GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
――それからまた数週間後。
長く続いていた三国戦争もPNDの介入によって徐々に収まりを見せかけてきており、シンティア皇国からの停戦協定の勧告もチラホラとニュースで見かけるようになっている。
だけど、かつては影の試験部隊としてヒノモトの為にと全力を尽くしてきた俺は、もうホウチュウアやミルディア等から狙われる情勢ではない事から、それらと戦う事に対して嫌悪感が強くなっていた。
出来る事なら、ずっと姫巫女としての仕事だけをイイジマと共にやっていたい――
そんな現実逃避とも言える幻想に縋るように、最近はイイジマと肌を重ね合う回数も増えていた。
それはもはや夜だけではなく、時には昼間に舞台裏でも時間に隙間すらあれば求めるようになり、とにかく自分が「ヒノモトの為」というお題目に狂ってしまいたくない一心で、ひたすら彼からの愛を求め続ける爛れた日常と化していた。
――しかし、そんな中でも現実は俺の存在を必要として手繰り寄せてくる。
ある時、「例の新型が完成しました!なるべく早く、花鏡社近くの神社まで来て頂けますか?」というモルドスキー技研主任からの連絡が届いた。
それを見た俺は、動悸でバクバクする心臓を押さえながら震える手で何とかメールを削除しようと指を動かそうとする。
だけど、そんな姿を見つけたイイジマは慌てて俺に駆け寄り、送られてきたメールの内容も見つけられてしまった。
「アキ……無理はするなと言っているだろう。神前結婚式を挙げた時に、お前が傷付くような事は代わりに俺がやると約束したのを忘れてしまったのか?」
「ええ、ちゃんと覚えています……ですが、もうこんな後ろめたい事はやりたくありません。キヨヒコさんも、今の世界情勢は知っているでしょう?きっと、彼らは自分達の利益を求めて――」
「落ち着け、アキ!それは俺がやる!だから、今回の任務にお前は着いて来るな。アキを喪うような事になれば、今度こそ俺は自分を許せなくなる!」
そうイイジマは強く抱きしめて言ってくれたけれど、結婚の時に彼が歩んできた辛い過去を聞かされた今となっては、それすらも許容する事は出来ずにいた。
――かつてアナスタシアの前の社長だった頃。
ロマノフ社が「花園」の鉱石物質を求めて、自分の子飼いであったイイジマの率いていた部隊は、ミルディア皇国から亡命してきたモルドスキーの情報提供を元に、先行して採掘作業をしていたガンマ社の調査部隊を襲撃して壊滅させた。
しかし、ロクな反撃手段すら持たない相手を一方的に虐殺する事となった結果に部隊の面々は精神を病み、薬物の濫用や自殺によって最終的には部隊の隊長だったイイジマだけが残る事となってしまったのだ。
そうして自暴自棄になった彼は死に場所を求めるかのようにスクラップから機体を組み立てては、酒浸りになりながらも街で暴れる連中達に乱入して全てを薙ぎ倒していく日々を、俺に敗けたあの日まで続けていたのだという。
――だからこそ、そんな自分の正義を信じて戦ってきた彼を、俺なんかの為に死なせたくない想いが強くなっていた。
「私は、奇跡に守られてきたヒノモトの巫女です!キヨヒコさんを護れなかったら、私も私を許せなくなってしまいます!だから、今回も私はキヨヒコさんと一緒に向かわせて頂きます!!」
「そう、か……初めて会った時からそういう奴だったな、アキは……」
もう、きっと後には退けないという確信がありつつも、今度は俺が無力感で泣き崩れるイイジマを抱きしめる番だった。
◇◇◇
俺とイイジマが呼び出された神社の地下へやって来ると、そこには以前に使ったクロツバキの改修型と、異様に手足が細身ながらも右手に大剣とも大盾ともつかない武装を持った新機体が天井のハンガーから吊るされていた。
「あの機体が、「カムイの儀式」の完成形となる1号機ですか……」
そう呟くと同時に俺は気配を感じて振り返る。
やはりというか、俺達を待ち受けるようにモルドスキー技研主任や花鏡社とロマノフ社の社長が立っていた。
「やっぱり来てくれましたね、ヒノモトの未来の為に。真にヒノモトを愛する貴方達ならば、必ずや来てくれると信じておりましたよ」
「姫巫女様には辛いかもしれぬが、これもヒノモトの更なる繁栄の為だ。モルドスキー、機体の解説と作戦の説明を頼めるか?」
「……えぇ、了解しました」
そんな狂信者のような2人に挟まれたモルドスキー技研主任は、チラチラと俺やイイジマを見ながら機体のホログラムもタブレットに表示させる。
