのは、ちょっとプライベートで少しあったぐらいですから。それで機体の方ですけれど、今回は今までと比べて随分と時間がかかりましたね」
『そりゃあ、両社ともPNDに目を付けられてしまっておりましたもの。ですが、つい先日になってようやく海洋調査権も返して貰えました。それ故、今回は結構な任務になると思ってもらえると覚悟してもらいたいのです』
そのモルドスキー技研主任の言葉に、俺は昨今の報道の中で思い当たる節があった。
「相当な危険を伴う任務となると、ホウチュウア共栄国に関わる事ですね?最近、花鏡社とロマノフ社が海洋調査権を奪われていた事を良い事に、漁船が領海侵犯を犯して幾つかがPNDに鎮圧されたと聞きました」
『話が早くて助かります、姫巫女様。実はその際、ホウチュウア共栄国は漁船に偽装した調査船を用いて、私達が偵察したエリア付近から何かを引き揚げていたという情報がありました。そこで念の為にGPS信号を調べた所、タタラとコリエステの残骸が向こうに回収されてしまっていたようなのです』
「つまり、それが持ち込まれたホウチュウアの基地を襲撃して、残骸ごと壊滅させて欲しいという事ですか……」
だが、この作戦が茨の道である事は俺もモルドスキー技研主任も危険に感じていた。
それは明らかに、ヒノモトがホウチュウア共栄国に対しての攻撃行為になりうる可能性が高いからだ。
しかも、もし向こうが襲撃の件を騒ぎ立てれば、そこに反応してローシェン連邦国やPNDも関わってくるのは誰であっても分かるハズ。
「アルツェイトから、何らかの形で協力は得られないのですか?せめて、情報をカモフラージュ出来るような事でもしないと、ヒノモトだけが被害を被る結果を招きかねません」
『その為に作られたのが、今回の実験機です。それを組み込んだ気候調査衛星ロケットに偽装して一度ユグドルの大気圏上まで上昇し、高高度からの弾道機動を利用した超音速攻撃により一気に制圧するのが、本機の特徴となります。詳しくは、花鏡社の本社近くにある神社の地下にてお話しします』
そんな陰鬱な空気のまま、モルドスキー技研主任からの通信は終わった。
「どうしたんだ、アキ……顔色が悪いぞ?」
「ごめんなさい、イイジマ……私と貴方は恐らく、ここからは非常に危険な戦いを強いる事になります。こんな事になるなら、貴方を巻き込みたくはなかった……」
「気にするな。俺の運命は元より、お前に初めて敗けた時から共にあると決まっていたかもしれない。だが、姫巫女様が……アキが死ぬような運命にだけは、決してさせはしないと約束しよう」
ヒノモトの巫女としては辛い選択に涙を堪えきれない俺を抱きしめて宥めてくれた時の、あのイイジマの体温は一生を過ごしても忘れられないだろう。