GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
――機体の両腕を捥がれ、反撃する間もなく両脚を寸断された瞬間。
あの時、俺は「自分がヒノモトの巫女として生まれ変わった時」の事を走馬灯の如く思い出していた。
――だが、その直後に俺は1人残されるイイジマが2機に為す術もなく殺される事に思い至る。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……このままじゃ、このままじゃキヨヒコさんが……!」
DEEPシステムが停止し、ノイズが走るコックピットの中で俺は半泣きになりながらイイジマの方を見る。
既に彼のカムイも敵ビースト・ユニットの猛攻によって左腕と隠し腕を失い、辛うじて回避した腕のブレードでも狐型の頭部を半分以上削られ、その下から本来のハコ機としてのカメラアイが赤い光を覗かせている。
『はぁ、はぁ……これが噂では再起不能と聞いていた「ミルディアの猛虎」か?まさか、ここまでの機体をもってしても全く歯が立たないとは……!』
『そんぐらい、ミルディアの技術は俺の実力をカバーしてくれてるって事だぜ!しかし、残念だな〜ヒノモトの機体が、ここまで弱っちかったなんて――よ!!』
それでもイイジマの機体は諦めず、振り下ろされた大きな薙刀による一撃を折れたクナウ・シールドの大型ブレードで受け流しつつ、大腿部にある脚部スラスターで加速させた蹴りを相手の機体に当てる。
だが、その反撃をも読まれていたのか相手も僅かに後方へ下がっていた為、多少上半身を反らさせた程度の威力しか出なかった。
『あ〜っぶねぇ〜!やっぱ大将の言う通り、油断してたら逆に負けかねない奴だな!だが……大将、後は頼むぜ!』
すると、胴体だけになっていた俺のクロツバキに対して、人質にするかの如くオルグの機体がレーザーライフルを突き付けてきた。
『貴様……アキから銃口を離せ!卑怯だぞ!』
『それは出来ない相談だな、イイジマ=キヨヒコ大尉。卑怯というならば、様々な手を使って我々を陥れた君らの方がルールを多く逸脱している。それにヒノモトの機体の残骸を回収したホウチュウアに対して、先制攻撃する理由はミルディアにもローシェンにもメリットが無い。だとするならば、ヒノモト自身が隠蔽工作をする為に偽旗行為をしたと考えれば全てのピースが当てはまる』
そう淡々と真実に辿り着いた事実を語るオルグに対し、俺を人質に取られたイイジマは怒り狂ったように声を荒らげる。
『なら、殺すのは俺だけにしろ!アキは……姫巫女様は、ヒノモトを再興させた功績を持っている!彼女を殺せば、それこそヒノモトの民は貴様らミルディア共を許さん!』
『それは穿った考えだ、イイジマ大尉。既にミルディアはホウチュウアに先程の真実を伝え、このライブ映像も共に世界の報道機関にも伝えている。だから、もう彼女の為に戦うヒノモトの民は出てきてくれやしないのだよ。今やヒノモトの巫女ことアキ=イヅモは、単なる戦争犯罪に手を染めた宗教テロリストの親玉でしかない』
『ぐ……うぅぅぅ……っ!!』
「その通りです、イイジマ!何も貴方が死ぬ必要はありません!私は、ただヒノモトの為に貴方を利用しただけ……だから、それを主導した私が罰せられるのが当然なのです!」
しかし逆に正論で論破されてしまい、イイジマの事を心から想った俺の言葉に、とうとう彼のカムイは右手からクナウ・シールドを取り落とした。
『そう、それでいい。大尉の件は、私から直々にホウチュウアの軍部に対して身柄の安全を取り次いでおこう。その方が、これまで彼女の側近として騙されてきた君にとって良い話だろう?』
――だが、そのオルグの言葉がイイジマの「踏み抜いてはならない一線」を越えさせてしまった。
『貴様、アキをこれ以上愚弄するなぁぁぁぁあ!!』
「嘘!?キヨヒコさん、やめて!!」
