GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
――作戦が決行される夜。
俺は昼間から巡航形態のクロツバキに乗り、何度もホウチュウア共栄国の山岳基地を襲撃するシミュレーションを繰り返し、完全に自分達の痕跡すらも残さない戦い方を身体に覚え込ませていく。
この機体にはアルツェイトから提供されたDEEPシステムが試験的に採用されている為、今までの機体に比べると格段と自分の手足のように動かす事が出来る。お陰で戦い方を覚えるのも、異様なまでに楽なように感じられた。
目標となる山岳基地は、回収されたタタラやシノダの残骸から発せられていた信号が確認された最後のポイントだ。
基地の周りは殆ど断崖絶壁で、スピルナーやシンティア皇国のような空戦能力がある機体でなければマトモに攻め込む事すら難しい、大自然の山岳上に作られた難攻不落の要塞となっている。
――マトモに攻め込むのならばの話だが。
これから俺とイイジマが行うのは、気象観測用人工衛星を積んだロケットに扮した専用ブースターで大気圏の外まで昇り、そこからコクライ・テラ・ユニットの推力やユグドルの引力を利用して大気圏へ再突入しながら敵が捕捉も迎撃も出来ない速度まで加速し、その勢いのまま一気に搭載したイイジマの機体と共に目標地点を殲滅する強襲作戦。
そして、それに加えて回収された機体の残骸を今度こそ完全に破壊し尽くす事……それが今回の任務目標だ。
『こちら、イイジマ。姫巫女様、調子の方は大丈夫か?何やら、DEEPというシステムを搭載していると聞いたが、そいつを使った事で具合が悪くなったりはしていないか?』
「いえ、全然……むしろ、これまで以上にスッキリしているような気分ですよ。イイジマの方も、ヤオキツネのセッティングは大丈夫ですか?模擬戦の時から久しぶりになる操縦でしょう?」
『それくらい、何という事はないさ。モルドスキーが施してくれた特殊磁性塗装と、両腕にも強化型シールドブースターを装備している。その上、武装コンテナに搭載した武器もあれば攻守共に隙はないも同然だ』
そう頼もしく言ってくれるイイジマの映像通信に向かって、俺は「んっ」と小さく唇を突き出した。
『それは一体、何をしているんだ?』
「私の映像にキスしてください。作戦成功を祈る為のおまじないになります」
『ふっ……流石はヒノモトの姫巫女様だな』
そうしてイイジマと映像越しに軽い接吻をした後、いよいよロケットの発射準備が整ったアナウンスが流れてきた。
『これよりロケットの発射を行います。各パイロットはバイザーを展開し、シートベルトを固定してGに備えてください』
「アキ=イヅモ、了解です」
『キヨヒコ=イイジマ、こちらも問題ない』
『では、各種ブースター点火までカウントを開始。10、9、8……』
ロケット発射に備え、俺はグッとコックピット内に備え付けられた身体固定用のグリップを握りしめる。
『4、3、エンジン点火。2、1……離陸開始!!』
点火されたロケットブースターが噴射を始めた瞬間、以前の偵察任務での急浮上並みに凄まじい衝撃が俺の全身を襲う。
「ぐっ……うぅぅぅ……っ!」
意識を奪われないよう必死にグリップを握り続ける中、秘匿用通信チャンネルを介してアナウンスは上昇していく機体の状況を淡々と告げる。
『ロケットブースターを分離……高度、大気圏表層へと到達……大気圏を突破しました!お2人共、ご健闘を!』
そう言い終え、アナウンスは通信から途切れた。
「ふぅ、ふぅ……よし、次は……」
Gで疲弊しつつも俺はクロツバキに装備されたコクライ・テラ・ユニットの大型バインダーで大きく機体を振り向かせつつ、目標地点であるホウチュウアの山岳基地の座標に降下システムをセットする。
「降下システムのセット完了!イイジマ、今から最高のジェットコースターを見せてあげますよ!」
『流石、こんな状況でもアキは口が減らないな。それなら運転は任せるぞ、姫巫女様!』
「ええ!喜ん――で!!」
そこから全てのブースターを全開にして大気圏へ再突入すると、再び俺の身体に凄まじいGがかかり始めた。
だけど、出撃前までシミュレーションで何度も繰り返してきた成果か、今度は落ち着いた感覚で操縦に集中が出来る。
「――見えた!イイジマ、機体の投下に備えておいてください!」
『了解だ!いよいよ地上か……!』
雲を切り抜けて山岳基地をレーダーと照準システムに捕捉したところで、俺は全ての武装ロックシステムを解除する。
そして両方の粒子固定化装置を起動させ、巨大なコクライ・テラ・ユニット全体を包む程の円錐形エネルギーフィールドを展開したまま、俺はフルスロットルで山岳基地の中央へと突っ込んだ。
――刹那、瞬間的にコックピット内のシステムが音響反映機能をシャットアウトされる。
だが、モニター全体に映る巨大なクレーターや基地の主要施設ごと地面を抉り取られた様子からして、墜落の爆音と激しい地鳴りが合わさった凄まじい衝撃音が響いたであろう事は間違いない。
『基地への甚大なダメージを確認した!アキ、このまま混乱に乗じて一気にいくぞ!』
「OK!粒子固定化装置オフライン、全バインダー展開!これより全積載物の投下を開始します!」
すかさず全バインダー内のブースターを吹かせて空中へと上昇した俺は、人機形態に変形しつつイイジマのヤオキツネと武装コンテナを投下した。
そこからすぐ武装コンテナからツイン・ビームランスをモチーフに開発された、ストック部分にビームサーベルの内蔵された新型の長銃身レーザーライフルを投げ渡される。
『な、何だ今のは!レーダーには何も映らなかったぞ!?』
『すぐに本部へ緊急通信を――ぎゃっ!!』
まずはバインダー全ての拡散ビーム砲で、直下に広がる通信設備も含めて残った施設の残骸を薙ぎ払う。
さて、これで此処は孤立したも同然だ。
『あの漆黒の機体、まさかミルディアの「黒い凶星」!?何故、我々が此処にヒノモトの機体を運び込んだ事がバレた!?』
『しかも、機体が捕捉すら出来んだと!?くっ、こうなれば無誘導兵器を――ぐぁぁぁ!!』
『上にばかり気を取られるとは、練度の低いパイロットばかりだな。だが、僻地とはいえ容赦はしないぞ!』
それでも生き残った斥候のハコ機をイイジマの黒いヤオキツネも拡散ビーム砲やレーザーライフルで素早く撃破していく中、俺は識別信号からタタラとシノダの残骸が保管されている倉庫の位置を発見した。
しかし、それと同時に周囲の倉庫からロケット砲を積んだ戦車が姿を現し、満月を覆い隠す俺の機体に向けて反撃を始める。
「ぐっ……早くも、こちらのステルス機能に勘づきましたか!イイジマ、向こうの倉庫の制圧をお願いします!私はこのまま爆撃を続けつつ、残骸がある方の倉庫に向かいます!」
『了解だ、アキ!しかし、その機体の遅さで無理はするなよ!』
そう心配する声を送りながら、イイジマは持てるだけの武器を背面や腰部のラッチに持ち、その去り際に武装コンテナの残りを投擲グレネードで焼き払った。
俺の方も倉庫から出てくる装甲車やハコ機を狙い撃ちしていくものの、コクライ・テラ・ユニットの想定以上の鈍い動きに焦りを感じていく。
不味いな……あまり時間をかけると、残骸を倉庫から持ち出されて逃げられてしまいそうだ。