GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
――俺とイイジマで見事にホウチュウア共栄国へ極秘裏の襲撃任務を完了してから、早くも1週間が経過した。
あの時にDEEPを発動して以降、俺の脳内にはイイジマへ対する好意や劣情が偶に暴走しそうになる事が増えていた。
その「ケモナーから獣の本能を無理やり呼び起こさせる」というシステムが引き起こす副作用を重く見た花鏡社からの提案により、今は再び神社でイイジマと共にゆったりとした日々を過ごしている。
……とはいえ、それでもイイジマは俺の事を考えてくれた結果、つい先日にお互いの好意を認め合って神前結婚に至った訳だけども。
その事を正式に発表したところ、反発されると思っていた思惑とは真逆にヒノモト世間の反応は祭日かと思われるレベルで大いに盛り上がり、連日で安産祈願の手作りオマモリを女性参拝客から沢山もらっていた。
勿論、イイジマの方も男性参拝客から様々な精力のつくとされる食べ物を差し入れられていて、日夜の食事が豪華になっていたのは言うまでもない。
――しかし、世界情勢の方は確実に悪化の一途を辿っていた。
俺達が山岳基地を襲撃した翌日、その件をミルディア皇国の仕業だと誤解したホウチュウア共栄国のトップは強く相手を批判し、遂にはミルディアの僻地に対して領空侵犯および侵略戦争を仕掛け始めた。
2日後、その行動に対して何の謂れもなく攻撃されたミルディア皇国は防衛の為にガンマ社からギア・シリーズの増産を決定し、ヒノモトを含んだ中東エリアを完全に分断する形で防衛ラインを展開。
すると5日後、今度はホウチュウアがミルディアに攻め込んでいる隙を狙って、ローシェン連邦国がミルディアに協力するという体裁でホウチュウアの領土に侵攻を開始した。
そうして三国戦争が勃発し、PNDも鎮圧の為に三つ巴の戦いとなっているのが現在の状況となる。
――無論、その中で戦争の引き金をヒノモトの姫巫女である俺達が引いていた事を知る者はいない。
「ここ最近は、酷いニュースばかりですね。こんな事になるなら、あんな機体の残骸くらいホウチュウアの手に渡してしまっていた方が良かったかもしれません……」
「……テレビを消そう。これ以上、こんなものを見ていたところでアキの心には悪影響しかない」
「すみません、イイジマ――いえ、キヨヒコさん。私の思い至らないばかりに、ここまで重荷を背負わせてしまうなんて……巫女どころか、ヒノモトの者として最低です」
あまりの自分の思慮の浅さに項垂れて泣いてしまった俺を、イイジマは再び優しく抱きしめてくれた。
「そう自分ばかりを責めるな。これはヒノモトを護る為、いずれは必要な事だったんだ。それに、俺はアキさえ生きてくれていれば――」
そうして頭を撫でてくれる彼の手の温もりに身を任せようとした時、モルドスキー技研主任からの通信が入ってくる。
――俺はこの時、まだ自分達のやった事のツケが回ってきたという意識が湧かず、ただただ「次は何をさせられるのか」という本能的な恐怖で震える事しか出来なかった。
◇◇◇
――それから陽が暮れかけた頃。
モルドスキー技研主任から指定されたバーに来た俺とイイジマを迎えたのは、まだ年端もいかないような年齢の姿をした長い銀髪の女性だった。
「ふふ……貴方が私の仕事を請け負ってくれていたヒノモトの姫巫女様と、その伴侶の方ね。先週の任務の成果には花鏡の社長さん共々、大いに感謝しているわ」
「そのような言い方からすると、貴方がロマノフ社の……?」
「えぇ、私がロマノフ社代表取締役のアナスタシア=ロマノフよ。お二人には、これまで合成音声を通しての通信で不審なイメージを与えて申し訳ないと思っているわ」
そう静かな笑みを浮かべるアナスタシア社長は、白と薄い紫を基調としたローブのような衣服を着ており、そのゆったりとした話し方から何処か儚げな第一印象を感じさせた。
しかし、イイジマは先の作戦における俺の心身を心配してか、彼女に対して警戒する様子を崩さず俺の前に立った。
「ならば、今の近隣諸国の事情は知っているハズだろう。そんな状況の時に、アキに対して何を頼みに来た?」
「そう警戒なさる必要はないわ、イイジマ大尉。かつて私の父が健在だった頃、直属だった貴方の部隊にはモルドスキー技研主任と共にお世話になりましたわ。こうして呼んだのも何かの仕事を頼む為ではなく、新しい機体の話も併せて世間話をしたかったから呼んだまでの話」
「新しい機体だと?ますます信用出来んな。それに、いまだに俺もアキも「カムイの儀式」とやらの全容について知らされていない。そんな状況で世間話をしたいのならば、先に全てを明らかにしてもらおうか」
そうイイジマに言われたアナスタシア社長は、大きく一息ついてバーカウンターの席に静かに座り、端のテーブル席の方で縮こまっていたモルドスキー技研主任に対して小さく指で合図を送った。
「ずっと隠していて申し訳ありません、姫巫女様にイイジマ大尉。この「カムイの儀式」の最終目標……それは現環境で動く全ての機体に対応しつつも決戦兵器としても動けるように開発していた「ユグドル機統合計画」により、全世界における軍の規格共有化を目指したものだったのです」
「全世界における、軍の規格共有化ですって!?じゃあ、私とイイジマが今まで実験してきた機体のデータは全て……」
「えぇ、「少数精鋭の傭兵を多く持つ、ヒノモトを代表するに相応しい最強の機体」を完成させる為の土台として使われております。そして近々、ついにその第1号機が完成する予定となっていました」
「でも、私達が世界情勢を大きく揺るがす事をしたせいで、それの実験運用が出来ずにいる……と、そう言いたい訳ですか」
「大変申し訳ない話ではありますが、その通りになります……」
そう深々とモルドスキー技研主任は心の底から申し訳なく頭を下げ、私とイイジマに対して謝罪の礼を行った。
しかし、彼から聞こえる強い後悔や謝罪の声とは真逆に、アナスタシア社長の心からは「お前達のせいで」「こんな事なら」と他へ責任を押し付けるような声ばかりが聞こえてくる。
――こんな女、いっそ此処で殺してしまった方が良かったのではないか。
全てが終わった後になって思うと、そんな気持ちばかりが浮かんできた事は覚えていた。