「まずはクロツバキの改修型「シナプス TH-5 クロツバキ【卜半の桜】」から説明させて頂きます。これは先のクロツバキの実戦データから姫巫女様の得意な戦い方に合わせた脚部の換装やハコ機用に開発していた腕部バインダー型支援パーツ【卜半の桜】を装備し、いわゆる「全領域支配(オールエリア・ドミナンス)型ギア・ユニット」として完成した仕様となります。地上での機動力を補う為に脚部はシノダと同等のものと換装した事で、理論上の空戦における能力はシンティア皇国の機体と同等以上に仕上がっております」
「なるほど……では、この両腕に装備されている小型のシールドブースターらしき物が、支援パーツの【卜半の桜】となる訳ですか」
「はい、姫巫女様の予想通りです。この【卜半の桜】は今までのシールドブースターやバインダー技術を細部に至るまで構築し直し、姫巫女様が扱う上で最大限に必要な量の新型推進剤とブースター出力を確保した試作型の逸品となります。勿論、腕部ハードポイントからのエネルギー供給によって使えるビームキャノンも内蔵させておりますので、攻守速全てがハイレベルにまとまった機体となっているハズです。そこに新型の長銃身レーザーライフルも装備させるので、近接戦闘の面でも抜かりはありません」
「流石の仕事です、モルドスキーさん。思えば、長いこと貴方には世話をかけてきましたね……今更にはなりますが、ありがとうございます」
「やめてくださいよ、姫巫女様。そんな今生の別れみたいな挨拶、ヒノモトを護ってきた貴方なんかには似合いません」
そんな俺の抱えていた感謝の言葉の全てを受けて、モルドスキー技研主任は少しばかり鼻を啜りながら大きく深呼吸をして涙を堪える。
「ふぅ……では、次にイイジマ大尉の乗る「ヘクサス TH-6 カムイ」について解説させていただきますね。こちらの機体は以前に話した通り、「カムイの儀式」計画の到達点であり「五人目の皇」として完成された花鏡・ロマノフ両社の量産可変型機体の集大成となります。この機体はBPブレイカーを始めとする全ての量産機体の最新鋭の後継機として開発しており、高度な統括制御を行える新型OSによって「全ての機体のパーツが使える」機体となっております」
すると、その新型OSの言葉を聞いたイイジマは異様なまでに怪しむ態度でモルドスキー技研主任に詰め寄り、彼をギロリと真正面から睨みつけた。
「全てのパーツに互換性を持たせる事が出来る新型OSだと……?そんな事が出来る優れた代物など、今のユグドルの何処を探しても存在しない超技術のハズだ。モルドスキー、お前は一体どうやって「それ」を作り出したんだ?」
「う、ぐ……これは私ではなく、ロマノフ社が独自で作り上げたOSです。しかしながら、イイジマ大尉には全て話しましょう」
「モルドスキー技研主任!余計な口は慎みなさい!」
そうアナスタシア社長が止めるよう声を荒らげるも、モルドスキー技研主任はイイジマに胸倉を掴みあげられたまま淡々と新型OSの正体について説明を始める。
「このOSは多くの戦災孤児を養子として引き取り、「生きた状態でのケモナー施術」を施した上で様々な戦闘シミュレーションで訓練を積ませ、最終的には死に直結する程の脳スキャンから獲得したデータ群を集積した、踏み越えてはならなかった一線を越えたとも呼べる製造方法で作られました。それ故に私は「無縁の墓石」として、この真実をイイジマ大尉に……そして、姫巫女様に知ってもらいたかったのです」
「モルドスキー……貴方という人はぁ!!」
この説明を聞き終えた瞬間、モルドスキー技研主任の頭はアナスタシア社長が放った拳銃弾によって弾き飛ばされる。
――その瞬間、俺とイイジマは一気に両社の社長に対する嫌悪感が爆発し、獣人や軍人としての身体能力全てを用いて、彼ら2人を動かなくなるまで殴り殺した。
そして、他に動く者が消えた中で血塗れのまま出撃準備を行い、俺とイイジマは全てのツケを払うべく最期の戦いへと乗り出していった。
◇◇◇
――その一方、ミルディア皇国にて。
「これがホウチュウアの山岳基地を襲ったという、例の黒い機体か……なるほど、これは連中も我が国の仕業と間違える訳か」
目元を隠すような仮面を着けた1人のパイロットが、ホウチュウア共栄国よりもたらされた生存者が撮影した写真の1枚を見つめながら目を細めていた。
「情報班に知らせろ!私が直々にホウチュウアに向かい、その疑念を晴らしてくるとな!」