GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
それから泣けるだけ泣き尽くした俺は身だしなみを整え、共に戦う事を誓ってくれたイイジマと一緒に花鏡社近くの神社地下スペースへ向かう。
――すると、その空間は俺が住処にしている神社の所よりも2回り以上広く、天井のハンガーには狐のフォルムに近い形をした漆黒の巨大な機体が吊るされていた。
パッと見はビースト・ユニット3機分ほどはある全長ではあったものの、よく見ると少し大きめな狐っぽい頭部をしたギア・ユニットに4枚の大型外装バインダーが着せられているような姿だ。
「これが、ホウチュウア共栄国の基地を攻撃する為の秘密兵器ですか……なんという大きさですか」
「それに見たところ、ビースト・ユニットに近い可変機構も有しているようだ。「カムイの儀式」の第5段階と聞いていたが、まさか実験機を本格的な実戦に投入する事になるとはな……」
そんな機体のインパクトにイイジマと圧倒されていると、後ろからモルドスキー技研主任と紳士服にシルクハットと丸いサングラスを着けた初老の男性がやって来た。
――あの初老の男性は何度か報道番組で見覚えがある。
「なっ……貴方は花鏡社の代表取締役の、ダグマモ=ハナカガミさん!?」
「話は聞いておるよ、ヒノモトに生まれし奇跡の姫巫女様よ。かの我が国を愛する貴方にはこれから我らと共に、真の愛国者として何処の記録にも残らぬ戦への参加を頼みたく馳せ参じた」
「それならば何故、今回ホウチュウア共栄国に対する攻撃行為とも取れるような作戦を提案なされたのですか?」
怒りを込めた俺の言葉に対して、ダグマモ社長はシルクハットを外し、深く頭を下げて懇願するかのように語る。
「姫巫女様の気持ちは痛い程に分かる。とても身勝手に思える話かもしれぬが……元来、我が国は自らを護る戦として歴史を紡いできた。それ故に周囲の国々からは「四皇機に匹敵する何かが隠されている」として、今もヒノモトは狙われ続けておる。だから、お主らにはヒノモトの意思の体現者として……我らの技術力をもってして国を脅かす全てに何も知られる事のないまま、その見えぬ鉄槌を下して欲しいのだ」
その俺と同じかもしれないまでの強い愛国の意思に、ヒノモトの巫女としての俺は読心能力を使うまでもなく、彼の言葉が全て本心であると確信した。
――ならば、それに応えてヒノモトの未来を護っていくのも、また1つの答えなのだろう。
「社長の想いは、私にも強く分かります。だからこそ、この役目を引き受けさせてはもらいますが……それは、血を吐き続ける悲しいマラソンの始まりになる事への引き金となるのを、どうか忘れないで頂きたいのです」
「うむ、それは当然の事。この命が尽きるまで、儂は姫巫女様達の行く末を見届ける覚悟で協力させてもらいますぞ」
そう言ってダグマモ社長はコホンと咳払いをしてからモルドスキー技研主任の後ろに下がると、今度は彼が待ってましたと言わんばかりにタブレットから機体全体のホログラムを映し出した。
「では、この「シナプス TH-5 クロツバキ」を素体とした「コクライ・テラ・ユニット」について説明いたします。コアシステムとなるクロツバキは本来、ユグドルの大気圏内における超高高度迎撃用として開発されたギア・ユニットであり、アルツェイト国の開発した新型機「シナプス」の量産化を目指した次世代機の試作モデルともなります」
「なるほど、超高高度迎撃機ですか……これなら確かに、今回の作戦に使うには打って付けの機体となる訳ですね」
「えぇ!そして、あの4枚の大型外装バインダー「コクライ・テラ・ユニット」を装着する事により、巡航形態では大陸間弾道ミサイルに匹敵する最高速度を獲得しながらも、人機形態ではギア・ユニット・シリーズの機動性と省エネ性を活かしたピンポイントでの強襲を理論的に可能としました。武装面は「コクライ・テラ・ユニット」に依存するものが多いですが、それに内蔵しているものだけでも1枚には拡散ビーム砲が6つ装備されており、バインダーの基部には左右それぞれ1基ずつ試作型の粒子固定化装置をジェネレーターごと装備しています」
「粒子固定化装置?それは確か、「ユグドルの悲劇」以前に使われていた解析途中の技術ではなかったのですか?」
すると、そんな俺の疑問の言葉にモルドスキー技研主任は「やってやりました」と言いたげに自信満々なサムズアップをした。
「はい、元々は四皇機に搭載されていたオーパーツに近いものとされてきました。しかし、花鏡社とロマノフ社の技術を併せる事により、まだ戦艦用のサイズではありますがビームやレーザーといった光学兵器を防ぐだけのエネルギーフィールドを展開出来る物が完成したのです!その上、バインダーの下部には姿勢制御用のブースターが別途組み込まれており、更には内側のハンガー懸吊アームを使用する事で最大ギア・ユニット1機分の機体と4つの予備弾薬コンテナを積載する機能も搭載されています」
「ちょっ!それはつまるところ、小さな母艦としての能力を持った超音速攻撃機でもある訳ですか!?モルドスキー技研主任、またしても貴方が設計したんじゃないでしょうね!?」
「あ、バレました?一応、これでも盛り切れる最低限の性能を詰め込んだ結果なのですが……それでも、人機形態では構造上の問題でエネルギーフィールドを展開出来なかったり、バインダーがデカすぎて歩行が殆ど不可能だったりと弱点だらけなんですよ」
そう言って苦笑いするモルドスキー技研主任に対し、それまで黙っていたイイジマが口を開いた。
「この漆黒のカラーリングの意味は何だ?深夜に作戦を行うにしても、これだけ濃い色合いだと目立つと思うんだが……」
「そこも一癖ありましてねぇ……「花園」にて戦った敵機体の磁性迷彩塗料を再現したものを施してステルス性を高めている事と、あの「黒い凶星」に似せたカラーリングにする事でホウチュウア共栄国がヒノモトからの攻撃ではないと誤認させる事が目的なのだとか。このアイデアは私ではなく、ロマノフ社からの提案です」
「超音速の強襲に加えて、偽旗作戦という訳か。ロマノフ社め、戦場を掻き乱すような真似は得意だと聞いていたが……ここまでしてヒノモトを護るつもりか」
そんなロマノフ社のやり方が気に入らなかったのか、結局それ以降の話にイイジマは無言で加わる事はなく、クロツバキには俺が乗ってイイジマのヤオキツネを予備の武装と共に運ぶ事となった。