その瞬間、イイジマの機体は頭部のバルカンでオルグ機が突き付けていたレーザーライフルを破壊し、虎型ビースト・ユニットが動くよりも素早く再びクナウ・シールドを手に取った。
そしてオルグに対して大型ビーム砲を発射したものの、半ばから折れてしまっている砲身からは収束しきれないビームがバラバラに放たれ、オルグ機や俺の機体からは全く違う方向へ飛んでいく。
『テメェ、大将に何しやが――ぐぅっ!?』
『黙れ!薄汚いミルディアのクズが!』
すかさず虎型ビースト・ユニットが反撃しようとした瞬間、イイジマの機体はクナウ・シールドを大きく振るって相手の機体の右腕と右脚を一気に切り裂く。
『アキ!今すぐ助け――』
だが、そうしてイイジマが俺に駆け寄ろうとした瞬間――オルグ機の投げたビームサーベルがカムイのコックピットを貫き、後方から爆風を上げながら膝をついた。
「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
キヨヒコさんの死を目の当たりにした俺は、瞬間的にDEEPシステムを発動させる。
そして満身創痍の機体で唯一動く背面のブースターでオルグ機に体当たりを仕掛け、倒れ伏した相手に向かって胸部のバルカンを至近距離で乱射していく。
殺してやる!殺してやる!私のキヨヒコさんを殺したコイツを!私の事を唯一本気で愛してくれた人を殺した奴を!私の――
そんな怨嗟をぶつけるように乱射していた途中、いきなり俺の目の前が激しく爆発した。
――キーンとした耳鳴りが収まっていくと全身がナイフで刺されたように激しく痛み、左目は血のような赤一色で何も見えない。
『何という事だ……まさか、こんな事になろうとは。グランツ君、大丈夫か!?』
『あぁ、機体は動かねぇが俺の方は全然平気だぜ……にしても、爆発反応装甲シールドにバルカンをブチ込んで自爆するとはな。大将の方こそ大丈夫かよ?』
『多少ケプラーの正面装甲が歪んだだけで、問題はない。しかし……』
壊れかけた通信機からそんな会話が聞こえてきた後、機体からオルグが降りてきて大穴の空いたコックピットから俺を見下ろした。
「ゲホッ……ゴ、ホッ……!」
「全身が破片で貫かれている……これではもう、数分と持たずに命を落とすだろう。それならば、いっそ――」
そしてオルグは腰から拳銃を取り出し、俺の頭に向かって狙いを定めた。
「アキ=イヅモ……いや、ヒノモトの巫女。最期に言い残したい事はあるか?」
その言葉に、俺は半ばグチャグチャになった右腕を掲げて、酷い痛みに耐えながら中指を立てた。
「1つだけ感謝してるよ、クソ野郎。これで俺も、キヨヒコさんのところに行ける……」
そう言って右腕から力が抜けたと同時に、目の前に映っていた全てが再び真っ暗闇となり……
――俺は死んだ。
◇◇◇
その後の世界情勢はというと――
ホウチュウア共栄国とミルディア皇国を繋ぐ唯一の国境線における戦闘の一部始終はユグドル全域にライブ映像で中継され、これによって数日後にはシンティア皇国の立ち会いの元、両国は半永久的な停戦協定およびに同盟を結ぶ事となった。
これに対し、ホウチュウア共栄国への侵攻を続けていたローシェン連邦国は踵を返したように撤退を開始し、同国との関係を完全に封鎖してPNDに加入した。
そして、全ての引き金となったヒノモトに対しては世界中から批難の的となり、その過程の中でロマノフ社が非人道的な実験をしていた事実が露呈し、トップを失った花鏡社も信用を失って経営不振に陥った。
結果、両社ともに衰退への一途を辿る事となり、彼らが秘匿していた数々の試作機に関する技術はヒノモトや世界中に流れていく事となる。
――しかし、事実関係が完全に明るみになった今でも「ヒノモトの巫女」であった故アキ=イヅモ氏を慕う声は多く、彼女が亡くなった後から未だにヒノモトの各所では信仰者による集まりが続けられていると噂されている。
GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 END